海外情報連絡会 平成13年度 第4回講演会 要旨

研究計画・機関などの業績の評価
 − アメリカの研究制度との関連 −

Argonne National Laboratory 主任研究員   井口 道生 氏



業績の評価・審査(以下Review)は民主的な制度の一つであり、抑制と均衡(Checks & balance)と云う考え方の一例で、制度や機関の責任有る運営の一部分である。国が三権分立であるように、研究も相互に監視する義務がある。ある程度の規模以上の事業にはReviewが必要である。


米国ではReviewを実施するReviewerも非常に重要な仕事として位置づけられている。講演者もReviewerのとしての評価・審査の実施経験もあり、また講演者の研究室も何度もReviewを受けた。Reviewerにとっては、Reviewの依頼主が明確である事が重要であり、これにより何を見れば良いかレポートをどう書けば良いかが明らかになる。


Reviewerの選び方も重要である。Reviewerはその事業をpositiveに考える人でなければならず、改善方法等どうすれば良くなるかを示せる必要がある。ただ単に、「これはダメ」と云う意見は意味がない。Reviewされる側には提示されたReviewerを拒否する事ができる配慮がなされていることが多く、またReviewerは利害の対立の可能性を表明しなければならない。一方、Reviewされる側はすべてのデータを開示する必要がある。


米国での方法では、Reviewerによる現場への自由な訪問と内部の人(Staff)へのインタビューが可能である。これにより、いわゆる内部告発的な重要な情報が得られることが多い。この様な例は日本にはほとんど無い。一例として、爆発事故を起こしたスペースシャトル「チャレンジャー」の原因究明では、Reviewerである物理学者のファインマンが内部の担当者にインタビューをして得られた情報により、事故発生2日後には燃料タンクのオーリングの低温での硬化によるひび割れが原因である事を突き止めている。


Reviewのメリットは大きな問題が明らかになる可能性が高い事であり、事業の改善、あるいはHigher Productivityにつながる方策が得られる可能性がある。また副次的にはReview Processがあると意識することにより、スタッフの志気の刺激、努力と創意の向上を促すことになる。


一方、デメリットとしては過度のReviewは逆にUnproductiveであるという事である。また不当な運用例としては、Reviewで得られたデータやアイデアを悪用する事、Reviewされる側が過度の功名心や競争意識からReviewerをmisinformする事である。例えば、完成していない研究を完成したと主張する事等である。なお得られたReview結果を依頼主が意思決定に利用しない事も不当な運用の一つといえる。


(講演者の井口道生氏は1963年から米国アルゴンヌ国立研(ANL)に35年間勤務。Journal of Applied Physicsの副編集長。ANL他の国立研究所は、マンハッタン計画終了に伴い研究員が配属されたとの由。ANLの現在の運営費は$500M/年程度であり、シカゴ大学がContractor(運営責任者)である。)