海外情報連絡会 平成10年度 第2回講演会 要旨

「IAEA保障措置の強化策」

日本原子力研究所 理事 谷 弘氏

 

(1)保障措置は原子力に携わる人にとっても一般にわかりづらい。保障措置自体は、一般の会社の総会で提出される財務諸表の作成行為と類似しているが、計量を伴う点が異なる。また、関係者の間で使用される符丁のような用語が多いことも問題である。さらに、原子力の「平和」目的の立証の必要性が理解され難い。

(2)世界の保障措置制度は、多くの人々からは一つのものと思われがちであるが、実際には、核拡散防止条約(NPT)に基づく保障措置を初めとして7つの制度が現存している。そして、1996年末に発効している保障措置協定の数は、全世界で207に登り、加盟国は125に及んでいる。

(3)加盟国からの報告は、協定加盟時(施設の状況や在庫量の冒頭報告)、施設の新造・改造時(設計情報)、通常時(在庫量報告や移動量報告)及び特別時に行われ、それぞれに対応した査察が適宜行わている。また、IAEAの実施組織は6部、約600人の職員を有しこれに当たっている。

(4)NPT非加盟国の現状は、インド、パキスタンのNPT、CTBTへの加盟問題が話題であるが、中東及びアフリカ地域では、非核地帯にする構想が現在進行中である。南米では、アルゼンチンとブラジルとの相互査察、各国のトラテルコ条約への加盟など改善してきている。NPT加盟核兵器国では、中国、フランス、旧ソ連諸国のNPT加盟、ソ連崩壊後の核物質管理強化や技術者の離散防止がなされている。また、核軍縮と新しい核実験禁止条約等の採択が進展している。一方、NPT加盟非核兵器国では、秘密施設が発覚したイラク問題、特別査察を拒否した北朝鮮問題、南アの原爆開発問題がある。これらを受けて、(93+2)の検討が進行している。

(5)(93+2)とは、1995年NPT再検討会議への対応であり、SSS(Strengthened Safeguards System)と呼ばれ、査察手法の強化と合理化・効率化を目的としている。この内容は、従来の協定範囲で実施可能なものと新しい取り決めが必要なものとがある。後者においては、核物質を用いない原子力活動や従来の査察非適用施設への対象拡大のねらいで新協定の締結の必要があり、新規情報の提供、補完的立ち入りなどが組み込まれる。

(6)現在、SSSに関してIAEAへの議定書の発効に向けて、原研東海で新規情報提供の試験的運用の検討が始まっている。今後の課題として、実施に伴う日本での問題点に関する検討、関係国内法令等の改正などが必要となる。

 

 講演ではSSSの詳細について特に丁寧な解説がなされ、終了後活発な質疑応答が行われて閉会した。なお、後日改めて、本講演テーマに関して本学会誌にご投稿を賜ることを検討している