日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

学生とシニアの対話
in 佐賀大学2025(第8回)報告書

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)  世話役:山崎智英
佐賀大学 本庄キャンパス
資源エネルギー概論の授業の一環として学生とシニアの対話を実施
機械エネルギー工学コース3,4年生対象選択科目「資源エネルギー概論」の授業(基調講演1コマ、対話会2コマ)で実施した。対話の導入として、「原子力発電について~固有安全性、核燃料サイクル・廃棄物処理処分、核融合開発の現状と展望~」について基調講演を行った。
対話を行った学生から、講演を聞く機会は何度かあったが、実際に対話を行ったことは初めてだったので貴重な機会だった。技術者との対話の機会が増えることを望むとの感想を頂いたことから、この対話が学生に役立ったのではないかと感じた。

1.講演と対話会の概要

(1)日時

基調講演:2025年11月14日(金)13:00~14:30
対話会:2025年12月12日(金)13:00~16:00

(2)場所

佐賀大学本庄キャンパス

(3)参加者

大学側世話役の先生:理工学部理工学科機械エネルギー工学コース 光武雄一教授
参加学生:「資源エネルギー概論」受講 基調講演:26名、対話会:27名
参加シニア:7名(古藤健司、石隈和雄、田中治邦、幸浩子、井上政春、廣瀬友紀、山崎智英)

(4)基調講演

テーマ
「原子力発電について~固有安全性、核燃料サイクル・廃棄物処理処分、核融合開発の現状と展望~
講師:古藤健司
講演概要
原子力発電、核燃料サイクル、核融合についての基礎知識を与えることで、対話会を活性化するための事前質問のきっかけを与え、対話会に繋げた。

2.対話会の詳細

(1)グループ対話の概要

1)Aグループ
テーマ
原子力発電所の新規制基準への対応と安全性、再稼働に対する合意形成への課題
参加者
学 生:学 生:10名(3年生5名、4年生5名)、2名は途中退出
シニア:山崎智英、井上政春、廣瀬友紀
対話内容
シニア及び学生の自己紹介の後、事前質問の中でも「安全性」、「地元理解」に関する質問が多くあり、回答に対する疑問についての確認、補足を行った。また、「原子力発電は安全と思うか」の質問に対して、多くの学生からは、発電所から離れているから、不安ではないという声が聞かれた。
本グループでは、原子力発電所の理解を深めていくためには、どのような活動が望まれるかの意見を出し合い、導き出された結論は以下の通り。
①九州の原子力発電所は、津波による影響を受けにくい地形にあるが、知識不足や、平常時の状態が知られていない面が多く、それがリスク認知にも影響している。
②理解促進のためには、有名人とのコラボ発信による興味喚起、また、出前授業や体験型教育により、理解を深化させていく試みが有効である。さらにリアルタイムでの公開、地震時の即座の状況発信による透明性の高さが信頼性に直結する。
なお、電力会社や、自治体がホームページで放射線モニタリングの状況を公開していることを初めて知ったという学生がほとんどだった。
2)Bグループ
テーマ
核融合炉開発の国際的取り組みと事業化に向けた課題
参加者
学 生:8名(3年生6名、4年生2名)
シニア:シニア:古藤健司、石隈和雄
対話内容
学生側の班長と書記が既に決まっていたので、最初に全員が自己紹介(名前、研究分野など)をし、事前質問の中から項目を絞って意見交換した。 核融合炉開発の進捗状況、経済効果などの現状理解と、課題となっている事項、特に、材料、トリチウム管理、国際協力の知的財産、規格基準、開発における国と民間の役割など、事前質問に対する深掘りを行い、理解を確認しあった。
学生の関心事と対話の後の発表には
①安全性と社会的受容性
核融合は核暴走などが無く安全とされているが、一般の人が安心して受け容れるためには、安全性についてのアニメーションなど分かりやすい情報の発信や小学校での教育機会を作ることなどが挙げられた。
②ITERなど国際協力について
核融合がITERなど国際協力によって開発されているが、特許・知的財産などの保護と同時に、国際規格基準の策定が重要であること、民間企業と研究機関の役割などにも留意すべきとの意見があった。
③学生の感想として、次のように発表された。
核融合炉は開発段階なので、もっと国を挙げて研究費を投じていく必要があると思う。 トリチウムの漏洩防止技術など確立された技術もあり、事業化は少しずつ進んでいる 安全性や必要性を一般の人にも理解されるよう説明し、事業化につなげることが必要。 核融合炉は安全性を確保してあるにもかかわらずマイナスなイメージが多いのでそこを解決したいと思った。
3)Cグループ
テーマ
高レベル放射性廃棄物の最終処分~国内外における現状と課題~
参加者
学 生:9名(3年生9名)、2名は途中退出
シニア:幸浩子、田中治邦
対話内容
基調講演、その後の事前質問と回答が行われているため、参加学生の知識は議論に必要なレベルに上がっていると期待でき、Cグループではこれに基づく学生の考察、意見の形成を促進するために「みゆカフェ」方式を採用した。1時間半以上にわたる作業の結果、学生が出した意見は膨大な量であり、とても全てを拾うことはできないが、最終的には以下の3つのテーマに議論が集中し、そこで出された意見の中から興味深いものを上げておく。
①災害が起こった際のリスクと対策
そもそもリスクのある場所を選定しなければよい。 日本にリスクのない場所など存在しないのではないか。 ゼロリスクは有り得ず、そのリスクが耐えられるものか否かで判断すべき。 水害、地震、人災などそれぞれに対応するマニュアルが必要。 予想可能なリスクに耐えられれば、あとはどのようにして国民・住民を納得させるかの問題。
②処分場は分散型と集中型のどちらが望ましいか
集中型にこだわると容量がショートした時に困るのではないか。 災害時の影響と住民理解獲得のためには分散型にすべきではないか。 土地の確保や管理のし易さ、コストを考えると集中型がよいのではないか。 自治体の問題ではなく国のスケールで考えるべきこと。 事故時の被害(コスト)と通常時の維持管理コストの比較で決めるべき。 国民理解よりコスト重視の考えは残念だが、一方税金の使い方は大切。
③技術(安全性)と感情(理解)の擦り合わせ
若年層の理解は高く、高年齢層への対策が必要。 義務教育の中に原子力と廃棄物の問題をいれるべき。 現場見学の機会を増やすべき。 少数の反対意見を多数決で切り捨てる決断も必要。 電力消費地からの感謝は重要だが、お金が動くことも必要。
これらの議論を通して、学生達は「解決への模索案」との位置づけで以下のように結論を整理している。
①小中学校(義務教育)での学習項目に原子力発電を組み込む。
②原子力関係施設への見学により、「知る」機会を創出する。
③少数意見を切り捨てる考えも大切。

補足;「みゆカフェ」とは

みゆカフェとは、SNW会員であり「エネルギー環境教育実践チーム」代表の幸浩子氏が開発した、ブレインストーミング型のアクティブラーニング手法である。参加者は、ポスター用紙ごとに設定されたテーマに対し、意見や疑問、連想した考えや言葉などを自由に書き込み、それらに他者が反応することで、対話と思考を連鎖的に深めていく。発言が苦手な参加者であっても「書く」ことで意見を表明でき、考えが可視化されることで、参加者同士の気づきや共感、新たな問いが自然に生まれる点が特徴である。
本手法は、特定の正解や結論、合意形成を目的とせず、多様な視点を尊重しながら自由な思考と対話の循環を重視する点に特徴がある。 今回のSNWでの実践では、参加者一人ひとりに模造紙(約39cm×51cm)を配布し、自席のテーブルに貼付した上で、各自が議論したいテーマを中央に記入した。一定時間ごとに全員が同一方向に席を移動し、移動先のテーマについて考察や疑問、意見を書き加える作業を繰り返すことで、全てのテーマに対する多様な意見が集積された。特に、他者の記述に触れることで自身の考えを見直し、思考を更新する場面が多く見られたことは特筆すべき成果と言える。
みゆカフェは、発言量や議論の巧拙に左右されがちな一般的な討論形式とは異なり、全員が必ず思考に参加し、考えの過程そのものを共有できる点に独自性がある。

3.学生アンケートの概要

(1)参加学生について

アンケート回答者は22名。(回収率:81%、途中退席者を除く回収率96%)
10名が進学、12名が就職の予定。

(2)対話会について

基調講演の満足度は、「とても満足」が66.7%、「ある程度満足」が33.3%。説明が分かり難かった、内容が難しかった、説明時間・質問不足との意見有。基調講演以外で聞きたいものとして、「再エネ」「水力」「核融合」等との回答有り。
対話会の満足度は、「とても満足」が72.7%、「ある程度満足」が27.3%。対話会の必要性は、「非常にある」が68.2%、「ややある」が27.3%、「あまりない」が4.5%であった。また、友達や後輩に対話会への参加を勧めるかについては、「勧めたい」が77.3%、「どちらともいえない」が18.2%、「勧めたいとは思わない」が4.5%であった。

(3)意識調査について

放射線・放射能については、「一定のレベルまでは恐れる必要はない」が95.5%、「レベルに関係なく怖い」が4.5%であった。
原子力については、「再稼働を進めるべき」が54.5%、「新増設、リプレースを進めるべき」が27.3%、「2030年度目標(20~22%)を達成すべき」が18.2%であった。
再エネについては、「利用拡大を進めるべき」が88.9%、「利用は抑制的にすべき(天候に左右される)」が11.1%であった。
脱炭素化に向けた電源のあり方については、「原子力発電と火力発電を最小とし再エネ中心が望ましい」が31.8%、「火力発電を最小とし原子力発電と再エネの組み合わせ」が40.9%、「原子力発電、再エネ、火力発電をほぼ均等」が27.3%であった。
地層処分について関心や興味があるについては、「大いにある」が27.3%、「少しある」が50.0%、「あまりない」が9.1%、「ない」が13.6%であった。
アンケート結果の詳細は、別添資料を参照ください。

4.別添資料リスト

基調講演資料:原子力発電について~固有安全性、核燃料サイクル・廃棄物処理処分、核融合開発の現状と展望~
事後アンケート

(報告書作成:山崎智英 2025年12月24日)