日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

学生とシニアの対話
in 静岡大学静岡キャンパス修士学生との対話会 2025年度(第1回)報告書

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)
世話役:森本泰臣
報告書作成 2025年12月19日
静岡大学静岡キャンパス
基調講演を行い、また各テーマの中で学生の関心事を中心に対話会を実施
  • 基調講演として、「これからの原子力」と題して、「原子力とは」、「核分裂エネルギー利用」、「放射線利用」、「原子力に対する国民の理解」、「人類の持続可能性と原子力」について実施された。
  • 対話会はテーマを特に定めず、参加学生からの疑問・質問にシニアが答え、それについて議論した。

1. 講演と対話会の概要

(1)日時

基調講演 :2025年12月15日 (月) 13:00~13:30
対話会 :2025年12月15日 (月) 13:35~16:00

(2)場所

静岡大学静岡キャンパス、理学部A棟2F小会議室

(2)参加者

大学側世話役の先生
学術院理学領域 大矢恭久准教授
参加学生(「先進放射化学特論」の一環として参加)
学部4年生 1名(理学部化学科 ※学部生だが教官の承認のもと参加)
修士2年 1名(総合科学技術研究科 理学専攻)
対話会 参加シニア:3名+世話役1名
中江 延男(基調講演、対話会)、湯佐泰久(対話会)、曽佐 豊(対話会)、森本泰臣(世話役)

2. 基調講演

(1)テーマ

これからの原子力

(2)講師:

中江 延男氏
講演概要:
“原子力“について、エネルギー、核燃料サイクル、放射線利用、社会的意義、将来に向けた提言と、原子力の全体像を様々な側面から解説。原子力全体を俯瞰した講演がなされた。
原子力発電:核分裂反応に伴いFP・MA・Puが生成され、長寿命核種の増加がバックエンドで最大のボトルネックとなる。軽水炉の再稼働は安全規制・改良工事・地元合意が主要阻害要因であり、再処理・貯蔵の逼迫とも連動する。六ヶ所再処理工場は年間800 t規模で稼働予定だが、発生量とほぼ同等であり、運転の安定性・プルサーマル炉の拡大が必要となる。
高レベル放射性廃棄物の地層処分:技術的には確立しているが、立地自治体との合意形成が最重要課題として残る。
福島第一原発:特に燃料デブリ取り出しの技術的不確実性が大きく、バックキャスト型での工程設計が提案されている。
将来技術:高速炉サイクルが資源有効利用(劣化U→Pu変換)、MA消滅による廃棄物負荷低減に寄与し、長期的には不可欠となる。また2040年代に向けては、SRZ-1200等の革新軽水炉の建設が必須であり、設計データ保存・安全規制合理化・実証試験・AI活用が新たな課題として浮上している。
放射線利用分野:医療用RIの安定供給、新規RI創出、加速器利用の拡大が求められる。
原子力利用の持続性確保:技術体系全体(炉設計・バックエンド・人材・サプライチェーン)での抜本強化が不可欠。

3. 対話会

(1)概要

静岡大学対話会(静岡キャンパス)は、「先進放射化学特論」を受講する修士1年および学部4年の2名を対象に実施した。
基調講演の内容についての議論およびそこから派生した質問をベースに対話会が進められた。

(2)内容

福島第一事故及びその後の対策
地震による外部電源喪失、津波による非常用発電機及び蓄電池の機能喪失が事故の原因であることを説明した。特に蓄電池の機能喪失により原子炉計器が使用できず、原子炉の状態を正確に把握できなくなったことが大きな要因。
事故を踏まえた改良工事では防潮堤高さの見直し、防水扉の強化、電源の多重化が図られていることを説明した。多重に対策することで外部事象、ここでは特に津波に対する対策を強化している。
新たに建設される革新軽水炉では地震・津波対策、能動的安全性確保から受動的安全性確保に変更されていることを説明した。
リスクとベネフィットのバランスの考え方
今の学生世代はコロナを乗り越えてきた世代であり、その中でワクチン接種を例にリスク(副反応)とベネフィット(ワクチンの効果)を肌で感じた世代であるとの意見が学生から出された。その経験から、ゼロリスクというのはあり得ないとの考えは理解できるとのこと。
リスクとベネフィットのバランスで原子力の受容性を判断するのは合理的である。しかし、具体的な方法は難しい。(両者共通の認識)
原子力のリスクや安全性の議論
他産業と比較した例示を示す方法が効果的な方法である。
定量的にリスクを伝える点で、放射線被ばくでは手本となるような比較図がある。
また、リスクについて他産業と比較する研究は米国のラスムッセン教授が最初に着手した。WASH-1400という報告書が出ているので読むと参考になる。
高レベル放射性廃棄物(HLW)の処理・処分に対する国民への受入
HLWの処理・処分は必要であり実施すべきものと理解はするが、近隣が処分地となることに賛同できないように思う。(NIMBY)
高レベル放射性廃棄物の3重苦(ゴミ、放射性、超長期の問題)と言われ敬遠されがちである。
高レベル放射性廃棄物の処理・処分については技術的な問題は解決しているが、処分場立地自治体の理解・合意が難しいというのが現状であるというOECD/NEA Magwood事務局長談。立地自治体とは、信頼構築の上、コミュニケーションをとっていくしかないのではないか。
どうすべきかを議論したが結論はでなかった。
地下処分施設について
地下は経験したことがないので危ないとの感覚があるとの意見が学生から出された。
火山や地震活動は地表近くで起こる。地下深部においては、それらの影響は小さい。また化学的な環境として、酸素がないので核種の移動が阻害される、材料の腐食が小さいなどの利点があることを説明。
また、アフリカ、ガボン共和国のオクロウラン鉱床の天然原子炉オクロの例に、原子炉の停止後、地下環境にて高レベル放射性廃棄物が長期保存された実例があることが紹介された。
高速炉の将来見通し
「もんじゅ」が廃炉になり高速炉は現在開発されていないとの認識であるが本当にそうなのか?(学生は高速炉の開発状況が把握できていない。知らない。)
高速炉開発は2040年代の運転開始を目指して開発が国全体で進められていることを説明した。
また、ナトリウム漏れは熱電対の設計ミスによるものであること、漏れた場所はナトリウムが放射化していない2次系配管で起きたことも説明した。
海外では数多く起きており取り立てる問題ではないが、動燃の初期対応(事故隠し?)が問題視された事案である。
高速炉でのナトリウム-水反応
高速炉ではナトリウムが冷却材に使用されているが、水との反応はないのか?激しく反応するのではないか?
蒸気発生器ではナトリウム-水反応が起きる可能性があるが安全性は設計で担保されていることを説明した。
原子力産業の今後
原子力は現在見直されてきているように思うが、果たして原子力界に就職しても大丈夫なのか気になっているとの学生からの不安の声があった。
カーボンフリーに向けて原子力が今後建設・運転されることになれば原子力界に就職しても不安はないと思われると答えた。
但し、常に新しいことに挑戦し続けなければ明るい明日はないとも答えた。
核融合発電の社会実装
近年はムーンショット計画No.10に採択され、国の戦略も出されている。多くのベンチャー企業が研究開発に取り組むようになってきた。
しかし、定常的に発電するとなるとかなり先になると思われる。ブランケット領域に関わる技術開発が重要だろう。
参加した学生の一人は核融合のブランケット材料の研究をしており、興味を持っていた。
原子力について国民の理解を得る方策
学生もシニアもこの問題は難しいものとの共通の認識であった。
しかし、前向きに取り組まなければならないことを両者再認識した。

4. 感想

(1)学生

再稼働やリプレースさせようとしている原子力発電所において、津波に代表される自然災害への対策がリスクだと感じていた。今回の対話の中で、十分に自然災害への対策が行われていることが理解できたので、原子力発電所のベネフィットがリスクを上回ると考える良い機会になった。
今回の様な対話会に参加した経験はなかった。直接、原子力に関する質問をすることができ、それに対する回答をいただけたことは有意義だった。
原子力に対する国の対策について、核のイメージが悪いため核融合はフュージョンと呼んでいる。この分野にいるなら、研究者や技術者だけでなく、国民の理解が必要と改めて感じた。
原子力に関わる様々な場面に携わっていた方から直接話が聞けたのは非常に良かった。

(2)シニア

地層処分場について、対話会後に考えたことであるが、JAEAの幌延を見学し職員と議論してもらうのがよいと思う。
時間は十分あり有意義な対話ができたと思われる。
参加した学生が少なく、シニアからの発言が多くなった点は反省すべきである。
地層処分の説明には、オクロの天然原子炉の例(HLWの長期保存の実例)を加えると良いと思う。
核融合についての議論の中で、学生の意見を尋ねたところ、実用的な発電に至るまでは長い時間が必要と述べていた。
(1名欠席で)学生側が2名のためシニア側4名の発言が多かったが、その割には学生側は自分の疑問点や意見を適切に述べていたと思う。
網羅的に原子力利用について基調講演で説明していただき、多くの話題について学生と対話できました。
個別のテーマについてもう少し深い対話ができればよかった。
学生の参加者が増える1月の対話会では個別のテーマごとに掘り下げた対話ができることを期待します。
学生の参加が少なかったが、その分、相手の顔をきちんと見ながら対話ができたことは良かったと思う。時間を十分に使うことができた。

5.学生アンケートの結果の概要

(1)概要

大学院生向け講義である「先進放射化学特論」の一環として実施。理学専攻の修士1年生および理学部化学科4年生が参加。
当日、修士1年生の参加者が携帯電話の電源がなく、その場でアンケートに回答することができなかった。後日にアンケートへの回答を依頼したが、回答されていない。そのため、回答者は1名にとどまった。

(2)結果

対話会、原子力・放射線、電源(原子力)に対しては好意的。高レベル放射性廃棄物処理・処分についての質問に対しても回答は好意的である。
化学科の学生ではあるが、放射化学の研究室に所属し、研究テーマも核融合材料に関わることであるため、原子力に対して全体的には好意的であると考える。
1名分の回答は添付資料2を参照のこと。
今後、対話会当日にアンケートに回答してもらう時間を設けることは、回答率を上げるためにも重要であると再認識した。
アンケート詳細については別添資料を参照下さい。

6.別添資料リスト

講演資料: 「これからの原子力」 
アンケート集約結果 

(報告書作成:森本 泰臣 2025年12月19日)