「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(2020.12.25)において、政府は2050年におけチャレンジャブルな電力供給の目標を提示した。これを受け、シニアネットワーク連絡会及びエネルギー問題に発言する会は、これまで蓄積してきた各会員の知識、経験及び見識を最大限活用してこの目標達成に向けた提言を行うこととし、各人の自由な発想を基盤としつつ組織的な提言活動を開始した。以下にその活動による提言を順次掲載している。
また、これまで本ホームページの「報道・発表」のページは、様々な対象・局面で実施された提言活動の記録であり、本「提言活動」のページに統合・集約した。
1. 提言活動
New! 知事と国はWIN-WINの関係で
高レベル放射性廃棄物の処分地選定に取り組め
有志
- 【提言】
- ・国および知事は、少子・高齢化が避けられない日本において、地層処分施設が迷惑施設であるとの認識を改め、最終処分事業が地域の持続的発展に大きな役割を果たす公益事業であるとの認識を共有して欲しい。
- ・知事は、文献調査の受け入れ意思の有無に関わらず、最終処分事業をきっかけに持続的な地域発展のあり方を国の参画を得て全国知事会議等の場で議論して欲しい。
- ・知事は広域自治体の長として、法律で撤退が認められている最終処分地選定過程に風評を跳ね返して参画し、国とともに地域住民の理解促進に努めて欲しい。
- 1. なぜ国と知事がWIN-WINなのか
- 国は、高レベル放射性廃棄物の処分地選定を進めたい、知事は、地域住民の福祉のために地域の発展を強く望んでいると思料している。この2つの重要政策を結びつけることができれば、国と知事は、高レベル放射性廃棄物の処分事業でWIN-WINの関係を造り上げることができる。
【提言の拠り所および補足】
つづく
- 2. 最終処分事業は公益性が高い国家的な事業(つづく)
- 原子力発電に伴い発生している高レベル放射性廃棄物の最終処分は、原子力発電の推進の是非を問わず、現世代および将来世代にわたる「国民の安全と健康および環境の保全」(放射性廃棄物等合同安全条約、2003年批准)を理念とする公益性の高い事業である。最終処分事業は、最終処分政策について定めている最終処分法(2000年制定)に基づき実施される国家的な事業である。
- 3. 国は、最終処分事業を進めるに当り地域の意向を踏まえた総合的な政策で地域の持続的発展を支援
- 最終処分法に基づき閣議決定された最終処分基本方針(2015年改訂)は、最終処分事業の進め方を明確に示した。それは、処分地選定調査を実施する地域の主体的な合意形成に向け、多様な住民が参加する「対話の場」を設置するなど住民の活動を支援すること、対話の場などを通じて集約される地域の持続的な発展策の実現に向けた総合的な支援措置を関係地方自治体と協力して講じていくことなどを盛り込んでいる。地域発展計画に処分事業は組み込まれると考えて欲しい。
- 4.最終処分地選定などに協力する地域に対する敬意と感謝の念や社会としての利益還元-風評対策を講じる最終処分基本方針
- 最終処分地選定に応じる地域に対して国民として敬意と感謝の念を示すことが重要であることが、最終処分基本方針2015年、閣議決定)で明確に示されている。さらに、最終処分基本方針では最終処分地選定に応じる広域自治体および基礎自治体が交付金として利益還元を受ける権利を明確に示した。これは、「札束で頬をはたく」との風評を跳ね返す仕組みである。
- 5.最終処分は世界が地層処分技術を選択
- 長い時間、人間の生活環境から安全に隔離する」とする目標に適う最終処分技術は、深い安定な地層を利用する地層処分技術に依ることが、国内外で支持されている。日本は高レベル放射性廃棄物を工学的設備に閉じ込めている間に放射能が失われる仕組みのもとに埋設する技術を採用している。また、処分場は、放射性廃棄物を埋設する地下施設を「沿岸海底下」に設置する工法が採用可能であり陸上に大規模な占有面積を要しないことも特徴である。
- 6.風評に負けぬ最新の地層処分技術
- 地層処分技術は、高レベル放射性廃棄物を地下深部に埋設することに対する人々の不安に応えるために、国家的なプロジェクトとして安全性、信頼性を第一義として技術を確かなものにしてきた。地層処分技術は、どのようにすれば「裏庭はいや(NIMBYシンドローム)」や「風評」を低減することができるかを見据えて時間・人材・資金を投じてきた。
- 7.いつでも撤退できる処分地選定とできるだけ多くの文献調査地
- 最終処分法は、概要調査など処分地選定過程で調査に応じている自治体が調査地から撤退できる権利を制定している。この権利は、調査地になるとそのまま処分地になるのではないかとの懸念を払拭するために制度化されたものである。また、最終処分事業主体は、処分地に適さない地質環境が明らかになった等との理由から調査を取りやめることも想定される。従って、処分地選定にあたっては、できるだけ多くの文献調査地を求めることになる。
- 8.広域自治体が処分地選定の初期段階から主体的に参画
- 全国知事会の提言(令和4年8月10日)は、「最終処分地の選定の問題は、原子力施設の所在の有無にかかわらず、国民的な議論が必要な問題であることから、国は、全国知事会とも協議しながら、最終処分事業の理解促進に一層努めること」を是とする。その上で、最終処分地の選定と地域発展に向けた総合的な政策は、1基礎自治体の行政範囲を超える事業である事例が、先行する諸外国でも見られる。先に挙げた高い公益性および国として地域の持続的な発展を支援する事業であるため広域自治体が処分地選定の初期段階から主体的に参画することが望まれる。
- 9.参画の一形態は「地域パートナーシップ」
- どのような形で広域自治体が参画するかは知事の考えが尊重されるが、その一形態は国内外で多くの成功事例がある「地域パートナーシップ」が挙げられる。
- 10.「対話の場」は次世代が地域の将来像を描くきっかけに
- 文献調査を含めた処分地選定調査の過程で当該地域に設けられる「対話の場」は、地域の将来像を描くきっかけとなる。とりわけ、地域の将来を担う若い世代がその地域の特徴を踏まえた地域発展を検討する場に参画する機会を提供する。
*提言先:内閣総理大臣、全国47都道府県知事、自民党政調会、最終処分関係閣僚会議(内閣官房長官)、経済産業大臣、資源エネルギー庁長官
New! 原子力発電所再稼働の全力加速で電力危機を克服し
2030年原子力発電目標(20~22%)を達成せよ!
有志
東電福島原発事故を受け新規制基準での安全性が確認された原子力プラントを再稼働させることは、事故の反省と教訓がきちんと反映されたうえで原子力のリスクが大幅に低減されていることの明確な証左である。国民が原子力発電の稼働実績から、事実をもとに原子力の潜在的ポテンシャルを正しく理解し、原子力への不安・不信を払拭して更なる再稼働・新増設・リプレースに向けての国民的理解を得ることが望まれる。
その上で、2030年原子力発電目標の達成は、原子力発電利活用の道を改めて拓くことで、以下に寄与するものと確信し本提言を発信する。
- ➀ 現下の電力危機への根本的解決
- ➁ エネルギー安全保障の基盤となる持続的安定電力供給
- ③ 国力維持と並行して脱炭素社会の実現
【提言】原子力発電所再稼働の全力加速で電力危機を克服し2030年原子力発電目標(20~22%)を達成せよ!(2022/11/8)
New! 革新軽水炉の初号機2030年代半ば運転開始に向け
即時着手を!
有志
2011年東電福島第一原子力事故以来我が国の原子力発電技術・サプライチェーンは崩壊の危機にある。2022年8月24日、GX(グリーントランスフォーメーション)第2回実行会議で岸田首相が「次世代革新炉の開発・建設」を検討する方針を明言したのは英断である。
次世代革新炉のなかでも革新軽水炉の基本計画はほぼ出来上がっており、基本設計が進められている。
一方、新設原子力の投資環境や原子力規制環境は一変した。新設プラントの設計・建設の体験を有する人材やサプライチェーンがまだ残っている今、革新軽水炉の初号機を2030年代半ばに運転開始することを目標として、関係機関の総力を結集し、即時着手することを提言するものである。
2050年に於ける電力安全保障と脱炭素社会を目指して
再生可能エネルギー・原子力・火力調和電源ミックス
有志
第6次エネルギー基本計画は、2050年カーボンニュートラルの実現に向け、再生可能エネルギーを主力電源として最優先で最大限の導入に取り組む方針の下に策定された。
そこで、まず最大限の導入を期待されている変動再エネ(太陽光発電、風力発電)の3つの課題(電力安定供給、経済性、自然条件・社会制約による導入量限界)について科学的、定量的に評価し、再エネが最大限どこまで導入できるか見極めた。
次に、その結果を基に国益確保とS+3Eの視点から、再エネ、原子力、火力(脱炭素)の最適な電源ミックスを検討した。
2050年カーボンニュートラル達成に向けて
有志
政府は2050年カーボンニュートラルを宣言した。目標達成には、一定規模の原子力発電が不可欠であり、官民を挙げて直ちに取り組む必要があるにも関わらず、動きは今一つである。この八方塞がり状態を打破するため、各界へ向けて提言活動を進めることとした。是非ご一読ください。
【提言】2050年電力ベストミックスの初期目標は再エネ・原子力・火力各1/3とせよ
2020年10月の菅総理による2050年カーボンニュートラル(CN)宣言を受けて公表された経産省の「グリーン成長戦略」(G成長戦略)では2050年電力ベストミックス(BM)の参考値として【再エネ:50~60%、水素・アンモニア発電:10%、原子力・火力(CCUS):30~40%】を提示している。しかし、現時点では実用化が全く不透明な新技術があたかも達成されたかの如く独り歩きした数値であり、前のめりし過ぎである。
そこで、開発初期は再エネ、原子力、火力それぞれ1/3ずつの機会均等とし、イノベーションを推進しながら3年毎に数値目標に照らして評価し、達成度に応じて数値を増減し、場合によっては複数のシナリオも検討しながら2050年の電力BMを構築していく戦略的なアプローチを提言するものである。
【提言】次世代軽水炉(次世代PWR・次世代BWR)の新増設・リプレース
2050年カーボンニュートラルは電力の安定供給と経済性向上の同時達成が必要である。そのためには2050年までに福島第一原子力発電所事故の教訓を反映した次世代軽水炉を30GW規模で新増設・リプレースする必要がある。原子力産業界および学会では、近い将来の新設に備えて次世代軽水炉の基本設計の検討が進められている。その状況を踏まえて、2050年までに約30GWの次世代軽水炉を建設するためのマスタースケジュールを提案する。原子力を取り巻く環境は極めて厳しく、計画実現のために解決すべき課題が山積しており、猶予は無い。
【提言】原子力発電所の40年運転制限を廃止せよ
電力の安定供給と脱炭素化達成に、一定規模の原子力発電が必要であるが、我が国では、法律により運転期間が40年に制限されている。科学的・技術的根拠のない運転制限を廃止し、40年超運転に道を拓く法改正を提言する。
2. これまでの提言
海洋放出の早期実現にはマスメディアの協力が必要
元原子力発電環境整備機構(NUMO)理事(河田東海夫)
- 福島第一原発事故から9年、トリチウムを含む処理水がタンクにたまり続けている。
- 国の委員会などから海洋放出が勧められているが、風評被害を恐れ実現していない。その大きな要因の一つが、誤った情報の流布であり、このままだとタンクに処理水がたまり続け、永続的風評被害の源泉となる。
- 新型コロナウィルスに関し、マスメディアは一斉に冷静な対応を国民に訴え買い占め騒動などで一定の効果を示している。
- マスメディアは、トリチウムを含む処理水を早期に除去し、風評被害からの脱却に力を貸してほしい。国の力では限界があるものでもマスメディアにはできることがある。
- 原発推進か脱原発かの問題ではなく、福島だけの問題でもない。正しい情報を発信し、福島の問題は日本国民の問題として風評被害の要因を短期間に除去するのにマスメディアの協力が必要である。
(詳細はこちらから)

海洋放出を前面に押す小委員会報告と政府の苦悩
原発事故から9年目を迎える。廃炉事業の安全・円滑な遂行の大きな妨害要因である処理水問題の早期解決の重要性は、国際原子力機関(IAEA)の現地調査団などにより早くから指摘されてきた。それが未だ解決されないまま、巨大タンクが増殖し続け、サイトを埋め尽くしつつある。そうした現状は、新型ウィルス問題とは性格が異なり、国民各自が自覚できるかどうかは別として、一つの国家的危機であり、解決を先延ばしすればするほど事態は悪化する。海洋放出が処理水問題解決の唯一の現実解であることは、2代の原子力規制委員長がたびたび指摘してきた通りであり、この問題を3年にわたり検討してきた小委員会の報告書(2月10日公表)も、実質的に海洋放出を押す勧告内容となった。2月末に来日したIAEAのグロッシー新事務局長も「国際慣例に沿っている」として放出を支持した。海洋放出の早期実現に向け具体行動を起こすべきべき時が到来している。

海洋放出を阻む唯一の障害要因は、言うまでもなく漁業関係者の風評被害に対する恐れである。福島県漁連の野崎会長は、2月19日に開かれた経産省の廃炉・汚染水対策福島評議会で、小委員会報告では海洋放出の食品影響などの説明が不足しているとし、「現状では環境へのトリチウム放出には反対との立場をとらざるを得ない」との意見表明を行い、提示された風評被害対策についても「具体的施策が見えず納得できない」と反発した。処理水の処分方式の最終決定は政府に委ねられるが、漁業関係者の不安解消の決定打を見出だせない政府の苦悩はもうしばらく続きそうだ。果たして、こうした状況を打開する方策はあるのだろうか?
海洋放出断念では福島県民は幸せになれない
海洋放出の大きなメリットは、膨大な数の巨大タンクの解体撤去を最も早く開始できることである。巨大タンク群は今や福島の不幸の視覚的な象徴とも言え、これらを一日も早く無くすることは、福島県民のメンタルな復興促進の面からも、また東電の廃炉作業への精力傾注の面からも、ぜひとも達成しなければならない喫緊の課題であり、それを可能とするのが海洋放出なのである。確かに、海洋放出は漁業関係者への風評被害を招くが、放出が終わってしまえば、風評を起こす原因が無くなる。漁業関係者にとっても「後顧の憂い」をなくせる選択肢であり、その点は無視しがたいメリットとなろう。海洋放出は、時間的にも最も短期間で問題解決できる選択肢であり、処分に要する期間が短ければ短いほど風評被害の継続期間を短縮できる。
一方海洋放出を断念した場合の行き着き先はタンク保管の長期継続でしかない。そうなれば、タンクの継続的増設も避けられず、地元との再折衝や増え続けるタンクにおける処理水管理の負担増大で、本来の廃炉事業の円滑な推進の足枷要因がさらに膨れる。結果的に計画遅延や小トラブル増加で、「いつまでたっても事故後の後始末が進まない福島」、「不幸な福島」といった暗いイメージがさらに長期的に定着してしまうリスクが高い。膨大な数の巨大タンク存続は、脱原発団体による格好の不安アピール材料であり、将来の風評被害の火種温存でもある。その時限爆弾的リスクからいつまでも解放されない状況を固定化してしまうのは漁業関係者にとっても決して望ましいことではなかろう。
十分な安全性に加え、これらのことを総合的に思料すれば、「徹底的な風評被害対策(被害補償を含む)を講じた上での早期海洋放出」が、究極的には福島県民や漁業関係者にとっても最も望ましい解になるはずだ。こうしたことは、おそらく漁業関係者自身も内心では理解していることであろう。
度を過ぎた不安情報発信で世の中を乱すのは社会的犯罪だ
漁業関係者が心配する風評被害は、放射能に対する人々の漠然とした不安が社会にもたらす実害であり、彼らはその直接の被害者である。処理水問題の早期解決は、福島の復興にとって今や喫緊の課題であり、その合理的解決が風評によって阻まれている現状は、福島県民のみならず日本国民にとっても由々しき事態である。その意味で福島県民や日本国民全体が風評の被害者といえよう。
そうした被害の発生原因である風評は、決して自然発生するものではなく、過剰な不安情報の発信者とそれを拡散するものとがいる。原子力や放射線に関する安全問題は一般人には科学的正確性の判断が難しいため、個人がSNSなどで不安情報を発信し、それが拡散して風評を生むことはある程度止むを得ない。しかし現実には、脱原発を目指す個人や団体が故意に住民や国民の不安を煽るためにそうした情報発信をするケースが少なくない。筆者は、人々には様々な価値観があるので脱原発運動自体はそれなりに社会的存在意義があると思う(ただし、筆者個人は脱原発には賛同しない)。しかしあまりにも実態からかけ離れた不安情報の発信であり、かつそれが社会に実害をもたらす場合には、それはもはや社会的犯罪といわざるを得ないだろう。
風評の発生源と拡散(下記(注)関連)

トリチウムの環境放出に関する安全性については、小委員会の場で、仮にタンクに貯蔵中の全量相当のトリチウムを毎年放出し続けた場合でも、公衆の被ばくは日本人の自然界からの年間被ばくの千分の一以下にしかならないとの試算結果が示された。安全上全く問題ないレベルであることがあらためて国民に明示されたのである。残念ながら巷間では脱原発支援者によるトリチウムの危険性を過剰に煽る言説がネット上などで広く拡散している。そうした情報発信の急先鋒は、北海道がんセンター名誉院長の西尾正道氏である。彼が主張するトリチウムの内部被ばく脅威論や、原発周辺での健康被害多発論は、科学者倫理にもとる事実の歪曲や巧妙な情報操作に満ちている。彼の主張の欺瞞性や非倫理性は別稿で詳述するが(注)、それらは脱原発支援者には広く共有されており、小委員会が2018年夏に開催した公聴会でもそうした意見が出た。彼の肩書が立派だけに、影響力が大きい。
脱原発を標榜する大手メディアは、西尾氏の主張に共感を示す報道傾向がみられ、その具体例として昨年9月23日の毎日新聞のコラム「風知草」や9月25日のテレビ朝日「羽島慎一モーニングショー」を挙げることが出来る。無節操に西尾氏の歪んだ情報の肩を持つメディアは、自覚しているか否かは別にして立派な風評拡散役を務めている。
マスメディアは情報の調査・収集のプロである。その気になって調べれば西尾氏の言説が過激なアジテーションに過ぎないことは容易にわかるはずだ。新聞のコラムやテレビのワイドショーなどは、一般大衆への影響力が絶大で、政府広報など比べようもない。それだけに、社会が問題を抱えたときには、歪んだ情報の肩を持つことで風評を助長することにならないよう、ぜひ心がけていただきたいものだ。
誰もが風評抑止を議論することを避ける不思議な言論空間
小委員会報告が提示する風評被害対策では、政府の「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」や東電の「風評被害に対する行動計画」と被害補填を含む経済政策などが掲げられている。それらがいずれも重要な施策であることには異論はない。しかし現実には、いくら丁寧に正確な情報普及に努めても、一旦トリチウムの環境放出となれば、間違いなく脱原発の活動家や韓国などが放出に反対してトリチウムの危険性を大きく騒ぎ立てるのは目に見えている。そうなれば、地道な情報普及活動の成果など一挙に吹き飛び、甚大な風評被害を招くことは想像に難くない。地元筋からは、漁連の本当の心配はその点にあるとの見立ても伝わってくる。しかし、小委員会のみならず、大手メディアを含む公開の言論空間で、風評の直接原因である脱原発派の過激言動を抑えようとの主張は全く出てこない。今日の日本では脱原発派の言動を公の場で正面から批判することをタブー視化する風潮が定着してしまっているのである。処理水問題の早期解決が国民全体にとっても重要課題となっている状況下で、これは極めて面妖な風潮といわざるを得ない。
脱原発の活動家がトリチウムの危険性を煽るのは、一部にそれを純粋に信じている人もいようが、現実には脱原発運動の戦術としてそうする側面が強い。福島の不幸な状況や、国と地元との亀裂がいつまでも解消できない状況は、脱原発運動の正当性を訴える最も効果的なツールなのであり、それらが解消されては困るのである。脱原発運動は、福島県民に寄り添うふりをしつつ、実は自分たちの運動用ツールとして福島の不幸を弄んでいるのである。
新型ウィルス問題では、メディアは一斉に風評抑制キャンペーン
新型コロナウィルスの感染が世界的に拡大する中、2月初旬の中央各紙は一斉に社説等で冷静な対応の重要性を訴えた。
- 「デマ、差別を生まない情報発信を」(2月8日毎日新聞)
- 「合理的な対策を着実に」(2月5日朝日新聞)
- 「正確な情報で冷静な対応を」(2月8日読売新聞)
- 「デマを排し正しい情報を」(2月5日産経新聞)
毎日の社説を例にとれば、「デマや不正確な情報は、社会の不安をあおり、混乱を招く」とし、「そんな事態を避けるには、公的機関や専門機関による正しい情報のこまめな発信が欠かせない」、「事実でなければ、即座に修正していくことも重要」と訴えている。最近は消費者の買いだめ騒動が起きているが、それでも今日のレベルで収まっているのは、マスメディアが消費者に冷静な対応を促す報道をすることで事態さらなる悪化防止に協力しているからである。危機的状況下での過剰反応による社会不安や混乱の抑制に協力するのは、天下の公器であるマスメディアの当然の役目といえよう。
処理水問題でもメディアが風評抑制キャンペーンを始める時だ
処理水問題の現況は、新型コロナウィルス問題のように国民個々人が自覚することは難しいが、一つの国家的危機であることには違いはない。その解決を阻んでいるのが風評被害であるが、そもそも風評被害の大小は、その時々の社会情勢が生み出す風向きに大きく左右される。その風向きには必ず時の政府への不信感が一定量混じり込むので、政府側の情報発信や働きかけは原理的に大きな効力を発揮しえない。そうした風向きを変えられるのは、マスメディアの力でしかない。今こそ、処理水問題についてもマスメディアが風評とその被害の抑制に向けて立ち上がるべき時だ。
原子力利用の是非については、メディア間でも意見が割れているのは事実だが、ここではその問題は一旦横に置き、「今そこにある危機」と福島県民の不幸要因の早期解消に向けて、全国民に協力を呼びかけようではないか。新型コロナウィルス問題で、風評の抑制を訴え、生活用品の買いだめを諫める様に、処理水問題についても、風評の抑制を訴え、福島産海産物の購買忌避を諫めることで、全国民による福島漁業関係者支援を盛り上げようではないか。
政府には、現在流布されている過激なトリチウム危険論は悪質な風評であるとの明快なメッセージを国民向けに発信することを求めたい。また、放射線防護や放射線生物学の専門家集団には、過激な危険論を正し、想定される条件下でのトリチウム放出では健康影響を生ずる恐れはないとのステートメントを公表することで、政府のメッセージを補強していただきたい。韓国の悪意に満ちた言動も風評被害源であり、政府には今まで以上のしっかりした対応をお願いしたい。
最近某紙で「感染防止、社会の『連帯』で」との記事を読んだ。処理水問題でも「風評被害防止、社会の『連帯』で」との「風向き」をマスメディアの力でぜひ形成していただきたい。
以上述べたようなことが実現しても、風評被害が完全になくなることはない。しかしそれでも、いざ海洋放出という場合に予想される反対派の過激な言動には一定の抑止効果が期待できよう。さらに国民の漁業者への支援姿勢が見えてくれば、彼らの無力感は緩和されよう。そうなれば漁業関係者は、一定量の痛みは覚悟のうえで、処理水問題の早期解決、すなわち海洋放出に前向きに応じてくれるものと筆者は確信する。2017年夏、福島を訪れたカナダ・マクマスター大学の大学院生一行は、福島県漁連の若手漁師7人との意見交換を行った。学生を引率した教授によれば、漁師の皆さんはトリチウム問題についてはとてもよく勉強しており、考え方も大変合理的であったという。
(蛇足)海中放出管方式について
本文中に述べたように、処分に要する期間が短ければ短いほど風評被害の継続期間を短縮できる。しかも、全量のトリチウムを1年で海洋放出しても被ばく線量的には全く問題ないこともわかっている。したがって、海洋放出にあたっては、トリチウムの年間放出量に無意味な上限を設けることはぜひ避けていただき、処理水の再浄化の能力を極力高めることで、できるだけ短期間での放出を目指していただきたい。小委員会の検討では、原子力発電所の通常の排水口方式がイメージされているが、個人的には再処理工場のような沖合での海中放出管方式のほうが望ましいのではないかと考える。漁場との関係でどんな問題があるかは承知していないが、海流でより早く放出地点から遠くに拡散するメリットがある。感覚的にもトリチウムがそこにいつまでも留まるとの心配は無用ということが理解されやすい。こうしたオプションも漁業関係者との相談のテーブルに乗せることを勧めたい。
我が国の原子力平和利用における
プルトニウム利用に係る緊急アピール
我が国の原子力平和利用における
プルトニウム利用に係る緊急アピール(要旨)
「日本のプルトニウム国際懸念論」は空論である
❐ 緊急アピールの背景・目的~「国際懸念論」へ強く反論する!
我が国が保有するプルトニウムの核兵器転用はあり得ない!
~ 政府は再処理事業への足枷を外し、原発再稼働加速とプルサーマル利用拡大に向けて積極的に取り組むべき!~
日米原子力協定は 2018 年 7 月に自動延長されましたが、この協定延長を巡り、「日本保有のプルトニウム 47 トンは原爆 6000 発分」「日本のプルトニウム保有に国際社会で懸念が広まっている」といった報道が溢れています。日本のプルトニウムに対するこのような国際懸念論は、日米の再処理反対勢力が我が 国の再処理事業を封じ込めるために拡散させた空論であり座視できません。
❐ 我が国保有のプルトニウムの核兵器転用はあり得ません!
我が国が保有する軽水炉由来プルトニウムは核兵器用としては技術的に全く適さず、このような軽水炉由来プルトニュウムを核兵器に用いている国はありません。又、我が国は原子力基本法で原子力を平和利用に限定することを明確 に定め、核拡散防止条約を批准し国際原子力機関の厳格な査察・保障措置を忠実に受け入れ模範国と評価されています。我が国は唯一の被爆国として国民が核兵器に対して強い忌避感情を抱いていることもあり日本が核兵器開発に走ることはあり得ません。
❐ 再処理をプルトニウム保有量で止めるのは極めて不合理です!
政府は、第 5 次エネルギー基本計画にプルトニウム保有量の削減方針を盛り込み、原子力委員会は「我が国におけるプルトニウム利用の基本的考え方」を改 訂し、再処理事業への厳しい足枷規制を設けました。再処理が円滑に進められなければ、使用済燃料保管容量の余裕が少ない幾つかの原発では運転停止を余 儀なくされる可能性が高まり、パリ協定への対応上必要とされる、2030 年における原子力発電比率 20~22%の目標達成の大きな妨害要因となることが憂慮されます。
以上の状況に鑑み、我が国を貶める「国際懸念論」に反論し、再処理に対する足枷規制で憂慮される諸状況に照らし緊急アピールを発信するものです。