日本原子力学会 新型炉部会
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新型炉部会長 ご挨拶

2022年3月に開催された原子力学会春の年会における新型炉部会全体会議にて選出され、部会長を担当させて頂くこととなった堺公明(さかいたかあき)と申します。宜しくお願い致します。

部会の設立当時を顧みると、私が係わっていた高速炉の商用実証炉について、新たに採用する技術や出力規模などが大まかな概念としてまとまり、設計、建設に向けての準備のスタートを切ろうとしていた時期でした。一方、2011年3月に発生した東日本大震災とそれに伴う福島第一原子力発電所での事故は、社会に未曾有の事故影響を引き起こし、現在も避難生活を余儀なくされている方々がいらっしゃるとともに、今後も相当期間にわたって廃炉作業と復興の取組みが続く見通しであります。

事故後、新型炉の開発や設計に取り組む我々は、自然災害という外部ハザードの脅威を目の当たりにし、今後、目標とするべき安全のレベルやその対策のあり方について、国内にとどまらず、国際的なエンジニアのネットワークにおいて議論を尽くして参りました。部会としても、折々、新型炉に対する安全の考え方やその開発ロードマップを取りまとめてきましたが、その議論にゴールはありません。常に高みを目指してより安全で、より合理的なシステムを構築するべく最善を尽くすことが使命と思います。

「新型炉」という言葉には、非常に幅広い概念を含んでいます。似た言葉に、「革新炉」や「次世代炉」があると思います。私の認識の範囲では、「新型炉」とは、現行の商業炉とは形式の異なる次の世代の原子炉システムの概念であり、ナトリウム冷却高速炉、高温ガス炉(VHTR, GFR)、溶融塩炉、超臨界炉、鉛炉他の幅広い炉形を指すと思います。また、その燃料サイクルに関する技術も包含します。新たな原子炉のシステムを構築するためには、炉物理、核燃料、原子炉構造、材料、熱流動、安全、製造、建設、運転技術等を全て踏まえた設計技術が必要です。さらにはその原子炉を世の中に導入していくためには、プロジェクトのステークフォルダーの関与のあり方、社会的受容性、核不拡散・核セキュリティ、安全保障などの論点整理が重要です。日本原子力学会はそれらの分野を全て包含する専門家の集まりと思います。新型炉部会は関連する他の多くの部会の方々との連携が必要な部会と言えると思います。

新型炉システムは、もちろんカーボンフリーであり、さらには、資源面でも持続的な利用が可能な選択肢を有しており、日本のみならず、世界人類全体がいずれ導入していくことが確実なエネルギーシステムです。現在、国際的にSMRと呼ばれる小型の原子炉概念の研究開発が活発に行われており、そのいくつかは具体的な建設計画も進んでいる状況です。近い将来に、それらのうちのいくつかは、日本の関係者も連携した形で設計・建設を開始することでしょう。カーボンフリーなエネルギー源として、高温利用、水素製造、移動電源、長寿命核種の消滅などの多目的な利用を目指すとともに、さらには、再生可能エネルギーとの共存を可能とするエネルギー源として利用を図ることになるでしょう。多くの研究者、開発者、エンジニアたちが様々な可能性にチャレンジしていると思います。それらに資する議論の場を提供するのが部会の役割だと考えています。

ウクライナ侵攻は、エネルギー安全保障面において国際的に重大な影響を及ぼしており、予断をゆるさない危機的な状況が続いています。原子力エネルギーの持続的な利用を可能とする観点からも、改めて検討するべき点が多くあると思います。「自給率」という言葉も改めて重みを増しています。これは単に自国での「エネルギー資源の自給率」にとどまらず、例えば、発電システムを構成するすべての機器のサプライチェーンに関する「技術の自給率」という観点が重要です。改めて信頼感のある連携を構築し、留まることなく粛々と開発に取り組み、本質的に変わらない特徴を有する新型炉システムを実現することが重要と思います。

今般、部会長、2名の副部会長はじめ、運営小委員会の委員若干名が交代しました。改めまして運営方針をもう一度議論しながら、部会員の皆様とともに活動を進めて行きたいと思います。さらには、幅広い原子力学会会員の皆様の参画を得て、部会としての社会的役割を果たしていきたいと思います。ご指導の程、宜しくお願い致します。

新型炉部会長 堺 公明
(東海大学 工学部 機械工学科)