海外情報連絡会 平成19年度 第4回講演会 要旨 (1/2)

原子力平和利用の推進に向けての日本の貢献

岡ア 俊雄氏(日本原子力研究開発機構 理事長)

 
気候変動に関する政府間パネルの第4次評価においては、さまざまなシナリオに基 づく分析と推計がなされているが、地球温暖化は進行しており、抑制する対策を講じ なければならないということは明らかになっている。一方で、石油の価格は近年1バ レルあたり100USドルを超える急騰を見せており、また、ウランの価格も同様に急騰 し、エネルギーを確保するためのさまざまな動きが活発化している。

地球温暖化や原油価格の高騰を背景に、炭酸ガスを排出しない原子力エネルギーの 利用拡大の動きが、米国、ロシア、中国、インド、そしてこれまで原子力発電を持っ ていなかった国々まで広がり、原子力ルネサンスと呼ばれる状況になってきている。 原子力平和利用の拡大の動きの一方で、北朝鮮やイランのような核拡散に関する懸念 も増大しているが、原子力平和利用の拡大が、核拡散の懸念を増長させるようなこと がないように、国際社会はなにをしなければいけないかを真剣に考え、対処すること が必要である。

資源のない日本は、これまで原子力平和利用を推進し、核燃料サイクルの確立を目 指してきた結果、今では軽水炉55基、商業規模の再処理工場やウラン濃縮工場や、 高速増殖炉「もんじゅ」や高速炉用のプルトニウム燃料製造施設などを有する原子力 エネルギー利用大国の一つとなっている。ここに到るまでには、核武装放棄への国家 意思の明白性や、原子力活動の透明性の確保、核不拡散規範の遵守など、国際的な信 頼を得るためのさまざまな努力を積み重ねてきている。原子力平和利用と核不拡散の 両立を果たすために努力をしてきた日本は、原子力ルネサンスの時代に大きなステー クを有しており、その経験や技術を国際社会に活かせるよう積極的な貢献が望まれる。



海外情報連絡会 平成19年度 第4回講演会 要旨 (2/2)

原子力ルネサンスの潮流と日本の原子力外交

小溝 泰義氏(外務省 軍縮不拡散科学部 国際原子力協力室長)

 
近年、国際的な資源獲得競争の激化と地球温暖化問題への対処への国際的な関心の 高まりの中で、「原子力ルネサンス」(Nuclear Renaissance)と称される原子力発電 見直しの動きが盛んである。具体的には、現在、発電用の原子炉を稼働しているのは 30カ国であるが、これらの国の多くで、原子力発電の拡充に向けた動きがあり、また、 さらに30カ国近くの国が原発の新規導入を計画し又は検討している。

一方、原子力ルネサンスの潮流と同時並行して、北朝鮮やイランのような核拡散に 関する懸念国の動きや、アルカイダ等による核テロリズムの懸念への対応も大きな国 際社会の課題となっている。

原子力技術が軍事転用可能である以上、原子力平和利用の推進は、核不拡散および 核セキュリティの確保と両立させる必要があり、また、高度技術に共通することだが、 安全の確保に細心の手だてが不可欠である。これらの3点、すなわち、@核不拡散(及 びその担保のための保障措置)(Non-proliferation/Safeguards)、A原子力安全 (Safety)、B核セキュリティ(Security)は、それぞれの頭文字を取り、「3S」と称さ れている。原子力ルネッサンスの潮流と核拡散・テロリズムのリスクへの懸念の高ま りを背景として、いかに「3S」を確保しつつ、原子力の平和利用を推進しうるかは、 国際社会の大きな課題である。

我が国の原子力外交は、国の原子力政策に基づきつつ、このような国際社会の動向 と課題を常時把握しながら、実施されている。別の言い方をすれば、我が国は、@資 源小国として我が国の原子力政策を推進するとともに、A原子力先進国として国際的 課題に貢献することを政策目標として、原子力外交を実施している。2005年に作 成した原子力政策大綱においても、「平和利用、核不拡散の担保、原子力安全の確保、 核セキュリティの担保を求めることを大前提としつつ、...国際協力を推進するべき」 と明記しているとおりである。

因みに、我が国が原子力先進国として原子力に関する国際的な課題に貢献することは、 そのまま、我が国の原子力平和利用への信頼性を高め、その推進にも資するものであ り、多くの場合、上記2つの政策目標は、極めて、相互に補完的、整合的である。