「原子力の交際平和利用と核不拡散をめぐる国際情勢について」

 

企画名 日本原子力学会 2009年秋の年会 海外情報連絡会 企画セッション

講演者 日本原子力研究開発機構 核不拡散科学技術センター センター長 千崎雅生殿

日時  2009916日 東北大学 K会場 13:0014:30

出席者 22

 

1.講演題目と概要

地球環境問題と化石燃料の高騰・エネルギー確保の観点から世界的に原子力発電の重要性が高まり、原子力ルネッサンスと言われる国際情勢の中、米国を中心に核不拡散強化に向けたさまざまな動きが出てきている。本講演では、原子力平和利用の国際的な拡大に関し、核不拡散と原子力平和利用の観点から、課題や国際協力のあり方を包括的に報告された。多くの参加者はこのような踏み込んだ内容をまとめて聴く機会は少なく、大変有意義な企画セッションとなったと考える。以下、要点をまとめた。

 

2.過去の核不拡散に関わる体制

核兵器保有国の提唱により作られた核兵器不拡散条約(NTP)には、現在190ヶ国が加盟している。NTPでは、平和利用の検証とIAEAによる保障措置により「核不拡散」「原子力の平和利用」「核軍縮」の3本の柱を遵守させてきたが、NTP未加盟のインド、脱退した北朝鮮、加盟国でありながら疑惑があるイラン、シリア等によりその効力は限界的であった。 一方、我が国はIAEAの保障措置を遵守してきた結果、世界で初めてフルスペックの核燃料サイクル国として統合保障措置への移行が認められた。2000年半ばから原子力発電を計画する国が急増してきており、核不拡散、特に濃縮・再処理技術の拡散防止と平和利用拡大のための新しいフレームワークの議論がなされているが、我が国のこのような努力はこれから原子力を進める国の参考になるとの期待がある。

 

3.核不拡散に関わる国際協定やIAEAの動き

原子力プラントメーカの再編による産業界の構造変化、カザフスタン等のウラン資源供給国の影響力拡大、中東諸国による原子力発電の導入計画の表明等が進む中、原子力技術を他国に展開する場合、政府レベルでの平和利用担保に関わる政府レベルの原子力協定を結ぶことが必須である。その中で、米国、仏国、ロシア等が新たな二国間原子力協力を構築しつつある。特に米国とUAEの間で署名された、濃縮・再処理技術をUAEが法的に放棄すること、使用済み燃料の再処理は米・UAEが認める国で行いPuUAEに返還しない条項の入った協定は、今後国際的モデルの一つになる可能性がある。

一方、海外に原子力技術を輸出する場合、相手国が原子力安全、保障措置(核不拡散)、特に追加議定書、そしてセキュリティーの3S制度を整備している点がポイントになる。未整備の場合、原子力発電を導入しようとする国にこの制度の整備を要求することは、原子力を推進してゆく国の責任でもある。また、核セキュリティーについては最近のテロ対策の観点から重要性が高くなっている。

次に、最近、IAEAを中心とする重要な新しい保障措置の動きとして、原子力施設の初期計画から設計、建設、運転、廃止措置にいたる過程で、IAEAの求める国際保障措置の要求(safeguards by design)を満足する必要が出てきている。このため、今後原子力施設の設計者はIAEAのガイドラインに沿った保障措置を考え設計する必要がある。このガイドラインはIAEAを中心に現在作成中であるが、我が国としては、原子力メーカ、電気事業者、研究開発機関など積極的にIAEAに対し建設的なコメントを出すことが大変重要である。

IAEAは、具体的にパート Iとして

・利害関係者間の共通理解のための対話確立と協力分野の策定のためのワークショップを開催(200810月)

Safeguards by Design共通原則を記したテクニカルレポートを作成(200912月)

パート 2として

・保障措置の実施を促進する設計規定および設計手法を記した原子力施設ごとのガイドラインを作成 (2010年 - 2012)

するとしている。

更に、新しい原子炉や燃料サイクル技術を開発する場合、核拡散抵抗性に富むシステムにする要求が出てきている。核拡散抵抗性とは、国が核物質を兵器転用することを防ぐために原子力システムなどが持つ特性のことを指す。この概念は、FaCTGen-IV等の開発でも重要な位置を占めている。

 

4.オバマ政権の原子力政策

オバマ政権の原子力政策に関わる明確な方針はまだ出ていないが、原子力利用に一定の理解を示しつつも、核不拡散の確保に重点を置くのは明確である。核不拡散については、イラン、北朝鮮、シリア問題が第一優先であり、次に国際原子力秩序を提唱し核燃料サイクルの多国間管理に前向きに取り組むこと、特に国際核燃料バンク構想を推進する可能性が高い。原子力政策では、原子力発電所の新設は継続、米国内のGNEP計画は継続中止、核燃料サイクルの研究は長期的には推進、一方で短期的には核燃料サイクル施設や高速炉の建設はしない、Gen-IVの開発は継続との方針である。チューDOE長官等は、@ヤッカマウンテンの中止、そして今後の計画を検討するためのブルーリボンパネルの設置、A乾式貯蔵、B核燃料バンクの推進、CGen-IVの推進、D原子力損害賠償協定の整備、E米国次世代保障措置イニシアチブ(NGSI)の推進などを発言している。

 

5.我が国の対応

我が国としては、地球環境とエネルギー問題による世界的な原子力発電導入の動きの中で核不拡散を世界の共通の課題とし、国が一体となって国際協力・核不拡散の基本戦略の構築に取り組むことが重要である。また、新興国への援助に対する方針と具体化、特にアジアとの協力・支援も重要。我が国は原子力の技術開発と核不拡散の面で先導してきたがこの継続、更にIAEA天野新事務局長のもと、我が国が3Sを積極的に普及するための方策を主導して行くべきである。

 

6.質疑応答

@核テロ、例えばRIの盗取やばら撒きが起こった場合の議論はあるのか?

→具体的に起こった場合の対応、その根拠となる規制などの強化について、現在IAEAを中心に積極的に検討されている。米国が最も整備は進んでいるが、国際的には早期に整備する必要がある。なお、IAEAはその整備に対する勧告や指針などを準備しているが、IAEAに加盟している国は勧告が出るとその対応が必須となる。

A海外で原子炉を作る際に、核不拡散条約や二国間協定等の種々の法体系を遵守する責任はどこにあるのか?

→原子力安全の担保は基本的に最低限相手国の法律に従うことになると思うが、一方核不拡散や核物質防護などについては、日本政府が相手国に対し平和利用を担保する義務を二国間協定で相手国に課することになる。原子力資機材の輸出の際、この政府間協定やNSGの約束を含めた貿管令などの順守が必要である。

BP23の表を認めるのは誰か?

→この表は公開された情報で作成している。輸出許可は経産省である。