海外情報連絡会 平成12年度 第3回講演会 要旨
原子力の国際動向と日本の対応方策
前IAEA事務次長 町 末男 氏
1.IAEAの活動
IAEAは原子力の平和利用促進と核物質のSafe Guardを活動の大きな柱としている。各国の拠出金による通常予算が約2億3千万ドルでその配分は、平和利用の促進が33%、Safe Guardが36%となっている。この他任意拠出の技術援助予算が約7千万ドルあり、これは平和利用促進に当てられている。しかしこの予算を援助対象国、約100ヶ国、に配分すると個別の国では極めて小さなものとなってしまう。例えば日本のODA予算との組み合せで技術援助が実現できれば、その効果がより大きなものとなると考えている。
2.技術援助の手法
IAEAが行う技術援助の実施には以下のような明確な原則がある。 ・被援助国の最終消費者にとって利益のあること。 ・原子力利用の優位性が明らかであること。 ・被援助国の固有の政策と整合の取れたものであること。 これらの原則にしたがった援助を行う場合、原子力発電技術については被援助国の人的資源も含めた技術・経済基盤がネックとなって援助の実現が困難な場合がある。その一方で放射線医療、害虫の駆除による食料増産、電子ビームによる排煙脱硫といった分野では成果が上がっている。
3.不妊法による害虫の駆除
最近実施され成功したプロジェクトとしてタンザニアでのツェツェ蝿の駆除による家畜の保護・増産がある。ツェツェ蝿はナガナ病を媒介し家畜に深刻な被害を与えていた。このような害虫の駆除のために放射線が利用され、タンザニアでは成功裏にプロジェクトが終了した。これは微量の放射線によって不妊化したオスの害虫を散布する事によって害虫の繁殖を抑制し農薬を使わずに完全に害虫を根絶する手法である。このプロジェクトのためにIAEAではオスとメスの蝿を飼育中に分離することなどの新しい技術を開発した。
4.放射線医療機器の援助
アフリカ諸国では癌治療に用いられる放射線照射機器が不足している。限られた予算で出来るだけ多くの機器を供与できるように基本機能のみを搭載した安価な機器の開発や中古品のリサイクルという手法がメーカーの協力で実現しつつある。
5.排煙脱硫
電子ビームによる排煙中の硫黄分の除去は日本でも開発されていた。この技術を用いたプラントがポーランドとブルガリアで実現しつつある。
6.IAEAにおける日本人の寄与
IAEA予算に占める日本の分担金比率は19%であり、米国の25%に次ぐものであるにもかかわらず正規の職員に占める日本人職員の比率は3.2%と低く、日本の原子力産業に携わるものとして、この比率を上げてゆくべきだと考えている。またIAEA側も全体のバランスからそれを望んでいる。IAEAにおける日本人職員を増やすためには、個々の技術者の意志や努力よりも日本独特の雇用環境を変えていくことが必要である。IAEAの活動を人的に支えるという観点からマネージメントレベルでの決定による人員派遣の促進が図られる事が重要である。 各位のご協力をお願いしたい。