日本原子力学会 海外情報連絡会 平成21年度 第1回講演会 要旨

 

Global Energy Needs: Defining a Role for a Right Sized Reactor

 

Thomas L. Sanders (米国 原子力学会 副会長)

 約20名の参加者を得て、米国原子力学会(ANS) T Sanders副会長の講演会を開催した。以下、講演の要旨を紹介する。

 

Atoms for peaceから現状まで

アイゼンハワー米大統領の原子力平和利用プログラム開始の背景として、第2次世界大戦後のエネルギー資源獲得競争激化への対応、核技術の平和利用への転換、海軍へ原子力動力の展開と機微技術拡散防止管理の必要性等があったが、そのいくつかは現在でも課題になっている。

将来にわたって世界的な平和と繁栄を維持するためにはエネルギーが鍵である。世界全体の生活水準を最低限の水準、これはほぼマレーシアの現状レベルに相当するが、2050年までに、そこまで引き上げることを想定すると現状のエネルギー消費量に対して一桁の増加が必要になる。この10年間でも電気を使っていない、または、エネルギーをバイオマスに頼っている中間消費層の8割が先進国以外に住んでいると推定されている。

このような状況を背景に、世界規模で原子力発電を導入する検討が進んでおり、オバマ政権も拡散リスクを拡大することなく平和利用にアクセスできるよう、燃料バンクの構築など新しいフレームワークの構築について主張している。ブッシュ政権のGNEPも同様な目的で提案されたものであるが、ブッシュに比べればオバマ政権は核不拡散のウエイトをおいた政策をとっていくものと考えられる。GNEPはブッシュ提案なので、名前を変えて何らかの形で存続するかもしれない。

 

原子力平和利用推進にあたっての小型炉の役割

発展途上国における原子力発電導入のニーズは、大半が電気出力300MW程度までの小型炉に対するものである。世界の442基の原子力発電のうち139が小型または中型である。すでに、さまざまな国によって50以上もの小型炉に関する概念や設計が開発されてきており、固有の安全性も高く、また、燃料交換のいらない設計など核不拡散上の利点や廃棄物発生量を抑制できるなどのメリットもあり、コストも安い。小さなグリッドしか持たない国には最適である。

米国では多くの大型原子力発電所の建設計画を有しているが、果たして本当にそのコストを賄えるのかといった問題もあると考えている。1992年から米国で約290GWの天然ガス発電炉が導入されたが、いずれも100-300MW“ちょうど良いサイズ(right-sized)”の発電所であった。

大型の原子力発電所の場合には、大型の機器のほとんどを日本のような製造技術を持った国から輸入しなければならないが、小型炉の場合は自国内で調達できる。超臨界炭酸ガスタービンなどを用いれば機器を極めて小型化することができる。また、既存の軽水炉技術やガス炉技術をそのまま用いることもメリットである。

東芝の4SGEPRISMなどを使って、“ちょうど良いサイズ(right-sized)”の発電コストをカテゴリー別に比較をしているが、キャピタルコストは依然として高いものになっている。1kWあたり1500$を目指して、設計や先進的な製造方法の採用などでコスト削減ができないか検討中である。

“ちょうど良いサイズ(right-sized)の原子力発電所”は、国の安全保障やエネルギーセキュリティ上の利益もあり、価格破壊乃至は市場の流れを変える(Game-changing)技術であり、その時代が到来していると考える。

 

質疑応答

(問)“ちょうど良いサイズ(right-sized)の原子力発電所”のコスト目標である1500/kWは非常に安いが、実現可能と考えるか?

(答)高速炉であれば圧力も低く頑丈な圧力容器などは不要であり、金属燃料になれば製造コストも安くなる可能性がある。革新的な技術の採用等で実現可能と考えている。

(問)小型炉に対する規制面の緩和などは考えられるか?

(答)ヤッカマウンテンの科学レビューがどのような形になるかという点が1点あり、また、NRCの委員長や委員に誰がなるかという点が2点目である。この2点の状況次第で規制が厳しくなる側に動くか、緩和され得るかが決まるのではないか。

(問)スケールメリットについてどう考えるか?

(答)人口が集中している国、分散している国さまざまであり、“ちょうど良いサイズ(right-sized)の原子力発電所”を設置する場所の状況次第でスケールメリットの評価は変わる。

(問)発電以外の用途にも利用可能なガス炉についてどう考えるか。

(答)用途にバラエティがある点はメリットであると考える。また、詳細な評価が必要だが使用済み燃料を直接処分できるのもメリットではないか。

 

(以 上)