学生とシニアの対話
in 東京都市大学2024年度(第5回) 報告書
日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW) 世話役 早野睦彦
東京都市大学 世田谷キャンパス 1号館
- 学生(閃源会)が企画した学生とシニアとの対話会
- 今回の対話会も昨年に続き、すべて学生側の企画・運営によるものであり、都市大の先生はオブザーバの立場で参加された。基調講演は「日本のエネルギーの現状と課題~原子力の役割と将来~」をテーマにした。対話は年末に第7次エネルギー計画案が出たことを受けて2件の対話テーマのうち第7次エネルギー計画案を3つのグループの共通テーマとした。学生発表ではあるグループがChatGPTを使ったのには新しい時代を感じるとともにAIが浸透する教育分野の難しさを感じた。
対話会全体は学生達の積極的な対応とリーダーシップが輝いていた。若い学生の元気で勢いのある発言は聴いていてとても気持ちが良いものであるが、閃源会のコアメンバーが少なくなって運営が難しくなってきたとの話があり、今後の開催が心配される。
1.講演と対話会の概要
(1)日時
- 基調講演:令和7年1月11日(土) 13:40~15:00(対面)
- 対話:令和7年1月11日(土) 15:10~16:50(対面)
(2)場所
- 東京都市大学 世田谷キャンパス 1号館3階13P教室
(3)参加者
- 司会
和佐陽斗(東京都市大学 原子力安全工学科2年)
- 参加学生:9名
都市大 8名 原子力安全工学科(修士1年1名、学部3年1名、2年4名、1年2名)
東京科学大 1名 修士2年1名
- 参加シニア:6名
松永一郎、星野知彦、石川博久、杉本純、デフランコ真子、早野睦彦
- オブザーバ
原子力安全工学科 羽倉尚人准教授
(4)開会挨拶(松永一郎)
- 皆さん、こんにちは。シニアネットワークの松永です。
皆さんとは昨年度6月(プレ対話会)と12月に2回、対話会をしました。
シニアネットワークの対話会は2005年に始まり、今年で20年になります。今までに300回近くの対話活動を実施し、参加した学生は7,000名を超えています。その栄えある第1回の対話会を開催したのは東京都市大の前身である「武蔵工大」であり、その時の学生側担当者が羽倉先生、SNW側の担当者が私でした。また、その数年後に本学卒業生で時の衆議院議員、のちに民主党政権で経産大臣、国交大臣をつとめられた大畠章宏さんにも参加していただき、2回目の対話会を行いました。そういったわけで、皆さんとの対話は感慨深いものがあります。
今年度は第7次エネルギー基本計画が策定されます。原子力をできるだけ削減するという前回の基本計画から一転して、ベースロード電源として積極的に活用するという言葉が入りました。皆さんがこれから活躍する場が大きく広がっています。
今日はこの方面の大先輩であるSNWのメンバーといろいろな課題について、遠慮することなく、大いにディスカッションしていただけたらと思います。
(5)基調講演
- テーマ
- 日本のエネルギーの現状と課題 ~原子力の役割と将来~
- 講師
- 早野睦彦
- 講演概要
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1.人類とエネルギーのかかわり
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2.エネルギーについて
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3.国内外のエネルギー情勢と我が国の状況
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4.原子力発電の特徴と開発の歩み
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5.次世代炉への期待
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6.リスクについて考える
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7.まとめ
- エネルギーの本質、資源小国であるという日本のエネルギー事情、GX(グリーントランスフォーメーション)の問題、再生可能エネルギーを主力電源化することの課題など原子力以前のエネルギー問題について語った。原子力については核分裂エネルギー、核融合エネルギーの入口論と核分裂による原子力エネルギー利用は高速炉核燃料サイクルが完結して初めてその真価を発揮することを説明した。在来炉や次世代炉についてはサイエンス段階、エンジニアリング段階、インダストリ段階の開発ステップを踏んで社会実装に至るのであり、時間軸を持たない主張には注意すべきであるとして、いろいろな次世代炉があるが詳細を知りたければ各研究機関やメーカにアクセスするように伝え、最後にリスクの考え方などについて話をした。
事前にメールにより基調講演に関連した質疑応答を学生とシニアが実施し共有していたが、講演後に質疑応答では、原子炉の寿命と新増設の関係や日本の原子炉の輸出可能性等に関するポイントを突いた質問があった。
(6)対話会概要
- それぞれのグループで学生3名、シニア2名として3つのグループに分かれて対話した。対話テーマは2つとし1つは共通テーマとして「第7次エネルギー基本計画案について」とした。
- 個別テーマは以下の通り。
グループA テーマ:エネルギー、原子力の現在の情勢
グループB テーマ:核融合の現状・課題、原子力人材育成
グループC テーマ:廃止措置、再稼働
- 第7次エネルギー基本計画案のパブリックコメントの締切は1月26日です。次代を担う若者のコメントは価値が高いので是非コメントするように伝えた。
2. 対話会詳細
(1) グループA
- テーマ
- ① 第7次エネルギー基本計画案について
- ② エネルギー、原子力の現在の情勢
- 参加者
- 学生:3名
- シニア:2名 杉本純、早野睦彦
- 対話内容
- テーマ1:「第7次エネ基(案)について」
参加者全員の自己紹介からはじめた。主な対話内容は以下のとおり。
- 第7次エネ基(案)は1月26日までパブコメを受付中なので、それまでに学生は各自パブコメを提出することとした。
- 福島第一事故前は日本のメーカーは諸外国への輸出の話が多くあったが、事故で話はなくなった。現在は小型炉の輸出はあり得るが、大型炉の輸出はメーカーにリスクが大きい。国のサポートがないと輸出は難しい。
- エネ基では脱炭素を謳っているが、脱原子炉したドイツでは電気代が高騰している。2040年に再エネを4~5割としているが、本当に達成できるのか。
- 参考資料には2040年に太陽光が「22~29%程度」とある一方、本文の2040年に向けた方向性には「特定の電源や燃料源に過度に依存しないようバランスのとれた電源構成を目指す」とあるのは矛盾ではないか。
- 原子力は発生エネルギーの約2/3は廃熱として捨てているが、スイスなどのように暖房用として廃熱を有効利用している国がある。日本において将来の廃熱利用の道を拓くのは若い世代の役割ではないか。
- テーマ2:「エネルギー、原子力の現在の情勢」
テーマに絞られずに自由な対話を展開した。主な内容は以下のとおり。
- 原子力分野の研究者は増えていないし原子力学会の会員数も減少している。長期に停止している原子力発電所もあり、人材育成が大きな課題ではないか。
- 大学で原子力関係の学部に進むと言ったら、親から「原子力は危ないから止めろ」と言われるのは、原子力関係学生にとってほぼ共通の体験。それを乗り越えて進学してきた学生は意識が高いので、この先、是非精進してもらいたい。
- 研究所での経験によれば、講演会、会合、会議などで、積極的に発言する人は5年後、10年後に成長して行く。逆に発言しない人は伸びない。そのような機会には是非積極的に発言することで、成長してもらいたい。
(2)グループB
- テーマ
- ① 第7次エネルギー基本計画案について
- ② 核融合の現状・課題、原子力人材育成
- 参加者
- 学生:3名
- シニア:2名 デフランコ真子、星野知彦
- 対話内容
- テーマ1:第7次エネルギー基本計画(原案)を読み、課題、疑問と思うこと等
自己紹介の後、対話を開始した。主な学生さんからの意見は以下の通り。
- 「再生可能エネルギーを主力電源として最大限導入」という文言があるが、変動する再エネが主力電源になるというのは現実的でないと考える。
- データセンター用電源を原子力で賄うには、原子力発電所の近所や敷地内にデータセンターを置くという考え方がある。送電やセキュリティ確保の観点では効率的かもしれないが、データセンターの設置場所は公にしない企業がほとんどなので、発電所付近にデータセンターを置きます、というのはどうなのか?また、テロリストやミサイル攻撃の標的としても恰好のターゲットになりかねないと思う。
- 人財育成やサプライチェーン強化については、やはり新設を立てて欲しい。→電力会社としてはなかなか規制の予見性が得られるまで投資判断に行けないというのがあるが、技術伝承には継続して実機を建設することは大事。
- リスクについて学ぶ場が大学で非常に少ない。特に原子力以外の分野の学生はリスクとは何か、ということも知らない。原子力の社会受容を上げて行く上でリスク教育というもの重要。
- 2050年には今の学生さんが40代半ば~後半の年齢となり日本のリーダー世代となるため、今後もエネルギーに対する問題意識を持ち続け、自分たちで色々考えリーダーシップを発揮して、エネルギー問題解決に貢献していただきたい。
- テーマ2:核融合エネルギー実現に向けての現状、課題、人財育成について
学生さんからの意見・質疑
- 福島のトリチウムが核融合の燃料に使用できると良いと思うが何が課題なのか?→福島第一のサイト内処理水に含まれるトリチウムはせいぜい数十g程度。濃度が低すぎ回収するのが難しい。一方核融合炉で必要なトリチウムインベントリーはkgオーダーと言われているので、労力をかけて福島のトリチウムを回収するのはペイしない。
- トリチウムは核融合炉内で増殖する計画があるが、まだその技術も未確立。ITERで4つのタイプのブランケットを試す予定。
- 核融合実現に向けてプラズマ閉じこめ以外で何が難しいか?→材料の問題は大きい。特に炉壁は14MeVの中性子を受けるのでこれに耐えうる材料の開発も必要であるが、今はIFMIFというプロジェクトで試験用の中性子発生装置を開発しているところ。長時間運転を目指すにはこのような課題もある。
- 核融合炉運転には安定で大容量のインプット電源も必要。よって、日本で原型炉のサイト候補地が六ケ所というのは、東通や大間の新設ができれば非常に有利。JT-60の運転にも東海発電所や近隣の火力が貢献している。
- 日本の発電実証用の原型炉を作るために必要な設備は?→トカマクの炉や炉内構造物も大事であるが、トリチウムを取り扱うプラントや極低温プラント、蒸気発生機やタービン等の発電設備も必要で、普通の軽水炉やオイル&ガスプラントでも使用する技術がたくさん必要。
- 核融合専門の研究室に行かなくても核融合炉建設に携われるか?→上述の通り通常のプラント設備と共通する技術がほとんどなので、電気、機械、材料、化学、原子力等の基礎知識をもってプラントエンジニアリングや建設の技術を身に着けることが必要。核融合案件はまだそこまでないので、就職後担当者に軽水炉や加速器のプロジェクトと兼務してもらうという会社も多い。
(3)グループC
- テーマ
- ① 第7次エネルギー基本計画案について
- ② 廃止措置、再稼働
- 参加者
- 学生:3名
- シニア:2名 石川博久、松永一郎
- 対話内容
- まず自己紹介の後にテーマについての議論にはいった。
- テーマ1 第7次エネ基(案)について
エネルギー基本計画で2040年度におけるエネルギー需給の見通しについて達成の可能性について議論を始めた。
- この数字は理想的なもの50%、現実的なもの50%くらいの見通しではないか。国民に見せるため見栄えの良い数字にしている。
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- 太陽光を4~5割程度に増加するためには設置場所の問題もあり、大きく増やすことには無理がある。
- 原子力を2割に引き上げるのには廃炉予定を除いた既存の原子力発電所の再稼働が不可欠である。2040年にはあと15年あるのでそれまでに規制委員会の審査が終わらなければ規制委員会の怠慢である。審査の効率化などが必要と思う。
- 福島第1のデブリはどうするのか。本当に取り出す必要があるかよく考える必要がある。
- 地熱発電を3倍に伸ばす計画だが地熱のある場所は観光地や国立公園が多く開発は難しいと感じる。
- テーマ2 廃止措置、再稼働
- 最初に寿都町や神恵内村について学生が神恵内村の人と話した経験であまり反対は感じられなかった。外部の反対の人が入ってきて反対しているのではという質問があり、回答として各町村の少数の反対の人が外部の人と連携して反対している。両町村とも文献調査応募以降選挙があり、現職が選ばれていることから住民の支持はある。
- トランプ大統領は地球温暖化に懐疑的だが原子力については支持する方向と思われる。
- 廃止措置は廃炉の実績を示すことが重要。現在の発電所は廃炉を考慮して建設されていないので廃炉した結果を示し実感できるようにすることが重要。
- 再稼働の審査で規制庁は1万ページに及ぶ資料を審査したと言われているがそのような審査が合理的か。誤字などはAIを使えば合理的に修正できる。効率的に審査する必要がある。
3. 講評および閉会挨拶(星野知彦)
- シニアネットワーク連絡会代表幹事の星野です。
まずは、今回の対話会の企画運営に携わった皆さん、ご苦労様でした。企画、参加者募集から本日の開催までの皆さんのリーダーシップに感服いたしました。
研究室や部活動でもなく、先輩、後輩が一緒になって自主的に活動されているような組織は、私にとって初めてでした。私もシニアネットワーク連絡会に入会し、いくつか対話会に参加しましたが、多くは学生は授業の単位を取るために参加するというものでした。そういうケースと比べると自主的にテーマを定めて仲間やシニアと議論を行う皆さんの意欲は素晴らしいと思います。これからも同世代の方を引っ張っていっていただきたいと思います。
さて、わずか1,2時間の対話では疑問に感じていたことの答えが得られなかったり、議論したことの結論が出なかったりしたかもしれません。しかし、そういうことよりも短時間でもしっかりとした議論を経験することが大切です。私は皆さんとの活発な議論に参加できてとても有意義でした。(発表原稿の作成ではシニアが持っていないテクニックを目の当たりにすることができたのも有意義でした。)
第7次エネルギー基本計画では2040年、2050年に向けての目標が示されています。15年後、25年後には現在学生の皆さんが中心となって世の中を動かしていくことになります。
ご参加いただいた皆さんには今日のような高い意識を持ってこれからも取り組んでいただきたいと思います。
4.アンケート結果の概要(早野睦彦、和佐陽斗)
- すべて原子力専攻の学生なので原子力や放射線などに対する理解は進んでいる。
- 基調講演では聞きたいことが聞けなかったなどの意見がある。講演内容が広範すぎたこと、もっと質問時間の方に時間を割くべきだったことなど反省させられる。
- 対話は比較的好評であることから、基調講演より対話のウェートが高い方が望ましい。
(他校に比べて対話時間が長いがそれでももっと時間が欲しかったとの意見があった)
- アンケート詳細については別添資料を参照下さい。
5.別添資料リスト
(報告書作成:早野睦彦 2025年1月15日)