学生とシニアの対話
in 東北大学2024(第18 回)報告書

東北大学との対話会は、今回で18回目となる。 参加経験のある大学院生が幹事役を務め、企画、参加者募集、事前質問とりまとめ、プログラム案作成、当日の進行役など責任を持って対応してくれた。参加者は10人で、3班に分かれて各班とも第1回対話、第2回対話と二つのテーマで、二度対話した。質問に対する回答資料と講演資料を1週間前に大学側に届け参考に供した。対面で比較的少人数グループで行ったので率直な意見交換ができ、「原子力が社会に貢献できることを見つめ直すいい機会になった」などの感想もあり、学生、シニア双方ともに有益な対話会となった。
また、今回は電気新聞からの取材が行われた。
- 2024年 12月5 日(木) 13:00 ~ 17.30
- 東北大学青葉山キャンパス 量子本館 1F量子セミナー室(1)
- 大学側: 大学院生(博士課程1年) (サポート遊佐訓孝教授、阿部博志准教授)
- シニア側: 阿部勝憲 (サポート本田一明)
- 教員:東北大学 工学研究科 量子エネルギー工学専攻 橋爪秀利教授
- 学生:10 名
量子エネルギー工学専攻 (修士1年4名、修士2年1名、博士1年3名、博士2年2名) - シニア: 6 名
(シニアネットワーク連絡会) 早野睦彦、大野 崇
(シニアネットワーク東北) 阿部勝憲、井上 茂、中谷力雄、本田一明 - オブザーバー:電気事業連絡会 安田宗浩
- 今回の対話会は原子力の経験豊富なシニア(電力OB、メーカーOBそして大学名誉教授)にお越し頂きました。
- 東北大学では、「国際原子力人材育成イニシアティブ事業」及び「原子力規制人材育成事業」の二つの人材育成事業を行っており、外部からも講師を招いていますが、どうしても一方通行の講義になりがちです。
- 今回のシニアとの対話は人と人との関係において大切なコミュニケーションをとる良い機会です。 学生諸君は深い経験を持っている人と対話する機会にはなかなか恵まれないであろうから、対話を通じて原子力の将来や自分の進路などなどについて考えて頂ければと思います。
- 一方通行でなく本音ベースの対話を通してしっかり学んで頂きたい。
- 講演者名: 早野睦彦
- 講演題目: 「日本の将来における原子力の役割」
- 講演概要:
・①人類とエネルギーのかかわり、②エネルギーについて、③国内外のエネルギー情勢とGXに向けての状況、④原子力の特徴と課題(核燃料サイクル、HLW)、⑤次世代炉への期待、⑥リスクについて考える、の話題展開で講演が為された。
・エネルギーは、生きとし生けるもの全てが使用してその営みを支えるもの、その確保は種の発展存続を支配するものであること。
・一次エネルギーは3種類(化石燃料、再エネ、原子力)しかなくそれぞれに一長一短があり、100億になんなんとする人口を支えるには、このエネルギーは嫌だというような贅沢は人類には許されていない。
・我が国の経済活動を支えるには膨大なエネルギーが必要であるが、日本は世界有数の資源小国であり、エネルギーの約9割を輸入に頼っている。
・原子力技術は我が国が苦労して勝ち得た財産であり、これを利することにより初めて技術立国として我が国は立ち行くことができる。
・原子力は核燃料サイクルが閉じて初めて真の価値を生む。核燃料サイクルは国家の根幹をなす息の長い事業であり、一時の世論に流されるべきものではない。
・生きている限り必ずリスクを伴う。リスクがどの程度のものであるかの認識を共有して、リスクミニマムを求めながらもリスクとともに生きてゆく覚悟を決めてこそ成熟した大人の社会である。
・最後に、資源小国日本がこれからも一流国を目指すのか、二流国で甘んじるのか、それは次世代の覚悟の問題。 サイエンスリテラシー、メディアリテラシーに磨きをかけて決して教条主義に陥ることなく、自分の頭で考えること、それが我が国に残された道であり、そのような覚悟を持って冷静に次世代革新炉を見つめていただきたい、 と締めくくった。
・対話会のベース情報となるとともに演者のエネルギーと原子力に対する熱意が籠った講演であり、今後の活躍が期待される参加者への力強いメッセージになったものと考えられる。 - 1)参加者
- 学生:3名(量子エネルギー工学専攻:修士1年2名、博士1年1名)
シニア:中谷力雄、井上 茂 - 2) 主な対話内容
- 第1回テーマ:「再稼働、運転延長」
参加者全員の自己紹介からはじめた。 事前質問に対し回答資料を送っており、それらの内容を踏まえて、対話に入った。
主な対話内容は以下のとおり。 - ①再稼働や運転延長に際してのプラント健全性担保をどのようにするのか
⇒ 予防保全方法、検査手法、劣化の把握、新検査制度などについて説明し対話した。 -
②国内外の運転延長年数や寿命の考え方は。既設炉の寿命をさらに延ばす技術が有効ではないか
⇒ 設計目標はあっても寿命を決めている国はない。米国では80年運転を議論している。寿命の鍵を握るのは圧力容器の脆化、コンクリ劣化など。 - ③再稼働の同意に関し住民が何を理解できないのか分かりにくい。
⇒ 安全は理解してもリスク許容の観点で安心とはならず慎重な意見になるのでは。事業者への信頼も必要。 - ④安全の定量化など規制内容を変えるにはどうすればよいか。規制側と事業者の対話の場はあるか。
⇒ ATENA(原子力エネルギー協議会)が設立され規制側と協議する場が出来た。安全目標が定量化されないと事業者は終わりのない対応を迫られることにもなる。リスクゼロを求める国民の感情を変える必要がある。 - 第2回テーマ:「原子力の将来について」
テーマに絞られずに自由な対話を展開した。主な内容は以下のとおりで、最後に学生から今回の対話を総括する意見(②)があった。 - ①原子力の将来性と就職について
学生が興味ある技術、就職希望分野、最近の就職動向などを聞くとともにシニアの経験を交え対話した。原子力は安全研究分野などテーマが豊富で長期にわたり仕事がある分野であることなどが話題になった。 - ②国民の理解のためのエネルギー情報と教育について
賛否ではなく原子力は使わざるを得ない状況と考える。半数以上の国民の理解が必要で理解活動が重要。情報は公開されていてもエネルギーの状況に関して国民は十分に情報を得ていない。情報を採ろうとしない人にも情報を伝える必要があり、そのためにはエネルギー教育が重要である。具体的にはシニアネットワークでは教育学部学生と対話しているというが、教育者にも教えることも必要では。また、小・中・高学校で電力会社や大学院生がエネルギーの実情を伝える講義をすることも有効ではないか。 - 対話は、原子力だけではなくエネルギー全般の理解活動の重要性に関する意見が出るなど前向きなものだった。また、進路についても専門性を生かしたいなど頼もしさを感じた。
- 1)参加者
- 学生:3名(量子エネルギー工学専攻:修士1年 1名、博士1年 2名)
- シニア:本田一明、大野崇
- 2) 主な対話内容
- 第1回テーマ:「原子力と地域共生、関連法規」
司会役は学生が担当し、参加者全員の自己紹介からはじめた。出身/研究分野はバラエティーに富んでおり、修士生は横浜出身で加速器による植物の炭素分布同定を、博士生の一人は栃木出身で原子炉/HWL金属材料の腐食研究を、もう一人は福島出身で劣化しにくい酸化物合金開発など様々であった。
- 学生からの事前質問にとらわれず第1回、第2回テーマに分けずに今の原子力/エネルギー課題を広く議論するため学生の関心事について自由に対話に入った。
- 主な内容を以下に示す。
-
① リスクについて:
「安全は社会に受け入れられるリスク以下」ということについて意見交換。
-自動車は自分の意志で乗るが原子力は自分の意志ではなく他者からの押し付けで地域限定。一般論では世の中にリスクはつきものかもしれないが、電力消費する大都市と原子力立地地域では受け止め方が違うのではないか。
-日本と欧米では「安全」や「リスク」の捉え方に大きな違いがあることをシニアから説明。 安心は心理的(感情的)なことであって、人と人との或いは人と組織との信頼感から生まれるもの。 原子力発電所の社会的受容のためには、関係者との信頼を大事にし、信頼を醸成して行くことが大切。 -
② 再稼働について:
原子力発電所の再稼働と地域の理解に関して意見交換。
-女川2号機の再稼働は地域との信頼関係を大事に進めている。
-東電柏崎の再稼働も地域の信頼を得ることが大切。 現場を見学する機会に恵まれたが地元と関係が難しいようで至近の再稼働は困難ではないかとの印象を受けた。
-再稼働を進めてから新設・増設をするのは妥当であり、再稼働は使える電源は使うべきという観点から理解する。 再稼働に当たって人材の育成・確保は大事と認識した。
- これらの他、原子力発電所の海外諸国への輸出、人材育成、サプライチェーンなどについて、シニア側から基調講演内容に補足説明をしつつ対話。
- 第2回テーマ:「原子力の将来」
- 学生が本テーマで感じていることを中心に対話を進めた。
- 概要を以下に示す。
-
① エネルギー自給率について
-低いことは情報として知っているが数値までは踏み込んで理解していなかった。 自給率を高めるためには原子力が必要。 再稼働しても寿命60年では新増設が必須と思う。
-再稼働を進めつつ、省エネを推進。エネルギー効率を上げ、損失を少なくする技術開発を行って行くことが大切ではないか。 -
② 電気料金と電力自由化
-電力自由化で新電力が出来たが、新電力は発電所を所有していないにも拘わらず電気料金を安く提供できる理由は、との質問に関連して、電力卸売市場からの調達、再エネとFIT制度、電力自由化(総括原価方式、供給義務)などに話が及んだ。
-今後の電気料金の見通しに関する質問に関連して、将来の社会インフラの在り方(スマートシティ、分散型社会)について話題となった。
- 福島事故の時は小学校高学年。実感度は出身地で異なるが東日本大震災で身の回りに起きたエネルギー関連の事象は強く印象に残っているようだ。 皆さん積極的であり、話題豊富な中で双方向の充実した対話が出来た。
- 1)参加者
- 学生:4名(博士2年 1名、修士2年 1名、修士1年 2名)
- シニア:2名(早野、阿部)
- 2)主な対話内容
- 学生司会により自己紹介のあと対話を進めた。学生の研究テーマはイオンと電子によるプラズマ計測、トリチウム透過、イオンビーム分析関係であった。参加グループは各自の研究分野や事前質問と関係なく編成されていた。第一回としてグループテーマに関連した対話を行ったあと、第二回として共通テーマについて対話・意見交換を行いった。主なトピックスは以下の通り:
- 第一回対話:次世代革新炉開発
-
-革新軽水炉は燃料などの要素技術やサプライチェーンなど軽水炉の実績が活きるので実現が早い。ただし建設コストが高いので国の方針決定が要る。建設場所は現有の発電所サイトが有力。廃炉では大部分が非放射化物質なので放射化した一部の金属とコンクリート構造体が処理対象となるに過ぎない。
-高速炉開発において原型炉もんじゅの廃止措置は大損害。継続の社会要請が弱かったのはエネルギー安全保障のひっ迫感のないこと、そしてコスト高とナトリウムリスクの過大評価にあると思っている。
-核融合炉は研究開発段階、ITERが計画の遅れあるが自己点火実験を目指す。実用化にはトリチウム技術など炉工学の課題をクリアする必要がある。
-高速炉開発の経験から核融合炉開発を見ると、システムエンジニアリングの不足と新しい要素技術開発に課題があると感じる。 - 第二回対話:原子力の将来
- -再稼働について、安全性が高くなっていることの理解促進とエネルギーや放射線に対する教育こそ重要である。
- -新設について、軽水炉と高速炉について比較議論、コストとタイムスケジュールからまずは革新軽水炉、ただし燃料サイクルが完結してこそ原子力の価値があるので将来的には高速炉が必要。
- -事故炉の廃炉は非常にタイムスケール長い事業である。
- -結論として、GXには再エネだけでは無理で原子力を前倒しする必要ある、原子力のリスクよりも止めるリスクが大きい。
- 対話を通して、原子力をめぐる課題と将来の見通しについて、学生諸君は自分の研究テーマとの関係あるいは進路選択も関連して、抱えている疑問や意見をざっくばらんに話してくれたように感じた。これから社会に出る若い諸君は、革新軽水炉、高速炉、高温ガス炉、核融合炉などの開発や実用化に立ち会える可能性がある。原子力の両輪のエネルギー利用と放射線利用とも、①世の役に立つ、②テーマが沢山あり面白い、③国際的に活躍できる、と励ました。
- 東北大学とは、2005年に対話活が始まってから切らすことなく毎年対話会を続けてきており今年で18回目を迎え歴史のある会です。私自身も何回ともなくお邪魔しております。初めてと思いますが今回は電気新聞の取材を受けることとなり、13年の長いトンネルを抜けた記念となる気がします。
- 今回は、議論の導入として「日本の将来における原子力の役割」と題して原子力開発の歴史から次世代炉の開発までの昨今の原子力を取り巻く状況を含め内容の濃い講演が行われました。
- それを受け、3グループに分かれて学生諸君と、自由闊達な議論が行われました。「再稼働、運転延長」では、経年劣化、安全対策の実際が、「原子力と地域共生、関連法規と規制」では、廃止された場合の地元経済への影響、規制は経済性も考慮すべきでないか、エネルギーに関するリスクコミュニケーションの必要性が、「次世代革新炉開発」では、核融合炉などの国際研究開発の課題、コストパフォーマンス、次世代革新炉開発の課題が議論されました。
- 最後に、学生さんの関心のある「原子力の将来について」に自由な意見交換を行いました。
- 流石に量子エネルギー工学の院生だけあって、ポイントを衝いた質問が多くシニア諸兄も熱意のこもった回答を行っていました。
- 2時間程度の対話でありましたが、世代を超えた対話が成立し学生諸君も貴重な経験となったのではないかと思います。
- エネルギーは人類にとってなくてはならないものです。常に社会の要請にこたえなければなりませんが、社会情勢により大きく影響を受けます。これからの「持続可能なエネルギーシステムの構築」の主役は、あなた方の世代に移ります。大いに期待しております。
- 本学との対話会の特徴は、学生が幹事役を務め、企画、参加者募集、事前質問の取り纏め、プログラム案作成、当日の進行役など責任を持って対応してくれることです。
- 全部の研究室に声掛けして纏めることは大変であり、その労をねぎらいますと共に、良い経験になったのではないかと思います。
- 原子力の将来については面白い話がいっぱいあります。
① 役立つ:放射線の利用(分析、医療)、エネルギー利用、② 面白い:計測、設計、電気材料などなど、③ 国際的:核分裂、核融合、放射線利用に関し世界的研究テーマあり、など、
是非これからも頑張ってください。 - アンケート回答者は10名(対話会参加者も10名)で、回収率は100%でした。
- 講演の内容については、「とても満足」(60%)、「ある程度満足」(40%)であり、全ての学生に満足頂けた。
- 対話の内容についても同様に、「とても満足」(80%)、「ある程度満足」(20%)で全ての学生に満足頂けた。
- 電源については、半数以上(80%)が原子力発電の必要性を認識し再稼働を進めるべき、また、再エネ発電については、半数以上(60%)が発電が天候に左右されるので、利用は抑制的にすべきと回答。
- 地球温暖化や脱炭素社会の実現についてほとんどの方が少なからず関心や興味を有しており(「大いにある」60%、「少しある40%」)、この脱炭素に向けた電源のあり方には、「原子力発電、再エネ発電、化石燃料発電をバランスよく組み合わせることが望ましい」(100%)の回答であった。
- 全体を通しての感想では、「原子力が社会に貢献できることを見つめ直すいい機会になった」、「エネルギーの将来像を考える時の将来社会のイメージを持つ重要性が良く理解できた」、「今後もこのようなエネルギー問題に関する対話を行ってみたい」など、好評であった。
- アンケート詳細については別添資料を参照下さい。
- 講演資料: 「日本の将来における原子力の役割」
- アンケート集約結果
1.講演と対話会の概要
(1)日時
(2)場所
(3)世話役
(4)参加者
(5)開会の挨拶(橋爪量子エネルギー工学専攻長 )
以下の趣旨のご挨拶があった。
(6)基調講演
2.対話会の詳細
(1)グループ1(報告者:井上 茂)
(2)グループ2(報告者:大野 崇)
(3)グループ3(報告者:阿部 勝憲)
3.講評 (大野 崇)
4.閉会挨拶 (阿部 勝憲)
以下の趣旨の挨拶があった。