海外情報連絡会 平成19年度 第2回講演会 要旨

原子力のグローバル化に向けた最新動向

1)吉村 真人殿(日立GEニュークリア・エナジー株式会社) 2)山内 澄殿(三菱重工業株式会社)

60名の参加者を前に,両講演者にエネルギー利用としての原子力のグローバル化に対する両社の対応の基本方針を講演していただいた。以下,講演の要旨を紹介する。

 

1)吉村殿講演

現在,海外市場の現場で実際に何が起こっているか?日本の技術として何が期待されており,どんな課題があるか?それに対して,日立−GEのアライアンスで何をやろうとしているか?ということを本講演で説明する。

北米,アジア,英国等で,地球温暖化対策等により,原子力発電が期待されている。特にアメリカ市場に関しては,COL(建設と運転の複合認可)を2008年中に提出すれば,Tax Incentive等の権利が得られるという利点もあり,多くの電力が2008年をターゲットに準備を進めている。その中で日立-GEはESBWRのCOL申請に向けて奮闘中である。他方の大きな流れとして国際連携がある。国際連携の具体例として,日本の原子力立国計画,日米の共同行動計画,米国GNEP構想,ロシア国際核燃料サイクルセンター構想等がある。米国はロシアの動向も取り込んでイニシアチブを取ろうとしている。日本は独自の提案をIAEA等の場で提示していくと共に米国との協調を図っている。したがって民間企業でも国際的連携を踏まえて一国,一企業単位ではなく企業連携が重要となる。日立とGEは両社の資本を持ち合う提携を進めてきた。なお,商務の窓口は日本では日立GEニュークリア・エナジーであり,それ以外では,GE-Hitachi Nuclear Energyである。両社の統合はBWR技術保有者としてのリソースと技術を持ち合いグローバル市場でBWR事業を拡大するのが目的。市場が長期でリスクが読み難いため,人的リソースの維持が悩みの種である。したがって,リソースと投資機会を共有化することが良いと考えた。なお,前記の両兄弟会社を結ぶCommitteeがある。現状ではアメリカ市場に向けての設計・開発の効率化,調達リソース等による競争力の向上が議題となっている。また,英国向けにESBWRの設計認証取得の審査申請も進めている。

米国内新規原子力発電所建設のための日本の技術力への期待に応えるため,どのようなプロジェクトスキームをつくり業務を分担するか?米国の建設業者が入った体制の中でどのような役割と責任を担うか,一方,日本の先進的工法,建設工事管理が効率的に米国での建設業務にどこまで適用可能か?これらが,米国を対象としたグローバル化に向けた課題と考えている。アジア等の途上国は,実際の商談段階まで進んでいないものが多い。これらの国に対しては実証済み技術のアピール,現地化対応,原子燃料の安定供給等が主要な課題となっていくであろう。グローバル化に向けた企業内の取り組み課題として,海外進出の際の,各プロジェクト段階での人材派遣もしくは現地化のバランス,専門的能力・技術力の維持,製品・サービスのグローバル化におけるコア技術が挙げられる。グローバル化の成否は,最終的にはグローバルに通用する専門人材と製品・サービスの技術力を維持していけるかにかかっていると考える。

 

2)山内殿講演

グローバル化にあたりMHIは自らの技術をしっかりと使いたいと考えている。海外に進出するための技術力は,「エンジニアリング力」,「もの作り力」,「技術サポート力」の総合である。「エンジニアリング力」として,MHIは炉心設計・安全解析の一環実施が可能である。プラント開発では,プラント開発・設計・製造の一貫した共通データベースで製造・建設を支援しているが,どのレベルの部品から外注するかも検討課題である。燃料供給は海外に進出するためには必須であり,MHIグループの製造する燃料は,海外製品と比較して破損率が低く高い信頼性を持っている。「もの作り力」としては,大型構造物の溶接および加工技術が重要である。AREVAがフィンランドから受注したPWR用の原子炉容器や米国向け大型蒸気発生器はMHIが製造している。また,建設現場においても直径40mの原子炉格納容器のドーム一体搭載の溶接技術を有している。米国では原子力発電所のメインテナンスも外注である。そのため,「技術サポート力」としてのメインテナンス技術が必要である。

MHIは国内外の多くの原子力発電所主要機器の実績を有し,現在も機器輸出のために,日本,フランス,米国の3カ国のQAプログラムに対応している。

戦略炉のグローバル市場への投入に関連して,海外でも自社の技術利用を進めたい。そのため,米国規制当局であるNRCにUS-APWRの事前審査を申請中である。この炉は,敦賀3,4号をベースとしたものであり,24ヶ月連続運転,航空機落下対応,短建設工期,Passive-Active Safetyの最適化等の多くの特長を有する。現在テキサス州ダラスでの建設予定があり,COLの準備を進めている。US-APWRの技術的特長として,伝熱管増加によるプラント効率向上,14Ft燃料使用による安全裕度向上(線出力密度低下)がある。US-APWRのような大型炉以外に,AREVAと共同して,従来の半分の工程で中型戦略炉の開発を行っている。このため,設計からもの作りまですべての技術を有する両社が共同してATMEA社を設立予定である。さらに小型戦略炉としてヘリウムガス炉であるPBMRを開発している。同炉はヘリウムガスが放射化しないという利点がある。

FBRに関しては,安全性・経済性のある炉型開発のために三菱FBRシステムズを設立し,長期的な技術者のIncentiveを維持する。またGNEPではAREVAと組んで,リサイクル炉であるARRと統合核燃料取り扱いセンターCFTCを共同提案している。海外戦略に関しては,どのようなアライアンスを組むかが悩みどころである。

 

3)議長総括

議長総括の前に,前回の原子力学会で講演された東芝のグローバル化に関する概要が報告された。議長総括として以下の言葉で締め括られた。

「メーカーは皆真剣にやっている。我々は国内炉のリプレースがないこともふまえ,海外に進出するための技術力の競合,つまり切磋琢磨が必要であることを認識している。若い技術者にとっても本分野が絶対に面白いものであることを確信している。」

 

以上