
第25回SNWシンポジウムは、約150名の方に参加頂き、2025年10月16日代々木のオリンピックセンター(*)で開催されました。講師による講演および活発な討論が行われ、会場のセミナーホールは熱気に包まれました。
(*)国立オリンピック記念青少年総合センター(渋谷区代々木)
1. 開会挨拶 原子力学会シニアネットワーク連絡会 会長 早野睦彦
SNW会長の早野です。本日はご多忙の中、シンポジウムにご参加いただき誠にありがとうございます。SNWでは毎年、原子力を中心にエネルギー安全保障や環境、経済に関する重要課題を議論してきました。一次エネルギーは火力、再生可能エネルギー、原子力の三つしかなく、2050年に向けてそれぞれを凡そ1/3を目安に活用する「調和電源ミックス」を提案しています。100億にもなろうとする世界の人口を支えるには、あるエネルギー源を嫌う贅沢は人類には許されないと思います。

今年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画では、「原子力依存度の低減」の文言が初めて削除され、原発の建て替えにも言及されました。これは前進と評価できますが、資金調達、規制の予見性、高レベル放射性廃棄物の処分、地元の理解など多くの課題が残されています。原発は建設から廃炉まで数十年を要する長期事業であり、核燃料サイクルに至っては国家百年の計とも言える大事業です。短期的な世論に左右されず、長期的視点での政策が求められます。
今回のテーマは「長期的な視点に立った骨太のエネルギー基盤の確立」。講師の先生方に加え、次世代を担う若者代表として富澤新太郎氏にもご登壇いただきます。富澤氏は昨年の日米学生会議で日本代表として議論を交わした経験を持ち、将来のエネルギービジョンを語っていただきます。また、滝波宏文副大臣にもご来賓としてご挨拶いただきます。150名近い皆様のご参加と、支援団体やボランティアの皆様のご尽力に心より感謝申し上げ、開会のご挨拶といたします。
2. 開催概要
原子力学会員:1,000円(不課税)、原子力学会員以外:1,000円(税込)。学生、プレス:無料
3. 概要報告

参議院議員の滝波宏文でございます。
現在、農林水産副大臣を務めておりますが、三年前に水産部会長としてALPS処理水放出問題に向き合ったことをきっかけに農林水産委員会に入り、翌年、農林水産委員長として四半世紀ぶりに「食料・農業・農村基本法」の改正を行い、昨年より副大臣として職務にあたってまいりました。
同時に、議員連盟の活動では、原子力・エネルギー政策に引き続き全力で取り組んでまいりました。特に「最新型原子力リプレース議員連盟」の事務局長として、原発の建て替え(リプレース)解禁を目指し、第七次エネルギー基本計画では遂に、サイト毎を超え、事業者単位でのリプレースまで認められるに至りました。原子力が将来にわたり自然死することなく、わが国の基幹電源として持続するための大きな一歩と考えております。

このようにリプレースという大きな目標に大体目途がついてきたので、根底にある考え方を踏まえ、今春、議連名を「立地に寄り添うエネルギー政策推進議員連盟」と改め、安全性を立地自治体住民の視点から捉えることを重視して活動しております。即ち、原子力の安全性という時、一体誰の安全性の問題なのかと言えば、原子力立地自治体の住民の安全ということで、立地に寄り添う=原子力の安全性と考えております。原子力政策は、推進か脱原発かの1軸ではなく、別の軸として立地に寄り添うかどうかという視点を加え、「2次元」で考えることが不可欠です。避難道路の整備や最終処分場の課題、高速炉の必要性など、立地の声を反映した政策が求められています。また、エネルギー政策は原子力だけでなく、再生可能エネルギーや火力などについても、立地地域の実情に応じた総合的な議論が必要です。
総裁選における公開アンケートでも、原子力の必要性が広く認識されるようになりましたが、実際のリプレースや人材育成等は、まだまだ道半ばです。
今後も「立地に寄り添う」姿勢を貫き、日本のエネルギーの未来を切り開くため、全力を尽くしてまいります。引き続きのご指導とご支援を心よりお願い申し上げます。

中東情勢など地政学リスクの影響で国際エネルギー情勢が激動を続けている。エネルギー安全保障と脱炭素化の両立に向けたエネルギー転換は、世界の分断深刻化やトランプ2.0の影響でますます容易ならざる挑戦となった。生成AIやデータセンター普及拡大で電力需要が増大し電力安定供給がエネルギー政策の喫緊課題となった。第7次エネルギー基本計画で示された通り、安全性を確保し国民理解を得た上での原子力の最大限活用は「S+3E」同時達成のカギを握る。



2010年代後半から国際的に加速した脱炭素政策は、経済成長への弊害を顕在化させている。米国はエネルギードミナンスを探求し、気候変動における科学的な不確実性の認識のもと、リスクと利益をより慎重に評価するよう大きく転換した。本報告では、主要工業国におけるエネルギー内外価格差と産業空洞化の最新動向を紹介しながら、日本経済における安価で安定的なエネルギー供給の構築と、脱炭素政策からの戦略的転換の必要性を論じる。

化石燃料の資源制約、排出される二酸化炭素による地球温暖化、近年の紛争や新たな需要増などへの対応として、社会は大きな変革が求められている。この状況において、環境・エネルギー分野での取り組みは、3Eと安全性の確保を目標に、省エネ・電化、再エネ、原子力、分散型資源、さらには電源や需要の再配置とそれを結ぶ送電線の役割が重要である。本講演では、これらのエネルギー部門脱炭素化における原子力の役割を考える。
東京大学医学部

「若者世代の意見」と一括りにしても、その内実は多様である。私自身、若い世代を代表するには力不足であるが、一例として、どのような未来を予測し、いかなる政策や技術に注目しているかを述べたい。近年、脱炭素潮流にある中で、かつて以上に電力を大量消費する産業の勃興が期待される。安価かつ安定的な電力供給の確保を目指す上で、分散電源化の進展や新規電源投資の在り方を、統合コストや市場の動向を踏まえて考察する。

モデレータからの提案で論点として以下の5つの論点について議論した。(各論点クリックで開く)
論点(1)周辺情勢
- 野村氏
- 結論として回復できるポテンシャルはある。長期停滞は可能性も生む。円安は輸入価格の上昇の側面があるが、国内では賃金上昇の余地が生まれ、30年間のデフレから脱却し、機能不全に陥ったマクロ経済にはプラスになる。
- 日本の抑圧された賃金も質の高い労働者も潜在力であり、それを活かす政策が必要。円安はミクロ的には生産性を下げる傾向にあるが、穏やかな円安のもとマクロ経済の環境を整えられれば復活につながる。ポテンシャルの発揮はGXによるものではない。それはむしろ好機に水を差している。
- 荻本氏
- 日本はFIT(固定価格買取制度)で世界水準よりはるかに高いところに買取値段を設定したために、申し込みが殺到し、太陽光発電の価格が下がらなくなった。現在同様のことが蓄電池で起きている。
- 自分たちはそもそも何をしたいかに軸足を置いて有効な資金配分を考える必要がある。
- 野村氏
- 15年前に民主党政権下の環境省で二酸化炭素削減目標が25%となったときに、25%削減が経済成長につながるというシナリオが本格的に検討されたが、相当な技術革新の実現が前提だった。それは当前の同義反復にすぎない。現在は自民党政権下の経産省の分析で同じことが繰り返されてしまった。GXの技術革新が実現されたらという、実証的基盤のない仮定のもとに、現実のエネルギー・環境政策を描くべきではない。
- 荻本氏
- 世界全体が現実路線に戻りつつあり、これまでの脱炭素に向けた方針をどう修正するか、各国が模索している状況。
- 荻本氏
- グリーン水素や合成燃料は価格が高いので、使用目的と使用の優先順位が重要。
- 例えば長距離トラックなど電動化が難しく、車両が高く稼働率をおとさないために長時間の充電が難しく電化に向かない分野など、より付加価値が高い分野が候補。風力発電では、政府の関与は、技術的に未成熟な浮体式に注力する方向だが、現時点の導入では、着床式の風力発電をいかに安価に建設するかに注力すべきと考える。
論点(2)脱炭素に対する原子力関係者のスタンスはどうあるべきか?
- 富澤氏
- 原子力関係者が再エネを批判しても世論を敵に回すことはないと思う。各電源についてオープンに議論することに問題はない。国民の関心は「再エネか原子力か」ではなく、安価で安定したエネルギーが供給できるかにありそこに焦点をあてた議論をすべきである。原子力は脱炭素電源としての価値を前面に出すことに問題ないが、再エネが急速に普及しないからといって社会実装の段階で政策的にFITのような仕組みで無理をすることは避けるべきである。
- 荻本氏
- 日本では立地の制約があり再エネも原子力も無制限に建設できるわけではない。限られた条件の中でお互いを批判するのは建設的ではない。再エネ100%を主張する人がいるが、日本全体では統合コストが増加するため、高コストになる。理屈で説明し議論することが重要。
- 野村氏
- 好き嫌いの感情論ではなく合理的に議論する必要がある。再エネの拡大は徐々に進むとしても、拙速な拡大には経済的に大きな問題がある。原子力の議論は、それを守るためではなく、日本の産業基盤を維持・発展させることが目的であることを明確にすべき。思考を狭めず、視野の幅を広げ、エネルギーミックス、産学連携、日本の経済構造の在り方まで踏み込んだ議論が必要。
論点(3)原子力の経済性は確保できるか?
- 荻本氏
- 電力が余った場合に社会全体でどう対応するかが重要。再エネは機械的、熱的制約が少なく余剰時に電気を比較的自由に抑制できる。したがって出力調整は再エネ側で行うほうが、社会全体としてコストが安く済む可能性がある。「できること」と「やったほうがいいこと」は異なる。
- 荻本氏
- 社会全体として何が最も安価かをしっかり考える必要がある。必要になったときに原子力発電の出力調整運転を活用すればよい。
論点(4)将来の原発依存度の目標は?
- 富澤氏
- スケジュールやコストなどのバランスを考慮して目標を高く設定することは可能。万一事故が起きた場合に原子力がゼロになっても他の電源でカバーできる割合にしておくべきと考える。
論点(5)「骨太のエネルギー基盤」を確立するために原子力の最大限活用を図る具体策とは?
- 野村氏
- 規制について国際的に調和を持った、平準化した制度が必要。地方自治体の意見は重要だが、法的根拠に基づかない慣習により見かけ上の善意に振り回されては誰のためにもならない。福島の復興でも復興予算が既得権益化しており、財政支出ではなく金利優遇のような形でサポートへの転換が望ましい。輸出は規模の確保に重要だが、まず国内の足元を固めなければ輸入国の信用を得られない。安定的な電力が必要なのは日本であり、輸出そのものを目的とするより、過度な安全基準の追求で足踏みせず、稼働しながら価格を下げるための経験の蓄積と技術開発を進め足元を固めることに注力すべき。
本日のパネル討論の結論としてモデレータは以下の通り取り纏めた。
- 「論点1;周辺情勢」からは、
- 日本経済の回復、不透明な温暖化問題のいずれも原子力は貢献できる筈である。
- 「論点2;脱炭素と原子力」からは、
- 脱炭素の議論・再エネの是非はともかく、原子力は先ずは自らが頼れる存在になることに注力すべき。
- 「論点3;原子力の経済性」からは、
- 原子力の経済性を棄損しないよう、努力と工夫が必要
- 「論点4;将来の原発依存度の目標」としては、
- 第7次エネ基に示された電力供給の2割よりも高い目標を置いて取り組むべき
- 「論点5;原子力増強への具体策」としては、
- 国が主導すべき課題、産業界が取り組むべき課題、官民協力して取組むべき課題があり、原子力関係者はそれぞれの分野で責任を果たし、日本の将来のため、その時代を生きる若人のため、せめてエネルギー自給率を改善すべく、揺るぎない原子力の最大限活用の道を切り開く「骨太のエネルギー基盤の確立」に向けて、個別の具体策実現の活動を、原子力の各分野において、現役であろうとOBであろうと、働きかけて行くことが重要であるとした。
4. 講演資料
(お願い)以下の資料の内容を引用する場合は講師の了解が必要です。
東京大学医学部
シンポジウム終了後、懇親会を開催し講師や参加者相互の交流を深めるなど楽しいひと時を過ごしました。
6. 主催・共催・後援
- 主 催 :
- (一社)日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)
- 共 催 :
- エネルギー問題に発言する会
- エネルギー戦略研究会(EEE会議)
- 後 援 :
- (一社)日本原子力産業協会、(一財)日本原子力文化財団
- (一社)原子力国民会議