海外情報連絡会2008年度第3回講演会 要旨

 

ハルデン50周年記念講演

 

皆川洋治 OECD ハルデンプロジェクト 試験技術部長

上村勝一郎 原子力安全基盤機構 規格基準部 特認参事

(1)   ハルデン50周年記念講演(皆川洋治氏)

ハルデンプロジェクトの50周年を記念して、プロジェクトの概要、成果等について、プロジェクトに長年かかわるご講演者でしか入手できないようなエピソードも含めてお話頂いた。

ハルデンプロジェクトは1958年に米国、仏国など10カ国の参加で始まり、2008年現在で日本を含む17カ国が参加している。来年からはカザフスタンが参加することが決まっており、合計18カ国となる。ハルデン炉は重水型原子炉からなる照射施設であり、燃料・材料の照射について数々の成果を上げているが、元々は3次系の蒸気を製紙工場に供給する核熱供給の実証が目的であった。炉心は300チャンネルからなり、そのうち110が炉心中央部に配置される。110のチャンネルのいずれか30チャンネルが実験用に供される。炉心のインパイルループ照射が数多くできることも特徴である。ループ照射は、水ループだけでなくAGR炉用のCO2ループを用いた照射試験をしたこともあり、英国からAGRの運転制限を広げた成果で表彰状を貰ったこともある。また、炉心内での燃料照射変形量計測などの多くの計測がオンラインでかつ高精度にできることが特徴である。

プロジェクトの運営資金は、二国間プロジェクト、ジョイント(多国間)プロジェクトの双方から得ており、ノルウエー政府から得ている資金は全体のわずか15%にとどまっている。プロジェクトの運営は極めて順調に行われており、1995年以降はほぼ250名の職員が効率的に働いている。職員が退職する前の23年程度は、新人の職員への技術指導を行い、技術の伝承を図っている。労使関係も良好で、今までに一度のストライキも起こっていない。

技術的なトラブルは少なく、1次系の重水配管にクラックが見つかり、1年弱停めて補修工事を行った以外の計画外停止はない。ただし、熱交換器などは順次交換を進めており、現状、運転初期から残っているのは圧力容器と1次系配管の一部となっている。圧力容器については、圧力容器に近接するチャンネルへの重水供給により、高速中性子照射量を極力抑える設計にしており、圧力容器の寿命は心配していない。

日本からの研究受託が多いのが特徴であり、日本の産学官のすべてから研究を受託している。2009年からの3カ年の計画を作っているところであり、今後とも日本からの研究受託を多く受けていきたい。

 

(2)   リエゾンからみたハルデン(上村勝一郎氏)

 なぜ、ハルデンプロジェクトが50年もの長きにわたり、継続して成功をおさめているのか、ご講演者のハルデンプロジェクトへの参加経験などを踏まえ、わかりやすく説明頂いた。成功の秘訣は、1)高い精度の計装技術により、炉内の燃料・材料挙動などが解明できること、2)すべての試験装置を内作することで、改良・開発を進展させ、コストダウンも可能にしていること、3)ユーザの要求に応えて、的確な解決手段を提案するとともに、実際にそれを実行できること、また、ユーザを定期的に訪問し、広報宣伝に努めていること、4)人材は広く国際的に採用し、優秀な人材の確保に努めていること、5)生産性が高く、分業が確立していること、6)成果を定期的に発表し、成果の普及に努めていることなどがあげられる。

 余談としてハルデンでの生活体験についても楽しく語られた。自然に恵まれ、生活環境も優れており、試験・研究に専念できる。また、ハルデンプロジェクトに参加した日本人はのべ約70名にも上っており、ハルデンプロジェクトから離れた後もリエゾンとしてハルデンプロジェクトを支援している。

 

(3)   質疑応答

(旧原研 鴻坂氏)ハルデンプロジェクトの成功は、ノルウエーに原子力プロジェクトがないためではないか。ハルデンプロジェクトを生かすための努力と執念がある。カザフスタンが最近参加する理由は何か。ソ連崩壊時の炉心監視システムはハルデンが開発したものだけど、最近はどうなっているか。

(皆川氏)カザフスタンは自国で製造した燃料の性能をハルデンプロジェクトで実証して、西欧諸国に安全性を示したいのではないか。ロシアの炉心監視システムは、引き続きうまく稼働している。

X氏)ハルデンプロジェクトの成功は、圧力容器の上鏡が平板形状だからではないか。圧力容器の寿命は十分なのか。

(皆川氏)ストレートに配管を引き出せるのは有利。配管を太くできて、試験リグ等で大きいものが入れられるのも有利。圧力容器寿命については、10年前に点検を行った時は、20-30年は大丈夫との評価だった。高速中性子照射量も少ないし、サーベイランス試験片によるISIも行っているので、50年から100年は大丈夫ではないかと思っている。

(旧安全委員会委員長 松浦氏)JMTRと比較してハルデン炉は燃料照射に重点をおいて計画を進めたのが成功の理由ではないか。JMTRでは、材料照射に重点をおいたが、材料の場合、成果がでるのに時間がかかるのが問題だったと思う。加えて、ハルデン炉ではすべての装置を内作し、outsourcing(外注)しなかったのが良かったと思う。日本は伝統的にoutsourcingをするので、それが問題だったかもしれない。高燃焼度燃料の照射試験はできますか。

(皆川氏)お客様からの要望があれば何でもやるのがハルデン。対応策を立てて何でもやるつもりです。

 

 鴻坂氏の「100周年記念もやりましょう。」とのご発言をもって、和やかな雰囲気で散会となった。