海外情報連絡会 平成19年度 第5回講演会 要旨

原子力平和利用の促進に向けての我が国の国際的な取組み

座長(モデレーター)

二ノ方 寿氏(東工大 教授))

パネリスト

木村 賢二氏(経産省 原子力政策課企画官(国際原子力担当))

田中 知氏(東京大学 教授)

高橋 祐治氏(電事連 原子力部長)

今泉 章利氏(JEMA 国際化対応特別委員会委員長)

千崎 雅生氏(JAEA 核不拡散科学技術センター長)

 
二ノ方氏の司会により、世界的な原子力開発の推進機運の拡大、建設計画の具体化の 中で、先進国としての途上国協力のあり方や国際共同開発、核不拡散などの課題とそ れらへのわが国の国際的な取り組みについて、海外情報連絡会の企画セッションとし て議論するとの趣旨が紹介され、パネルディスカッションに入った。まず各パネリス トから基調講演が行われた。

最初に、経済産業省原子力政策課企画官の木村賢二氏から、世界の原子力発電開発計 画を俯瞰した上で、新規導入国の関心が、わが国の原子炉メーカーの技術と、日本製 鋼(JSW)の技術力に期待していること、特にJSW のシェアは世界の9割を超えること、 ベトナムやインドネシア、カザフスタンなどは、原子力導入を支える人材の育成、法 体系の整備などへの支援を求めており、日本政府も力を入れていることが紹介された。

続いて日米協力は、真のイコールパートナーシップ構築の機会であり、政府はGNEPイ ニシアチブを支援するスタンスで、共同行動計画の作成、WGへの参加、また新規建設 のためには、貿易保険など金融面での支援も重要であると述べた。さらに洞爺湖サミ ットを控え、地球環境問題の解決の柱として原子力利用の必要性、役割をどう位置づ けるか、ドイツなどの慎重な態度を乗り越えて、外交の場での議長国としての日本の 力量が問われている。日本の基本方針として、保障措置(Safeguards)、安全性 (Safety)、エネルギー安全保障 (Security)の3−Sを堅持していくこと、政府として 核不拡散を堅持しながら、燃料供給保障体制の構築や、原子炉メーカーの国際協力・ 連携の後押し、など、日本のプレゼンス向上を図っていくと述べた。

二番目に東京大学田中知教授は、「人材育成、先端研究を行う大学の立場から」とし て、世界的に環境問題との両立を図り、今世紀中にサスティナブルなエネルギー構成 を達成するために、2100年の世界のエネルギー構成を、化石40、原子力100、再生可 能100としたとき、2050年で1930GW 位の原子力が必要と説明した。その上で、@核燃 料供給の保証、A使用済み燃料管理をどうするか、が課題であることに言及した。原 子力発電の大幅な拡大、途上国の原子力導入、3−S、サステナビリティの観点から の原子力エネルギーの評価を上げて、原子力を取り巻く状況は大きく変わりつつある と強調し、これまでの取り組み方では限界があり、新しい仕組みが必要と発言した。 そのためには、国を挙げての総合的・戦略的取り組みが必要であり、世界への貢献と 日本の国益の一致を目指すこと、国−研究機関−大学の内部改革と新たな関係、研究 開発費、人材交流、国際機関の活用などが重要であるとした。その中で大学の役割は、 @人材の育成と蓄積、A世界を先導する研究の展開が必須であり、B研究機関−国際 機関−産業界の連携の重要性を説いた。このためには大学においても従来の学科だけ でなく、「原子力サステナビリティ学」とか世界へ貢献する「原子力地政学」、「コ ミュニケーション」「原子力社会学」などの新たな枠組みも必要ではないかとのコメ ントがあった。

三番目に電気事業者の立場から電気事業連合会原子力部長・高橋祐治氏は、電力自由 化、効率化など厳しい競争環境において、原子力利用に取組んできた中での国際協力 について言及した。国際貢献への取り組み、国際協力の変化について、これまでの改 良標準化、次世代軽水炉開発、FBR開発の例を上げて、国、電力、メーカーの役割分 担を意識した国際協力の視点という観点について整理すべきであると述べた。電力と してはこれまでの設計・建設・運転の経験の蓄積や、改善の取り組みが、ユーザーと してのノウハウの蓄積になっており、次世代炉開発についても、共通仕様を出して、 メーカーの世界標準炉の開発にも協力して取組んでいくことが表明された。電気事業 者としての基本スタンスは、ユーザーサイドのノウハウを新型炉開発や途上国協力に、 有償・無償で提供していくことである。電力としての国際協力の意義、ねらいを上げ るとすれば、@情報共有による安全性・信頼性の確保、A原子力発電開発のコンサル タントなどを通じた国際的に通用する電力技術者の養成、B基盤の強化と、設計・建 設などのトータルでのコストダウン、C規制基準の国際化等の効果が期待できると述 べた。具体例として、WANO、INPO、電力間の協力協定、GNEPなどの経緯を上げ、ベト ナム協力については十数年の支援の実績があると述べた。また、理解活動の重要性に も言及し、中越沖地震など、的確な情報発信のあり方、日常的な信頼関係の醸成の重 要性、知見・経験の共有という観点でのIAEAへの協力など国際協力の重要性を強調し た。

四番目にはJEMA国際化対応特別委員会委員長の今泉章利氏は、最近の世界的な原子力 メーカーの統合・再編を踏まえて、メーカーの基本的立場としては、原子力立国計画 の基本スタンスを踏まえて、積極的に海外展開に取り組むこととしており、そのため に必要な事項として次の点を上げた。@ 輸出許可の一層の柔軟な運用、A 政治的側 面(首脳、二国間協定、人材育成、インフラ整備、原賠制度)、B 金融支援(制度金融、 円借款の適用)、C 技術的な支援(型式認定、相手国の安全審査の支援)、D 原子力 のCDMへの組み入れ米国のGNEPに対しては、将来的なプロジェクトとして積極的に参 画しており、政権交代に左右されないプロジェクトの継続を期待するものである。原 子力発電の供給側と使用者側に立って、国際的な理解が必要であり、同時に、知財権 の確保、平和利用の担保を前提として、日本発の世界標準炉開発をめざし、目に見え る形となるよう努力していきたいと述べた。そのためには政府への要望として、輸出 許可の手続きの柔軟な運用、契約前のE/L発行などを要請したい。原子力発電開発に ついては、日本メーカーは約40年間作り続けており、日本の技術による世界の原子力 発展への貢献を果たす上で、この積み重ねが強みであると述べた。

五番目に、JAEA核不拡散科学技術センター長の千崎雅生氏は、現状認識として「平和 利用拡大」と「核拡散の深刻化」の大きな二つの潮流を取り上げ、先進国としての課 題として、世界標準のFBRサイクル技術の実用化、A研究開発リスク、必要資源と期 間の低減、B日米仏3カ国協力など、日本で唯一の総合原子力研究機関としてのJAEA の取り組みを紹介した。また、JAEAのアジア協力としては、支援型→協力型→国際プ ロジェクト型に整理できると紹介した。この中で2020年に100万kW級2基が計画されて いるベトナムとの核不拡散の協力では、2008年5月に、原子力法制定を目指している こと、ベトナムとの専門家会合などでは、日本の核不拡散への取組みの経験の指導が 期待されていることなどが紹介された。 原子力開発の大きな課題である核不拡散へのアプローチとしては、日本政府の3−S アプローチを基本として、これからの原子力発電開発においては、設計建設の初期段 階からの前提条件となるだろうと述べた。その上で、現在のNPT体制の抜け穴に対す る処方箋や各種手立て、新規枠組みの組合せで、これらの課題に対処していく必要性 を強調した。また関係機関の連携を密にとっていくことが重要であり、日本がリーダ ーシップを発揮していくことが重要とした。

各自の基調講演に続き、二ノ方教授のリードによりパネルディスカッションに入り、 GNEPへのメーカーとしての積極的な参画についての、協力のあり方などを始めに議論 が行われた。

今泉氏は、GNEPは概念設計の段階であり、範囲は広い。FBR/再処理の進展、日本型炉 が認められていくなら良い方向であるが、課題は知財権の確保であると述べた。

高橋氏は、GNEPは国対国の開発協力がメインであり、先進式燃焼炉(ABR)、統合核 燃料サイクル施設(CFTC)などの範囲にとどまらず産業界として整理していく必要が ある。次世代に旗が立っているのは良いことであるが、FBRでは電力国際協力が途切 れており、要求仕様を含めて情報交換して仕様を作っていく必要があり、ユーザーと しての連携が必要と考えていると述べた。

木村氏は、GNEPには21カ国が加盟して原子力の推進方策について話し合うマルチな政 治的枠組みの側面と、再処理、MA燃焼炉の開発を世界標準も想定した研究開発を行う ファンディング、米国・国立研究所における基礎研究推進の側面があると考えている。 大統領選挙後の展開として、マルチな枠組みの継続は難しいかもしれないが、研究開 発については、米国自身がその重要性を認識し、規模は縮小されるかもしれないが、 継続して行われるのではないかと見ている。いずれにしても、米国が原子力の分野で リーダーシップを発揮しており、我が国としては可能な限りサポートしていくとのス タンスであると述べた。

千崎氏からは、GNEPでサイクルの研究開発が進んでいくことは良いこと。6つのWGが ロードマップに展開されており、具体化の完結と先の見えるものにしていけば、次の 政権でも支持されるだろう。米国はGNEP施設に保障措置を適用するとしている点では、 日本こそ対応できる国であると述べた。

続いて、モデレータの二ノ方氏から、輸出許可及び原子力利用の両輪としてのインフ ラ整備や規制整備への援助などについてはどう考えるか?との問いかけで議論がな された。

今泉氏は、いわゆる技術協力の性格づけで、特に途上国では、公知の資料だけで話を しているが、たとえば「軽水炉発電所のあらまし」の英訳版だけでは限界があり、突 っ込んだ技術協力には公知の内容だけでは難しい場合もあるとの発言があった。

木村氏は、わが国のスタンスとして3−Sは重要。相手国が、3−Sを軽視する状況で は協力は難しい。IAEA保障措置、追加議定書の署名等3−Sについて遵守する意向が 見えた後、批准先の国とは原子力協力協定を結ぶのが基本。外交手続きは、今は、契 約ごと、物品ごとに承認する状況であり、このような中では原子力発電所の建設のよ うに多数の物品の移動がある場合には難点がある。外務省との調整もあり、規制緩和 はかなり難しいが、一方、外為法の手続きについては、ある程度合理化が検討できる と考えている。3−Sが大原則、その中で手続きは合理化して、着実にやっていきた いとの認識を示した。

高橋氏は、途上国へモノを売るときに、メーカーはスキームが変わっていることに気 付いていない。いつまでも国が何かやってくれると思っていてはだめ。電力は、基準 を作って、学会でエンドースするなど自ら改善してきた。途上国向けに共通でやるこ と、売っていくこと、売っていくために各社どうやって行くのか、レイヤーを分けて やっていかないと国際ビジネスに負けると述べた。

千崎氏は、三菱重工が秦山の圧力容器を受注した時、急遽、日中協定を作った。外務 省は輸出見通しができないと前に進まない。具体的案件が出てきてから出発している。 メーカーの国際連携で、国とメーカーでよく話し合って外交問題をクリアーしていく ことが大事と述べた。

フロアーからも質問があり、ファイナンスは、具体的には、どのようなものをどうや って行くのか。その際の金融機関の反応は? また、核燃料の供給と使用済み燃料の 処理についてはどうか?との発言があった。

これに答えて今泉氏は、原則として制度金融。当該国が本当に原子力発電所を安全に 導入することができるのかということを、メーカーが国に報告して、OKなら、JBICな どが支援する。メーカーとして原子燃料も含めて供給を一貫してできるのはフランス などに限られる。したがって日本のメーカーは燃料も一括して供給することはできな い。一方、原子力発電所を輸入する側で、一番気になるのは燃料供給保証。ユーザー が燃料を国際マーケットでコンスタントに買う時の不拡散関連の仕組みが正しく運 用されることが重要と思うと述べた。使用済みの燃料の再処理などは、GNEP構想がう まく実現するか、注目したい。

以上