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倫理規程

前文・憲章・行動の手引

原子力学会倫理規程
2009年11月26日第505回理事会改訂承認

我々日本原子力学会会員は,原子力技術がエネルギーの安定供給や放射線の利用など人類に大きな価値をもたらすが,一方で大きな災禍をも招く可能性があることを深く認識する。その上に立って原子力の平和利用に携わることができる誇りと使命感を抱き,人類の福祉と持続的発展ならびに地域と地球の環境保全への貢献を強く希求する。

我々は,原子力の研究,開発,利用および教育に取り組むにあたり,公開の原則のもとに,自ら知識・技能の研鑚を積み,自己の職務と行為に誇りと責任を持つとともに常に自らを省み,社会との調和を図るよう努め,法令や規範を遵守し,安全を確保する。

我々は,現代が,科学技術を社会に結び付けている企業ならびに行政,研究,教育等諸機関に,倫理的な活動,とりわけ説明責任を果たせる活動を求めている時代であると認識する。

これらの実践のため,我々は日本原子力学会倫理規程をここに制定する。

憲章
各章番号をクリックすると、対応する行動の手引を見ることができます。

1.会員は、原子力の平和利用に徹し、人類の直面する諸課題の解決に努める。
2.会員は、公衆の安全を全てに優先させてその職務を遂行し、自らの行動を通じて社会の信頼を得るよう努力する。
3.会員は、自らの専門能力の向上を図り、あわせて関係者の専門能力も向上するように努める。
4.会員は、自らの能力の把握に努め、その能力を超えた業務を行うことに起因して社会に重大な危害を及ぼすことがないよう行動する。
5.会員は、自らの有する情報の正しさを確認するよう心掛け、公開を旨とし説明責任を果たし、社会の信頼を得るように努める。
6.会員は、事実を尊重し、公平・公正な態度で自ら判断を下す。
7.会員は、一社会人として法令や社会の規範を遵守し、その範囲内で自らの業務に係る契約を誠実に履行する。
8.会員は、原子力業務に従事することに誇りを持ち、その業務の社会的な評価を高めるよう努力する。

行動の手引
2009年11月26日第505回理事会改訂承認

本倫理規程は日本原子力学会会員の専門活動における心構えと言行の規範について書き示したものである。我々会員はこれを自分自身の言葉に置き直して専門活動の道しるベとすることを宣言する。

我々を取り巻く環境は有限であり、かつ人類だけのものでないことから、会員は地域と地球の環境保全に対する最大限の配慮なしには人類の福祉と持続的発展は望めないとの認識に立って行動する。

日本原子力学会会員には個人会員(正会員、推薦会員、学生会員)のほか、企業や法人等の組織が対象となる賛助会員がいる。そのため本倫理規程には、個人として守るべきものばかりでなく、組織が守るべきものも含まれている。組織の構成員は組織の利益のみを優先させ、組織の責務を軽視する場合があるが、そうであってはならない。さらに個人個人の責任を果たすことなく組織の責務を果たすことはできないことを銘記する。また、賛助会員は、本倫理規程が遵守されるよう、率先して組織内の体制の整備に努める。

本倫理規程は会員の活動について定めたものであるが、非会員が生じさせる原子力分野におけるトラブルに対しても、原子力の専門家集団である我々会員は一定の責任を有することを自覚する。すなわち会員は、倫理能力を含めたすべての分野において責任ある役割を果たすことで、非会員も含めた原子力関係者の倫理を向上させるよう努める。

以下に記す条項は、前文と憲章で述べた規範を実現するため考えるべき事柄である。我々はここに記述した条項すべてを同時に守りえない場面に遭遇することも認識している。そのような状況において、一つの条項の遵守だけにこだわり、より大切な条項を無視しないよう注意することが肝要である。多くの条項を教条主義的に信じるのではなく、倫理的によりよい行動を探索し、実行することを誓う。

個々の会員の倫理観は細部に至るまで完全に一致しているわけではなく、またある程度の多様性は許容されるものである。しかしその多様性の幅についても明示していくよう、今後努力する。また、規範は時代とともに変化することも念頭に置き、我々は本倫理規程を見直していくことを約束する。

なお、1-1.から1-6.は憲章第1条関係、2-1.から2-10.は憲章第2条関係というように、それぞれが憲章の条文と対応しているので、憲章の条文と合わせて読んでいただきたい。

原子力利用の基本方針 (事例7)
1-1.原子力の平和利用は、原子力発電に関連するエネルギー分野だけでなく、医療・農業・工業等をはじめ放射線や同位体の利用技術に関連する分野まで、極めて多岐にわたるとともに、その研究、開発、利用計画等がグローバル化しており、本会の専門分野はこれらのすべてと関連している。会員は専門とする技術が人類に恩恵をもたらすとともに災禍を招く可能性があることを認識し、その技術を通じて人類の福祉に貢献するよう行動する。
平和利用への限定 (事例7)
1-2.原子力の利用は平和目的に限定する。会員は、自らの尊厳と名誉に基づき、核兵器の研究・開発・製造・取得・使用に一切参加しない。
核拡散への注意 (事例7)
1-3.会員は、原子力技術が核兵器の研究・開発・製造等に結びつく恐れがあることを認識し、自らの行動が結果として核拡散に寄与することがないように最大限の注意を払う。
核セキュリティ確保への注意
1-4.会員は,核物質や放射性物質がテロリズムに用いられる恐れがあることを認識し、核セキュリティの確保に十分な注意を払う。
諸課題解決への努力 (事例7)
1-5.人類の生存の質の向上のためには、経済の持続的発展とエネルギーの安定供給、環境の保全という課題をともに達成することが必要であるが、それに至る道筋は容易ではない。これに資するため、会員は原子力平和利用に具体的手だてを見出し活用するよう、不断の努力を積む。
地球環境保護との調和
1-6.会員は、原子力利用は炭酸ガス排出の低減などで環境問題の解決の一助となりうる一方、人類・地球への負の遺産となりうる放射性廃棄物処理・処分の課題があることを認識し、地球環境保護との調和を常に心がける。
安全確保の努力 (事例5) (事例9)
2-1.会員は、たとえ平和利用であっても、原子力技術の取り扱いを誤ると人類の安全を脅かす可能性があることをよく理解し、過去の原子力災禍がもたらした影響を今後の教訓として深く認識し、安全確保のため常に最大限の努力を払う。
労働安全の確保 (事例9)
2-2.会員は、常に原子力施設で働く人々の安全確保と設備の健全性に注意を払い、災害の防止に努める。
安全知識・技術の習得 (事例6) (事例9)
2-3.会員は、原子力・放射線に関連する事業、研究、諸作業において、法令・規則を遵守することはもちろん、安全を確保するために必要な専門知識・技術の向上に努める。
効率優先への戒め (事例8) (事例9)
2-4.会員は、原子力・放射線関連の施設において安全性の確認されていない効率化を行わない。効率化すなわち進歩と誤解して、安全性の十分な確認を行うことなく設備や作業を変更しない。
経済性優先への戒め (事例1) (事例8)
2-5.会員は、原子力・放射線関連の施設の設計・建設・運転・保守等の管理にあたり、目先の経済性を安全性に優先させない。 また、資金不足を理由に、安全性の低下した状態を放置しない。
安全性向上の努力 (事例5) (事例9)
2-6.会員は、運転管理する施設の安全性向上に努める。安全性の損なわれた状態を自らの権限で改善できない場合には、権限を有する者を含む利害関係者へ働きかけ、改善されるよう努める。 なお、原子力に関する諸活動において権限を有する者は、その職責の重さを自覚し、安全性向上に最大限の努力を払う。
慎重さの要求 (事例2) (事例4) (事例5) (事例9)
2-7.会員は、原子力・放射線関連の作業においては、作業中気付いた点を放置せず、また独断を避けて関係者に確認するなど、常に慎重に振る舞う。これまで国内外の原子力施設において作業の完了を急いだり、手順を粗略にして大事故に至った例を想起し、教訓とする。
技術成熟の過信への戒め (事例2)
2-8.会員は、原子力技術が成熟したとして安全性を過信しない。原子力開発の歴史はいまだ1世紀に満たない。今後とも新たな技術的問題が出ることがありうるとして、緊張感を持って新しい事象が発生することに対し警戒心を維持する。
安心できる社会の構築 (事例6)
2-9.会員は、技術に対する安心が、技術の安全性だけでなく、技術を扱う者に対する信頼感によって醸成されることを、よく理解し、安全の確保に努めるとともに、安心できる社会の構築に貢献する。
会員の安心への戒め (事例6)
2-10.会員は、安全を確保する努力を過信し、自らが安心してはならない。公衆の信頼は、原子力技術を扱う者がその危険性を十分に認識し、緊張感を保って行動すること、他の意見・批判をよく聴き、常に自ら考え行動することによって得られるものと認識する。
専門能力 (事例4) (事例7)
3-1.ここでいう専門能力とは、原子力に関する技術的能力だけでなく、倫理的行動をとるために必要な能力も含む。また求められる専門能力は、社会とともに変化することを自覚し、常に社会から要請される能力を備えるよう努める。
新知識の取得 (事例4)
3-2.会員は、専門家として常に自己研鑚に励み、関係する法令や規則、日々進歩する学問・技術を学び、自身の専門能力を磨く。古い定型的な知識や慣習などをもって専門家として行動することは慎む。
経験からの学習と技術の継承 (事例4) (事例5)
3-3.会員は、経験から教訓を学び取る。特に原子力施設の事故や故障の経験からは、できるだけ多くのことを学び、その再発防止および類似の事故や故障の未然防止に努めるとともに、情報を共有化し、技術・知見の継承に努める。
関係者の専門能力向上 (事例3) (事例4)
3-4.会員は、専門家として自らが研鑚に励むだけではなく、専門能力を有すべき周囲の者、特に自らの監督下にある者の専門能力向上にも努力し、機会を与えるよう努める。
正確な知識の獲得と伝達 (事例4)
3-5.会員は、常に正確な知識の獲得に努め、その知識を周囲の者に伝える。
能力向上のための環境整備 (事例3)
3-6.会員は、所属する組織において,自分自身や周囲の者の専門的知識や能力ばかりでなく、総合的な人材育成の観点も含めた能力向上ができる環境を整備し、維持に努める。
自己能力の把握 (事例4)
4-1.会員は、遂行しようとしている業務が自らの能力不足のため安全を損なう恐れがないか、常に謙虚に自問する。
所属組織の災害防止 (事例8) (事例9)
4-2.会員は、所属する組織が安全確保のため十分な努力を払っているかを見極め、必要に応じ構成員の意識改革を図り、また組織を変革するよう努める。
他の組織による監査 (事例9)
4-3.会員は、所属する組織が自ら安全確保のための努力を払っているのみならず、適切な監査を受け基準を満たしているかどうかを見極める。適切な監査体制がない場合にはそれを設けるよう努める。
公的資格に関する法令遵守 (事例9)
4-4.会員は、公的資格を必要とする業務を資格なしで行わず、無資格者に行わせない。
公的資格の尊重 (事例9)
4-5.会員は、公的資格取得に取り組むとともに、公的資格が取得しやすい環境整備に努める。
正確な情報の取得と確認 (事例7)
5-1.会員は、専門家として正しい情報を取得し、その正しさを自ら確認する。特に安全に係る情報は、公衆や環境に大きな影響を与える可能性があるので、その正確な取得と確認に入念な注意を払う。
情報の公開 (事例1) (事例7) (事例8)
5-2.原子力の安全に係る情報は、適切かつ積極的に公開する。会員は、情報の意図的隠蔽は社会との良好な関係を破壊することを認識し、たとえその情報が自分自身や所属する組織に不利であっても積極的な公開に努める。また、所属する組織が情報公開の手順を定めていない場合は、会員は、適切な公開が可能となるように手順の制定を組織に働きかける。
守秘義務と情報公開 (事例1) (事例7) (事例8)
5-3.会員は、公衆の安全上必要不可欠な情報については、所属する組織にその情報を速やかに公開するように働きかけるとともに、必要やむを得ない場合は、たとえ守秘義務違反に係る情報であってもその情報を開示する等により、公衆の安全の確保を優先させる。
非公開情報の取り扱い (事例10)
5-4.原子力に係る情報でも、核不拡散や核物質防護、公衆の安全・利益等のために公開することが不適切と判断されるものについては公開する必要はない。ただしその場合でも、会員はそのことを明示し、公開できない理由を説明する。
説明責任 (事例7)
5-5.会員は、専門活動の目的・方法・成果等について、常に相手の立場に立ち、専門家ではない周囲の者にも分かりやすく,タイムリーに説明する責任がある。
社会との調和 (事例8)
5-6.会員は、常に社会からの声にも幅広く耳を傾け、コミュニケーションを心がけると共に、専門知識を説明するときは、一方的な価値観を押し付けることのないよう、他者の意見を傾聴して社会との調和に努める。
組織の文化 (事例4)
5-7.会員は、所属する組織では構成員が倫理に関わる問題を自由に話し合える組織の文化になっているかを見極め、不十分なときは組織・体制も含め組織の文化(風土、雰囲気)を変革するよう努める。
科学的事実の尊重 (事例2)
6-1.会員は、事実を尊重し、科学的に明白な間違いに対しては毅然とした態度でその間違いを指摘し、是正するよう努める。
科学的事実の普及 (事例8)
6-2.会員は、専門知識を分かりやすい形で広め、公衆が理性的に自ら判断できるよう、情報を提供することに努める。
自らの判断 (事例7)
6-3.会員は、与えられた情報を無批判に受け入れることなく、広く国内外の情報収集に努めた上で、それに関連する専門能力により自ら判断する。
誠実な行動 (事例10)
7-1.会員は、雇用者の代理人あるいは依頼者の受託者として業務に従事する場合、雇用者の代理人あるいは依頼者の受託者として、誠実に業務を実施する。その結果、他の団体又は自らを含む個人に利益をもたらす恐れのある場合は、事前に雇用者あるいは依頼者の了承を得る。
報酬等の正当性 (事例10)
7-2.会員は、業務にあたりリベート等を受け取らない。業務に対する報酬等は常にその正当性を他者に説明できることが必要である。
組織の私的利用 (事例7)
7-3.会員は、勤務時間内に本務以外の業務を行うことも含め、所属する組織の了承・許可なく、組織に帰属する人的・物的・知的資源等の財産権を侵さない。
利害関係の相反の回避 (事例10)
7-4.会員は、雇用者の代理人あるいは依頼者の受託者として業務を行う際、利害関係の相反の恐れのある業務については、雇用者又は依頼者にその事実を開示するとともに、第三者に対しても明確な説明ができる場合を除き、その業務に従事しない。
ルール遵守と形骸化の防止 (事例6)
7-5.会員は法令・規則等(以下ルール)を誠実に遵守するとともに常にルールの妥当性確認や改定に努め、絶えざる研修等によってルール遵守の精紳を維持し、各種ルールの規定内容と職務実態との乖離によって起こるルールの形骸化を防止する。
契約に関する注意 (事例1) (事例7)
7-6.会員は、よき社会人であるためには契約を尊重しなければならないこと、法律に違反する恐れのあるような契約は締結すべきでないことを銘記する。
可能性へのチャレンジ
8-1.会員は、原子力・放射線技術が経済の持続的発展、エネルギー安定供給、及び地球環境保全に貢献していることについて誇りと理想を持ち、その英知と努力によって更なる原子力・放射線分野の適切な発展・拡大を図るとともに、国際的な視野を持って新たな可能性にチャレンジするよう努める。
指導者の規範 (事例8) (事例9)
8-2.組織の中で指導的立場にある者は、組織内の模範となるよう、業務上の責任と業務にかかる説明責任を十分認識して行動する。また組織内における不正行為・不正行為の見過ごしなどの不作為については、自ら敢然としてこれを防止する。
専門分野等の研鑚と協調 (事例3)
8-3.会員は、専門とする分野について未知の領域の探求などチャレンジ精神を発揮し、自己研鑚に励むとともに、関連する専門分野について理解を深め、これを尊重し、業務の遂行にあたり常に協調の精神で臨む。 会員は、業務の実施により得られる経験や知見を、学術の発展に貢献できるよう常に心がける。
社会からの付託 (事例1) (事例4)
8-4.会員は、原子力という技術を扱う集団・技術者として、一般社会から一種の付託を受けている。それは、一般社会との無言の契約が成立していることであり、その契約のもとに、会員に特別の責任・倫理観を求めていることを常に念頭に置き、行動しなければならない。

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