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技術倫理

4.技術者特有の倫理

4章 技術に携わる者に求められる倫理
4.1 技術に携わる者は、その「行為」に「責任」をもとう!
4.2 何を学べばいいんだろう?

4.1 技術に携わる者は、その「行為」に「責任」をもとう!
技術の持つ影響力が大きくなった結果、技術者には一般の社会人に比べてより大きな責任を持つことが要請されている事情は3-1 で述べた通りです。技術開発の結果生み出される製品が、思わぬ副作用を生じた結果によってユーザーや周囲の人に被害がもたらされた場合に、技術者が責任を問われることは最近では珍しくありません。のこぎりを作った職人さんが、怪我をしたユーザーから責任を追及されることはまずないでしょう。しかし電動のこぎりが予期しない状況で不意に作動した結果としてユーザーが怪我をした場合には、賠償を要求されるのが普通なのです。

技術成果物の複雑さや発展段階に応じて、ユーザーと技術者の責任分担範囲が変わるのは自然な帰結です。数十年前にマニュアル変速の自動車で間違ってバックにギアを入れた結果事故が起こった場合には、運転者の責任と見なされましたが、最近の自動変速の自動車では、パーキンングレンジにギアを入れ、しかもブレーキを踏んでいないとバックに入れられないようなインターロックが組み込まれた設計が多く採用されています。これも技術者側がより大きな責任を引き受けている実例です。PL法に代表されるような注意書きの表示要請も、技術者側の事前配慮を強く要求する社会の姿勢に応えてなされているのです。

原子力のように社会的な影響力の大きい技術に関わる技術者は、特にこの点を強く意識すべきではないでしょうか。もんじゅのナトリウム漏れは、結果として日本の高速増殖炉技術開発を10年以上遅らしています。JCO事故は、原子力安全に関する社会の信頼を大きく損ない、その後の原子力に関する社会的合意形成に大きな影響をもたらしました。多数の原子力発電所が安全確認のため運転停止、安全点検を受け入れなければなかった東京電力の不祥事は、プルサーマルなどの受け入れに大きな障害となっただけでなく、大規模停電の可能性増大や老朽化した火力発電所の再投入で、国民生活に余分なリスクをもたらしています。

技術者が自己の行為に責任を持つことの必要性は原子力技術において、特に大きいのです。

4.2 何を学べばいいんだろう?
技術倫理を学ぼうと思っても何をどう学ぶべきなのか見当をつけられない方も多いかも知れません。技術倫理に対する関心が歴史的には高くなかったわが国でも、日本技術者教育認定機構 (Japan Accreditation Board for Engineering Education; JABEE)が工学系の大学教育機関に対して技術倫理教育の必要性を明示したり、日本技術士会の積極的な取り組みや技術士法の改正などより、技術倫理に対する関心は着実に広がっています。このため優れた教科書や解説書が相当数、刊行されています。教科書については分野の相性やスタイルの好みもあるので一概には言えませんが、以下の書籍はいずれも高い評価を得ていると思います。読みやすいと感じたものから目を通されること、理論よりは先ず事例から入られることをお勧めします。

1.科学技術者の倫理 その考え方と事例、 Charles E. Harris 他著、(社)日本技術士会 訳編、丸善
2.技術倫理1、 C. Whitbeck 著、札野・飯野訳、みすず書房
3.技術者の倫理入門、杉本泰治・高城重厚著、丸善
4.はじめての工学倫理、齊藤了文監修、昭和堂
5.工学倫理入門、R. Schinzinger, M. W. Martin 著、西原英晃監訳、丸善
6.誇り高い技術者になろう‐工学倫理ノススメ‐、黒田光太郎・戸田山和久・伊勢田哲治編、名古屋大学出版会

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