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2003年米国原子力学会年会の印象

東京大学  岡 芳明

2003年6月1日-5日にサンディエゴで開催された米国原子力学会(ANS)年会の様子について報告を依頼された。帰国後少し時間も経っており、年会にあわせて催される理事会や種々の準備会合や委員会にも多く出席していたので、全体の概要をバランスよくお伝えするのは困難であるが、その一端の印象をご紹介する。

今年の年会は史上最高の1200人を超える参加者があり盛会であった。NERIや第4世代炉などの予算がつき研究者が出張できるようになったのではなかろうか。参加者の顔ぶれをみても新顔もふえつつあり会員の世代交代がすすみつつあるとの印象である。

開催プレナリーセッションは年会のGeneral ChairであるTed Quinn元ANS会長の司会で、現会長のHarold Ray(南カリフォルニア電力)のあいさつの後、6人の発表者が発壇した。最初はNRCのDiaz委員長が話し、次はDOEのMagwood原子力エネルギー局長がその政策を中心に講演した。2025年まで1.5%のエネルギー需要を予想しており、天然ガスと石炭は27%から35%になると予測している。市場原理にもとづくコスト分担と共同開発によるリスク低減戦略をすすめている。「投資家はかつて一度でも基底負荷プラントを支持したことがあろうか」との言葉も聞かれた。米国では新規原子力発電所の新設が焦眉の課題であるが、初号機は市場にまかせるにはコスト高であるので政府の何らかの支援が必要と述べた。第4世代炉についてはsustainbility、economics、safety & reliability、proliferation registance and physical protection をキーワードでとして挙げた。第4世代炉をAとBに分けAはVHTR(超高温ガス炉)とSCWR(超臨界圧水冷却炉)でVHTRは次世代炉も念頭にある。第4世代炉Bは液体金属炉、ガス冷却高速炉などである。国際協力、電力や産学界との協力、水素製造の実証、商業的に競争力のあるプラント設計などが必要である。米国での将来の水素の需要をみたすには225GWth相当の原子力が必要になる。DOEでは原子力エネルギー局のみならず、省エネ新エネ局、化石エネルギー局、科学局が協力して一貫した計画を水素について立てている。原子力による水素製造については2008年には最初のパイロットプラントを稼動させたい。2004年度予算では大学の原子力研究の支援をふやす、と述べた。

次は原子力エネルギー局で廃棄物を担当しているJ.Russel Dyer副局長がユッカマウンテン処分場計画の概要を設計や許認可を含めて述べた。

次はNASAの宇宙飛行士であるF.R.Chang-Diazが自身の飛行経験も含めてこれまでの成果と火星の探査など今後の宇宙計画を紹介した。深宇宙の探査にはイオン推進など原子力を利用する必要がありそのエンジンの概念も紹介された。

次はNEIのM.Fertelが米国の原子力発電コストや原子力に関する世論調査結果について述べた。現在3つの電力が早期建設許可を得ることを検討中である。将来の市場の不確定が意思決定に影響すると述べた。

次はフランスArevaのB.Barreが欧州の視点から講演した。

初日午後4時からはLeveling the Environmental Playing Field と題した特別セッションがあった。Dan Keuter (Entergy)、は" The Great Promise of New Nuclear" と題して講演した。新原子力プラントの投資リスクとして

  1. 規制と政治による計画遅延
  2. 高い資本費
  3. 建設期間中の利益の低下(Earnings Dilusion)
  4. 市場価値とリスク
  5. 初号機コストと政府費用

を挙げた。これらそれぞれの項目に対する対策として

  1. 建設遅延期間中の政府の利子補給、デフォルトにおちいった時の投資の100%回収
  2. 償還請求なしの政府の直接融資あるいは政府保証ローンと償却期間の15年から7年への短縮。
  3. 投資ファンドに対する10%の投資減税あるいは政府の建設用ローン
  4. 電力の事前購入契約あるいは電力価格の保証あるいは風力と同様の10年間の温暖化放出ゼロに対する発電税の減税
  5. 新型炉設計とcombined operating liscensingを得るための連邦政府のR&D支援

を挙げた。さらにこれらの対策の有無と程度により発電費は建設費が$1000/kwの場合$41.97/Mwhから10.40/Mwhまで大きく変わりうると述べた。

初号機を作る目標として4~5電力のコンソーシアムによる共通のサイトでの建設。建設工事開始2008年運転開始2012年。少なくとも2つの設計の競争入札などを挙げた。

現在原子力発電が地球温暖化ガスやNOX SOXの放出防止に寄与しているのを金額に直すと100億ドルにのぼり、これらの放出ガスの規制を今後より強化する法案が議会に提出されている、と述べた。

EPPIのTed Marstonは現在のプラントのライフサイクルマネージメントについて述べた。DOEのDavid HendersonはDOEの原子力水素製造計画について述べ2015年までの実証を計画しており予算は2003年が2M$、2004年が4M$である。熱化学法高温電気分解、その他の方法とBOPの検討がそれぞれのグループによって行われ、実験室規模(5kw)パイロットプラント(0.5~1MW)、工学実証規模(20~50MW)のフェーズが考えられている。次にGAのKen Schulzが水素製造技術の概要を紹介した。次にConsultantのAndy Green、 IEAのRonald Hagen、INEELのFinis Southworkが講演した。

会議のテクニカルツアーは6月4日(水)に行われ、3ヶ所を訪問した。最初の、Archmedes Technology Filter Demonstration (Archmedes Technology Group www.archmedestechnology.com) は、核融合プラズマの技術を利用して液体廃棄物特に軍事用再処理でたまった放射性廃液の分離減容をしようとするもので、技術とビジネスモデルの両面で大変印象深かった。使う技術はすべて既存のものである。超音波を利用して廃液をまず液滴にしそれをさらにイオン化して質量の差により磁場を用いて軽元素と重元素を分離する。これにより1/10以下への減容と長半減期の重元素の分離が可能になる。従来の方法で廃液処理する場合2000億ドルの費用と60年を超える期間がかかると想定されていたが、廃液中に含まれる放射性物質の量は少ないのでこの方法を用いることで期間とコストを激的に減らすことが可能としている。この計画には米国のみならずドイツからも投資が集まりすべて私的投資によってまかなえたので半年でこの実証プラントの建設を行うことができた。実証の後はそのまま設備をハンフォードに移設して用いる。と聞いたのも印象深かった。

次はサンディエゴ・ガンマナイフセンターと呼ばれる放射線治療施設を見学した。この施設は病院の一部であり、日常的に頭部の腫瘍の治療が行われている。装置は単純で、タングステンと鉄で出来た半径50㎝ほどの半球状の金属殻の表面に多数(201本)の細孔が球の中心に焦点をむすぶように開孔しておりその外側にCO-60の線源が置かれその放射線が焦点に集中するようになっている。患部の大きさにより細孔径の異なる金属殻をいる。患者は頭部を固定する特殊なフレーム(そのピンは頭がい骨に止めるとの事)をつけてまずX線CTにより患部の位置を特定し、その後この金属殻の中に頭部を固定されて照射をうける。悪性脳腫瘍や4㎝より大きい腫瘍については適用性はないがそれ以外の腫瘍の治療が可能である。頭部の手術が必要ないので患者の負担は軽く、後遺症もないとの事であった。この装置はスイスに本社のある会社が販売しており今まで約100ヶ所以上で用いられているそうである。

最後はGAのプラズマ実験装置Doublet-IIIを見学した。20~30分に一回ずつルーチンに実験が行われており、測定も自動化されている。5時の実験終了を待って装置の本体を見学した。こうした日常的な実験の積み重ねのなかからプラズマとじこめの新展開のきっかけを発見する可能性もあるのではなかろうかと感じた。本体室にはDoublet IやIIも展示してあった。大河博士はどこにおられるのかと伺ったところ上記のArchmedesにおられるとの事であった。

ANSの国際委員会はいつも年会、秋の大会期間中の火曜日の夕方に開催される。委員長はBechtelのCEOも勤めたRolland Langeley氏(今期で任期満了)である。議題はANSの海外支部の活動報告やANSと諸外国の原子力学会の協定、環太平洋国際会議の準備状況や国際原子力協議会(INSC)や環太平洋原子力協議会(PNC)など多岐にわたっている。今回はアルゼンチンの原子力学会が自国の原子力開発の状況を紹介していた。ウラン濃縮、再処理、研究炉、発電プラントまで一応すべてがそろっている。参会者は拡不拡散上のことが気になったのではなかろうか。次いてロンドンに本拠のあるWorld Nuclear Association (もとウラニウム協会)のJohn Ritch理事長がWorld Nuclear University 構想について紹介した。

日本からは日本支部の活動報告や今秋京都でANSとの共同技術プログラムで開催するGENES4/ANP2003会議について紹介した。フランス原子力学会の報告は欧州で開催する国際会議のリストなどを含んだ立派なものであり、できれば見習うとよいと感じた。

ANSの理事会は木曜日全日をつかって行われる。各委員会の報告が順に行われるが、財政問題、議会対策、環境会議などへの関与や声明が関心を呼んでいる。会長の任期は1年間で理事の任期は3年間である。Harold Ray会長が今期の議事を終えて退任しLarry Foulke会長のもと新しい理事会が引きつづいて短く開かれた。Foulke氏はANS会長には珍しく海軍(研究開発)の出身者である。米国の学会は基金の投資収入に大きく依存して運営されているので米国の不景気の影響でANSも他の学会の例にもれず財政問題が大きい課題であるが、彼は問題を先のばしにするのでなく、理事会が厳しい意思決定をすることを推進しようとしている。3月の理事会では理事のビジネス研修を提案し実施した。外国人理事は2名でブラジルのSpitalnik氏の任期が終わり、フランスBertrand Barre氏が着任した。私の任期は来年6月の年会までである。