日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

学生とシニアの対話in宮城教育大学 2022報告書(概要)

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)
             世話役:工藤 昭雄
報告書取り纏め:本田 一明
宮城教育大学キャンパス(2022年7月26日撮影)
学生とシニアが対面で充実した対話を実施することができた

宮城教育大学とは今回で5回目の対話会。新型コロナウイルスの影響で一昨年、昨年とWEB 方式(google meet)で行ったが、今回はコロナ騒動も一時的に静まった感があったことから、基調講演はWebで、また、対話会は3年ぶりに対面で行うことが出来、参加者とシニア双方とも相手をより身近に感じた、充実した対話会であった。
 今回は、教職を目指す学生18名が参加。大学側世話役である福田先生の講義時間(「自然科学の広がり」)を利用し、対話会を2日に分けて(1日目は基調講演及び対話テーマ概要説明、2日目は対話)実施した。
 対話会終了後のアンケートでは、知りたいこと、疑問に思っていたことを解決でき、技術や制度の背景についてシニアの考えを聞くことができた等、全員が満足とした結果であったものの、事前に聞きたいことは聞けたが1時間半では時間が足りなかったとの意見もあった。また、「もう少し話し合い形式にした方が意見交換し易い、P4C(philosophy for children)等。」との意見もあったことから、シニアからの一方的な説明にならないようにするために、シニアは「問いかける」ことから始めるなど、学生からの発言を引き出す工夫・努力を継続する必要性を感じた。

1.講演と対話会の概要

教職を目指す学生との対話を実施

対話会は大学側世話役である福田先生の講義時間(「自然科学の広がり」)を利用し、3グループ編成、各グループ1テーマで行い、7 月 19日(基調講演及び対話テーマ概要説明)及び7月26 日(Gr対話)の 2日に分けて実施した。 1日目は対話テーマの1項目である「ALPS 処理水の海洋放出について」を基調講演として実施し、これに続いて他の2つの対話テーマについて概要説明を行った。 2日目は学生とシニアを 3 グループに分け、各グループ(1)「カーボンニュー トラル問題」、(2)「トリチウムを含む処理水の海洋放出について」、(3)「放射性廃棄物処理処分」の テーマについて対話を行った。 なお、1日目の基調講演及び対話テーマ説明終了後、対話素材として学生に質問を依頼し、シニアから2日目の対話会前に回答を行ってGr対話に臨んだ。

(1)日時
7月19日(火)
16:15~17:20 : 講演(講師:西郷正雄)(Web)
17:20~18:00 : 対話テーマについての概要説明(Web)
なお、講演に先立ち、7月5日(火)にWeb接続テストを行った。
7月26日(火)
16:20~18:00: 対話会(面談)
(2)場所
7月19日(火):Web(Google Meet)
7月26日(火):宮城教育大学 物理学第一実験室、物理学第2実験室、理系第1実験室(仙台市青葉区荒巻字青葉)
(3)参加者
世話役の先生:宮城教育大学 理科教育講座  福田義之教授
参加学生:中学、高校教職志望の 2年生 20名(26日の対話は2名欠席。)
参加シニア:6名
シニアネットワーク連絡会:西郷正雄、後藤 廣、石川博久
シニアネットワーク東北:工藤昭雄(世話役)、高橋 実、本田一明
(4)講演
講演者:西郷正雄
講演題目:「ALPS 処理水 [トリチウムを含む処理水] の海洋放出について」
講演概要:トリチウム処理水の海洋放出については、一般の方々、特に福島周辺の漁民の方々にとっては、たとえ放出する処理水が基準値を大幅に満足された無害の水であっても、風評被害が避けられないと不安に思っている。 参加学生さん達に「安心して大丈夫である」と理解頂くべく、「放射性物質を含んだ汚染水とALPS処理水との違い」、「トリチウムについて」、「アルプス処理水の処分方法」、「アルプス処理水の海洋放出についての方針」、「海洋放出の工程」、及び「風評被害抑制」についての説明を行った。 なお、本内容は対話会第2Grのテーマでもある。
対話テーマ説明:講演に続き、次週7月26日に予定されている対話会の他のテーマである「カーボンニュートラル問題」及び「放射性廃棄物の処理処分」についても簡単に説明。続いて3つの各対話テーマについての事前質問を学生へ要請した。

2.対話会の詳細

(1)第1グループ(報告者:後藤 廣)

1)参加者
学生:7名。全員2年生(国語コース2名、社会コース1名、家庭科コース1名、理科コース1名、音楽コース1名、美術コース1名)
シニア:本田一明、後藤 廣
2)主な対話内容
テーマ:「カーボンニュートラル問題」
自己紹介の後、シニアが作成した対話資料と学生からの事前質問に対する回答書を手元に意見交換を行った。司会役は学生が担当した。
学生からの事前質問を要約すると以下の通り。
  1. ①カーボンニュートラル(CN)政策に関する各国の動向。
  2. ②CN実現のための方策とそれらの課題。2050年CN実現への見通し。
  3. ③温室効果ガスのCCS・CCUS技術の具体例。
  4. ④我が国のCO2排出量と世界における位置づけ。
  5. ⑤再生可能エネルギーの自然条件、社会制約、経済性からみた導入 ポテンシャル。
  6. ⑥原子力発電の再稼働に対する国民の賛否について。
上記の問題提起について学生とシニア間で以下のような対話が行われた。
  1. ①温暖化による異常気象を誰もが実感している。CNは困難なことかもしれないが達成に向け努力しなければならない。
  2. ②2015年のパリ協定では、今世紀後半にCNを達成すること等が合意されたが、何時迄に達成するかについては、各国の事情に委ねられている。2060年や2070年までと宣言している国々は、自らを発展途上国と位置づけ、先進国の2050年CN達成状況を窺う戦略をとっているように見える。
  3. ③再エネには、安定再エネの水力、地熱、バイオマスと、変動再エネの太陽光、風力がある。変動再エネの大量導入が期待されているが、日本の自然条件、社会的制約、及び、電力システムの安定性、経済性から、再エネ導入は40%程度が限界。
  4. ⑤太陽光、風力の導入比率を上げると、電力システムの安定性を確保するために、蓄電池やバックアップ電源としての火力、原子力が必要になる。蓄電池は高コストであるため、2050年CN達成のためには、再エネ、CCS・CCUS付火力、原子力のベストミックスを図る必要がある。
  5. ⑥エネルギーの消費量は経済規模と密接な関係がある。世界の80億人が日本人一人当たりと同等のエネルギーを消費すると、世界のエネルギー消費量は2倍程になる。原子力も、将来のエネルギー確保の一翼を担えるよう、小型モジュール炉等の次世代軽水炉、増殖炉、「地上に太陽を」と言われる核融合まで開発を継続すべき。
  6. ⑦原子力発電コストは、新規制基準で追加された安全対策費や放射性廃棄物処理費などを含めても、電源を電力システムに受け入れるコスト(総合コスト)を考慮すると再エネより安い。しかし、電力自由化で、初期投資の多い原子力の新設は敬遠されるかも知れない。
第1グループ代表の発表では、「CNは国や産業界が方策を立て実施するものとして第三者的な課題として捉えるのではなく、各個人の意識が大切なことであると、対話を通じて感じた。」との発言があった。

(2)グループ2(報告者:高橋 實)

1)参加者
学生:6名。 全員2年生(理科専攻4名、数学専攻1名、英語コミューニケーション専攻1名)
シニア:西郷正雄、高橋實
2)主な対話内容
テーマ:「トリチウムを含む処理水の海洋放出について」
最初に、シニア、学生諸君の簡単な自己紹介を行った。
事前質問回答書に従って、質疑応答、学生諸君によっては、基調講演内容をよく読み込んでいる人とそうでない人がいたようだ。また、質問によっては内容が漠然として、回答が難しいようなものもあり、具体性を持たすために、質問者に一人ずつ補足して頂いた。この過程で、質問者の側も、より自分の問題として捉え直す機会となったようだ。
主な意見、内容は以下の通り。
  1. ①トリチウム放出についての、科学的な安全性の根拠については、参加者皆さん一定の理解を示したようだ。
  2. ②風評被害については、賠償等の方針を理解しつつも、吹っ切れない物を感じている。
  3. ③風評被害を無くすため、一般国民、福島の地域住民、漁業関係者等への理解を深めるため、マスコミやSNS等を通じ、接触していくことが重要。関係する政府や東電などのHPに公開しても、積極的にアクセスしてくれないので、皆にはなかなか伝わらない。
  4. ④一般国民に理解を深めてもらうためには、放射線等にそれなりの関心を一般国民がもっていることが重要である。宮城教育大の学生は、先生の卵なので、教師になった時に生徒に放射線等に理解してもらう教育をすることが大切である。そこで、その方法をどうすれば良いか意見交換した。例えば、霧箱を使った見える化などが、生徒に関心を与えるのに良い。原子力発電所の見学も良い。
  5. ⑤参加者は全員2年生で、福島事故の時は小学3年生前後、中学では、若干の放射線教育を受けていたとのこと。ベクレル、シーベルトについては、教育を受けた記憶はあると言う人もいた。
  6. ⑥各国の放出基準値が異なり、福島で放出予定のトリチウム以上のトリチウムを自国では放出しているのに、福島での放出にクレームを付けるのはおかしい。
  7. ⑦参加者の中には、実際の原子力施設を見学したいという人もおり、シニア(高橋:元東北電力)から、近場の女川原子力発電所なら、対応できると思う旨述べた。また、対話会終了後、福田先生にも、要望があれば、対応する旨申し上げた。
  8. ⑧今回の対話で、トリチウム放出の科学的な根拠については、皆さんある程度、理解をされたように思うが、それぞれ今後のエネルギー問題を自分の問題として考え、社会の中にどう広め、対応していくか、また、教育者として、教育にどう取り入れていくか、今後の活動に期待したい。

(3)グループ3(報告者:石川博久)

1)参加者
学生:5名。数学専攻1名、技術専攻2名、理科教育2名(コロナのため2名欠席)
シニア:工藤昭雄、石川博久
2)主な対話内容
テーマ:「放射性廃棄物処理処分」
司会役はシニアが担当し、自己紹介から始めた。出身は宮城県内2名、宮城県外3名ですべて東北地方出身であり、東日本大震災及び福島第一原子力発電所の事故について身近に経験していた。
1週間前にオンラインで実施した本テーマに関する説明とそれに対する事前質問及び回答について、項目ごとに補足説明を実施した。
追加質問としては、長寿命核種の分離変換の目的について、廃棄物処分の方法を地層処分からもっと簡易な処分にすることかという問いがあったが、安全上隔離が必要な期間を短くする効果がまず期待されることをあげた。
次に、最終処分場を宮城県につくるとしたらどう思うかを質問した。1人を除いてほぼ全員が、受け入れに躊躇するとの答えだった。理由としては、以下が挙げられた。
  1. ①福島第一事故のイメージがあり想定外のことが起こらないか不安がある。
  2. ②宮城県は農産品が有名だが処分場を受けいれた場合の風評被害が心配である。
  3. ③万一事故が起こった時の対応に不安がある。
  4. ④周りの意見に従いやすくイメージとして不安を払しょくできない。
そのようなことに対して、何か対策はあるか聞いた。
  1. ①現在は、SNSが発達しており、SNSを通して様々な情報を発信する。
  2. ②小中学生から原子力や放射線についての教育を行う、などが挙げられた。
対話時間が約1時間と限られているので、事前質問への回答の補足説明でかなりの時間を使い、実質的な討論は15分程度であったが、その中ではまだ、地層処分に不安があるということで、かなり本音の議論が実施できたと思われる。ただし、シニアからの問いかけに学生が答えるという形になり、お互いに議論が発展するというところまでは行かなかった。また、事前質問への回答でもさらに質問するのは少なく、一方向のやり取りであった感じがする。もう少し時間があれば、出てきた意見を掘り下げてさらに議論を発展させることが可能であると思われる。

3.講評

時間的制約があり特に行わなかった。 

4.閉会挨拶

時間的制約があり特に行わなかった。

5.参加シニアの感想

報告書を参照下さい。

6.学生アンケート結果の集計(後藤 廣)

今回の基調講演は、来年の海洋放出を控えて宮城県内でも何かとマスメディアで話題となる「アルプス処理水」について行い、アンケートからは「基本的なことから専門的なことまで幅広く詳細に学ぶことができた」等、全員が満足したとの感想であった。
参加された学生さんの感想は報告書を参照下さい。

7.別添資料リスト

講演資料:「ALPS 処理水 [トリチウムを含む処理水] の海洋放出について」
アンケート結果
 
(報告書作成:本田一明、2022年8月22日)