日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
会長挨拶

会長就任にあたって

2024年6月20日 早 野 睦 彦

日頃より日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)の活動にご支援・ご協力を賜りまして誠にありがとうございます。
 この度、坪谷隆夫会長の後を受けて第8代会長に就任した早野睦彦です。2006年の創設以来19年間にわたり本会の活動を支えていただいた諸先輩方や会員の皆様のご期待に沿えるよう努力してまいる所存です。宜しくお願い申し上げます。

 

先の大戦に敗れて荒廃した国土から今日を創りあげた力は国民全体の努力によるものではありますが、その陰に復興の原動力となった工業を支えたエネルギーの確保、安定供給が有ったことを見逃してはなりません。
 エネルギーの安定供給は、ただ工業界、産業界のためのものだけではありません。エネルギーは、生きとし生けるもの全てが使用してその営を支えるものですから、その確保は種の発展存続を支配するものでもあります。それは私達人類が狩猟、農耕、工業とエネルギーの安定確保手段を向上させることによって、人口を飛躍的に増加させた歴史的事実からも明らかであります。エネルギーの本質とは実にここにあります。(SNWの設立母体である「エネルギー問題に発言する会」の設立趣意書より)

以前ある大学で学生から「先生、原子力は結局必要悪ではありませんか?」と尋ねられました。「原子力は必要悪!」その通りです。これをさらに敷衍すれば「科学技術は必要悪」になります。科学技術に良い悪いはありません。これは使う側、人間側の問題です。科学技術は少なからず光と陰があります。原子力はこのコントラストがきついのです。ただし、これは原子力に限ったことではありません。AIや遺伝子工学など未来技術はすべからくそのようなもので、原子力を特別視してはいけません。
  工学は失敗学であり、経験学です。失敗を認めない社会には進歩はありません。また、文明は不可逆です。あったものをなかったことにはできません。
 21世紀を生きるにはそのような環境、即ち、これからますます巨大な科学技術を扱わざるを得ない環境、社会に進むことを自覚することです。
 人間の飽くなき好奇心が科学技術を発展させてきました。多分この人類の営みが消えることはないでしょう。そして、人類は自ら作った科学技術によって、今までは幾度か壁を破って進んで来ました。どこまでこの不可逆な道が続くのか分かりませんが、人類は永遠ではないでしょう。成長の限界は必ずあると思います。
 生きている限りリスクはあります。死んで初めて絶対安全が訪れるのです。原子力にはリスクがあります。原子力を失った場合にもリスクがあります。それを冷静に比較衡量する力量が21世紀に生きる諸氏に求められています。そしてそのリスクがどの程度のものであるかの認識を共有し、リスクミニマムを求めながらもリスクとともに生きてゆく覚悟を決めてこそ成熟した大人の社会というものでしょう。

21世紀を生き抜くことは大変だと思います。我々の時代は貧しかったが、敗戦から立ち直るという右肩上がりのある意味単純な時代だったのかもしれません。飽和しきったこの日本、今まで守られていた米国の傘も破れ傘になるでしょう。日本は人口減少、財政赤字、技術力低下に悩んでいます。2050年にはGDPで世界10位という悲観的シナリオもあります。日本はこれからも一流国を目指すのか、二流国で甘んじるのか、次世代を担う者たちの問題です。
 サイエンスリテラシー、メディアリテラシーに磨きをかけて決して教条主義に陥ることなく、自分の頭で考えること、それが我が国に残された道であることを伝えていきたいと思っています。

以上
これまでの会長挨拶
坪谷隆夫会長(2021/6/17~2024/6/20)
石井正則会長退任挨拶(2018/5/17~2021/6/17)
河原暲会長(2016/5/18~2018/5/17)
小川博巳会長(2014/5/15~2016/5/18)