海外情報連絡会 平成18年度 第4回講演会 要旨

世界的な原子力推進機運と東芝の対応

清水 建男 氏(株式会社東芝)

原子力学会「2007年春の年会」の第3日に海外情報連絡会企画セッション「原子力業界のグローバル化に向けた最新動向」が一般公開で開催された。本セッションは約50名の聴講者を集め、東芝の清水建男氏より「世界的な原子力推進機運と東芝の対応」と題し、原子力を取り巻く世界各国の環境の変化とこれに対する東芝の取り組みの紹介があった。以下に講演内容の概要を記す。

 

・はじめに

現在、原油の著しい価格高騰にも関わらずエネルギー需要は原油に依存している。DOEによる予測では中国の急速な成長によりエネルギー需要は増加する。これにともない炭酸ガス排出量が今後も増加するとIEAは予測している。原子力は炭酸ガス削減に効果的であり、かつ、15年以上の運転年数ではLNG、石炭よりも経済性でも優位になる。また、再生可能エネルギーと比較し、原子力の初期投資額は、太陽光、風力と比較し経済的に優位であり、天候に左右されることが無くその供給安定性でも優位である。

 

・原子力市場動向

米国では、計画外停止の大幅低減にともない高い設備利用率が維持され、また、国家エネルギー政策を受けて出力増加、寿命延長による既設炉利用拡大が促進されている。さらに、許認可リスクの低減、新規導入に対する生産税控除などの新規建設実現のための優遇政策とともに許認可手続きの合理化が実施されている。これにより新規建設機運が高揚し、現在30基以上のCOL(一括建設運転許可申請)の申請準備がされている。また、中国では2020年までに30GWの増設、韓国では2015年までに8基の新設そしてベトナムではFSを計画するなど世界各国において原子力導入・拡大機運が具体化している。

日本では、2005年閣議決定された「原子力政策大綱」において将来にわたり基幹電源として原子力を推進することが確認されている。これを受けて、東芝は、国家原子力政策の実現に向けて、技術開発等で積極的に貢献する。

 

・東芝の原子力事業

「人と、地球の、明日のために。」をグループスローガンとする東芝は、原子力を通じ環境とエネルギーセキュリティへの貢献を目指している。1966年の事業開始以来、BWRを継続して建設してきた。これまでに22基(国内シェア34%BWR 61%)の実績を有し、研究開発、EPC(設計、調達、建設)、運転、保守と包括的な事業を実施しており、世界トップレベルの技術力および製造力を有している。今後は既設プラントの価値向上のため、高経年化設備の予防保全などの信頼性向上および熱出力増加など発電量増加による経済性向上にむけた技術開発を推進する。また、次世代軽水炉の開発を官民一体で推進してゆく。

 

・海外への取組み

世界的に原子力の役割が増大し、新規建設機運が高揚している今、世界の原子力需要に応じて原子力発電設備を提供・普及し、日本で培った製造技術・総合エンジニアリング力を世界に提供し、さらには、日本の優れた原子力安全文化を世界に普及することを目的として、Westinghouse(WEC)と一体となり世界の原子力発展に貢献することを選択した。

このWECは原子力産業を創生し、発展させてきたPWRのリーディングカンパニーである。WEC14カ国34ヶ所に拠点を有する。東芝/WECグループは世界において、113基(PWR 87基、BWR 26基)世界No1のシェア約30%を有している。両者技術の融合で世界の原子力の発展への貢献を目指している。

 

・将来に向けた取組み

持続可能な発展のためのエネルギー安定供給と地球温暖防止のためには、原子力エネルギーの地球規模での平和利用拡大が求められるが、ウラン資源の有効活用、放射性廃棄物の低減のためには高速増殖炉サイクルの早期実用化が必要である。これを受けて、第4世代炉開発プロジェクト(GIF)、国際原子力エネルギー・パートナーシップ(GNEP)構想など高速増殖炉サイクルの開発計画が世界的に加速している。日本においても国策として商業炉を2050年以前を目指して開発することとしている。これを受け、国のFBR実証炉開発へ積極的に参加するとともに第二再処理工場に向けた次世代再処理技術の開発を推進する。また、地域ニーズに合致した固有安全の小型高速炉4S炉の開発も手がけている。

 

GNEP構想

世界的な原子力利用拡大に伴う核拡散リスク拡大に対する懸念および米国の処分場問題の解決策として、米国からGNEP構想が提唱された。本構想では世界を燃料供給国と使用国に分け、核燃料サイクル技術をパートナー国に制限し、パートナー国において核不拡散性の高いサイクル技術と先進燃焼炉を開発するものである。構想実現のため高速炉および再処理において日米協力による開発推進が期待されている。これには国レベルでの対応が必要である。

 

・おわりに

世界的なエネルギー需要の増加および二酸化炭素排出量の増加に呼応し、世界的な原子力発電の役割が増大し、新規建設機運が高揚している。また、原子力発電拡大は核不拡散との両立が不可欠である。前者に対しては、所有している製造技術および総合エンジニアリング力を生かして積極参加することで、後者に対しては、核拡散抵抗性の高い再処理技術開発等により貢献することで対応していく。さらには産官学/国際協力により将来に向けた技術開発を推進していく。