日本原子力学会
本文へジャンプ
核不拡散ニュース





<核セキュリティサミットの開催>
                                              平成22年5月11日掲載
[概要]
 米国オバマ大統領が主導する核セキュリティサミットが、47ヶ国3国際機関(うち、37ヶ国から首脳)が参加し、2010年4月12-13日にワシントンD.C.において開催された。サミットでは、核セキュリティ向上のための国内措置・国際措置、核セキュリティにおけるIAEAの役割等について活発な議論が行われ、(1) 核物質や原子力施設の管理体制の強化、(2) 高濃縮のウラン・プルトニウムの特別な管理、(3) 今後4年以内の国際的管理体制の確立、を内容とするコミュニケおよび作業計画を採択した。日本は、アジアの核セキュリティ強化のための「総合支援センター」の設置等、4点の協力措置を表明した。本サミットは、原子力を積極的に利用している各国の首脳レベルが一堂に参集し、核セキュリティの重要性を改めて確認するとともに、その強化を推進するための行動計画を立案した点に意義がある。次回の核セキュリティサミットは、2年後の2012年に韓国で開催予定である。

[背景・経緯]
 原子力の平和利用を推進するため、国家による核物質の兵器転用防止を目的に、各国がIAEAとの間で締結した保障措置協定や追加議定書に基づく封じ込め・監視・査察等を通じて、厳格な核物質の管理がなされている。一方、2001年に米国で発生した9.11同時多発テロを契機に、テロリスト等非国家主体による核物質の盗取・散布、施設の破壊等いわゆる核テロリズムの懸念が高まった。これを受け、各国に厳格な輸出管理を求めた国連安保理決議1540の採択(2004年4月)、核テロ防止条約の発効(2007年7月)、改正核物質防護条約の採択(2005年7月)が行われるなど、核テロ防止のための国際的な取組みが推進されてきた。IAEAも、核物質防護に関する勧告INFCIRC/225/Rev.4 Corrected (2001年秋)に加え、核セキュリティの指針を定めた核セキュリティシリーズ文書を発行し、加盟国の取組みを支援している。こうした中で、米国オバマ大統領が、「核のない世界の実現を呼びかけたプラハ演説(2009年4月5日)」において、国際的な核セキュリティ強化の一層の推進のための核セキュリティに関するグローバルサミットの開催を表明したことを端緒に、本サミットの開催が企画された。

[サミットの内容]
 サミット参加の47ヶ国・3機関の地域別内訳は、アジア12ヶ国、欧州18ヶ国、北中南米6ヶ国、オセアニア2ヶ国、中東4ヶ国、アフリカ5ヶ国、及び国連、IAEA、欧州委員会である。NPT上の5つの核兵器国に加え、NPT非締約国であるインド・パキスタン・イスラエルからも首脳・閣僚クラスの代表が出席するなど、主要国が一堂に会することとなった(イラン・北朝鮮・シリアは核開発問題の当事国との理由から会議に招聘されていない)。2日間に渡る会議において、各国から核セキュリティ強化に向けた取組みの表明、国内措置・国際措置およびIAEAの役割等について意見交換が行われた。最後に、核テロ防止に向けた核物質の国際的な管理体制の確立を目指すとしたコミュニケと、それを補強するため各国が自発的に実施する作業計画を採択して閉幕した。

コミュニケ(骨子)
- 核テロは国際安全保障への最も挑戦的な脅威の一つ
- 4年以内に全ての脆弱な核物質の管理を徹底するとしたオバマ大統領の呼びかけに参加
- 効果的な核セキュリティの維持は、国家の基本的な責任
- 核セキュリティの向上のため、国際社会の協調と必要に応じた支援要請・提供
- 高濃縮ウランと分離プルトニウムの管理の徹底、及び高濃縮ウランの低濃縮化
- 既存の国際約束の完全履行と、未参加の国際約束への早期加入
- 核テロ防止条約及び核物質防護条約の普遍化、改正核物質防護条約の締結促進
- IAEAの重要な役割の再確認、IAEAの核セキュリティ活動の資源を確保
- 国連及び核テロ対抗グローバル・イニシアティブ等の貢献を認識
- キャパシティ・ビルディング及び技術開発のための国際協力
- 核物質の不正取引防止のための協力、核検知等の情報共有
- 核物質防護・計量管理、及びセキュリティ文化尊重のための原子力産業界との協働
- 原子力平和利用の権利を侵害しない核セキュリティの実施
- 放射線源の管理の奨励
- 国際協力と各国の自助努力を通じた核セキュリティ強化の促進

[我が国の貢献]
 鳩山総理は、核テロ防止に貢献するためのイニシアティブとして、以下の4点の協力措置を表明した(これに際し、日本代表団は各国代表団に対し、これらの協力措置をナショナル・ステートメントとして配布)。

i) アジアの核セキュリティ強化のための「総合支援センター」の設置
 本年、(独)日本原子力研究開発機構に、アジア諸国を始めとする各国の核セキュリティ強化のためのセンター(「アジア核不拡散・核セキュリティ総合支援センター(仮称)」)を設置し、人材育成、キャパシティ・ビルディング、人的ネットワーク構築に貢献
ii) 核物質の測定、検知及び核鑑識に係る技術開発
 核物質計量管理の高度化に資する測定技術や、不正取引等された核物質の起源の特定に資する核検知・核鑑識技術の開発に関し、日米で研究協力を実施し、今後、3年後を目途に、より正確で厳格な核物質の検知・鑑識技術を確立し、国際社会と共有することにより、国際社会に対して一層貢献
iii) IAEA核セキュリティ事業への貢献
 IAEAの核セキュリティ事業に対する一層の財政的・人的貢献のため、当面、IAEAと協力して、計610万ドルの支援事業の実施を検討すると共に、IAEAに専門家を派遣
iv) 世界核セキュリティ協会(WINS)会合の本邦開催
 核セキュリティの重要性についての産業界の認識の向上に貢献すべく、ベスト・プラクティスの共有のため、WINSの国際会議を本年中に日本で開催

[総合支援センターの設立の背景]
 (独)日本原子力研究開発機構は、これまでにベトナム・タイ・インドネシア等、アジアの新規原子力発電導入国に対して核物質の計量管理制度や関連法規等の国内核不拡散体制の整備を支援する活動を行ってきている。1996年よりほぼ毎年IAEAに協力してアジア地域における保障措置トレーニングコースを東海サイトにおいて開催し、のべ200人に上るアジア各国からの研修生を受入れてきた。加えて、原子力事業者として、自らが所有する施設に対する国、およびIAEAによる保障措置の受入れ、プルトニウム等の核物質の輸送・防護、等の実績を有している。
 (独)日本原子力研究開発機構は、これらの核不拡散・核セキュリティ分野における実績・知見を踏まえ国内外の関係機関と連携・協力のもと、同センターを通じて新興国の人材育成・基盤支援を行っていく。

[NEI核セキュリティ会議]
 サミット閉幕の翌14日、産業界が政府とともに推進するアクションプランの第1段階のための会議として、NEI(原子力産業界)主催により原子力産業界の首脳を集めワシントンD.C.で開かれた。産業界からの200人に上る首脳をはじめ、米国からジョー・バイデン副大統領、エネルギー省(DOE)スティーブン・チュー長官、29ヶ国からエネルギー関連の政府担当者および非政府組織の専門家が参加した(日本からは、政府関係者、産業界関係者に加え、当原子力機構の岡田漱平理事が参加)。サミットのコミュニケで表明された「原子力産業界との協働」を受け、核物質防護・計量管理・核セキュリティ文化の強化、高濃縮ウランの低濃縮化、核セキュリティに関する国内規制の枠組みの強化に関する産業界の役割について議論。主な内容は次の通り。産業界は、原子力の利用を最大限に高めつつ、世界中の核物質のセキュリティを確保することが重要である。サミットのコミュニケで表明された原理を日々実践している産業界は、政府にベストプラクティスを提供する責務があると認識し、各国と協力して地球規模で安全・核セキュリティ・不拡散の強化に努めるべきである。特に、高濃縮ウラン・プルトニウム・他の核物質に関する世界的なセキュリティ強化を主要国とともに推進すべきである。

[用語解説]
(1)核テロ防止条約(核によるテロリズムの行為の防止に関する国際条約)
 殺傷及び物的損害を企図した放射性物質、または核爆発装置等の所持・使用等の行為の犯罪化、及び犯人の処罰・引き渡し協力等について規定したもの。2007年7月発効、我が国は同年8月締結、本年4月19日現在 署名115ヶ国、批准65ヶ国

(2)改正核物質防護条約
 改正前の核物質防護条約における「国際輸送中の核物質に対する防護措置」の規定に加え、「原子力施設や平和目的に使用される核物質の国内における使用・貯蔵・輸送に関する核物質防護、および核物質や原子力施設に対する妨害破壊行為の犯罪化」について規定したもの。2005年7月、「改正案の検討及び採択のための会議」(ウィーン)においてコンセンサスで採択されたが、発効要件(核物質防護条約締約国の2/3の締約:95ヶ国)を満たさない(現在締約33ヶ国)ため未発効。

(3)核鑑識
 核燃料中に含まれる核物質、あるいは不純物の形態や組成を分析・同定し、その核燃料の原産地、加工工場等を特定する技術。これにより、核物質の密輸や不法な核兵器開発について、問題の発生源を特定するとともに、核密輸・盗取の抑止にもつながると期待される。昨年11月に表明された「核兵器のない世界」へ向けた日米共同ステートメントを受け、米国DOE/国家核安全保障庁(NNSA)と文部科学省が本年2月、核鑑識等に関する技術協力について協議を開始した。

(4)世界核セキュリティ協会(World Institute for Nuclear Security: WINS)
 核物質及び核兵器をテロリストの手から守るための新たな国際組織として、核物質管理学会(INMM)と核脅威イニシアティブ(NTI)が中心となって2008年9月に設立。原子力発電所等の企業や機関の核セキュリティ関係者が参加する国際的なフォーラムを提供し、情報交換、ピアレビュー等を通じた核セキュリティのレベルの維持・向上を図ることを目的としている。

[参考資料]
・外務省HP
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kaku_secu/2010/index.html
・米国国務省HP
http://www.state.gov/nuclearsummit/index.htm
・国連HP
http://untreaty.un.org/cod/avl/ha/icsant/icsant.html
・NEI-HP
http://www.nei.org/newsandevents/nei-brings-leaders-together-to-discuss-industry-role-in-nuclear-security