学生とシニアの対話
in 松江工業高等専門学校2025年度(第4回) 報告書
日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW) 世話役 : 松永健一
報告書作成 令和7年7月29日
《松江工業高等専門学校正門》
授業の一環として学生とシニアの4回目の対話会を対面で開催
対話会は松江高専の「発変電工学」授業の一環。基調講演と対話会を電気情報工学科5年30名の参加により開催。基調講演は、松江高専における講演の画像を宇部高専でも利用することにより2校共同で行った。対話会の前に「学生質問に対するシニア回答」を学生に送付した後に、当日に基調講演、対話会と学生発表を行った。対話テーマは「世界のエネルギー政策の情勢と最近の変化」「データセンターなどの将来の電力需要と電力ネットワークの課題」「将来の電力需要に対する再エネ主力電源化と洋上風力発電の課題」「カーボンニュートラルへ向けての再エネ電力の安定化、電気料金と原子力の役割」「将来の電力需要に影響する新型原子炉の国内外の動向と役割」である。
1.講演と対話会の概要
(1)日時
- 基調講演・対話会:令和7年6月24日(火) 9:00~15:00
(2)場所と対面方式
- 松江工業高等専門学校 対面
(3)参加者
- 高専側世話役の先生
箕田充志:電気情報工学科教授
- 参加学生
電気情報工学科5年、基調講演・対話会:5グループ、30名
- 参加シニア:7名 櫻井三紀夫、古藤健司、山崎智英、大西祥作、鈴木成光、田中治邦、
松永健一(世話役)
(4)基調講演
- テーマ1
- 電気料金と原子力発電 ~電源選択別電気料金制の試案~
- 講師:櫻井三紀夫
- テーマ2
- 電気代の内訳を考えてみよう!
- 講師:大西祥作
- 講演概要:
- 基調講演はテーマ1とテーマ2からなる。テーマ1では、電気料金の基礎知識、原発再稼働の有無と料金への影響、料金と産業競争力の関係など、テーマ2では、再エネ促進賦課金など電気代の内訳とその内容、中国・関西など地方ごとに料金差が生まれる理由などの説明があった。学生は「電気料金(再エネ促進賦課金、燃料費賦課金を含む)」を事前調査し自分事として講演に参加した。学生は、電気代を理解し身近に感じられたものと思われる。なお、テーマ1の講演は録画して宇部高専対話会でも利用した。
2.対話会の詳細
(1)学生質問とシニア回答の概要
- 学生からの質問に対するシニアの回答は、対話会の開催前に学生に送付された。
(2)グループ対話の概要
- ①Aグループ(報告者:古藤健司)
- 1)テーマ:世界のエネルギー政策の情勢と最近の変化
- 2)参加者
- 学 生:5年生7名
- シニア:古藤健司
- 3)主な対話内容
- シニアと参加学生の自己紹介(内定進路等)を行った後、事前質問・回答を中心として対話を行った。主たる事前質問:
-
〇運輸業界での脱炭素化の傾向と、脱炭素化をより加速させるためにはどのような政策や技術革新が必要だろうか?
-
〇化石燃料は完全に脱却すべきか?
-
〇中国や米国はどのようなエネルギー政策を進めているのか?1月米国がパリ協定から離脱したことにより、国際的な気候変動対策は今後どのような影響を受けるだろうか?
- これらについて、シニアの回答の補足説明を行った。
運輸業界の脱炭素化:電気自動車や水素自動車の大型トラックへの導入が考えられるが、その電源や水素製造において石炭火力発電や石炭・石油・メタン由来の水素であれば意味をなさない。電気自動車は結局「石炭自動車」や水素自動車が「メタン自動車」であっては無意味である。大量輸送の航空運輸ではバイオ燃料の導入も始まったが主力にはなりえない。従って、運輸業界では経済的にも化石由来の低分子炭化水素燃料は不可欠で、再生資源由来の燃料を含めたベストミックスを常に検討していく必要があろう。
中国の総発電の62%が石炭火力であり、二酸化炭素排出量を見ると世界の32.1%、米国は13.6%を占めている。中国では水力・風力・太陽光発電や原子力発電の開発が積極的に進められているが、総発電量:母数が大きいので、2015年の国連気候変動枠組み条約締約国際会議(COP21)で採択された「パリ協定:2020年以降の温室効果ガス削減に関する国際的取り決め」の努力目標を達成するのは現実的に困難であり2060年頃までは石炭火力発電に頼ることを宣言している。米国も同様の状況にある。つまり、世界の気候変動対策の効果は、二酸化炭素排出大国である中国や米国などの国策に大いに依存し左右されることを認識した。
グループ対話では学生諸君の発言を引き出すのに苦労したが、議論の内容をまとめる段階では、クラスの団結力を発揮して協議分担して段取り良く整理できた。
- ②Bグループ(報告者:松永健一)
- 1)テーマ:データセンターなどの将来の電力需要と電力ネットワークの課題
- 2)参加者
- 学 生:5年生5名
- シニア:松永健一
- 3)主な対話内容
- 始める前に、この対話に何を期待するかを確認した。学生は生成AIの時代に仕事をしていかなければならない。生成AIに対抗するためには、情報の真偽を嗅ぎ分け、確かな情報を調査・分析して問題点を発見し、課題を設定して自ら解決策を提案できる能力が益々問われる。この対話は、その能力の訓練の場であり、学校以外に開かれた数少ない「自分の意見の検証」の場でもある、とシニアは提案した。異論はなかった。
- 冒頭、学生からの事前質問に関連する情報をミニレクチャー資料で15分程度説明した後、質問に対するシニア意見を述べ全員で意見交換を行った。
- 内容は、データセンターなどの将来の電力需要(急増傾向、省エネ技術の動向)、電力需要予測におけるエネルギー効率、データセンターの立地(地方への拡散、地域産業への影響)及び電力ネットワークの課題(再エネ主力電源化に伴う統合コストの増大)などであり、国のエネルギー政策(エネ基)の弱点・リスクについて議論した。学生には、新たな発見があったようである。
- ③Cグループ(報告者:大西祥作)
- 1)テーマ:将来の電力需要に対する再エネ主力電源化と洋上風力発電の課題
- 2)参加者
- 学 生:5年生6名(進路:就職5人、進学1人)
- シニア:大西祥作
- 3)主な対話内容
- 6人全員が、QA資料及びミニレク資料を読んでいないことが判明したのでまず、エネルギー及び再エネの基礎的知識を知ってもらうためにミニレク資料を丁寧に説明した。また、QA資料については、Cグループ員の出した質問を中心に回答を説明した。
- 途中であまりグループ演習をしたことがない事が分かった為、発表やまとめ等の役割を決めてから対話会を進めるようにアドバイスした。
- 事前質問に対する説明のあと、追加で質問を全員に出してもらい発表資料をまとめてもらった。尚、テーマが先生から与えられたためか、あまり熱量が感じられなかった点が残念である。
- 発表内容:対話のテーマを踏まえ、学生間で協議・分担し「再エネ主電力化について(太陽電池)」と「洋上風力発電の課題」というテーマで発表資料を作り上げ、発表した。結果的に短時間での資料作成となったが、チームプレーで乗り切った。
- ④Dグループ(報告者:山崎智英)
- 1)テーマ:カーボンニュートラルへ向けての再エネ電力の安定化、電力料金と原子力の役割
- 2)参加者
- 学 生:5年生6名
- シニア:櫻井三紀夫、山崎智英
- 3)主な対話内容
- 自己紹介の後、学生からの事前質問に対する回答を中心に意見交換を行った。
- 学生との対話内容の要約は以下のとおり。
- (1)変動再エネの主力電力化に伴う、電力系統の安定化について議論を行った。電力系統安定のため、余った電力の融通について、関門海峡、津軽海峡、50-60Hz変換などの送電容量拡大整備が行われていることを確認した。
- (2)電力系統安定化のための費用として、6~7兆円が必要なことを確認した。
- (3)更なる太陽光導入の可能性について議論を行った。これ以上の既存太陽光の導入は、設置場所等の観点から難しいのではないかとの意見があった。
- (4)次世代の再エネとして、ペロブスカイト太陽電池、浮体式洋上風力が期待されていることを確認した。それぞれの課題・問題点についても議論し、解決すべき挑戦的なテーマを認識した。
- ⑤Eグループ(報告者:鈴木成光)
- 1)テーマ:将来の電力需要に影響する新型原子炉の国内外の動向と役割
- 2)参加者
- 学 生:5年生6名
- シニア:田中治邦、鈴木成光
- 3)主な対話内容
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(1)対話会の初めにシニアより、学生からの事前質問を踏まえて作成したミニレクチャー資料を使用して、新型原子炉の種類、特徴、開発の動向などについて説明し、学生とのやり取りを進めた。
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(2)基調講演を聴いた学生たちは、再エネの主要電源化には原子力発電の割合も第7次エネ基以上に拡大してバックアップする重要性を認識したようで、その視点から革新軽水炉、高速増殖炉、高温ガス炉、SMRについてやり取りした。
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(3)その結果、安全性、信頼性を革新的に強化した革新軽水炉の導入を推進するとともに、将来のウラン資源の逼迫に対応するため高速増殖炉の実証炉導入を着実に進める必要があるという、学生たちの取り纏めとなった。
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(4)また、既設軽水炉の再稼働がなかなか進まない状況のなか、原子力発電に対する国民の理解を深めることが重要との認識となり、次のとおり議論した。
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①原子力発電の安全性に加えて、放射線リスクに対する理解を広める。
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②小学校から放射能など原子力に関する教育を継続的に実施することにより、理解を深めることが出来るのではないか。
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③資源のない日本では、科学技術への取り組みが重要。科学的な視点が定着すれば、原子力の安全性や放射線リスクに対する合理的な理解が出来るだろう。
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3.学生アンケート結果の概要
(1)参加学生について
- 参加学生(30名)の内、83%が回答。
- 大半の学生が原子力系専攻以外。尚、2名が原子力系専攻と回答あり。
- 進路は2/3が就職、1/3が進学の予定。
(2)対話会について
- 基調講演の満足度は「とても満足」、「ある程度満足」を合わせて88%。やや不満、不満が12%あり。説明が分かりにくい、時間不足等の意見があり。基調講演以外で聞きたいものとして「他の発電方式と原子力発電の安全性などの比較」や「原子力の使い方」等が挙げられた。(4名から回答あり)。(4名から回答あり)
- 対話会の満足度は「とても満足」、「ある程度満足」を合わせて96%。今回の講演や対話会で「新しい知見が得られた」が64%、「マスコミ情報と講演や対話の情報に違いがあった」及び「自分の将来の参考となった」がそれぞれ4%、24%となった。尚、否定的な意見(新しい知見なし)も1名(4%)あり。
- 対話会の必要性は「非常にある」、「ややある」を合わせて96%であった。また、友達や後輩へ対話会への参加を薦めるかどうかについては、15名(60%)が「薦めたい」と回答し「どちらともいえない」、「薦めたいとは思わない」が36%、4%あった。対話会の満足度や必要性の割合と少し齟齬がある。これは昨年も同じ傾向であった。
(3)意識調査について
- 放射線、放射能については、「一定のレベルまでは恐れる必要はない」が92%であった。一方「怖い」が8%あり。
- 原子力発電については、「必要性を認識しており再稼働を進めるべき」が48%、「新設、リプレースを進めるべき」が16%あり、「2030年目標を達成すべき」は32%であった。昨年に比して再稼働肯定派が半減している。
- 再エネ発電については、「環境にやさしく拡大すべき」が64%、「天候に左右されるや自然環境破壊につながるので利用を抑制すべき」がそれぞれ20%、12%となった。
- カーボンニュートラルとエネルギーについては、「地球温暖化や脱炭素社会の実現に関心」は「大いにある」と「少しある」を合わせて92%の回答であった。尚、1名(3%)が、関心がないとの回答であった。
「興味や関心があるのはどの項目でしょうか?」については幅広く関心を示したが「温暖化メカニズム」、「温暖化の影響と対策」、「エネルギー資源の確保」及び「脱炭素化実現のためのコスト」が比較的多かった。
「日本の2050年脱炭素化社会の実現可能性」については、「実現するとは思えない」が36%、「相当いい所まで到達する」及び「わからない」がそれぞれ32%となった。
「脱炭素に向けた電源の在り方」については、「原子力発電と化石燃料発電を最小とし、再エネ中心が望ましい」と「化石燃料発電を最小とし原子力発電と再エネ発電の組み合わせが望ましい」がそれぞれ36%、「原子力発電、再エネ発電、化石燃料発電をほぼ均等に組み合わせることが望ましい」が16%となった。
- 高レベル廃棄物の最終処分については、「関心がある」と「少しある」を合わせて72%の回答であった。「近くに処分場の計画が起きたらどうするか」については40%が「反対しない」、20%が「反対する」、36%が「わからない」であった。「地層処分について興味や関心がある項目」については技術が76%、「制度」が20%、処分地の選定が16%であった。
4.別添資料リスト
(報告書作成:2025年7月29日)