SNW対話
in 宇部工業高等専門学校2024年度(第5回)報告書

対話会は2020年度から開始され今回で5回目である。参加学生は複数の学科の2年生から4年生であり授業のテーマである「各種発電方法の比較」の学習の一環として対話会を活用して頂いた。
1.日程並びに講演の概要
(1)日時
- 基礎講演1:令和6年6月18日(水)13:40~15:10(遠隔オンライン)
- 基調講演2:令和6年6月26日(水) 10:40~12:00 (録画※を翌週視聴)
- 対話会 :令和6年7月24日(水)12:50~15:30 (対面)
(2)場所
- 宇部工業高等専門学校(対面)
(3)参加者
- 高専側世話役の先生 江原史朗:制御情報工学科教授
- 高専側先生 伊藤直樹:制御情報工学科教授
ゴーシュ・シュワパンクメル准教授(一部):一般科目(物理) - 参加学生 5名
(機械工学科2名、制御情報工学科2名、物質工学科1名、 学年内訳:2年2名、3年2名、4年1名) - 参加シニア:2名 山崎智英、大西祥作(世話役)
(4)基礎講演1
- 1) テーマ:放射線とエネルギー・環境問題の基礎
- 講師:大西祥作
- 2) 講演概要
- エネルギー問題を考える上で必要な基礎的知識を伝授する目的であるので内容は、ほぼ昨年と同様な以下の内容とした。第1部「環境問題」、第2部「エネルギー」及び第3部「放射線」の基礎から成る。第1部の内容は「地球環境問題とは?」「地球温暖化は本当か?」「地球のエネルギー収支は?」「地球温暖化対策は?」「オゾンホールが広がる!」「酸性雨とPM2.5の被害」「希少生物を保護しよう!」「ゴミ問題を考える」など。第2部の内容は「身の回りのいろいろなエネルギー」「エネルギーの種類、発電の種類」「色々な発電の仕組み」「日本のエネルギー事情と課題」。第3部の内容は「放射線の種類」「日常生活と放射線」「放射線の利用」「放射線の防護と人体への影響」。なお、エネルギー問題を身近なこととして捉えてもらうために自宅の電気代について調査する課題を出して、対話会で議論することとした。
(5)基調講演2
- 1) テーマ:世界のエネルギー情勢と日本の課題~脱炭素・エネルギー危機の中で日本の選択は?~
- 講師:針山日出夫
- 2) 講演概要
- 今、世界は地政学的リスクが次々と顕在化し揺れ続けている。エネルギー/地球環境対策は世界的大転換期を迎えている。2019年頭より世界主要国に於けるエネルギー選択の方向性は脱炭素社会の実現を目指しゼロエミッションエネルギーを如何に早く・安く・確実に社会に実装するかに焦点が当たっていた。日本は2020年10月に2050CNを政府方針として定め、その道筋として第6次エネルギー基本計画を2021年10月に閣議決定した。2022年2月のロシアのウクライナ侵略により国際秩序基盤が破壊された結果、世界はエネルギー危機・人道危機・食糧危機に包まれている。ウクライナ侵略は長期化の様相を呈しエネルギー資源確保の不確定性と経済混乱は一層混迷を深め長期化しそうである。この様な状況下で、欧米主要国は「脱炭素政策」と「エネルギーの自立化(脱ロシア依存)と安定供給」の両立に苦悩している。日本はエネルギー危機と脱炭素を見極める透徹した姿勢でこの課題と冷静に向き合い果敢で機敏な政策発動が問われている。国民一人一人の意識改革も同時に問われている。基調講演では、世界主要国のエネルギー・環境政策を俯瞰しつつ、エネルギー危機への対処と脱炭素社会に向けて日本の選択に焦点を当てその道筋について概説があった。 ※松江高専対話会基調講演(令和6年6月26日)を録画し宇部高専で後日視聴した。
2.対話会の概要
(1)開会の挨拶
江原史朗先生から、対話会の開催趣旨などの説明と挨拶があった。
(2)対話の要旨
- 対話会は基礎講演1及び基調講演2に対する学生からの事前質問に対する回答の説明を起点に議論を展開していった。また、基礎講演1の課題として自宅の電気代の調査結果の確認とともにシニア宅の電気代を紹介・分析した。最後にPBL授業の発表内容(各種発電方法の比較検討)について途中段階ではあるが学生達がこの対話会で得た知識も含めて調査したものを発表した。(7月29日の週にPBL授業の発表があるため、対話会で得た知識等も踏まえ発表資料を完成させる予定とのこと)
(3)グループ対話の概要
- 1)テーマ
- 「カーボンニュートラルへ向けての多様な対応」
- 2)概要
- 参加者全員の自己紹介後、参加学生から事前質問に対する回答の説明をしつつ、追加の質疑応答や議論をする形で対話会を進めた。
- 主要な議論内容を以下に記す。
- 原発の再稼働によるCO2削減効果について
原発の再稼働だけではCO2削減は十分ではないことを共有した。新規制基準に対し未申請となっている原発(9基)の未申請理由(準備状況や経済性)について議論した。また、国が再稼働を許可してもすぐには再稼働できず県知事等の理解が必要であることを説明した。- エネルギー使用量の制限について
「使用制限」等、法で定まっているものとお願いベース「節電要請」のものがあるが「使用制限」を発令したことは過去にないことを共有した。日本のエネルギー自給率は低いが日本は困っていないのではないかとの意見が出された。これに対し困らないように各所(国、電力会社等)が対応していることを説明した。- 日本の領海における手付かずの資源について
メタンハイドレートや海水中のウラン等資源はあるとも言えるが、回収の技術的課題や経済性の問題で現時点では利用されていないことを説明した- 原発の安全性向上策について
福島事故の反省から小型の原発を採用した方がいいのではとの意見が出た。小型炉は日本には向かないことを説明し、経済性の追求に対する良否や新型革新炉開発の状況についての議論を行った。- 自宅の電気代について
参加学生及びシニアの自宅の電気代(単純平均)を確認し契約形態や使用時間帯で電気代が異なることを確認した。またシニア宅の電気代の内訳を説明し、電気料金が燃料費等調整費やFIT料金も含まれていることを理解してもらった。- プロジェクト学習向け発表(中間)
本対話会はPBL授業(プロジェクト学習)の一部として実施しており、学生たちによって対話会までに得た知識や議論によって整理中の発表用資料の説明があった。 日本を取り巻くエネルギー事情を理解した上で各種発電方式の比較検討を行 った資料であり、よく議論されたものの成果物(中間)であった。
3.講評(含む学生の感想)
- (1)学生の感想
- 以下のような感想を聞くことが出来、対話会の有効性が確認出来た。
- 対話会以前の疑問や良く分からないことが対話会を通じて理解出来た。
- 現在停止している既設原発15基をすべて再稼働させたとしてもCO2排出をゼロにすることは出来ないことが分かった。
- ある程度知識がないと質問に対する回答を得た後の追加質問が出来ないことが分かった。また、知識を付けることが大切であることが分かった。(最近の風潮として知識より応用力・考える力を身に着けることが強調されている)
- (2)講評
- 2名のシニアから以下の講評があった。
- エネルギー問題を自分事として捉えて考え、議論していることが感じられる対話会であり有意義なものになった。
- 色々なことに目を向けて取り組んで欲しいとのエールがあった。
4.閉会の挨拶
- 江原先生から、有意義な対話会であった旨の挨拶があった。
5.学生アンケート結果の概要
- (1)参加学生について
- 参加学生全員(5名)が回答。回収率は100%。
- 全員の学生が原子力系専攻以外。(機械工学科、物質工学科、制御情報工学科) 4年生が1名、3年生が2名、2年生が2名参加。
- 進路(現状)は4/5が就職、1/5が進学の予定。
- なお、アンケート母数が少ないため本結果の解釈にはこの点を考慮する必要あり。
- (2)対話会について
- 基礎講演1及基調講演2の満足度は「とても満足」、「ある程度満足」を合わせて100%。 尚、両講演とも内容が難しかったとの意見が1名あった。基調講演2以外で聞きたいものとして、太陽光発電についてもっと詳しく知りたかったとの意見があった。
- 対話会の満足度は全員「とても満足」との回答があった。但し、1名より対話内容が難しかったとの意見もあり。今回の講演や対話会で4名が「新しい知見が得られた」と回答してくれた。
- 対話会の必要性は「非常にある」、「ややある」を合わせて100%であった。また、友達や後輩への対話会への参加を進めるかどうかについては、4名(80%)が「進めたい」と回答し「どちらともいえない」が1名居た。
- (3)意識調査について
- 放射線、放射能につては、「一定のレベルまでは恐れる必要はない」が80%であった。一方「怖い」が20%(1名)あり。
- 原子力発電については、「必要性を認識しており再稼働を進めるべき」が40%、「2030年目標を達成すべき」は60%であった。
- 再エネ発電については、「環境にやさしく拡大すべき」が80%、「天候に左右される」が20%となった。
- カーボンニュートラルとエネルギーについては、「地球温暖化や脱炭素社会の実現に関心」は「大いにある」と「少しある」を合わせて100%の回答であった。
「興味や関心があるのはどの項目でしょうか?」については幅広く関心を示したが「温暖化メカニズム」や「エネルギー資源の確保」が多かった。
「日本の2050年脱炭素化社会の実現可能性」については、「実現するとは思えない」が40%、「わからない」が40%となった。
「脱炭素に向けた電源の在り方」については、「化石燃料発電を最小とし原子力発電と再エネ発電の組み合わせが望ましい」が20%、「原子力発電、再エネ発電、化石燃料発電をほぼ均等に組み合わせることが望ましい」が60%となった。 - 高レベル廃棄物の最終処分については、「関心がある」と「少しある」を合わせて60%の回答であった。「近くに処分場の計画が起きたらどうするか」については「反対する」は居ないものの、80%が「わからない」であった。「地層処分について興味や関心がある項目」については技術が80%と多かった。
詳細は別添資料(事後アンケート結果)を参照ください。