海外情報連絡会 平成12年度 第1回講演会 要旨

米国の原子力はどこへ行くか?

ANS会長 Andrew Kadak博士

 

 現在、米国の電力業界、メーカの関心は運転中の原子力発電所の改良や事業を発電、送電、配電に分離するべく調整に集中している。発電事業は規制緩和で、いまや競争の時代となった。もう一つの傾向は、大電力に身売りすることを望まない小さな原子力プラントのオーナーたちによる電力事業の合併統合である。

 2年前成長事業は、廃炉であった。原子力発電所の資産価値がオーナに理解されるにつれ、原子力発電所は閉鎖されなくなった。高額な資金が必要なため原子力発電所の新設の計画はないが、20に及ぶ設置許可更新の申請がなされている。

 しかし、変革は進んでおり、米政府は原子力のR&DすなわちNERI(Nuclear Energy Research Initiative)計画への興味を復活させている。安全に焦点をあて、産業界と共に取り組んでいるNRCのリスクインフォームドな規制への取り組みは常に受け容れられているわけではないが、重要である。

 しかしながら、経済的な競争が、原子力が選択され復活できるかどうかを決めるであろう。もう一つの傾向は、メーカの合併統合である。米国に基盤をおくメーカは一社だけが残るであろう。誰が次世代プラントの設計を供給できるか?

 関係する事柄として大学が研究炉を閉鎖していること、原子力工学科が閉鎖されたり他に統合されたりしていること、学生が原子力分野へ入って来なくなったことがあげられる。今の世代の原子力プラントは経済的競争力を有していない。

 何がなされているか?米議会は原子力における米国のリーダーシップの喪失に関心を寄せるようになっているので、エネルギー省はNERIを支援している。

 第V世代である改良型軽水炉ABWRやAP600そしてシステム80+に引き続いて次世代すなわち第W世代の技術開発が行われている。次世代プラントの設計においては建設、運転および設置許可の取得等の方法を変える必要がある。

 第W世代の新型原子力プラントは、a)天然ガスと競争でき、b)安全性が実証され、c)核不拡散性を有し、d)高レベルの形態で廃棄物を排出でき、e)国際的CO2排出基準を満たしていることが要求される。そのような要求を満たすものが存在するか?考えられる第W世代原子炉として次があげられる。

・モジュラー高温ガス炉

・鉛-ビスマス炉-大型BREST-南アフリカ/ロシア/米/仏

・小型15年炉心炉-鉛冷却

・小型軽水炉-SMART韓国

・小型軽水炉-IRIS-長寿命炉心

・水又はガスにおけるトリウムサイクル

・ナトリウム冷却炉-日本/韓国/ロシア

・加速器駆動システム-未臨界炉

 原子力プラントに競争力をもたせるため何ができるか?ANSがスポンサーとなって“経済性および環境負荷低減性”に関する研究が行われた。一定期間の独立した研究ののち、1998年の1月はじめ、MITの学生チームが、モジュラー型高温ペブルベッド型原子炉を提案した。

・ペブルベッド型原子炉は、天然ガス発電プラントと競争できる。プラントは工場で製作され、サイトで組み立てられるので1基当たりの建設期間が2年で済む。モジュール型の設計は、電力会社が1100Mwe(10基)にスケールアップする間にも収入が得られ、低いリスクで早期に投資資金を回収できる。

・核不拡散に対する利点は、a)高燃焼燃料(90,000Mwd/MT)は核兵器材料として不向きなこと、b)兵器の製作に必要な何千、何万の粒子を閉鎖系から盗み出しにくいこと、c)リスクをより低減できるトリウムサイクルを使用できること、および、d)余剰Puのバーナーとして使用できることである。

・廃棄物処理の観点からの利点は、a)高レベル廃棄物の処理が不要で直接廃棄できること、b)グラファイト(炭素ボール)は形態が長期間安定であること、c)同じエネルギーの生産量に対して軽水炉より保管空間が小さくてすむこと、および、d)特別な包装材料は必要がないと考えられることなどである。

 MIT/INEELプロジェクトの目的は、このタイプの原子炉が天然ガスと競争でき、かつ安全性や核拡散抵抗性および廃棄物に関する要求を満たしていることを確認し、経済的、技術的基礎を固めることである。

 これを行うため、燃料の信頼性、熱流力、炉心核特性、安全性、核拡散抵抗性、廃棄物処理および経済性に関する研究が進められている。

 2-3の利用だけにとどまらない国際的な採用が、新型炉の実現には鍵となる。IAEAは、すべての国で設計が受け入れられ、設置許可が得られることを保証するため、規制当局と共に、各国の合意を得ようとしている。プラントは適当な国際基準に基づいて建設される。訓練や新燃料の供給および使用済燃料の処理に関する基盤は国際的に共通に準備される。しかしながら、プラントの運転に特別の熟練は必要としない。

 まとめると、過去の失敗のため、高温ガス炉は信頼性が低いと信じられている。この仕事は、しっかりした解析により、そのような説の転換を図るためのものである。もし成功したら、設置許可を得るために必要な種々の燃料サイクル、熱利用法、新型制御系の設計、ヘリウムガスタービンや他の機器の探索を実地に試験するための原子炉研究施設の建設を5年以内に提案する。