日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

SNW対話
in 宇部工業高等専門学校2026年度(第7回) 報告書

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW) 世話役: 大西 祥作
報告書作成 令和8年8月12日
《宇部工業高等専門学校物質棟入口》
  
「ディベート」形式で7回目の学生との対話会を実施
対話会は宇部高専の第2学期のPBL授業(プロジェクト学習)の一部として実施された。  2020年度から開始され今回で7回目である。参加学生は複数の学科の2年生から5年生 である。昨年よりさらに参加者が増加し今年は34名となった。今年もエネルギーに関する基礎的知識を伝える基調講演1(基礎講演)と日本のエネルギー問題を世界規模で捉える基調講演2―1ならびに自分事としてエネルギー&電気を考えてもらうための電気料金に関する基調講演2-2を実施した。(遠方を見つつ足元を見つめる) また、対話については、昨年に引き続きディベート形式による対話を実施後、ディベート内容を踏まえたグループ内対話を実施した。

1.日程並びに講演の概要

(1)日時

基調講演1(基礎講演) :令和8年6月12日(金)15:00~16:00(遠隔)
基調講演2       :令和8年6月19日(金) 12:50~14:20(録画※を視聴)
対話会          :令和8年7月14日(火)12:50~16:00(対面)
                    ※5月26日(火)松江高専での基調講演の録画を視聴

(2)場所

宇部工業高等専門学校 機電棟 3階教室(対面)

(3)参加者

高専側世話役の先生   江原史朗:制御情報工学科教授
高専側先生       伊藤直樹:制御情報工学科准教授               
             ゴーシュ・シュワパンクメル准教授:一般科目(物理)
参加学生:34名(対話会:28名)
            (機械工学科、電気工学科、制御情報工学科、物質工学科、経営情報学科)                ×(2年、3年、4年、5年生)
参加シニア:古藤健司、田中治邦、針山日出夫、松永健一、山崎智英、大西祥作(世話役)

(4)基調講演1(基礎講演)

  テーマ:エネルギー問題の基礎、講師:大西祥作
  講演概要: 
エネルギー問題を考える上で必要な基礎的知識を伝授する目的で、日本をとりまくエネルギー状況並びに日本のエネルギー政策について概説した。また、自習のための参考資料として「原子力発電の概要」及び「放射線の基礎」について情報提供を行った。

(5)基調講演2

  テーマ1:世界のエネルギー危機と日本の対応、講師:針山日出夫
  テーマ2:電気料金の仕組みを知ろう、講師:山崎智英
  講演概要:
基調講演はテーマ1とテーマ2からなる。テーマ1では、ホルムズ海峡封鎖によるエネルギー、経済への影響について考え、最近の世界主要国のエネルギー政策を俯瞰しつつ、我が国の「エネルギー安全保障」の在り方について原子力の役割に焦点をあてた説明があった。テーマ2では、学生は「電気料金(再エネ促進賦課金、燃料費賦課金を含む)」を事前調査し自分事として講演に参加した。電気料金の仕組み、電力各社の電気料金単価と電源構成の説明があり、電気代を理解し身近に感じられるものとなった。なお、基調講演は5月26日に実施された松江高専対話会の基調講演を録画したものを視聴する形で実施した。

2.対話会の概要

(1)自宅電気代の調査結果の集約

自宅電気代の調査が難しいのか参加学生の大半が自宅電気代を調査してきていなかった為他高専での調査結果を説明し、電気代の構成や地域によって異なっていることを理解してもらった。(電気代を払っていない学生に対し、自分事として調査してもらうことに少し無理があるのかもしれない)

(2)事前質問に対する回答の説明

参加シニアの自己紹介も兼ね、基調講演1(基礎講演)及び基調講演2に対する学生質問への回答のポイントを各担当シニアより説明した。尚、学生質問は幅広い分野に対するものであった為、分野別に分担し回答をシニアで作成した。

(3)ディベート及びグループ対話

学生は8グループに分かれ、2グループ単位でディベートを実施した。
ディベートのテーマは、事前に学生間で相談し、以下の2テーマとなった。
テーマ1:日本は原子力発電を増やすべきか?  (再稼動や新増設すべきVSすべきでない)
テーマ2:再生可能エネルギーだけで電力供給を目指すべきか?  (再エネで十分VS十分ではない)
ディベートの組み合わせ
  第1ペア(2班 VS 4班):「テーマ1」   第2ペア(8班 VS 7班):「テーマ1」
  第3ペア(1班 VS 5班):「テーマ2」   第4ペア(6班 VS 3班):「テーマ2」
  ⅰ)第1ペア報告
1)テーマ 「日本は原子力発電を増やすべきか、否か」
2)参加者   学生2班5名、4班4名 シニア1名(田中治邦)
3) ディベートの概要
    a) 2班(肯定側、男子5名)の主な意見;
1F事故後に安全対策が強化されており再発は考えにくい。
1F事故は地震では大丈夫だったが津波で事故発生となった。防潮堤などその対策をとったのだからもう大丈夫だと思う。
原子力はメリットが大きく火力によるCO2排出を抑えられる。かかる費用が同じならCO2を減らせる原子力を選ぶべきだ。
再エネでは十分な発電量が稼げず原子力が必要だ。
地熱は世界第3位のポテンシャルがあるが、結局0.3%しか使えていない。
原子力は以前30%を供給していたと聞く。そんな原子力をやめることなど考えられない。廃炉せずに使い続けるべきだ。
   b) 4班(否定側、男子3名、女子1名)の主な意見;
日本は島国で洋上風力や地熱があり、原子力を増やすのは待つべき。
原子力は地盤の強いところに作ると言うことは、原発は弱いのではないか。
南海トラフが心配。事故が絶対に起こらないとは言えず、ひとたび起こせば周辺地域は何十年も使えなくなる。地震大国に原子力は向いておらず、リスクを上回るメリットがあるとは思えない。
普通の建物は100年もつが、原発は金属材料の劣化で40~60年しかもたず、その廃炉に数十年かかると聞く。海外は土地が沢山あるが日本は狭く新規立地は難しいし、同じ場所に繰り返し建設するのはロスが大きい。
放射性廃棄物の処分場が確保できておらず、将来世代に迷惑をかける。
リサイクル可能と言うが、何回も使えばゴミが出続け保管や処分に困る筈。
4) 各班の最終結論
   a) 2班(もとは肯定側)
増設は難しいかもしれない。廃棄物の処分も大変で、現状(既設炉)の維持で良いのでは ないかと考えるに至った。防潮堤で100%安全とは断言できないと思う。やめた方が良いとは言わないが、増やすのは今ではあるまい。
   b) 4班(もとは否定側)
原子力にコストメリットがあるので、増やすことに賛成と考えるに至った。自給率が低いので原発が必要である。条件の良い場所を選べば良いと思う。デメリットもあるが、脱炭素にとって魅力があり、他の手段が思いつかないので、安全性を確保しつつ増やすべき。
5) 感想
互いに相手を打ち負かすための論陣を張った。個人の主張と異なる役割で困ったということは無く、任務に徹する様子であった。発言の量には積極的な学生と控え目な学生とがあったが、後者も指名すると真剣かつ誠実に役割を果たそうと努力する姿勢であった。 不思議なことに最終結論は各班の役割と逆のものとなった。相手の主張を良く聞いて納得できる部分は考慮しようしており大変に紳士的と感じた。原子力を選択することの得失を真剣に考えるディベートになったと考える。(報告者:田中治邦)
ⅱ)第2ペア報告
1)ディベートテーマ:日本は原子力発電を増やすべきか?  (再稼動や新増設すべきVSすべきで
           ない)
2)グループ分け 賛成グループ 第8班:学生:3名、シニア:1名(古藤健司:ファシリテータ)         反対グループ 第7班:学生:4名、シニア:1名(松永健一)
3)主なディベート内容
【賛成】①[低脱炭素効果]原子力はCO2排出量がほぼゼロで、地球温暖化対策に貢献。②[安定した電力供給]天候や昼夜に影響されない安定電源。③[経済効果]ウランは価格変動が少なく燃料コストが安定。それによって再稼働・新増設すれば電力コストを削減できる。④[エネギー安全保障]燃料の備蓄性が高く、エネルギー自給率の向上につながる。
【反対】①CO2排出量はゼロではない。②地元の了解を得るのが難しく安心電源とは言い難い。⑤[安全・事故リスク]安全の話がない。高レベル放射性廃棄物(HLW)は安全性が不透明。③HLWは長期間の管理が必要であり、処分地の確保でコストがかさむ。電力コストを削減できるというが、長期的なコストが高くなる。④再エネの拡大もエネルギー自給率の向上につながる。
4)所感
勝ち負けなしと判定した。学生が発表で言及していたが、放射性廃棄物などの基本情報を もっと知る必要がある。学生の事前質問に対するシニア意見(回答)の内容も未消化のまま、ディベートが行われたようだ。ディベートには予備情報が必要と感じたが、ディベート能力(論理展開、課題解決能力)そのものを高めることが基本であり、学生の成長により役立つであろう。(報告者:松永健一)
 ⅲ)第3ペア報告
1)ディベートテーマ:再生可能エネルギーだけで電力供給を目指すべきか?  (再エネで十分VS
           十分ではない)
2)グループ分け  賛成グループ 第1班:学生:3名、シニア:1名(大西祥作)
          反対グループ 第5班:学生:4名、シニア:1名(大西祥作)
3)主なディベート内容 以下のような流れでディベート議論をした後、ディベートの立場を離れて
  全員で議論した。
4)所感
ディベートの出来栄えと言う観点では、事前学習や調査が不十分な所も見受けられたが、 肯定派と否定派のやり取りは多様な切口で展開することが出来ており、まずまずの出来であった。尚、エビデンスによる論戦があるともっと良かった。今後、ディベート等の手法による議論を積み重ねて自分の考えをしっかりと主張できるような技術者になって欲しい。 (報告者:大西祥作)
 ⅳ)第4ペア報告
1)ディベートテーマ:「再生可能エネルギーだけで電力供給をめざすべきか?」 (再エネで十分VS
           十分ではない)
2)グループ分け  賛成グループ 第6班:学生:2名、シニア:1名(山崎智英)
          反対グループ 第3班:学生:3名、シニア:1名(針山日出夫)
3)主なディベート内容
予め策定されていた議論進行手順に沿って、各陣営にて作戦会議の如き相談・調整(主張のポイント・具体的バックアップデータの吟味・相手側の戦略予想など)をした上で、ディベートに望んだ。その結果、以下のような内容のディベートとなったが、反対派がやや押し気味の展開となった。
❐ 再エネで充分の論拠(賛成派・順不同)
― 火力発電によるCO2排出量を削減しつつ一電力供給を満たすべく再エネが必要
― 日本では、色々工夫しつつ今日では水力/風力/太陽光などで既に20%程度供給
― 世界を展望すると、再エネは首位電源であり、火力発電を凌駕している
― 一例としてノルウェーでは再エネで80%以上を定常的に供給している
― 日本の期待値として、国立公園法の制約が緩和されるなら地熱発電は伸び代大
❐ 再エネでは不十分(反対派・順不同)
― 再エネは不安定電源であり自然条件に作用される為設備利用率が低く大量の再エネの活用には同容量のバックアップ設備が必要であり二重投資となる
― 日本は狭隘な国土・風況に恵まれない地理的環境であり再エネに適さない
― 再エネは出力密度が低く、社会インフラや製造業の電力需要を満たし得ない
― 統合コストを勘案すると再エネは経済性が悪く、今後更に大形大容量の蓄電設備を導入すると経済性は更に悪化するので再エネ導入限界値の見極めが肝要
上記のようなやりとりの後、参加者全員で賛成/反対のポジションから離れて、日本のエネルギーの在り方の現実解として何が望ましいかについて意見交換をした結果、以下のような認識で一致した。
① 資源のない日本では再エネは現実的・合理的な範囲で活用を目指すべき
② 安定供給を最優先しつつ脱炭素の観点から日本としての最適なエネルギーミックスを目指す事が肝要。
4)所感
今回のディベートテーマである再エネだけで電力供給を目指すかについては、学生のテーマとしては難しかったのではないのかと感じた。このテーマであれば、学生は十分な時間をかけ相手グループをどう打ち負かすのかについてしっかり勉強する必要があったのではないかと感じた。 (報告者:針山日出夫、山崎智英)

3.学生アンケート結果の概要

(1)参加学生について
参加学生(28名)、全員が回答。
5学科の2年から5年の学生が参加してくれ多様なメンバーでの対話会となった。
進路は就職86%、進学14%と回答あり。
(2)対話会について
基礎講演の満足度は「とても満足」、「ある程度満足」を合わせて100%であった。尚、内容が難しかったとの意見が2名からあった。基礎講演以外で聞きたいものとして「CO2排出削減か吸収かの議論」や「現状の発電方法」等について詳しく知りたいとの要望があった。
基調講演の満足度も「とても満足」、「ある程度満足」を合わせて100%であった。基礎講演と同じく、内容が難しかったとの意見が2名からあり。基調講演以外で聞きたいものとして「世界がどのようなものを輸入しているのか知りたい」との要望があった。
ディベートについては、93%の学生が良かったと回答しくれた。また、その理由としてディベートでより理解を深めれた等25名の学生が記述回答をしてくれた。
対話会の満足度は「とても満足」、「ある程度満足」を合わせて96%。今回の講演や対話会で「新しい知見が得られた」が93%、「自分の将来の参考となった」が33%となった。
対話会の必要性は「非常にある」、「ややある」を合わせて100%であった。また、友達や後輩へ対話会への参加を薦めるかどうかについては、24名(89%)が「薦めたい」と回答し「どちらともいえない」が11%であった。昨年と同様若干、対話会の満足度や必要性の割合と少し齟齬があると言える。
(3)意識調査について
放射線、放射能については、「一定のレベルまでは恐れる必要はない」が61%であった。一方「怖い」が39%あり。昨年より放射線を怖いと思う学生が多かった。
原子力発電については、「必要性を認識しており再稼働を進めるべき」が32%、「新設、リプレースを進めるべき」が32%あり、「2030年目標を達成すべき」は25%であった。概ねそれぞれの割合は昨年と同程度であった。尚、危険だから早期に削減または撤退すべきとの意見が1名(4%)あり。
再エネ発電については、「環境にやさしく拡大すべき」が68%、「天候に左右されるや自然環境破壊につながるので利用を抑制すべき」がそれぞれ25%、7%となった。
カーボンニュートラルとエネルギーについては、「地球温暖化や脱炭素社会の実現に関心」は「大いにある」と「少しある」を合わせて96%の回答であった。尚、1名(4%)が、関心があまりないとの回答であった。 「興味や関心があるのはどの項目でしょうか?」については幅広く関心を示したが「温暖化の影響と対策」、「エネルギー資源の確保」、「主要国の動向」が多かった。 「日本の2050年脱炭素化社会の実現可能性」については、「実現するとは思えない」が57%、「相当いい所まで到達する」及び「わからない」がそれぞれ29%及び14%となった。 「脱炭素に向けた電源の在り方」については、「原子力発電と化石燃料発電を最小とし、再エネ中心が望ましい」は、26%、「化石燃料発電を最小とし原子力発電と再エネ発電の組み合わせが望ましい」が44%、「原子力発電、再エネ発電、化石燃料発電をほぼ均等に組み合わせることが望ましい」が22%となった。
高レベル廃棄物の最終処分については、「関心がある」と「少しある」を合わせて68%の回答であった。「近くに処分場の計画が起きたらどうするか」については、「反対しない」、「反対する」のそれぞれが39%、32%、「わからない」が29%であった。「地層処分について興味や関心がある項目」については「技術」が77%、「制度」が27%、「処分地の選定」が23%であった。
詳細は別添資料(事後アンケート結果)を参照ください。

4.別添資料リスト