学生とシニアの対話
in 福井工業高等専門学校2025年度(第1回)報告書
- 「電力系統工学」授業の一部として福井高専で初めて学生とシニアの対話を実施
電気電子工学科の5年生に対し、「電力系統工学」の授業の一部として2コマの枠を利用して基調講演並びに対話会を実施した。基調講演は、高専側の要望により「日本のエネルギー政策とその課題」というテーマで50分というコンパクトな時間で実施した。また対話会は7グループに分かれ基調講演内容をベースに学生たちが考えたサブタイトルについて実施した。さらに対話の後半にグループ間対話を実施し、多様なものの見方があることについても触れる機会を作った。
1.講演と対話会の概要
(1)日時
- 基調講演・対話会:令和7年7月15日(火) 13:00~16:10
(2)場所と対話方式
- 福井工業高等専門学校 本館 電気電子工学科棟 2階5E教室 対面実施
(3)参加者
- 高専側世話役の先生:
米田智晃:電気電子工学科 教授 - 参加学生:
電気電子工学科 5年、基調講演・対話会:7グループ、34名(欠席者なし) - 参加シニア:7名(大塔容弘、西郷正雄、早野睦彦、針山日出夫、三谷信次、 湯佐泰久、大西祥作(世話役))
(4)基調講演
- テーマ:「日本のエネルギー政策とその課題 ~次世代に伝えておきたいこと~」
- 講師:早野睦彦
- 講演概要:
- プロローグとして話の要諦を説明の後、「1.エネルギーについて(人類とエネルギーのかかわりや世界のエネルギー情勢と我が国の状況他)、2.我が国のエネルギー政策とその課題(2050年CNに向けてのGXの目論見や第7次エネルギー基本計画等)、3.次世代に伝えておきたいこと」について分かりやすく説明があった。
2.対話会の詳細
(1)学生質問とシニア回答について
- 基調講演資料に対する学生からの質問に対するシニアの回答は、対話会の開催前に学生に送付された。 この回答の深堀を起点に対話会を実施した。
(2)グループ対話の概要
- ⅰ)Aグループ
- 1)参加者:
- 学生:5名(電気電子工学科)
- シニア:大塔容弘
- 2)対話のサブタイトル
- GXと日本の経済成長
- 3)主な対話内容
- 事前質問に対する回答について、回答文面の背景となる補足説明を丁寧に行った。特に強調したのは、2050年カーボンニュートラルに向けて最近の欧米の情勢の変化である。経済成長があってのカーボンニュートラルであることを理解してもらった。
- その後、本日のサブタイトルに関連する資料を新たに配布し、その内容について解説した、資料の内容は、政府が令和5年2月に公表した『GX実現に向けての基本方針』の概要を解りやすく解説したもので、その内容は公表の背景とエネルギー安定供給の確保を大前提としたGXの取組である。
- エネルギー安定供給の確保を大前提としたGXの取組については、以下の内容を含むものである。
-徹底した省エネの推進
-再エネの主電源化
-原子力の利用
-その他の重要事項 - 多少の時間が余ったので、事前に配布していた「日本の原燃サイクルの注目点」について解説した。その内容は以下の通り。
-使用済燃料
-濃縮ウラン
-プルトニウム
-高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体) - 4)所感
- 当該話題に対する姿勢は素晴らしいものであった。より深く知ろうとの思いが伝わっ てきた。頼もしく感じた。
- ⅱ)Bグループ
- 1)参加者:
- 学生:5名(電気電子工学科5年生)(全員福井県地元出身)
- シニア:西郷正雄
- 2)対話のサブタイトル:
- 2050年CNに向けてのGXの目論見は達成できるか
- 3)主な対話内容
- 最初にシニアの紹介と学生の紹介を行い、続いて、学生のファシリテータにより、対話会を実施した。
- 実施内容としては、既に、学生から入手していた質問に対しシニアからの回答を行
っているが、具体的に学生が質問した主旨を話してもらって、シニアより、より深掘りした内容を説明した。
- 質問の内容は、いずれも不確実性のある2040年、2050年の見通しであるので、学生の意見を聞くと同時に、シニアより、不確実性の内容について個々に説明した。
- 不確実性により回答が一つというものではないので、第7次エネルギー基本計画でのデータを示し、 それが最も実現の可能性がありそうであることを話し合った。
- 例えば、2040年での原子力の割合を20%程度と説明されているのについて、再稼働している原発は、30基程度と想定できそうだと考え、2006年の50基で31%の割合であるので、31%X30/50=18.6%となり、少し少ないが、実現性が有りそうだと合意した。ただし、再エネについては、多くの問題が秘められていることから、難しそうだとの認識を得た。
- また、貯蔵発電方式については、いくつかの方式を説明したが、どれもコストの問題がネックとなり、再エネと組み合わせるのについては、課題が多いと話し合った。
- その他、原子力やエネルギー問題を国民に理解してもらうのには、どうすれば良いか、メディアに広 めてもらうやり方には難しさがあること、若者は、SNSで自分の関心の有ることしか見ない、関心を向けさせるためには、身近な問題、「例えば電気料金の高騰、あるいは停電など」により、関心もたせないと難しいとの意見が出た。教育のカリキュラムの中にエネルギーや原子力を組入れてもらって若者に関心を向けてもらうようにすることなど話し合った。SNWでは、教育大の学生は、教師の卵なので、彼らとの対話会も行っていることを補足した。
- ⅲ)Cグループ
- 1)参加者:
- 学生:5名(電気電子工学科5年生)(進路:就職3人、進学2人)
- シニア:早野睦彦
- 2)対話のサブタイトル:
- 日本のエネルギー事情とその構造的課題
- 3)主な対話内容(所感を含む)
- 簡単な自己紹介後、5件の事前質問とその回答について議論を深めたいと考え、各項目についてそれぞれの考えを議論した。
- 例えば、環境と経済の両立技術では、太陽光利用としてペロブスカイト、蓄電池でもリチウム電池よりもNaイオン電池や全個体電池等の新技術に魅力を感じ、これらのEVへの応用などネットで調べた範囲の発言が多くあった。そこで新技術は魅力を感じて開発を始めるものの開発するうちに短所が出てくるものでもっと深く調査してみる必要があることを示唆した。
- 以上ように身近な技術にどうしても目が行きがちであるが、その中にAIによる電力の需給調整や電力状況に対する国民の理解方策等少しではあるがマクロ社会的な発言もあった。SNSに通じる最近の学生は上記のような身近で単片的情報には接するものの新聞を読まないためマクロ社会的な状況把握は苦手のようである。そのような意味でもシニアとの対話は意味があるのであろう。
- 福井県はメジャーな原子力立地県であるが、原子力を考えるにはエネルギー情勢を知ることであり、エネルギー情勢を知りたければ、世界を知ることである。世界の動きは政治に大きく左右されることを考えると、参政権を持っている諸君は少なくとも今回の参議院選で投票して社会に向けて意思表示することが大切である、と括った。
- ⅳ)Dグループ
- 1)参加者:
- 学生:5名(電気電子工学科)(進路:就職4人、進学1人)
- シニア:針山日出夫
- 2)対話のサブタイトル:エネルギー問題から見える日本の立ち位置
- 3)主な対話内容
- 簡単な自己紹介を実施後、事前質問に対する回答について質問の趣旨の確認と
回答の補足説明を実施した。事前質問並びに追加質問を含めた対話の内容は以下の通り。
― エネルギー資源の少ない日本としてのエネルギー問題に対する国際貢献の在り方
― エネルギー資源の調達・輸入に係わるリスクの全貌
― 世界のエネルギー情勢の認識のポイントと日本の進路の在り方
― 日本がとるべき外交戦略の在り方
― 将来のエネルギーミックスの選択の論点
― エネルギー自給率の向上のための現実解は如何にあるべきか
― 2050にカーボンニュートラルは実現するか
- 所感
大変難しい質問が多々あり議論は生煮えであったが、学生達の理解と対話姿勢は主体的で素晴らしいものであった。 - ⅴ)Eグループ
- 1)参加者:
- 学生:5名(電気電子工学科)
- シニア:三谷信次
- 2)対話のサブタイトル:一次エネルギーについて
- 3)主な対話内容
- 最初に学生達各人の自己紹介を実施。事前質問に対する回答について追加の質
問と補足説明を実施した。次に事前質問回答に基づき回答の内容の詳細な解説
に入り双方向での対話を実施した。
―メタンハイドレートの我が国の開発状況と現状問題点、第7次エネ基にも入ってこない遙か将来技術であることの確認。
―原子力の国民理解が今ひとつ進まないことについて、現行原発の再稼働に課せられた「新規性基準」について学生達を含め国民への徹底理解の不足のついての再認識。
―原発が老朽化していることの学生を含めマスコミの誤解について議論。「高経年化」と「寿命延長」という新しい概念を、議論を通して学んだ。
―原発の改良についてという質問から、過去に実施された「軽水炉の改良標準化」についての概要を説明した。学生達にとっては新しい認識であった。
- 所感
対話を通して知ったことは、20歳前後の学生達の原子力に対する認識(知識では ない)は、我が国社会の一般住民のそれとほとんど変わらないということであった。その意味で今回の対話は実に有意義であったと思われる。 - ⅵ)Fグループ
- 1)参加者:
- 学生:5名(電気電子工学科5年生4名・専攻生1名、出身:滋賀県1名・福井県4人)
- シニア:湯佐 泰久
- 2)対話のサブタイトル:GX時代における再生可能エネルギーとエネルギー需給の課題
- 3)主な対話内容
- 自己紹介の後、事前質問について本人よりその趣旨の説明後、学生間の意見交換を行った。その後、シニアが情報提供や補足説明を行なった。主な内容は以下の通り。
再生可能エネルギーは今後の主力電源になれるのか。
火力や原子力発電はエネルギー密度が高い上に安定した電力が供給できる。 再エネは本質的にエネルギー密度が低く不安定である。そのため、前者をバックアップ電源として利用できる範囲内でしか、後者の再エネの比率を上げることはできない。
再生エネを日本の主力エネルギーにするという第7次エネルギー基本計画は実現可能か? 日本の主力エネルギーの4割から5割を占めるようにした上に、しかも、安定に供給するというこの基本計画の目標を達成するには多くの課題がある。国・地方自治体、企業、国民、多方面にわたって、可能な限りこの目標に向けて開発・利用を進め、一致協力する必要がある。 - 所感
学生達は全員、自分の意見を述べていて、好感が持てた。 - ⅶ)Gグループ
- 1)参加者:
- 学生:4名(電気電子工学科5年生)(進路:就職3人、進学1人)
- シニア:大西祥作
- 2)対話のサブタイトル:第7次エネルギー基本計画の方向性と実現可能性
- 3)主な対話内容
- 基調講演「日本のエネルギー政策とその課題 ~次世代に伝えておきたいこと~」のPPTを基に サブタイトルの検討及び質問をグループ内で検討しており事前に勉強していることが感じられた。対話時もリーダがしつかり進行管理をしており頼もしかった。
簡単な自己紹介を実施後、事前質問に対する回答について質問の趣旨の確認と回答の補足説明を実施した。
事前質問は,再エネの中の有力発電方式に係る議論、S+3Eのバランスの話、太陽光発電の実現性(設備過多となる罪について)及び再稼働に対する取り組みについてであり多角的な視点での質問であった。
これらについてシニアから深堀質問と学生の回答・意見を出し合ってもらった。各質問内容に対する理解度の向上と課題の大きさについて認識を新たにしてもらってた。(と思われる)
特に印象に残ったのは再稼働に対する自分事としての情報の少なさであった。4人とも嶺北出身者であることが影響していると考えられる。
最後にE&Fグループとグループ内議論結果を紹介しあい、同じメインテーマに対しても種々の論点があることを実感してもらった。但しこれを受けた意見交換については時間が少ないこともあり再稼働の情報提供&受取の話に留まったのが残念である。
3.学生アンケート結果の概要
- (1)参加学生について
- 参加学生(34名)の内、全員が回答。
- 全員が原子力系専攻以外の学生であった。
- 進路は就職と進学の半々であった。
- (2)対話会について
- 基調講演の満足度は「とても満足」、「ある程度満足」を合わせて100%。希望内容が聞けなかったや説明が分かり難かった等の意見があり。基調講演以外で聞きたいものとして「人々の原子力への理解をどう深めていくのか」や「シンギュラリティに関する話」の要望があった。
- 対話会の満足度は「とても満足」、「ある程度満足」を合わせて100%。今回の講演や対話会で「新しい知見が得られた」が85%、「マスコミ情報と講演や対話の情報に違いがあった」及び「自分の将来の参考となった」がそれぞれ44%、41%となった。
- 対話会の必要性は「非常にある」、「ややある」を合わせて100%であった。また、友達や後輩へ対話会への参加を薦めるかどうかについては、33名(97%)が「薦めたい」と回答し「どちらともいえない」が1名(3%)あった。
- (3)意識調査について
- 放射線、放射能については、「一定のレベルまでは恐れる必要はない」が97%であった。一方「怖い」は1名(3%)あり。
- 原子力発電については、「必要性を認識しており再稼働を進めるべき」が76%、「新設、リプレースを進めるべき」が17%あり、「2030年目標を達成すべき」は3%であった。
- 再エネ発電については、「環境にやさしく拡大すべき」が61%、「天候に左右されるので利用を抑制的にすべき」がそれぞれ29%となった。尚、「自然環境破壊につながるので利用は抑制的にすべき」は1名(3%)あった。
- カーボンニュートラルとエネルギーについては、「地球温暖化や脱炭素社会の実現に関心」は「大いにある」と「少しある」を合わせて94%の回答であった。尚、2名(6%)は、関心があまりないとの回答であった。 「興味や関心があるのはどの項目でしょうか?」については幅広く関心を示したが「エネルギー資源の確保」が多く47%、ついで「温暖化の影響と対策」、「主要国の動向」がそれぞれ35%あった。 「日本の2050年脱炭素化社会の実現可能性」については、「実現する とは思えない」が67%、「相当いい所まで到達する」及び「わからない」がそれぞれ20%及び11%となった。 「脱炭素に向けた電源の在り方」については、「原子力発電と化石燃料発電を最小とし、再エネ中心が望ましい」は、29%、「化石燃料発電を最小とし原子力発電と再エネ発電の組み合わせが望ましい」が29%、「原子力発電、再エネ発電、化石燃料発電をほぼ均等に組み合わせることが望ましい」が32%となった。
- 高レベル廃棄物の最終処分については、「関心がある」と「少しある」を合わせて76%の回答であった。「近くに処分場の計画が起きたらどうするか」については、「反対しない」、「反対する」のそれぞれが29%、23%となった。また「わからない」が47%であった。「地層処分について興味や関心がある項目」については「技術」が67%、「制度」が35%、「処分地の選定」が26%であった。
詳細は別添資料(事後アンケート結果)を参照ください。