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倫理規程

前文・憲章・行動の手引

日本原子力学会倫理規程
                 2021年5月27日 第8回理事会承認

 日本原子力学会倫理規程は,日本原子力学会会員が,研究,開発,利用,教育等のさまざまな活動を実施するにあたり,会員一人ひとりが持つべき心構えと言行の規範を書き示したものである。会員は,原子力の平和利用と安全確保の重要性を認識し,その業務に携わることに誇りと使命感を持ち,その責務を果たすため,常に本規程を自分の言葉に置きなおし,自ら考え,自律ある行動をとる。
 現代は,人類の生存の質の向上と地球環境の保全が課題となっており,さまざまな技術が開発され進歩している。しかし,どのような技術にも必ず正の側面と負の側面が存在している。会員は,自らの携わる技術が,正の側面によってより社会貢献するために,東京電力福島第一原子力発電所事故が長期にわたって環境や社会に負の影響をもたらしていることや,廃棄物,核セキュリティ等の問題があることを絶えず思い起こし,技術だけでは解決できない問題があることも強く認識する。もって常に現状に慢心せず,広く学ぶ姿勢と俯瞰的な視野を持ち,チャレンジ精神と不断の努力をもって,より高い安全性を追求し,豊かで安心できる社会の実現に向けて,積極的に行動する。
 本規程は,日本原子力学会の個人および組織の会員を対象としているが,原子力の平和利用と安全確保のために,本規程がより多くの原子力関係者に共有され,本規程に則った行動がとられることが必要である。このため,我々会員は,本規程の精神を理解し,原子力に関わるすべての個人および組織が本規程に示した精神と行動規範を実践できることを目指し率先垂範する。さらに,日本原子力学会自身も,会員の支援を通じて使命を果たす。


憲章
1.行動原理
会員は,人類の生存の質の向上および地球環境の保全に貢献することを責務と認識し,行動する。


2.公衆優先原則・持続性原則
会員は,公衆の安全をすべてに優先させて原子力および放射線の平和利用の発展に積極的に取り組む。


3.真実性原則
会員は,最新の知見を積極的に追究するとともに,常に事実を尊重し,自らの意思をもって判断し行動する。


4.誠実性原則・正直性原則
会員は,法令や社会の規範を遵守し,自らの業務を誠実に遂行してその責務を果たすとともに,社会からの負託と社会に対する説明責任を強く自覚して,社会の信頼を得るように努める。


5.専門職原則
会員は,原子力の専門家として誇りを持ち,携わる技術の影響を深く認識して研鑽に励む。また,その成果を積極的に社会に発信し,かつ交流して技術の発展に努めるとともに,人材の育成と活性化に取り組む。


6.有能性原則
会員は,原子力が総合的な技術を要することを常に意識し,自らの専門能力に対してその限界を謙虚に認識するとともに,自らの専門分野以外の分野についても理解を深め,常に協調の精神で臨む。


7.組織文化の醸成
会員は,所属する組織の個人が本規程を尊重して行動できる組織文化の醸成に取り組む。



行動の手引
 行動の手引は,本規程の前文および憲章に基づき,日本原子力学会会員の活動における心構えと言行の規範について書き示したものである。我々はここに記述した条項すべてを同時に守りえない場面に遭遇することも認識している。そのような状況においては,一つの条項の遵守だけにこだわり,より大切な条項を無視しないよう注意することが肝要である。多くの条項を教条主義的に信じるのではなく,倫理的によりよい行動を探索し,実行することが重要である。また,個々の会員の倫理観は細部に至るまで完全に一致しているわけではなく,ある程度の多様性は許容されるものである。また,規範は時代とともに変化することも念頭に置くことが重要である。


1.行動原理
1-1 原子力利用の基本方針
会員は,人類の生存の質の向上や地球環境の保全に貢献することに誇りと使命感を持ち,専門性と自律ある行動により原子力利用の適切な発展を図る。

1-2 不断の努力と可能性へのチャレンジ
会員は,研究,開発,利用,教育等における諸課題の解決のために不断の努力を払うとともに,常に更なる向上を目指し,俯瞰的な視野を持って,新たな可能性にチャレンジする。

1-3 リーダーシップの発揮
会員は,一人ひとりが自らの責任や役割を明確にし,積極的な態度および行動を示すことにより,それぞれの階層でリーダーシップを発揮する。

1-4 技術者の行動による信頼
会員は,技術に対する社会からの信頼は,不適切な行動により瞬時に失われることを認識したうえで,技術を扱う者として,社会の理解を得ることのできる行動を積み重ねていく。

2.公衆優先原則・持続性原則
2-1 原子力利用と安全確保の両立
会員は,過去に起きた原子力をはじめとするさまざまな事故や災害を絶えず思い起こし,携わる技術の潜在的な危険性や,どのような安全策を講じてもリスクが残ることを強く認識する。その上で,常により高い安全性を追求し,その確保に努める。

2-2 平和利用への限定
会員は,平和目的に限定して原子力を利用し,自らの尊厳と名誉に基づき,核兵器の研究・開発・製造・取得・使用に一切参加しない。加えて,自らの行動が結果として核拡散に加担することがないように,接触する団体や情報管理等に最大限の注意を払う。

2-3 核セキュリティの確保
会員は,核物質,放射性物質,原子力施設等が,テロリズムに用いられる恐れや妨害破壊行為の標的となる恐れがあることを認識し,核セキュリティの確保に努める。

2-4 地球環境保全との調和
会員は,原子力発電は炭酸ガス排出の低減などで環境問題の解決の一助となりうる一方,放射性廃棄物の管理,処理・処分に関わる長期にわたる課題があることを認識し,この解決に努め,持続可能な社会の構築に貢献する。

2-5 労働安全の確保
会員は,常に原子力施設で働く人々の安全確保と災害の防止に努める。

2-6 経済性優先への戒め
会員は,原子力施設の設計・建設・運転・保守等の管理にあたり,経済性を安全性に優先させない。

2-7 効率優先への戒め
会員は,原子力施設において,安全性の十分な確認を行うことなく設備や作業の効率化を行わない。

2-8 規制適合が目的化することへの戒め
会員は,原子力の研究,開発,利用,教育等において,法令・規則への適合のみで満足することなく,専門家として,更なる安全性向上を目指して弛まぬ努力をする。

2-9 技術成熟の過信への戒め
会員は,原子力の安全性を過信することなく,今後とも新たな技術的問題が出ることがありうるとして,緊張感を持って警戒心を維持するとともに,事前の備えを尽くす。

3.真実性原則
会員は,最新の知見を積極的に追究するとともに,常に事実を尊重し,自らの意思をもって判断し行動する。
3-1 最新知見の追究
会員は,広く国内外から情報の収集に努め,最新の知見を追究する。特に安全にかかる情報は,公衆や環境に大きな影響を与える可能性があることから慎重に確認する。

3-2 事実の尊重
会員は,事実を尊重し,科学的に明白な間違いに対しては毅然とした態度でその間違いを指摘し,是正するよう働きかける。

3-3 自らの判断に基づく行動
会員は,業務指示や前例などの与えられた情報を無批判に受け入れることなく,誤った集団思考に陥ることのないよう,常に正確な情報の収集に努める。その上で,状況を俯瞰し,関連する専門能力と経験により自ら判断し,行動する。

4.誠実性原則・正直性原則
4-1 誠実な行動
会員は,誠実に業務を実施する。その際,他の団体または個人に不適切な利益若しくは損害をもたらす恐れのある場合,ないしは社会から疑念を持たれる恐れのある場合は,雇用者あるいは依頼者,状況によっては組織内外の第三者に説明し,誠実な業務が実施できるよう働きかける。もって,社会に対して説明できない行動はとらない。

4-2 契約に関する注意
会員は,法令や社会の規範に違反する恐れのある契約を締結してはならない。また,利益相反や不適切な利益の恐れのある業務については,雇用者または依頼者にその事実を開示するとともに,第三者に対しても明確な説明ができる場合を除き,その業務に従事しない。

4-3 ルール遵守と形骸化の防止
会員は,定められたルールを誠実に遵守する。その一方で,常にルールの妥当性確認や改定に努め,ルールと実態との乖離によって起こるルールの形骸化を防止する。

4-4 社会との調和
会員は,常に社会からの声に幅広く耳を傾け,双方向のコミュニケーションを心がけて社会との調和に努める。

4-5 社会からの負託
会員は,原子力技術を扱う組織または個人として,社会から一種の負託を受けており,特別の責任・倫理観が求められていることを常に念頭に行動する。

4-6 会員の安心への戒めと信頼のための行動
会員は,安全の状態を過信し,自らがそのことで安心してはならない。公衆の信頼は,原子力技術を扱う者がその危険性を十分に認識し,緊張感を保って行動すること,他の意見・批判をよく聴くこと等,不断の努力によって得られるものと認識する。

4-7 情報の公開
会員は,原子力の安全にかかる情報について,積極的な公開に努める。特に公衆の安全上必要不可欠な情報については,その情報を有する組織または個人にその情報を速やかに公開するように働きかけ,公衆の安全確保を優先させる。

4-8 隠蔽・改ざんの戒めと非公開情報の取り扱い
会員は,情報の隠蔽・改ざんは社会との良好な関係を破壊することを認識し,適切かつ積極的に公開するように努める。ただし,核不拡散や核物質防護等,公開することが不適切と判断されるものについては,公開できない理由を説明する。

4-9 説明責任
会員は,自らの活動の責務を果たすとともに,その目的・方法・成果等について,常に相手の立場に立って情報を発信し,社会からの理解が得られるよう,説明責任を果たす。

5. 専門職原則
5-1 専門分野等の研鑚と協調
会員は,未知の領域の探求など,自己研鑚に励むとともに,関連分野の理解も深め,これを尊重して業務の遂行にあたり,常に協調を図る。もって,得られる経験や知見により,原子力に関わる学術および技術の改善と発展に貢献する。

5-2 専門能力の維持・向上
会員は,求められる専門能力や倫理的行動が,時代とともに変化することを自覚し,常に社会の要請に応える能力を備えるよう努める。

5-3 新知識の取得
会員は,日々進歩する学術や技術のほか,関係する法令・規則を学び,専門能力を磨く。現在では通用しない知識や慣習などをもって専門家として行動することは慎む。

5-4 経験からの学習と共有・継承
会員は,成功・失敗を問わず,過去の経験や他国ないし他分野の経験からも教訓を学びとる。もって,事故・故障の再発防止や類似事態の発生防止に努めるとともに,必要な情報の共有と,次世代への継承にも努める。

5-5 関係者の専門能力向上と環境整備
会員は,自己研鑚のみならず,専門能力を有すべき周囲の者,特に監督下にある者への知識・技術の伝達や研鑽の機会を与えることで,能力向上のための環境整備に努める。

5-6 社会への情報発信と対話の実践
会員は,公衆が原子力の安全や技術利用に関する問題について自ら考えて判断できるよう,専門知識を分かりやすい形で提供することに努める。また,原子力に関わる諸問題について真摯に対話し,社会的課題の解決に寄与することを目指す。

5-7 国際社会への貢献
我が国は原子力平和利用に豊富な実績がある一方,原子力災害の当事国である。会員は,この経験から知見・教訓を深く学びとり,我が国のみならず世界の原子力の安全と技術の向上に貢献する。

5-8 会員間の協力による困難の克服
会員は,個人では解決が難しい困難な状況や倫理的葛藤に直面したとき,所属組織の構成員や他組織の会員との適切な協力を通じ,その困難を克服するよう努める。また,他の会員が協力を求めているときには,積極的に応答する。

6.有能性原則
6-1 分野横断の取組みの必要性
会員は,原子力が様々な専門分野を含む総合科学技術であることを十分に認識し,原子力安全を確保するためには専門分野同士の境界に隙間ができないように総合的な視点から取り組むように努める。

6-2 自己能力の把握
会員は,遂行しようとしている業務が自らの能力不足のために安全を損なう恐れがないか,常に謙虚に自問する。また,自己の能力を把握するために,他者による評価を積極的に受けるように努める。

6-3 俯瞰的な視点を有する人材の育成
会員は,所属する組織において,専門的知識だけでなく,俯瞰的な視点を有する人材の育成とそのための環境整備に努める。

7.組織文化の醸成
7-1 組織の中の個人のとるべき行動の基本原則
会員は,所属する組織が,倫理,安全等に関わる問題を,性,年齢,所属,職位,人種,思想・宗教等に関わることなく自由に話し合い,行動できる組織文化となるよう,その醸成に努める。組織の運営に責任を有する会員は,特に率先垂範して行動する。

7-2 課題解決のための行動
会員は,それぞれの責任と権限に応じてその役割の重さを自覚し,安全性向上に最大限の努力を払う。安全性の損なわれた状態を自らの権限で改善できない場合には,権限を有する者を含む利害関係者へ働きかけ,改善されるよう努める。

7-3 環境整備の重要性と継続的改善
組織の運営に責任を有する会員は,本規程の意義と重要性を認識し,組織に所属する個人(会員および非会員)に対して倫理的な行動を促すとともに,そのための環境を整える。また,倫理的な行動を妨げる組織的要因がないかどうかを絶えず注視し,不十分なときは組織・体制も含めて組織文化の変革に取り組み,環境の継続的な改善・向上に努める。

7-4 組織内における申し出に対する適切な運用
組織の運営に責任を有する会員は,組織の構成員からの原子力安全や組織運営等に関わる申し出に対し,組織として適切に対応するために,申し出をした者が不利益を被ることのないような配慮,申し出の内容に対する迅速な調査,情報公開等の適切な手順を定めて,運用する。

7-5 労働環境等の確保
組織の運営に責任を有する会員は,安全確保のために必要な資源を確保し,活動の基盤となる労働環境等を含めた環境整備に努める。

 上記の印刷用(リンク

 参考:倫理規程を1枚に収めたものはこちら

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