日本原子力学会
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2024年度(第24回)SNWシンポジウム報告
(テーマ)原子力政策大転換をかけ声倒れにするな
~迅速・明確・持続的に成果を積み上げよ!~

第24回SNWシンポジウムは、約170名の方に参加頂き、2024年10月1日代々木のオリンピックセンター(*)で開催されました。講師によるパッション溢れる講演および活発な討論が行われ、会場のセミナーホールは熱気に包まれました。
 (*)国立オリンピック記念青少年総合センター(渋谷区代々木)

1. 開会挨拶

原子力学会シニアネットワーク連絡会会長
早野 睦彦

SNWシンポジウムではこれまで原子力を中心に、エネルギー安全保障、環境そしてエネルギー経済にかかわる重要課題について毎年シンポジウムを開催してきました。

一次エネルギーは3つしかありません。一昨年のシンポジウムでは2050年に向けてのエネルギー安全保障と脱炭素社会を目指し、CCUSなどの炭素対策付き火力、再生可能エネルギーそして原子力の割合をほぼ3分の1ずつ分担する調和電源ミックスを提案させていただきました。これから100億になんなんとする人口を支えようとすれば、このエネルギーは嫌だというような贅沢は人類には許されていないと思います。

最近ではロシアのウクライナ侵攻によりエネルギー資源の安定供給が困難になる一方で、AIやデータセンターなどの電力需要の大きな増加が見込まれます。資源小国の我が国にとってエネルギー安全保障体制の強化が求められる所以です。

このような状況から昨年2月に閣議決定された「GXに向けた基本方針」で原子力政策を大転換して原子力を再エネとともに主力電源にすることとしました。原子力の再稼働だけでは衰退するだけですからリプレース、新増設は不可欠です。しかしながら原子力プラントの建設は息の長い事業であり、また高レベル廃棄物のバックエンド問題、規制の予見性問題、政治リスク、司法リスクなど課題が山積しています。

今回のシンポジウムでは、「原子力政策大転換をかけ声倒れにするな」をテーマに、今後の課題と展望を深堀して議論の要点を広く発信できればと考えております。

2. 開催概要


シンポジウム会場がある国立オリンピック記念青少年総合センターのセンター棟

開催日時:
2024年10月1日(火) 13:00~16:40 (開場 12:30)
懇 親 会:
シンポジウム終了後、カルチャー棟2F イートイン(トキ))(17:00~18:30)にて実施
開催場所:
国立オリンピック記念青少年総合センター内セミナーホール(センター棟4階)
参 加 費 :
(会場借用料等として)
原子力学会員:1,000円(不課税)、原子力学会員以外:1,000円(税込)。学生、プレス:無料
懇親会費:
2,000円(税込) (学生は無料)

3. 概要報告

総 合 司 会
13:00~16:40
原子力学会シニアネットワーク連絡会 代表幹事
星野 知彦
 来 賓 挨 拶
参議院議員、参議院 農林水産委員長
滝波 宏文氏
(第一部)基 調 講 演
「地球温暖化・エネルギー安全保障をめぐる国際情勢と日本の課題」
 東京大学・公共政策大学院教授
有馬 純 氏

温暖化防止に関する国際的な議論では1.5℃目標、2050年カーボンニュートラルがデファクトスタンダードになっているが、南北対立や温暖化防止に対する優先順位の違い等により、1.5℃目標への固執は非現実的であり、コストを抑えた現実的なエネルギー転換が必要である。COP28では化石燃料からの転換が注目されたが、再エネと並んで原子力、CCUSの役割が認知された意義は大きい。日本も政府が強い意志を持って原子力の活用を進めるべきだ。

<有馬純 氏講演資料>

(第二部)パネル討論 : 原子力の最大活用に向けて
モデレーター
エネルギー問題に発言する会 会長
針山日出夫
パネル討論の狙いと進め方

モデレーター・針山より今回のシンポジウムテーマの背景と狙いについて要点を概説した。

その後、各パネリストより予め定められたテーマに照らした問題提起の説明があった。 その後の討論においては、モデレーターより各パネリストの問題提起に絞った個別課題につい指名して質問しご意見をお聞かせ頂いた。最後に、本日の討論の締めくくりとして新総理への一言リマークをお願いした。

<針山日出夫講演資料>

 

課題提起1
「中長期電力需要の見通しについて~IT需要の増大と産業等の電化」
(公財)地球環境産業技術研究機構・システム研究グループリーダー
秋元 圭吾 氏 

生成AIなどIT関連の需要が今後大きく増大する可能性がある。直近でもデータセンター等の需要が大きくなっている。これを経済成長の機会とするには、国際的に競争可能なアフォーダブルな価格での安定的な電力供給が必要である。かつ、低炭素、脱炭素の電源による供給も求められる。これら需要の顕在化の時間軸は短く、他方、電源の建設、供給に要する時間軸は長い。成長戦略に資する電源開発、電力供給の戦略が求められている。

<秋元圭吾 氏講演資料>

課題提起2
「原発新増設は待ったなし、官民で全力投入せよ!」
元内閣官房参与
加藤 康子 氏

電力なくして国家の成長はなく、産業の発展も国民の豊かな暮らしもない。現在のエネルギー政策は重心が環境に大きく偏っており、安定供給や経済合理性が犠牲となる傾向にある。原子力など安定電源は国策で準備すべきである。AI、データセンター、半導体等による爆発的な電力需要の伸びは、省エネを加速させてもそれを凌駕する。原子炉の運転延長をもってしても、2045 年には原子力設備は激減し、供給力足りえない。

次世代革新炉建設への国民の期待は高いが、建設には20年~30年の年月がかかるため、新増設にむけて早期に着手しなければならない。 政府は民間に原子力を建設することを促す一方で、電力が自由化された現在、民間事業者にのみリスクを負担させることは現実的ではない。 原発の新増設には、制度の全体的な見直しが喫緊の課題である。金融機関が投融資できる事業構造にするための政策設計が求められる。

<加藤康子 氏講演資料>

課題提起3
「規制改革による規制の予見性・合理性付与を急げ!」
東京大学・原子力専攻教授
岡本 孝司 氏

GXなどにより国民の理解も少しづつ改善してきている。十分な安全を確保したうえで、運転中保全などにより、発電所をより安全にすることで、効果的にエネルギーセキュリティを高めることができる。科学的な原子力規制と、安全を高めることで、稼働率の向上につなげることが重要である。なお、原子力技術維持のために新設が必須である。

<岡本孝司 氏講演資料>

課題提起4
「迅速、明確かつ現実的で責任ある政策を!」
株式会社IHI執行役員、元資源エネルギー庁次長
小澤典明 氏

エネルギーは国家の基盤。その安定供給が命運を左右する。さらにカーボンニュートラルへ向けて挑戦しなければならない。エネルギー政策の方向性を決めるエネルギー基本計画の改定の議論が進む中、より現実的な対応が求められる。安定供給とカーボンニュートラルの両立を目指して、エネルギー源の確保をどのように進めるか、特に原子力の持続的な利用と将来をどのように展開するかを考察する。

<小澤典明氏 講演資料>

≪休  憩≫
≪討論と意見交換≫

パネル討論において以下の質疑応答があった。

(質問1)電力デマンドに地域偏在性があるのではないか?その場合、日本全国を一括りにした需給の調整で電力の安定供給はできるのか?
(回答1)
  • 1.半導体の工場だけで電力需要は膨大なものとなる。供給力があるかどうかは発電所だけでなく、送電線も絡んでくる。発電所に関しては、原発の再稼働が関係してくる。原子力発電所が稼働するか否かも不確実性要因である。
  • 2.生成AIのデータの需要は都市部であるが通信事態は光ケーブルで行うので時間遅れがあっても良いものは離れても可能だが、反応が早い場合は需要に近い場所に供給地を置く必要がある。データセンターの立地は電力のみでは決まらず、地方の方が水(冷却水)の供給や土地が安いのでデータセンターを置くのに向いている。水や光ネットワークなど制約を総合的に考えて最適解を考える必要がある。
(質問2)米国では大規模データセンターについて専用の原子力発電所を活用することがDOEから言われている。日本では整合性、蓋然性の高いシナリオをつくって供給不足にならないように計画しているのか?
(回答2)スリーマイルアイランド原子力発電所をマイクロソフト向けに稼働するという計画があるが、データセンターは2,3年で電力が供給されることを希望している。新規の原子力発電所は2,3年で供給できることはない。電力需要については予見性をしっかり持って長期のビジョンが必要である。供給と需要で目線を合わせて検討が必要である。今度のエネルギー基本計画での考察が重要だが、エネ基での検討が終わった後に精緻に実態に合わせた分析が行われる見込み。
(質問3)原発の新増設は待ったなしである。ただ、電力の内実は電力システム改革と再稼働の遅れでボロボロになっており、こんな状態で出来るとは思われない。
(回答3)
  • 1.国策で「きちんとやる」と宣言する必要がある。国が予算を取ってやらなければならない。
  • 2.石破内閣の経済政策は岸田内閣を継承すると言っている。20年後も経済成長を確保するには、エネルギー政策をしっかりしないと駄目である。すぐにできないから後回しにするというのは政治家としての責任を取っていない。
(質問4)日本の規制は民主党政権時代の暗愚の規制がまだそのままになっている。どう直していけばよいのか。このままでは新増設は無理である。
(回答4)
  • 1.IAEAが行った原子力規制委員会のレビューは英文を見れば不合格の評価である。例えば技術的能力を上げるべきといわれている。
  • 2.原子力規制委員会を監視する機関を法律で明確に定める必要がある。
  • 3.規制に関係する役人のノーリターンルールは無駄である。これではいい人が育たない。米国、フランスなどは原子力規制を経験した人が出世するキャリアーパスになっている。
(質問5)原子力は時間がかかる。歯車がかみ合っていない。政策が廻るための仕掛けがないとだめではないか? 原子力事業環境整備法というのが必要なのではないか。
(回答5)
  • 1.原子力の最大限活用について議論できることに意味がある。震災直後は全く議論できなかった。エネルギー基本計画で踏み込んできちんと方針を明確にすることである。日本全体を見て方針がしっかりしていることが必要である。例えば、「原発依存度をできるだけ減らす」という現在のエネルギー基本計画は変える必要がある。
  • 2.原子力に投資がしにくい状況を打破するために国が原子力投資に対する保証をする必要がある。そうしたら本当に国策民営となる。昔からあるいろいろな法律を整備していくのも必要である。検討のタイミングには来ていると思うが、どういう順番で手を付けるか考える必要あり。
(質問6)石破新総理に対して伝えたいことを一言でお願いしたい。
(回答6.1)新総理は緻密で論理的な人である。原子力・エネルギーについてしっかり説明すれば判ってくれる。原子力については十分な情報が入っていない可能性がある。それらを含めよろしくお願いしますと言いたい。
(回答6.2)規制を監査する仕組みを国会が構築することを期待する。また、今度の政権で柏崎・刈羽と泊の再稼働を実現してほしい。
(回答6.3)震災以降時間がかかったが原子力見直しは岸田政権でやっとスタートした。この政策を安定的に進めてほしい。
(回答6.4)日本が直面している本当のエネルギー危機を見てほしい。さもないと、日本からエネルギー多消費産業が消えてしまう。
(回答6.5)低廉で豊富なエネルギーは国を守るための一丁目一番地である。ぜひ原子力を進めてほしい。
≪閉  会≫
16:40
懇親会 :カルチャー棟2Fイートイン(トキ)

4. 主催・共催・後援

主 催 :
(一社)日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)
共 催 :
 エネルギー問題に発言する会
 エネルギー戦略研究会(EEE会議)
後 援 :
(一社)日本原子力産業協会、(一財)日本原子力文化財団
(一社)原子力国民会議

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