1. 実施概要
エネルギー問題について全世界的に2050年カーボンニュートラル達成が重要課題として議論されてきましたが、2021年初頭より世界同時多発的にエネルギー価格が上昇していた折、プーチン露大統領のウクライナ侵略という狂気の蛮行によりエネルギー資源を取り巻く不安定な状況が一層加速し、世界中の産業界や市民生活に重大な影響を及ぼしています。
欧米はエネルギー危機の渦中で脱炭素政策とエネルギーの自立化政策の両立性に苦悩しつつも、「経済安全保障とエネルギー安全保障の同時強化」に舵を切りました。この様な状況下、各国は持続的なエネルギー安定確保を最重要課題と捉えて資源の確保とナショナリズムが先鋭化しています。資源小国の我が国はエネルギー安全保障の強化を最優先課題と捉え、このためには原子力発電の最大限の利活用へ機敏に政策転換することが短期及び中長期的観点からも一つの解であり、国益に叶うものと考えます。
滝波議員には急遽来賓頂き、わが国のエネルギー政策、特に原子力に対するしっかりした政策を今年中に議論する旨、力強く挨拶して頂きました。 今回のシンポジウムではウクライナ危機を教訓として、エネルギー安全保障の取組みを強化すべく、今後のエネルギー政策の在り方について専門家から示唆を頂きました。 さらに当会の有志より我が国の国情に照らした「調和電源ミックス構想」の提言を発信しました。また関連した原子力の持続的活用、電力貯蔵技術、CO2回収・利用・貯留(CCUS)の3項目に関し課題と展望を、それぞれ専門家の方からご指摘を頂いた上で、この困難な時期における我が国のエネルギー環境政策について皆様と議論を深めました。
今回、昨年と同数の172名の参加者があり、終了後70名の方々からアンケートの回答を頂きました。その回答には、”時宜を得たテーマを聴講することができ満足した” と多くの方々が応えていました。特に ”わが国のエネルギーのあるべき姿についてあなたの意見は?” の質問に対して、半数以上が自説を開陳し、参加者自身の関心の高さが示されました。主催者としては時宜を得たとても意義深いシンポジウムになったと喜んでおります。
- (特別講演):ウクライナ危機と我が国のエネルギー安全保障政策
(慶応義塾大学 特任教授) 遠藤典子氏 - (基調講演):2050年における『調和電源ミックス』の提案
(原子力学会シニアネットワーク連絡会/エネルギー問題に発言する会・会員)牧 英夫 - (課題講演-その1):原子力の持続的活用に向けた展望と課題
(東京大学大学院 原子力国際専攻 教授) 小宮山涼一氏 - (課題講演-その2):電力貯蔵技術の課題と展望
(電力中央研究所 上席研究員) 三田裕一氏 - (課題講演-その3):2050年カーボンニュートラルの対応策:CCUSの役割と課題
(地球環境産業技術研究機構(RITE) システム研究グループ) 主席研究員 秋元圭吾氏
2. 開会挨拶 および 来賓挨拶
第22回SNWシンポジウムの開催にあたりご挨拶いたします。
今、100年ぶりに世界を襲ったパンデミックで大きく傷ついた社会を、電気料金をはじめエネルギー価格が高騰し家庭、産業を脅かしています。さらに追い打ちをかけるように本年2月に勃発したロシアのウクライナ侵攻で地球規模のエネルギー危機が一層顕著になっています。そのような国内外のエネルギー環境の激変を見据え、改めてエネルギー資源に乏しい日本のエネルギー安全保障と原子力の活用をご議論頂きたいと考え、本年のシンポジウムを開催することにしました。
続く
2011年の原子力事故で、日本のエネルギー安全保障に重要な役割を果たしてきた原子力発電の信頼が失われ、以来、10年以上にわたり原子力発電の先行きが見通しにくい期間が続きましたが、この8月のGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議では、岸田首相が「既に技術的に確立した脱炭素電源である原子力発電」に最大限の活用に向けて舵を切ると指摘されました。
本年シンポジウムでは、ご案内の通り「エネルギー安全保障と原子力の積極活用」をテーマに掲げ、慶応義塾大学の遠藤典子先生から「エネルギー政策に関する」特別講演を、次いで主催者側の牧英夫より本シンポジウムの基調講演として「調和電源ミックス構想」について講演致します。
基調講演を受け、3名の先生方に「電源ミックス構想実現のための課題と展望」についてご講演を頂きます
。なお、自由民主党の滝波宏文参議院議員には、急遽参加頂き、特別講演に先立ちお話をして頂くことに致しました。
現状、世界に誇る我国の原子力のサプライチェーン、人材、産業、そして立地も風前の灯火です。原子力の必要性に関して雰囲気は良くなったと言われておりますが、今は何一つ決まっていません。年末に向けて原子力の推進に関するしっかりした議論を行なう、この2ヶ月が勝負と思っております。いろいろなご経験をされた皆様と力を結集して共に頑張って行きたいと思います
(ご挨拶内容はこちらから) 原子力発電所の再稼働、運転延長、リプレース、バックエンドの4項目の全てを年末までにYESという結論を得て閣議決定レベルまで進めることを目標に活動する必要があります。
本日はシンポジウムに参加させて戴きありがとうございます。世界のエネルギー事情はロシアのウクライナ侵略によって大きく影響を受けました。エネルギーに大きな制約を受ける我国に於いては脱ロシア、脱CO2のために原子力の最大限の有効活用は不可欠です。第6次エネルギー基本計画では既存のエネルギー源の持続的活用までとなっており、リプレースの話はありませんでした。しかし、参議院選前には原子力の最大限活用という話が出て、この具体的内容を固める必要が出てきました。そういった中で、リプレース議員連盟は稲田会長、鈴木幹事長をはじめとして、臨時国会の中日に再スタートを行いました。その後、岸田総理からGX会議において政治的決断が必要な項目を提出するよう指示があり、経産大臣から原子力発電所の再稼働、運転延長、リプレース、バックエンドの4項目が示されました。この4項目を検討することになれば当然リプレースの想定も含まれるわけですが、年末までには、これら4項目のすべての項目にYESという結論を得て閣議決定レベルまで進めることを目標に活動する必要があります。
現状、世界に誇る我国の原子力のサプライチェーン、人材、産業は風前の灯火です。また私、立地県の福井県の選出ですが『誇りある国策への協力』という観点で、安全性に優れた最先端の炉が設置されるということは誇りにもつながります。将来発展の見えない炉と何十年も付き合えと言うことであればモチベーションを保ち得ないということになり、立地もまたぎりぎりのところにきています。
年末に向けて原子力の推進に関するしっかりした議論を行なおうという今回のタイミングを失うと、いつこのような議論が再開出来るかわかりません。この4項目を年末に向けてしっかり固めきらないと技術も人材も産業も立地もだめになると考えています。
原子力の必要性に関して雰囲気は良くなったと言われておりますが、今は何一つ決まっていません。目標までの時間は限られておりこの2ヶ月が勝負と思っております。いろいろなご経験をされた皆様と力を結集して共に頑張って行きたいと思いますのでよろしくご指導ご支援をお願いいたします。
3. 講演 および 質疑応答
ロシアによるウクライナ侵略を契機に顕在化した資源供給の途絶リスクは、天然ガス調達をロシアに依存してきた欧州だけでなく、日本も深刻な課題であります。電力安定供給では、日本においては原子力発電を、短期的、中長期的にもエネルギーミックスの柱とする政策を実行すべきです。本日は、日本のエネルギー政策についてお話をさせて頂きたいと思います。
遠藤典子氏略歴:
遠藤 典子 慶應義塾大学 特任教授
- 京都大学大学院エネルギー科学研究科博士課程修了。博士(エネルギー科学)。専門はエネルギー・環境政策、セキュリティ・リスクガバナンス。
- 経済誌副編集長を経て、東京大学にて研究活動に専念、著書『原子力損害賠償制度の研究―東京電力福島原発事故からの考察』(岩波書店)で第14回大佛次郎論壇賞受賞。
- 2015年4月、慶應義塾大学特任教授に就任、現在は経済安全保障に関する研究事業を運営している。
- 主な公職として、財政制度等審議会、産業構造審議会産業技術環境分科会、同通商・貿易分科会、総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会、宇宙政策委員会など委員。
はじめに
◎ロシアによるウクライナ侵略を契機に顕在化した資源供給の途絶リスクは、天然ガス調達をロシアに依存してきた欧州だけではなく、日本も直面する深刻な課題です。
◎電力安定供給は産業・社会の重要基盤であります。日本において現状、唯一の自立電源であり、気候変動問題にも寄与する原子力発電を、短期的にも、中長期的にもエネルギーミックスの柱とした政策を実行すべきと考えます。
◎本日は、原子力に限らずエネルギー全体について、経済産業省・原子力小委員会での議論を中心にお話しします。
アジア、日本、欧州の天然ガス価格が急上昇
◎シェールガス革命で低位安定、新型コロナで下落した天然ガス価格は、昨年後半より地政学リスク発生、ウクライナ情勢により高騰し、特に、2022年に入ってアジア天然ガスのスポット価格および欧州天然ガスのガス価格は乱高下し3月には一時どちらも過去最高値となりました。
◎アメリカはシェールガスにより比較的安定していますが、日本のLNG輸入価格はウクライナ情勢の影響を受け夏場以降上昇傾向にあります。
原油価格もウクライナ情勢緊張により高騰
◎原油価格もこの3月に13年ぶりに130ドルを突破後高止まり状態にありますが、ロシア依存が少ないので天然ガスや石炭に比べ影響は少ないです。
石炭価格は対ロシア制裁と構造変化で高騰
◎供給過剰状態にあり価格は落ち着いていましたが、対ロシア輸入禁止制裁、脱炭素で需給構造が変化したものの、新型コロナ回復と相まってアジアの需要は変わらず旺盛で、価格はかえって反転し、高騰しています。
◎日本は褐炭ではない上質な加工炭を輸入して使用していますが、こうしたいわゆる「銀シャリ」の石炭が入りにくくなっています。
日本のエネルギー価格上昇は相対的に定位
◎資源を輸入に頼っている日本は、世界的な資源価格の高騰の影響を受けやすいが、長期契約比率が高いこと、燃料費調整制度により小売価格への転嫁がなされておらず他国に比べエネルギー価格は定位で推移しています。
◎欧州は天然ガスのロシア依存度が高くウクライナの影響により電力・ガス料金が高騰しています。
◎燃料費調整制度の上限を超えて燃料価格が上昇しており、負担軽減のため上限撤廃をせざるを得ない電力会社が増えています。今後、電力・ガス料金は上昇する状況にあります。
LNGの長期契約締結量は大幅に減少
◎日本はこれまで、長期契約によって安定的にL N Gを調達してきましたが、近年は電力を市場から直接買った方が安いこともあり、LNGの長期契約を減らすという方向に向かっています。実際、2020年度の長期契約件数は大幅に減少しています。スポット市場では、欧州でのロシアの天然ガス禁輸が影響し、世界的な争奪戦の結果、LNG価格は高くなっています。一方、中国は過去に需給逼迫・停電を経験した経験から、新規長期契約を積極的に締結し2021年度の長期契約件数が大きく伸びています。
2023年に想定されるLNG世界争奪戦
◎ロシアLNG(ヤマル、サハリン2)の禁輸、生産停止が起こり、EUが需要を抑制できない場合、2023年1月の世界のLNG供給余力はマイナスとなります。スポット市場からの調達も極めて困難となります。
◎さらに、ロシアからのパイプライン経由減少分を欧州がLNGで補完しようとすると、LNG供給不足は拡大し、最も需要が伸びる2023年1月のスポット市場でLNG争奪戦が過熱します。
◎日本は原子力の再稼働が遅れた結果、再生可能エネルギーの負荷調整に加え、ベースロード電源の役割までLNGが果たしています。原子力計画の見通しが立たないとLNGの調達計画が立たずあらゆることに影響を与えます。
◎今は、サハリン2契約を更新できており、8%のロシアからのLNG輸入量は確保されていますが、政治リスクで供給が絶たれる可能性は残ります。
電力需給ひっ迫はロシア侵略以前から顕在化
◎2022年3月の福島沖地震で被災した新地火力が年内に復旧の見通しとなり、東京電力管内でマイナスであった予備率は改善されたがいまだに低位にとどまっています。厳寒の冬となれば大停電のリスクが高まります。
◎政府は予備率3%の確保と言っていますが、東京では大型火力が1基止まれば8%減となりますので、依然として需給は厳しい状況です。
電力需給逼迫の問題は「供給電力不足」である。
◎最近の電力需給ひっ迫の背景には、
- ①電力自由化により再エネ拡大で稼働率が低下した火力の休廃止
- ➁原子力発電所の再稼働の遅れ
- ③近年の世界的な脱炭素の加速に伴う新設火力プロジェクトの中断
- ④地震などの自然災害の多発による供給力の低下
- ⑤想定を上回る気象状況による需要の拡大
◎こうした背景を受け止め、十分な予備率を有したエネルギー計画を策定する必要がありますが、全体を俯瞰したエネルギー政策がこの10年間漂流し不在となっています。この中で電力自由化が大きな課題と考えています。
ベースロード電源不足が需給ひっ迫の構造要因
◎LNGは備蓄が難しいのにもかかわらず、原子力の再稼働遅れによるベースロード電源不足をLNGが代役を果たしていますので、需給ひっ迫の構造的要因となっています。
◎2021年の電力構成での原子力稼働数4基を2030年に34基とした場合、原子力によるベースロード電源の割合は3%から31%に改善されます。その分LNG負荷は42%から23%へと改善され需給ひっ迫は緩和されます。
今後10年間も火力発電供給量が減少傾向に
◎火力発電供給量は減少傾向にあり、火力による供給力確保を本当に考えないと由々しき状況となります。石炭はその運搬性の良さから、災害時のバックアップ電源として位置付けられるべきです。
◎新設、廃止の差し引きで、2016年~2020年は実績でマイナス102万kW、2021年~2025年はマイナス441万kW、2026年~2030年に至っては新設の予定はなくマイナス1,236万kWの火力が廃止されます。
◇(参考)電力需要増大が見込まれる東南アジアは火力中心
◎東南アジアでは電力需要が今後30年間で約2.5倍に拡大します。
- ・2020年1,111TWh(火力78%、水力15%、再エネ3%、その他4%)
- ・2050年2,843TWh(火力61%、水力13%、再エネ20%、その他6%)
◎高効率火力の輸出が、世界的な脱炭素の影響で叶っておらず、残念ながら輸出のチャンスを逃しています。脱炭素政策のEUタクソノミーと異なるアジアタクソノミーを実現できれば、日本が大いに役割を果たことができます。
原子力政策は転換期点を迎えたか
◎2022年8月24日、岸田総理が「原子力発電の再稼働、運転延長、次世代の原子炉の開発や建設について検討を指示」し、GX(グリーントランスインフォメーション)実行会議で具体化の検討が開始されました。
- ①緊急対策として再稼働促進(2030年20~22%実現のため官民で対応加速し本年度秋にも対応取り纏め)
- ➁2050年CN(カーボンニュートラル)実現・安定供給(政策を再構築し本年度末までに具体論取り纏め)
◎しかしながら、依然として政治的リスクは顕在しており、これからが正念場となります。
原子力主力化に必要な政策措置
◎東京電力柏崎刈羽が重要。規制庁プロセスを着々とこなし、地元の理解を得ることが大事です。
◎再稼働とリプレースはバラバラではなく、原子力をやるとなったら一体化で進めなければなりません。原子力が長期的に使われなければ、原子力産業に身を置く人材はいなくなります。
◎基本政策分科会が秋から始まります。現実的で具体的な制度議論が必要です。
◎規制の課題として、新規制基準の適正化・迅速化、稼働中審査、運転期間延長があります。規制委員会は原子力の安全のみでなく国民の利益を考えることができるよう、国会においてフォローしていく必要があります。
◎新・増設については、電力自由化政策との整合性、設備投資資金のファイナンス(英国はRABモデルを検討)、革新炉(SMR等) と新規制基準、原子力損害賠償制度の検討が必要です。
◎事業主体については、国際展開を念頭に置いた原子力関係企業育成、国内新・増設の原子力オペレータ育成の検討が必要となります。
原子力政策に経済安全保障の観点を
◎現在、世界で建設中・計画中のPWRのうち、建設中については約60%、計画中のもので約55%が中露の炉型です。
◎SMRの開発機運は、原子力産業の発展と核不拡散に寄与する安全ルールの主導権を維持し、現行軽水炉での中露の躍進を阻止したい米国の戦略でもあります。昨日までワシントンDCで制作担当者とミーティングを行いましたが、日米及び西側諸国を中心とした原子力のあり方について、議論しました。
エネルギー問題に発言する会
2050年のカーボンニュートラル (CN) を目指す電源構成は如何にあるべきかを定量的に究明するために「需給シミュレーションによる電力安定供給の検討」、「経済性評価」、「我が国の再生可能エネルギー資源の調査」を行いました。その結果を基に、電力安全保障を重視した再生可能エネルギー1/3、原子力1/3、火力1/3からなる『調和電源ミックス』を提案します。
牧英夫氏略歴:
牧 英夫(まき ひでお)
- 生年月日
- 1936年10月25日
- 出身地
- 茨城県ひたちなか市
- 学歴
- 1959年3月 九州大学工学部機械工学科卒業
- 1975年12月 東京大学工学博士
- 職歴
- 1959年4月 (株)日立製作所入社
- 日立研究所配属、核燃料に関する研究に従事
- 1971年8月 日立研究所主任研究員
- 1975年8月 日立工場原子力設計部主任技師
- 1980年8月 日立工場副技師長
- 1989年8月 日立工場主管技師長兼企画室長
- 1994年2月 日立工場技師長兼企画室長
- 1999年4月 電力・機電グループ原子力事業部技師長
- 2002年11月 (株)日立製作所退社
- 学会関係
- 2004年6月 日本原子力学会フェロー
- 2009年4月 日本機械学会名誉員
- 日本原子力学会シニアネットワーク会員
- エネルギー問題に発言する会会員
電源ミックス検討の狙い
◎「再生可能エネルギーを主力電源にするとどうなるか?」。この疑問を見究めるために下記項目について定量的・科学的評価を試みました。
- 需給シミュレーションによる電力安定供給の検討
- 経済性評価
- 我が国の再エネ資源の調査
◎上記検討結果を基に‟2050年の脱炭素社会を目指す電源構成“を提案します。
需給シミュレーションによる電力安定供給の検討
◎変動再エネ導入率パラメータ : 0,20,30,40,50,60,88%
◎電力安定供給方式
- 〈蓄電池方式〉: 余剰電力を蓄電池、揚水、水素貯蔵などに充電し、電力不足時に放電
- 〈出力抑制+BU(Back-Up)電源方式〉: 変動再エネの出力を抑制する ことによって余剰電力の発生を防止し、電力不足時にはBU電源(火力)によって補充
◎需給シミュレーション解析結果を図1に示します。
経済性評価
◎変動再エネ導入量を増加させるに伴って各電源の発電コストに加えて電力需給調整や連系線増強などに要する追加費用が増加します。従って、電源ミックスの経済性は下式で評価する必要があります。
平均総発電コスト=発電コスト+追加コスト(=追加費用/総発電量)◎平均総発電コストの試算結果を図2に示します。
我が国の再エネ資源の調査
◎安定再エネ(水力、バイオ、地熱):導入率12%程度が妥当と判断
◎変動再エネ(太陽光+風力):導入率35%程度が妥当と判断(電中研報告より)
変動再エネ導入適正量
◎「経済性」試算結果
- 変動再エネゼロ時 発電コスト11.9円/kWh
- 〈蓄電池方式〉電源ミックス平均総発電コストが変動再エネ導入率20%で7円/kWh以上上昇。
- 〈出力抑制+BU電源方式〉電源ミックスの平均総発電コストが変動再エネ導入率20%で約4円/kWh上昇。
◎‟需給シミュレーションによる電力安定供給の検討”、‟経済性評価”、‟我が国の再エネ資源の調査”の検討結果を総合した結果、我が国の産業力を堅持するためには変動再エネ導入率は20%程度(再エネ導入率32%程度)が適切と判断しました。
『調和電源ミックス』の提案
◎前章までの結論として再エネ導入率は32%程度(1/3程度)が妥当と判断しました。残り68%程度(約2/3)の配分は原子力と火力の重要度に優劣がつけ難く、原子力1/3、火力1/3としました。原子力は実績のあるクリーン電源であり、火力は運転柔軟性が高く、変動再エネ導入拡大に不可欠です。
◎結論として得られた電源ミックスは、図3に示す再エネ1/3、原子力1/3、火力1/3です。この電源ミックスを『調和電源ミックス』と名付け、ここに提案します。
◎2050年に原子力で年間発電量の1/3を賄うためには、2050年までに約36GWの新増設・リプレースが必要となります。その実現に必要な条件とマスタースケジュールを図4に示す通り提案します。要点は下記の通りです。
- 新増設・リプレースに向けた国の一日も早い決断が必要です。
- APWRおよびABWRに優れた安全性と経済性を取り入れた世界最高水準の次世代大容量軽水炉を目指すのが最良です。
- 我が国の原子力産業界は10年以上の新増設空白期間によりサプライチェーンが疲弊しています。その再構築を目指すプロジェクトを考慮したマスタースケジュールを図4に示す通り提案します。
『調和電源ミックス』実現のための主要課題
◎電源分野毎の主要課題は下記の通りであり、課題講演セッションに於いて専門家の方々にご示唆を戴くための講演を御願いしました。
- 再エネ分野 : 「大容量蓄電池システムの開発」
- 原子力分野 : 「原子力の持続的活用」
- 火力分野 : 「CO2回収・利用・貯留システム(CCUS)の開発」
まとめ
◎国家的課題を国、社会および皆様方に御願いしてまとめとします。
- 政府の強いリーダーシップのもと、
- 実行可能なエネルギー基本計画を提示し、
- 産官学総力結集した戦略的取り組みが必要
≪追記≫ 本講演は下記の提言内容によります。下記URLをご参照ください。
【提言】2050年に於ける電力安全保障と脱炭素社会を目指して 『再生可能エネルギー・原子力・火力 調和電源ミック』 牧英夫、新田目倖造、金氏顯、川西康平、後藤廣、早瀬佑一
安全・信頼性を高めた原子力は、電力・非電力分野双方のエネルギー安定供給と脱炭素化に役立ち、加えて、高速炉サイクルでは超長期でのエネルギー資源の有効利用と廃棄物の有害度の低減および減容化など、その持続的活用は社会に貢献し得ます。原子力の価値の客観的な理解と時代に適合した原子力エネルギー戦略の再構築が求められます。
小宮山涼一氏略歴:
小宮山涼一 東京大学 大学院工学系研究科 教授
- 1998年東京大学工学部卒業、2003年東京大学大学院工学系研究科電気工学専攻博士課程修了、博士(工学)。
- 同年日本エネルギー経済研究所入所、主任研究員、東京大学大学院工学系研究科准教授等を経て、現職。
- 2007年~2009年米国ローレンスバークレー国立研究所客員研究員、2011年~2012年カリフォルニア大学バークレー校客員研究員。
- 専門は、エネルギー・電力システムの数値シミュレーション分析、エネルギー・環境論。
- 著書に「Alternative East Asian Nuclear Futures, Volume II: Energy Scenarios」(NPEC 2018(分担執筆))、「Resilience: A New Paradigm of Nuclear Safety」(Springer 2017(分担執筆))、「レジリエンス工学入門:「想定外」に備えるために」(日科技連 2017(分担執筆))、「Reflections on the Fukushima Daiichi Nuclear Accident」(Springer 2014(分担執筆))など。
- 経済産業省エネルギーレジリエンスの定量評価に向けた専門家委員会座長、経済産業省総合資源エネルギー調査会臨時委員等。
- 日本機械学会原子力・再生可能エネルギー調和型エネルギーシステム研究会主査、日本原子力学会原子力アゴラ調査専門委員会地球環境問題対応検討・提言分科会主査等。
原子力の持続的活用に向けた展望と課題
2050年CN実現を目指して、テーマ「原子力の持続的活用に向けた展望と課題」を説明したいと思います。本テーマを説明するのにあたっては、➀日本のエネルギー問題、➁原子力発電を巡るエネルギー情勢、③2050年までのカーボンニュートラル(CN)、さらに④エネルギー安全保障など、いくつかの重要な課題が挙げられます。それらについて、順次説明したいと思います。
◇日本のエネルギー問題
◎化石燃料中心のエネルギー供給、世界有数のエネルギー消費国
◎極めて低いエネルギー自給率、高止まりするエネルギー輸入依存・中東依存
◎国際エネルギー情勢の構造的変化
◎環境制約と持続可能性への対応
◎再生可能エネルギー大量導入への対応
◎自然災害等によるエネルギー安定供給への影響
◎産業競争力の強化、経済成長の実現
◇原子力発電を巡るエネルギー情勢
◎カーボンニュートラルの実現
- グラスゴー気候合意(COP26)は、1.5℃目標の追求で世界各国が努力することです。
◎エネルギーセキュリティーの強化
- 化石燃料輸出大国ロシアのウクライナ侵攻で化石燃料の供給不安が発生し、価格上昇が起こっています。
◎国際的な原子力エネルギーの再評価
- 米英加仏では、原発の新増設計画、SMRの開発計画が進んでいます。
- 一方、中国では、中国製の原発を世界で建設しており原子炉の大半を占めています。また、高温ガス炉、高速炉開発なども積極的に推進中です。
◇2050年までのカーボンニュートラル(CN)
◎脱炭素化の基本戦略として、省エネ、燃料転換、CCUS
- 電力脱炭素化、電化、水素・合成燃料、CCUS、吸収源の拡大(植林等)などが検討されています。
◇エネルギー安全保障
◎原油価格は、これまで大きく変動しており、今後の推移も不確実性が大きい状況にあります。
◎欧州は、ウクライナ情勢を巡り地政学的リスクが顕在化しています。エネルギー情勢が深刻化し、化石燃料の脱ロシアを模索しています。
◎CNへの移行過程では、依然、化石燃料に依存しており、資源開発、インフラへの投資の確保などが対策強化の上で重要な課題となっています。
◇電力需給の情勢
◎電力価格の高騰、電力需給ひっ迫リスクの高まり
- ウクライナ危機等を背景とした燃料・電力価格の高騰により、エネルギーセキュリティーへの意識が高まっています。
- 脱炭素化、電力自由化、再エネ普及などに起因して、火力発電所の休廃止が増加しています。
- 2022年度冬期の電力需給は現状、厳しい見通しにあります。(多くのエリアで予備率3%以下)
◇再生可能エネルギー主力電源化に向けた対策
◎調整力の確保(上げ代、下げ代)、送電容量の確保(系統整備、ノンファーム型接続等)、系統安定性の確保(慣性力、同期化力)といった対策が検討されています。
◇電力需給運用(九州地域:2021年5月22日~5月24日)
◎再エネ出力変動対策として、火力出力制御、揚水充電運転、連係線活用(関門連係線)、再エネ出力制御が実施されました。
◎卸電力価格低下では、電源新設投資インセンティブが低下しており、電力安定供給確保への影響が懸念されます。
◇電力安定供給対策
◎電力安定供給のためには、供給力(kW)の確保、電力量(kWh)の確保、周波数調整力(ΔkW)の確保、慣性力・同期化力の確保等が重要
◎上記の確保により、系統停止を回避しうる供給力(アデカシー)と系統故障の影響波及の制御能力(セキュリティー)の強化が重要
◎原子力発電は電力系統安定化に貢献するすべての能力を有しており有望
◇経済性の確保(発電コスト)
◎世界的に陸上風力、事業用太陽光等の発電コストは火力や原子力と同水準まで低下、再エネへの投資も旺盛
◎運転延長を行った原子力は最も経済優位性のあるオプション
◎電力系統への統合コストを考慮しますと、事業用太陽光や陸上風力の発電コストは原子力より高くなります。
◎統合コストを考慮する場合には、原子力発電コストも上昇しますので原子力発電の柔軟性向上に向けた取り組みが重要となります。
◇水素・アンモニア
◎価値としては、環境適合性、レジリエンス、多様な供給源、原材料としての利便性があります。
◎CNへの貢献としては、脱炭素困難な分野の鉄鋼、化学工業、船舶、航空等に貢献できます。
◎水素の類型には、グレー水素、ブルー水素、グリーン水素、イエロー水素があることに気を配る必要があります。
◎運搬、保存のためにはガスよりも液化が望まれますが、液化の温度は、アンモニアは-33℃、水素は-253℃ で、アンモニアが取り扱い上勝っています。
◎課題としては、技術開発、インフラ整備(サプライチェーン整備)、コスト低減が挙げられます。
◇水素エネルギーと原子力
◎多様な技術での原子力エネルギーの利用により、水素製造が可能
◎原子力による水素製造は水素自給率の向上に貢献しうる技術オプション
◎高温ガス炉は、長周期の再エネ出力変動に対して、水素製造の制御を通じて発電量を調整可能
核燃料と原子力エネルギー
◎極めて高い核分裂エネルギー
- 天然ウラン1Kgは、石油14トンに、濃縮ウラン1Kgは、石油60トンに相当します。
- 我が国の1日の燃料消費量を、軽水炉ウランとLNG複合火力で換算しますと次のようになります。
- ① 軽水炉ウラン:約100kg 2,600万円
- ② LNG複合火力:約2,600トン 約1.5億円
◎放射性廃棄物の発生
- 次世代原子炉システムの要件としては、放射性廃棄物の有害度の低減化、減容化が社会的受容性を向上させるために求められます。
◇カーボンニュートラルと原子力エネルギー
◎原子力エネルギー利用することによるメリット
- 電力・非電力分野の脱炭素化(ゼロエミッション電力供給、クリーン水素製造、クリーン熱供給等)を図ることができます。
- エネルギーセキュリティー強化し、電力安定供給への貢献となります。
- 技術イノベーションに役立ちます。
- 原子力発電の再稼働は、LNG、石炭使用量を削減でき、世界のエネルギー安定供給にも貢献できます。
◎電力自由化と原子力
- 原子力は電力自由化の下では維持するのが困難ではないかと懸念されます。
- 市場メカニズムと公益、国益の両立が課題となります。
◎原子力エネルギー利用を巡る課題への取り組みが重要
- 社会的信頼の回復が急務です。
- 安全性を大前提とした既設原子力発電を再稼働し、安定的運転を継続することが重要です。
- 高レベル放射性廃棄物処理・処分の実現に向けて積極的に取り組み、早期の見通しを図らなければなりません。
◇原子力発電の展望
◎短期的には、原子力再稼働、効率的運転が重要
◎中長期的には、新増設とリプレースが重要であり、脱炭素化や資源枯渇問題解決への対応を図らなければなりません。
◇運転延長と経年劣化管理
◎運転延長に向けて、認可を受けた原子力発発電所は40年を60年運転へ
◎日常、定期的な点検、保全管理、30年で高経年化技術評価、以降10年ごとにまとまった診断を実施
◎事業者は大型機器の取替等による安全性向上のための新技術・最新知見の導入、経年劣化への予防保全、耐震性の向上等を図っています。
◎米国は9割以上が60年運転認可更新済み、80年運転認可を受けたプラントも存在。多くの国では寿命や耐用年数による運転制限は行っていませんので、わが国については見直しが必要
革新炉への期待
◎革新軽水炉、小型軽水炉、高温ガス炉、高速炉など様々な革新炉があります。
◎地震や津波等の自然災害への対策強化、シビアアクシデント対策強化、テロ対策強化、受動的安全性、放射性物質排出防止機能、出力調整機能、ウラン資源の有効活用、放射性廃棄物の有害度低減と減容化、モジュール化
◎課題としては、経済性、投資回収の予見性、革新炉の特徴を踏まえた合理的な安全規制・審査などが挙げられます。
◇大型軽水炉の建設コスト
◎最近の建設コスト
- 米国AP1000、英国のEPR、仏及びフィンランド・・$7000~$9000/kWe
- 韓国APR1400、中国炉・・$3000~$5000/kWe(日本の原子炉1980~2207年の福島原発事故前並み)
◇小型原子炉(総論)
◎課題
- 基本的に試験開発段階であり、商用化に向けた着実な実証試験の実施が求められます。
- 安全規制、審査体制の整備が必要です。
- コストの見通しとしては、大型炉よりコスト高だが高い安全性と、生産拡大による習熟が進めばコスト低減が期待できます。
- 投資回収の予見性の向上(長期収入保証など)とサプライチェーンの構築が必要です。
◇原子力と再エネの共存
◎MIT-日本(東工大、東大、JAEA、エネ総研、エネ総工研)共同研究レポート
- 本レポートでは原子力と変動再エネ(PV、風力)の共存戦略を挙げています。
◎原子力・再エネの統合制御システム(米国INL)
- 本レポートでは原子炉熱貯蔵・利用、水素製造、合成燃料製造、需要抑制(EV)、バッテリーによる原子力と再エネの共存システムが検討されています。
◇新型炉研究開発への期待として小型モジュラー炉(SMR)
◎SMRのエネルギー面での特性として、負荷追従性、立地の柔軟性、クリーン水素・熱供給などに期待できます。
◎先進技術の研究開発の活性化として、人材育成の上での重要な役割を果たします。
◇電力自由化
◎電力価格の水準は、電力市況により大きく変動
◎原子力発電は、初期投資が大きく、固定費の比率が高いため、投資回収の見込みが立てにくいのでそのため長期収入保障など、投資の予見性を確保する方策が重要です。
高速炉サイクルが重要
◎放射性廃棄物の減容化、有害度の低減への貢献
◎Pu有効利用によるウラン資源の利用率を向上させ、経済性のあるウラン資源枯渇の緩和への貢献
◇世界のエネルギーベストミックス(1.5℃目標)での高速炉サイクルの役割
◎電源構成として再エネ、原子力、天然ガス(CCS)等の拡大が可能
◎21世紀後半に経済性のあるウラン資源枯渇の顕在化に備え、高速炉、軽水炉MOXの導入進展
◎高速炉サイクルは原子力エネルギーの持続的利用とカーボンネガティブの実現に貢献
日本のカーボンニュートラル実現可能性
◎主な前提条件
- 風力発電、水素発電、太陽光発電、原子力発電のそれぞれに前提条件を付けて解析しました。
◎省エネ推進
- 一次エネルギー供給、と最終エネルギー消費を睨みながら省エネ推進を検討しました。その際、電化の進展、CCUS技術の展開、CO2限界費用の上昇などを推定しながら、2020年~2050年までの5年ごとの推移をシミュレーションしました。
◎2050年まで累積システム総コストは、原子力イノベーションがシナリオ間で最小となり、原子力イノベーションが重要であることが分かります。但し、そのための要件は次のようになります。
- 安定的で経済性が維持できていること
- 社会的信頼性が得られる高い安全性を維持できていること
- 放射性廃棄物を着実に処理・処分できていること
- プルトニウム保有量削減へ貢献できていること
- 再生可能エネルギーと共存できていること
結語
◎カーボンニュートラル実現には多様な技術の総動員が不可欠です。
◎とりわけ原子力エネルギーはエネルギー安定供給と地球環境保全に貢献しうる重要なエネルギー源です。
◎科学的なエネルギー政策の検討が必要です。
CNに向けて、エネルギー供給と消費の両サイドでの低炭素化と高効率利用が求められます。電力供給は需要サイドとの協調が求められますが、太陽光や風力発電等の普及に伴い拡大する電力需給の時間的・空間的なズレの調整には、エネルギー・電力貯蔵技術が必要となります。系統安定化での寄与が期待される電力貯蔵技術について、リチウムイオン電池などを中心に紹介します。
三田裕一氏略歴
三田裕一(みた ゆういち) 上席研究員
所属:
- 一般財団法人電力中央研究所
- エネルギートランスフォーメーション研究本部 研究統括室
- 兼)同 エネルギー化学研究部門
- 兼)グリッドイノベーション研究本部 ENIC研究部門
略歴:
- 1990年3月
- 早稲田大学大学院理工学研究科電気工学専攻 修士課程修了
- 同年4月
- 財団法人電力中央研究所入所
- 主に、住宅用小型蓄電システムの開発、リチウムイオン電池の劣化評価研究に従事
- 1992年-2011年 NEDOプロに従事
- 「分散型電池電力貯蔵技術開発」(1992-2001年度)
- 「次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発」(2007-2011年度)等に従事
- 2021年7月より現職
- 現在、各種定置用蓄電池の性能評価試験研究、リチウムイオン電池加速劣化試験・劣化評価研究に従事
電力貯蔵技術の普及動向
- 次のような「カーボンニュートラル社会」の絵姿(イメージ)を描いてみました。
電力システムでの蓄電利用
◎蓄電は下記のエネルギーシステムとの組み合わせで便益が出ます。
- 大型発電所の高効率運転
- メガソーラーの安定・計画運転の実現
- 風力発電の安定・計画運転の実現
- 大容量蓄電による揚水発電の代替
- EVとして輸送用に、また大量普及後には蓄電池として利用
- 工場での省エネ、電力品質安定化など
◇電力貯蔵技術の役割
◎系統安定化(周波数、電圧)
◎需要と供給の時間的シフト
◎調整化力の補助
◎送電容量不足対策
◎負荷平準化
◎バックアップ電源
◇世界における定置用蓄電システムの導入実績
◎2020年までに、世界全体で累積17GWの蓄電池が導入済
◎2020年は中国と米国で新規設置が増大(中国:1.6GW、米国:1.5GW)
◇2030年までの世界の電力貯蔵累積導入量予測
◎ブルームバーグの予測
- 2020年17GWが2030年300GW超(蓄電池以外の電力貯蔵を含む、水素含まず)と10年間で20倍になります。大きく増えるのは、中国と米国です。
◇利用されている電力貯蔵技術(揚水発電を除く)
◎世界的にリチウムイオン電池の導入が現状技術の拡大により進んでいます。
◎その他、次のものが利用されています。
- 鉛蓄電池、ナトリウム硫黄電池、レドックス・フロー電池、亜鉛空気電池、フライホイール、スーパーキャパシタ
各種エネルギー貯蔵技術
◎規模、効率に特徴があり、それぞれに課題があります。
◇重力蓄電
◎コンクリートなどの重しを上げ下げすることで、電気エネルギーを位置エネルギーに変換する蓄電技術、変換効率90%です。
◎立地と騒音・景観に課題があります。
◇海洋インバースダム
◎ダム空間を海中に作り、海水を放出・注水、発電と蓄電を繰り返します。(揚水と逆の動作) ただし、この方式は立地、漁業権などに課題があります。
◇圧縮空気エネルギー貯蔵
◎電力により空気を圧縮し、高圧空気を貯蔵します。
◎圧縮時の熱発生での損失があります。(熱回収を検討)
◎大空間で大容量貯蔵が可能です。
◇水素貯蔵
◎輸送が問題です。
◇液体・高圧水素貯蔵およびアンモニア貯蔵
◎液体・高圧水素貯蔵
- 体積エネルギーがLNGの半分ですので、同一のエネルギーを取り出すためには、貯蔵容積が2倍必要になります。
- 大型タンカーがなく陸揚げに課題があります。
- 必要な離隔距離や需要地付近近傍に置けるかどうかの検討が必要になります。
- 熱ストレスの懸念があり、液体H2はLNGよりさらに低温のために断熱と材料について十分な検討が必要です。
- 貯蔵・導管をどうするか、安全性(センサー)への対策など検討する必要があります。
◎アンモニアの貯蔵
- 体積エネルギー密度は、液体水素と同じ程度です。貯蔵温度が高いため、タンクは簡易化できます。
- アンモニア変換エネルギー損失を検討する必要があります。
- 実績がありませんので、大量利用の安全性について検討する必要があります。
各種の電力貯蔵技術
◎二次電池は貯蔵容量が小さくなります。
◎余剰電力を活用して水を電気分解して水素を製造し、その水素を電気に戻すと、効率が低くなります。(30%以下)
◇国内の主な1MW以上の蓄電池とその工期
◎2年以内での設置が可能(他の発電所に比べると工期が短い)
◎リチウムイオン電池の採用が増大しますが、電池を作るのに時間がかかります。
◇電力貯蔵用蓄電池システムの設置
◎系統安定化のために変電所に設置
◎出力安定化のため、太陽光・風力発電所に併設
◎負荷平準化・ピーク負荷対応での需要家に設置
◎(新規)系統安定化やVPP・DRを系統に直接連係の蓄電所の設置
- VPP(Virtual Power Plant)とは太陽光発電などの再生可能エネルギーや蓄電池、電気自動車、ネガワットなど工場や家庭が有する分散型エネルギーリソースを高度なエネルギーマネジメント技術を用いて遠隔・統合制御することです。
- DR(Demand Response)とはVPPの主要となる手法で、需要家側のエネルギーリソースをコントロールし、需要を増減させること、「需要応答」とも言われ、電力の需要側(普段電気を使う側)が効果的に節電を行うことです。
◇再エネ発電の設置面積
◎原子力発電所1基分(0.6km2)を代替する場合、太陽光58km2、風力発電の場合は214km2(それぞれ山手線の内側面積と同じ、内側の面積の3.4倍の面積)
◇蓄電システムの設置面積(例)
◎九州電力北豊富変電所の蓄電池 ナトリウム硫黄電池(2016/3から運用中)
- 定格出力50MW、定格容量300MWh、設置面積14,000m2です。
◎上記設備を基準にし、設備利用率を40%とする場合
- 100万kW・・0.18km2
- 500GW・・・89 km2
- 1TW・・・・178 km2
リチウムイオン電池の特徴
◎幅広い選択肢があり、特性もそれぞれ異なります。
◎国内外の多数のメーカーで生産されており、形状も材料も多様です。
◇リチウムイオン電池の主な構成材料
◎正極と負極の組み合わせで、電圧、容量などの特性が異なります。
◎電解液は可燃性液体です。
◎材料によって異なる電池特性です。
◎課題
- 材料資源の確保です。
- 新規材料の電池の実用化の時期が見通せていません。
- リユース、リサイクルが簡単にできるか検討が必要です。
◇系統用蓄電システムの構成例
◎東北電力西仙台の大型蓄電システムの主要機器仕様 リチウムイオン電池
- 定格出力20MW、定格容量20MWh、設置面積6,000m2 です。
- 有機電解液を使用しており、消防法上の危険物第4類に該当し、隔離距離等が必要になります。システムとして場所を取ります。
リチウムイオン電池の低価格化
◎kW当たり単価は、年ごとに大幅に安くなっています。
- 2010年:12万円 2018年:2万円 2021年:1.5万円 2024年:1.1万円 2030年:0.7万円
◎2015年以降、EV向けの世界市場が形成され、中国と韓国が低価格化をけん引しています。
◎蓄電システム用電池でも同様な現象が起こっており、低価格化が進んでいます。
◇電力貯蔵用と出力調整用の蓄電システムコストの構成比較(2011年時点の試算例:年間10TWh製造時を想定)
◎出力調整用(5MW-2.5MWh)は、9.4万円/kWh です
◎電力貯蔵用(5MW-40MWh)は、3.3万円/kWh です。
◎両者の価格差は電池だけでなく、システムコストの評価の違いによります。
◇国内外の蓄電所例
◎南オーストラリア州の蓄電所(100MW-129MWh)
- 運転開始は、2017年11月23日です。
- 建設費、システム費込みの単価は、約5.8万円/kWh です。日本の2030年目標は6万円/kWh です。世界では既に達成できています。
◎北海道・千歳バッテリーパワーパーク(1528.8kW-6095.2kWh)
- 運転開始予定は、2022年夏頃です。
- システム納入価格は、5万円弱/kWh (リチウムイオン電池 中国CATL製) です。系統連系設備費、工事費が含まれるか不明です。
- 建設目的は、卸市場、需給調整市場、容量市場への参加です。
リチウムイオン電池の寿命性能
◇リチウムイオン電池の寿命性能
◎1990年代初めから見て、寿命性能は圧倒的に改善されています
◎インフラシステムで活用するための十分な耐久性の確保は未検証です。
◎用途・利用方法による違いの把握、安全性の維持、運用中の性能の見える化が課題です。
◎海外でのリチウムイオン電池の火災事故例
- 韓国(30か所以上)、米国でも火災事故例が有ります。
- 日本での大規模蓄電池の事故例はありません。
◇電池の劣化評価技術の開発
◎電池の性能劣化は複数の劣化因子により進行します。
◎支配的な劣化因子が変われば、寿命予測曲線も変化します。
◎劣化因子は運用条件、電池の種類、メーカーに大きく依存します。
◎将来の寿命予測を行う技術開発や劣化機構の解明が必要となります。
全固体電池への期待
◎現在のリチウムイオン電池
- 可燃性の有機電解液を使用しています。
- 高電圧で電解液が電気分解します。
- デンドライト成長で内部短絡から発火が懸念されます。
◎全固体電池
- 正極、負極、電解質が固体です。
- 電解液がないので、液漏れ無く高安全です。
- 劣化に伴う気体発生がなく、破裂も無いため高安全です。
- 可燃物質がなく、燃焼が無いため高安全です。
- 広い温度範囲で作動でき、高温で劣化がなく、副反応も少なく、長寿命が期待できます。
- 温度調整機構不要ですので、低コストになり得ます。
- そのために期待大ですが、まだ課題が多く残っております。
◇NEDO・先進・革新蓄電池材料評価技術開発(第2期)
◎LIBTECを中心とした大学・国研・企業の実施体制で、応用研究が行われています。
◎全固体電池のボトルネック課題を解決する要素技術の確立を目指しています。
◎量産プロセス・電気自動車搭載への適合性を評価する技術開発が進められています。
◎2025年以降、硫化物系固体電池(第1世代)研究を進め、後10~20年かけて先進硫化物系又は酸化物系へ移行していく模様です。
まとめ
CCUSの役割と課題
システム研究グループ 主席研究員
CN実現のためには、再エネ、原子力、更に化石燃料利用についてはCO2回収・利用・貯留(CCUS)を行うことが求められます。化石燃料利用は、CO2除去(CDR)技術を用いることでCCUS無しの化石燃料排出も許容できます。費用対効果の高い対策には、様々な技術の組み合わせが必要です。本講演では、特にCCUSに焦点を当てて、その役割と課題を中心に議論を行います。
秋元圭吾氏略歴
秋元 圭吾(あきもと けいご)
略歴
- 平成11年 横浜国立大学大学院工学研究科博士課程修了。博士(工学)。
- 同年 財団法人 地球環境産業技術研究機構 入所、研究員。
- 主任研究員を経て、平成19年、同 システム研究グループリーダー・副主席研究員、平成24年11月、同 グループリーダー・主席研究員、現在に至る。
- 平成18年 国際応用システム分析研究所(IIASA)客員研究員。
- 平成22~26年度 東京大学大学院総合文化研究科客員教授。
- 平成24~令和2年 日本学術会議連携会員。
- IPCC第5次および第6次評価報告書代表執筆者。総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会委員、同 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会委員、調達価格等算定委員会委員など、政府の各種委員会委員も務めている。
- エネルギー・環境を対象とするシステム工学が専門
カーボンニュートラルの関連動向 および対策の全体概要
◎国内の一次エネルギー供給
- 正味ゼロ排出実現においても、省エネは重要です。原則、カーボンニュートラル実現のために、エネルギーは、原子力、再エネ、CO2回収・貯留(CCS)付の化石燃料 の3つで構成することが必要です。 海外の再エネ、CCSの利用も重要です。CCS無しの化石燃料利用がある場合には、負の排出技術でオフセットが必要です。
- 電化は重要ですが、すべてが電化で対応できるわけにはいきません。また電化にすることが必ずしも費用対効果が高いわけでもありません。水素、合成液体燃料、合成メタン、バイオマス等を活用し、負の排出技術でのオフセット手段も存在しますので、全体システムでの費用対効果の高い対策を、時間軸も意識しながらとっていくべきです。
◎IPCC第6次評価報告書の記載
- IPCCの検討結果によればCO2又はGHGの正味ゼロを達成しようとするならば様々なCNのシナリオがあります。削減が困難な残余排出量を相殺するCDR(Carbon Dioxide Removal:二酸化炭素除去)技術の導入は避けられません。
- また1.5℃目標時の化石燃料供給量に関しては、CCS無しの石炭利用は2050年までにかなり限定的にしなければならないという結果になっています。一次エネルギー供給としては、化石燃料フェードアウトが必要といった状況には無いため、CCSの利用は増大が見込まれます。
CCUS(二酸化炭素回収・利用・貯留)の役割と課題
◎CO2回収関連技術の概要
- 資源エネルギー庁によれば現状CO2分離回収コストは化学吸収法で4,000円台ですが、膜分離法の様に分圧を利用できる場合は1,000円台まで低下可能と想定される技術もあります。用途に応じ組合わせを考える必要があります。
◎二酸化炭素除去技術(CDR)によるネガティブ排出
- 大気中に放出されたCO2回収に関しては、植林やカーボン回収プラントによるCCSが考えられますが、貯蔵のためには相当な土地な面積が必要になります。狭い日本の様に制約が大きいところでは、将来的にはDAC(大気中直接回収)によりDACCS(大気中CO2直接回収・貯留)として、化石燃料からのCO2排出をオフセットします。DACについては現在世界で投資が行われておりCCS(カーボン回収・貯蔵)用の土地が植林などに比して縮小されるメリットはありますが、このために投入するエネルギーが大きいという難点があります。再エネ等の余剰電力がある場合はメリットがあると考えられていますが、植林、カーボン回収プラントによるCCS等を併用し回収貯蔵システム全体での最適化を図ることが効果的な排出削減、カーボンニュートラル化のために重要です。
◎世界のCO2貯留の動向と貯留コスト・貯留ポテンシャル
- 我国では地層が分断されているため貯留ポテンシャルは不透明ですが、現状保守的に見積もって114億トン (11.4Gt) 程度と想定されています。現状の排出量約10億トンとすれば10年分、今後CCS対策の想定した年間1億トン程度のCO2 排出の場合は100年分の貯蔵が可能と見積もられています。但し地層分断による不透明性がある為、CCSの本格的な展開に向けて検討を加速する必要があります。経産省は、CCS長期ロードマップ検討会を、2022年1月28日にスタートして5月に中間とりまとめを公表しています。
◎国内のCCS普及のイメージ
- ロードマップ検討会の資料によれば、IEA試算から推定すると日本のCCSの想定年間貯留量は2050年時点で年間1.2~2.4億トンが目安に進展を図っているが相当大変なようです。
◎CCSに関する現行法制度の課題
- 地下構造を使うので実際にどれくらい貯蔵で出来るかやってみなければ予見が立ちにくいという事があります。これは民間事業としてみれば投資リスクになります。この他課題として事業者が地下を利用する際の権利、法的責任の明確化、我国の貯留層の管理、CO2 の海外輸出に係るロンドン議定書の担保があり、これらを勘案してCCSの可能性を見ていく必要があります。
◎変動性再エネの増加に伴うエネルギー貯蔵の重要性
- 電力は貯める事が出来ないので水素や蓄電池等で貯める必要があります。
◎水素・アンモニアの技術開発、展望等
- 水素については原子力由来のもありますが、現状そこまで原子力に余力が無い様です。ブルー水素とグリーン水素がありますが、まずは価格の安いブルー水素が考えられます。ブルー水素については事前に海外でCCSを行った物と国内でCCSを行う物があります。この他に水素に窒素を付加してアンモニアにして利便性を高めて運ぶと言うことも考えられています。
◎合成石油・合成メタン(エネルギー利用のCCU)
- 水素の運搬には新たな設備投資が必要になりますが、合成石油、合成メタンの形にして運搬・貯蔵すると言うことも考えられています。コストは上がりますが、既存の設備を使用できるという点でメリットがあると考えられています。ガスに関してもガス自体の脱炭素化も考えられています。
日本の2050年カーボンニュートラル に向けたシナリオ分析
◎シナリオ想定(概略)
- 世界の限界削減費用を均等化しながら世界費用を最小化し、1.5度低減させる場合には、日本はどれくらい削減すれば良いかを計算するものです。
◎日本の部門別GHG排出量(2050年)
- 2050年時点での世界の限界削減費用均等化(世界で最小化)の場合では、日本の2050年の正味GHG排出量は コスト的には、2013年比63%減にするのが良く、残り37%は、海外のCDRによりオフセットするのが合理的です。
- その他国内だけで貯留を想定する場合には、ほぼ2億トン/年をDACCSでオフセットするのが合理的です。
◎日本の一次エネルギー供給量(2050年)
- 25%の省エネルギーを全体にしており、いずれのシナリオにおいても、相当量の水素・アンモニア・合成燃料の輸入・利用が考えられます。
◎日本の発電電力量(2050年)
- 一次エネルギーは減っていましたが発電量に関しては増加しています。電化を進めることがCN上重要であると言うことです。原子力発電については1ケースのみ20%、他は10%を上限としていますが、それに張り付くため、それ以外の発電量をどうするかを表示しています。
◎CO2限界削減費用、エネルギーシステム総コスト、 電力限界費用:日本
- 世界費用を最小化した場合のCO2 限界削減費用に対して、国内でCNを実施しようとすると限界削減費用は約3倍となり日本は達成手段が限られており難しい事がわかります。それに対して国内で原子力を活用したケースではCO2 限界削減費用はあまり変化がありませんが2050年のエネルギーシステムコストは低く抑えられ、電力限界費用も低くなる事が判ります。原子力については、ここで想定した比率20%より大きくなれば便益はより大きくなります。また再エネ100%とした場合は蓄電池設置とか系統対策の追加等によって電力限界費用は原子力活用ケースより相当高くなります。
- *1 [](青字)はベースラインからのコスト増分。()赤字は「参考値のケース」からのコスト変化
- *2 発電端での限界費用。ただし、系統統合費用は含む。2020年のモデル推計の電力限界費用は123 US$/MWh
- *3 原子力活用シナリオは、原子力比率20%~50%の下での結果
◎2050年の部門別・技術別の排出削減ポテンシャル・コスト推計: 日本
- 注1)本分析は、「参考値のケース」で用いた、技術想定の下での推計結果
- 注2)部門別・技術別の排出削減効果は、交差項の部門や対策、技術に割り当てる際の定義によって、部門・技術毎の削減効果の大きさは変化する。推計の削減ポテンシャルは目安として理解されたい。
- 横軸に排出削減量、縦軸に限界削減費用をとり順番に安い対策から積み上げてみました。太陽光発電については発電量が低い場合は条件の良いところで使用するのでコストは低いですが、量を増やしていくと条件の悪いところでも使用せざるを得なくなり系統対策等でコストが増えていきます。原子力についてはCCS無しの火力よりは若干高くなりますが、比較的安いため、原子力の比率を高める事が出来れば価格の高い対策に取って代わって全体のコストを下げる事が出来ます。限界削減費用全体的を見ますと安いところに原子力、その上にCCS、その上に水素アンモニア発電、但し国内でCCSが出来なった場合、水素アンモニア発電は海外から持ってくるので安上がりと言うこともあります。最後にDACCSですが、CNを達成するとなるとオフセット手段として必要となる可能性があります。
まとめ
◎脱炭素化(ゼロ排出)のためには、原則的には、一次エネルギーは、再エネ、原子力、化石燃料+CCSのみとすることが求められます。
◎電力化率の向上と、低炭素、脱炭素電源化は、対策の重要な方向性であり、いずれにしてもこれら脱炭素の各種技術のミックスが重要です。
◎再エネの大幅な拡大は、必須であるとともに、頑強な見通しがあります。太陽光のコスト低減は進んでおり、洋上風力では安価な価格形成も見られつつあり、良い兆しはあります。ただし、多くの課題もあります。
◎化石燃料+CCSは需給調整が比較的容易なため、CCSも重要です。ただし、CO2の 地中貯留には、地層の自然構造を利用することもあって、事業の予見性の点等で、 課題も多く、特に国内においては一定の投資リスクが存在します。
◎再エネの拡大が重要となる中、蓄電池、水素(アンモニア含む)は重要なオプションです。更に、水素とCO2からの合成メタン、合成液体燃料(水素の一形態でもあり、CCUの一つでもあります)も重要なオプションです。
◎特に日本の場合、再エネ、CCSともに、海外と比較してコスト高と見られるため、 海外再エネ、海外CCS活用手段として、水素等はとりわけ重要性が高いです。
◎ネットゼロエミッションにおいては、化石燃料は一部利用しながらDACCS等の CDRで排出をキャンセルアウトする方が、費用対効果が高い対策となる可能性が高く、活用は不可避と見られます。
◎将来的には費用対効果を見極め、技術を絞り込んでいくことも必要ですが、現時点では万能な技術はなく、あらゆる選択肢を追求することが必要です。
◎ ただし、環境と経済の好循環のためには、 ①原子力の活用、②需要側の対策 が最重要です。
資本、労働、土地、エネルギーといった投入要素に、情報の投入を明確化し、情報生産性を高めることが必要です。
◎ロシアのウクライナ侵略や、2022年3月の電力需給逼迫など、エネルギー安定供給・安全保障を脅かす事象も生じています。第6次エネルギー基本計画でも書かれているように、カーボンニュートラルを目指した対応は必須ですが、S+3Eが大原則ですので、3Eの中でもエネルギー安定供給・安全保障は、第一に考えるべきであり、また、エネルギー価格高騰の中、経済性への配慮は、少なくとも短中期では、より重要性が高い課題です。この文脈でも、 ①原子力の活用、 ②需要側の対 策の重要性は特に高いです。
1.遠藤典子講師への質問(Q)と回答(A)
2. 小宮山凉一講師への質問(Q)と回答(A)
3. 三田裕一講師への質問(Q)と回答(A)
4. 秋元圭吾講師への質問(Q)と回答(A)
4. 講演資料一覧
エネルギー問題に発言する会
CCUSの役割と課題
システム研究グループ 主席研究員
5. アンケート結果の概要
6. 主催・共催・後援
- 主 催 :
- (一社)日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)
- 共 催 :
- エネルギー問題に発言する会
- エネルギー戦略研究会(EEE会議)
- 後 援 :
- (一社)日本原子力産業協会、(一財)日本原子力文化財団
- (一社)原子力国民会議