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技術倫理

1.倫理とは

1章 倫理って何だろう?
1.1 辞書で引いてみました
1.2 みんなのイメージするものは?
1.3 「倫理」とは何か


1.1 辞書で引いてみました
この種の解説の常套手段ではありますが、まず辞書で「倫理」の意味を調べてみました。

広辞苑によれば倫理とは「人として守るべき道、道徳」という説明がされています。英語の代表的な辞書では「science of conduct(=行動の科学)」という表現もなされています。また倫理の教科書としてよく知られたもの(例:C.Whitbeck著、札野、飯野訳:技術倫理1)の中には倫理と道徳を区別せずに使う立場をとっているものもあります。

いずれにせよ倫理が道徳と密接に関係していることは確かなようですが、ここではあまり深入りはしないで先に進みましょう。なお技術倫理という語句に関しては後述しますが、簡単に言えば、単なる「倫理」に、さらに「技術に携わる専門的職業人として守るべき道」という側面が入ってくるということだけ、ここで述べておきます。

1.2 みんなのイメージするものは?
上に述べた定義と離れて、倫理という言葉に接したときに、平均的な日本人はどのように感じるのでしょうか。

ある年代以上の方々には、戦前の修身教育が真っ先に浮かばれる方もあるようです。つまり、仁、義、忠、孝など人間が身に付けるべき「徳目」の教えです。この「徳目」は決してすべてが悪いものではないのですが、国への忠誠について等の問題点があり、このような「徳目」への記憶や反応が倫理に対して否定的な反発を引き起こす傾向があります。さらに戦前教育の記憶は持たない世代にとっても、「倫理」は、きれいごとであり、建前としての正しさや、正しすぎて「お堅い」規範、時には偽善的な規範としての印象を伴うように思えます。人によっては、欧米的・キリスト教的概念であるという印象をもつことも多いかもしれません。

いずれにせよ、建前としては大事であるけれど、本音ではあまり歓迎されず親しまれないというイメージがありそうです。

1.3 倫理について考えられてきたことは?
「徳目」のような歴史的背景も加わり、日本人にとっては、倫理の重要性は否定しないけれども、だからといって倫理が扱うような内容は、外から云々されるものではないという見方が支配的なように思われます。
それゆえに、原子力学会での「倫理規程制定」という動きに対しては

倫理は自分一人の胸の中にある規範であって、自分の良心に照らして守るべきことを守ればよい
学会が先に立ってそんな規程を作るなどは内面への干渉である
といった反対意見がしばしば聞かれたのでしょう。

しかし、技術者には、個人的な努力や規範重視だけでは必ずしも解決できない問題に直面する場合が、あるのではないでしょうか。

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