日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

学生とシニアの対話
in 静岡大学静岡キャンパス学部学生との対話会 2024年度(第1回)報告書

 
日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)世話役 田辺博三
報告書作成 2024年7月20日
《静岡大学静岡キャンパスと富士山》
学生の関心事の対話を中心に実施
静岡大学静岡キャンパス前期学部学生対話会は、連続講義「静岡県の防災・減災と原子力」の講義を受講する人文社会科学部、教育学部、理学部、農学部の3年生と若干名の4年生の計33名を対象に実施した。
「静岡県の防災・減災と原子力」は、原子力防災・減災を中心に、エネルギー、環境、セキュリティ、地球温暖化、原子力発電、放射線防護等の幅広い分野にわたって講義が行われている。今回の対話会はその一環として開催されており、対話のテーマは講義に関連する➀エネルギー・環境問題、➁エネルギーセキュリティ、➂原子力発電、➃原子力防災の4テーマとした。
対話では、対話概要のとりまとめと発表を行う学生を指名してスタートした。シニアはファシリテータとして、学生の対話を促進した。
まず、学生から対話テーマに関してどのような関心があるのか、何を意見交換したいのか等を提案してもらい、その中からいくつかの関心事に絞って対話を行った。
学生は、関心事に関して自分の意見を述べ、相互の意見交換を行うことにより、自分の意見を明確にするとともに、問題の理解をより深める等、一定の成果をあげることができた。

1.講演と対話会の概要

(1)日時

基調講演  :なし
対話会   :令和6年7月5日(金) 10:20~11:50

(2)場所

静岡大学理学部A棟301教室と理学部A棟2F大会議室

(3)参加者

大学側世話役の先生
学術院理学領域 大矢恭久准教授
参加学生
人文社会科学部学生3年18名、4年1名、教育学部学生3年3名、4年1名、理学部学生3年6名、4年1名、農学部学生3年生1名、4年生2名、合計33名
参加シニア:8グループ、8名+世話役1名
早坂房次、湯佐泰久、田中治邦、若杉和彦、星野知彦、富永研司、船橋俊博、曽佐 豊、田辺博三(世話役)

(4)基調講演

なし

  2.対話会の詳細

(1)開会あいさつ

参加学生数が多かったため、2つの教室で、8つの対話グループに分かれて開催した。このため、全員の会合は開かず、各教室において、対話グループ毎にシニアから対話方法の説明を行い、シニアと学生の自己紹介から始めた。

(2)グループ対話の概要

静岡大学静岡キャンパス前期学部学生対話会は、連続講義「静岡県の防災・減災と原子力」の講義を受講する人文社会科学部、教育学部、理学部、農学部の3年生と若干名の4年生の計33名を対象に実施した。
「静岡県の防災・減災と原子力」は、原子力防災・減災を中心に、エネルギー、環境、セキュリティ、地球温暖化、原子力発電、放射線防護等の幅広い分野にわたって講義が行われている。今回の対話会はその一環として開催されており、対話のテーマは世話役の先生と相談し、講義に関連する➀エネルギー・環境問題、➁エネルギーセキュリティ、➂原子力発電、➃原子力防災の4テーマとした。世話役の先生により行われた事前の参加学生の関心事アンケートの結果に基づき、2グループ/テーマ、合計8グループに分かれて開催した。
対話では、対話概要のとりまとめと発表を行う学生を指名してスタートした。シニアはファシリテータとして、学生の対話を促進した。
まず、学生から対話テーマに関してどのような関心があるのか、何を意見交換したいのか等を提案してもらい、その中からいくつかの関心事に絞って対話を行った。
学生は、関心事に関して自分の意見を述べ、相互の意見交換を行うことにより、自分の意見を明確にするとともに、問題の理解をより深める等、一定の成果をあげることができた。
学生はグループ毎に対話内容をまとめた。
最後に、テーマ毎に2グループが相互に発表を行い、意見交換を行うことでより理解が深められたものと思う。
以下、各グループ対話の概要である。
1)グループ1
テーマ
エネルギー・環境問題
参加者
学生:5名(理学部1名、地域創造学環1名、農学部1名、教育学部1名、人文社会科学部1名)
シニア:早坂房次
対話内容
学生側の書記、発表者を指名し、簡単な自己紹介後対話会を進めた。
事前アンケートによれば、学生の関心事は以下が挙げられていた。
  • かなり前から環境問題については解決策が講じられているが、実際どのくらい成果が形として出ているのか?
  • 環境に優しいなどといったものがあるが、環境に対する影響はゼロではないとは思うが、どれほど違うのか、電力発電の観点から質問したい。
  • 地球温暖化のことを踏まえた上で、これからどのようなエネルギーが求められていくのか?
  • 石油や石炭の代替エネルギーとしてやっていけるようなエネルギーはあるのか。今1番可能性がある、注目されているエネルギーはなにか。
対話の結果として、学生は以下の通りまとめた。
  • 原子力発電のメリットは二酸化炭素を出さないこと、廃棄物の中に再利用できるものがあること(プルトニウムなど)であり、デメリットは放射性廃棄物、被害例があること。
  • 太陽光発電のメリットは直接的被害がないこと、場所を取らないこと、デメリットは場所をとること、平地を作るため森林伐採すること、パネルの寿命が20年ほどで廃棄物になること。
  • 最適な発電方法はなく、それぞれの発電方法が持つ二面性の取捨選択が必要。
シニアの感想
  • 限られた時間でテーマ選定に時間がかかり効率的・効果的とは言えなかった。
  • 事務局から学生同士の対話を重視するようにとの要望があり尊重したが、学生同士の討議は低調であり、ある程度シニア側で話をせざるを得なかった。
  • 発表者が討議内容と異なる発表を行った。
  • 間違った知識が招いた悲劇として、ハンセン病の隔離政策、チェルノービリ原子力発電所事故影響の誤報道、広島長崎の原爆投下や福島第一原子力発電所事故による放射線影響の誤解による差別などがあり、不確かな知識による無責任な言動は罪過をもたらすことを示唆した。
2)グループ2
テーマ
エネルギー・環境問題
参加者
学生:3名(理学部地球科学専攻3年1名、人文学部経済専攻3年1名、地域創造学環3年1名)
シニア:湯佐泰久
対話内容
ファシリテータ湯佐のもと、自己紹介後対話会を進めた。
事前質問への回答に基づいて、学生がテーマに関して各自の聞きたいこと、疑問に思ったことを説明した。
協議の結果、一番身近な再生可能エネルギーである太陽光発電に注目し、それと環境問題との関係、具体的には①土砂災害などの災害を誘発しないか?、②景観に影響しないか?さらに、③適切な場所はあるのか?等について議論した。
結論として、太陽光発電にはメリットが良く注目されるが、デメリットもよく考える必要がある。
メリットはCO₂を出さないことであるが、設置場所によっては(熱海の土石流のような)土砂災害を生じる可能性がある。また、生態系を破壊する可能性もある。
場所があれば設備などはすぐ作れるが、その後の維持や廃棄のコストも考慮すべきである。
したがって、設置に当たっては第三者や公立機関などによる委員会の許可を得るようにすべきである。
さらに、太陽光発電などの再生可能エネルギーと原発との比較に議論が広がった。
原発は「3.11」のような被害が怖いが、CO₂などを出さない、長期の稼働も可能というメリットもある。
結局は、さまざまなエネルギーについて、それらのメリット・デメリットをわきまえた上で、利用していく必要がある、との意見になった。
3)グループ3
テーマ
エネルギーセキュリティ
参加者
学生:3名 (人文社会科学部/経済学科3年2名、人文社会科学部言語文化学科4年1名)
シニア:田中治邦
対話内容
事前登録によると全員がエネルギーセキュリティに強い関心あり。
事前にあった質問(原油タンカー、高炉、FCV、再エネ機器国産率、有事の対応)への回答を準備し、それを最初に配布して議論の活発化を図った。
当日の主な発言は、学生間での意見交換を促したものの、シニアに対する質問が殆どとなってしまったが、それに簡単に回答することを繰り返したところ、かなり理解が深まったようで、原子力の宣伝はしなかったにも拘わらず原子力発電とリサイクル利用がとても重要との意見で一致していた。
学生との主な質疑応答を以下に示す。なお、カッコ内はシニアの回答。
  • 水素はどうやって作るか(グリーン、ブルー、グレイ、イエローを説明)
  • FCVは普及するか(世の中の流れは先ずHV、次にEV、やがてFCV)
  • FCVとガソリン車の事故の比較は(水素もガソリンも危険なことは同じ)
  • 津波のリスクはどの程度か(東北地方には1,000年に一度の巨大津波が来たが、南海トラフによる大津波はこれから近い内にある筈)
  • 原発の防潮堤は大丈夫か、事故再発はないか(科学的根拠に基づく対策)
  • 原子力と火力のコスト比較は(既設運転は原子力が有利、新設は同程度)
  • シーレーン上の中東付近の安全確保は(防衛省指示の警護体制を説明)
  • イランによる船舶襲撃事件とは(皆でインタネットから学習)
  • なぜ中国製品は安いか(ウイグル民族の労賃の低さと推定)
  • 原子力のリサイクル利用とは(軽水炉サイクル、高速炉サイクルを説明)
  • エネルギー自給率、食料自給率に関する懸念を共有
  • 新技術開発のための人材育成が大切と意見一致
シニアの感想
  • 学生は人文系でもエネルギー問題への理解が深く質問も盛ん。静かな口調でも意見をしっかり述べ驚くほど優秀。大いに将来に希望を持てた。
  • 理系に進学して原子力を学べば良かったとの意見あり(真面目な雰囲気)。
4)グループ4
テーマ
エネルギーセキュリティ
参加者
学生:3名(教育学部特別支援教育専攻、人文社会科学部言語文化学科、人文社会科学部法学科、全員3年生)
シニア:若杉和彦
対話内容
ファシリテータをシニアが務め、学生の発表者を貴島君にお願いし、自己紹介後対話会を進めた。自己紹介では出身地や趣味の話題を含めてアイスブレーキングした。
事前質問は3件あり、これらについて下記のとおり対話することとした。
  1. テーマ1.原子力の新安全基準と対策について
  2. テーマ2.日本のエネルギー自給率と課題について
  3. テーマ3.エネルギーに関する報道の実態と課題について
上記テーマ毎に質問への回答をシニアが行い、それに対して当該テーマを提起した学生が自分の意見を述べたり再質問し、そのあと全体で意見交換した。
シニアの感想:参加学生は、最近のウクライナ問題等の国際情勢の影響を受けて対話テーマへの関心が高く、学ぼうとする積極的な意思が感じ取られて頼もしく感じた。
5)グループ5
テーマ
原子力発電
参加者
学生:4名 (人文社会科学部 3名、理学部 1名、当初登録者1名欠席、未登録者1名追加)
シニア:星野知彦
対話内容
学生から自己紹介と本テーマを選んだ理由、原子力発電に関して関心のあること、知りたいこと等を発表した後、シニアより自己紹介と本日の対話の進め方を説明した。
学生たちの関心のある事項を以下の3つのサブテーマに集約し議論することとなった。
  1. テーマ1.原子力発電が抱える課題の解決方法について
  2. テーマ2.エネルギー自給率の低い日本で将来も安心して使える電源について
  3. テーマ3.原子力発電の現在・将来に関して知りたいこと(シニアとの質疑応答)
テーマ1.原子力発電が抱える課題の解決方法について
  • 現在抱える課題として再稼働が進まないことが取り上げられた。理由として地域住民の理解が得られていないことが挙げられ、電力会社の積極的な情報公開の姿勢は理解するもののそのやり方に問題があるのではないかとの意見が出た。
  • 若者は新聞、TVよりもネット、SNSが情報源。とは言うものの、わざわざ電力会社のHPまで見に行かない。小さなトラブルまで公表する努力をしても効果がない。
  • テロ対策等公表できない情報があることは理解するが、電力会社が都合よく隠しているように見える。公開できない情報があることの説明も透明性確保のために必要。
  • 原子力規制委が審議状況をネット中継しているが傍聴する気は起きない。国会中継も同じだが、マスコミがうまく切り取ってダイジェスト版をニュースにする。電力会社も主張したいポイントを切り取り編集してHPやSNSにアップすれば伝えたい情報が伝わりやすくなるのではないか。
テーマ2.エネルギー自給率の低い日本で将も来安心して使える電源について
  • 各電源はメリット・デメリットを併せ持ち、二者一択で片付けられるものではない、デメリットを理解してそれを抑えメリットをより享受できるようなバランスが重要、将来 紙からデジタル世界に変わっていくのでより安定した電源のニーズが高まる、といった意見が出された。
テーマ3.原子力発電の現在・将来に関して知りたいこと(シニアとの質疑応答)
  • 大企業からの情報漏えい問題に鑑み、物理的なテロ対策だけでなく重要データ流出や発電システムの乗っ取りのようなサイバーテロへの備えといった不安に感じていることや、将来の原子力発電所の開発状況などについての質疑がなされた。
シニアの感想:原子力に関する理解活動・広報活動、将来のエネルギー展望など重要なテーマを選び、時間の許す限り各自の意見、疑問を出し合い、よい対話がなされていた。
6)グループ6
テーマ
原子力発電
参加者
学生:4名 (教育学部1名、理学部3名、うち未登録者2名)
シニア:富永研司
対話内容
自己紹介を兼ねて原子力発電に関する意見・感想を求めるも、未登録学生が多く対話が弾まずシニアのリードで、電気の必要性と主要な発電所について、電力の課題について意見を順に語ってもらった。雰囲気が和んだところで、学生より質問が出るようになり、原子力発電所と自然エネルギの将来性について、シニアと質疑応答を行った。
電気の必要性と主要な発電所について
  • 人類は言葉・文字・火の使用により進化し今日においても火(エネルギー)は大切だ。特に、電気は日常生活をするに際して欠かすことができない。
  • 主要な発電所とその特徴について、各学生より次の発言があった。
  • 火力発電:石炭発電・ガス発電・石油発電があるが、CO2の排出が問題とされている。水力発電:我国では環境保護の観点からこれ以上の開発は難しい。原子力発電:安定性や経済性に優れているが、安全性に巡り国民の意見が二分している。自然エネルギー発電:太陽光発電、風力発電などがあるが、安定性・経済性に課題がある。
電力の課題
  • 電力の課題について、安定供給・経済性・環境保全・安全性が大切であることを各学生が具体例を含めて説明してくれた。シニアより、同時同量の原則も重要と追加。
  • 各電源には利点と欠点があり、100点満点の電源はないことを確認。私たちの生活に電気が不可欠である以上、各電源をバランスよく利用することが大切である。
  • 原子力発電の安全性が問題とされるが、安全性向上対策がなされているので個人的には安全と思う。資源が少ない日本は、もっと原子力発電を推進すべきだと思う。
  • 原子力推進者の安全と一般市民が感じる安心の間にはギャップがある。どうしたらこのギャップを小さくできるか、皆で考えてみたい。⇒僕たちを含め皆が原子力のことを正しく知ることが第一だ。発電所見学も有効!⇒正しい知識を一般市民や若い人に伝えるには、SNSの利用が効果的だ。
シニアとの質疑応答
  • 抜本的に安全な原子力の開発はされているのか?⇒Yes. 中小型炉の特性を利用した安全炉が国際協力で検討されているが完成には時間と開発費がかかると思う。
  • 太陽光発電の欠点解消にバッテリーの開発・設置は有効か?⇒太陽光発電とバッテリーの組合せがあるが、設備追加で経済性が悪化する。自動車業界を含め高性能バッテリーを開発中だが、突然発火など信頼性が課題だ。 
7)グループ7
テーマ
原子力防災
参加者
学生:6名(農学部2名、人文社会科学部3名、当日参加(学部不明)1名)
シニア:船橋俊博
対話内容
学生側の書記、発表をお願いし、簡単な自己紹介を行った後に、対話会を進めた。
始めに事前の関心事項を基にシニアが簡単に原子力防災スキームのおさらいを行なった後、対話を開始した。
テーマを決める以前に学生側から①浜岡の避難経路・手段の考え方の根拠、②浜岡原子力発電所の防災対策の特徴と海外との比較、③1Fの事故の後の復興の状況と課題に関する質問があり、それらに関する説明を行なった。
最後に浜岡原子力発電所周辺での防災訓練をテーマに学生間で討議を行い、現状認識と課題を以下のようにまとめた
  1. Q地元での訓練はどうなっているのか?
  2. A自治体によって差がある。
  3. 御前崎市は積極的に参加するように促している。住民説明会も実施。
  4. 全ての自治体にヨウ素還元剤を配布。
  5. 地域差があり、同じ市でも地区によって実施の量や質は異なる。
  6. 中高での実施が少なく、学生からの防災意識付けがなされていない。
  7. もっと避難訓練・防災訓練を増やした方が良い。
8)グループ8
テーマ
原子力防災
参加者
学生:5名(教育学部1名、人文社会科学部3名、地域創造学1名)
シニア:曽佐 豊
対話内容
学生側の書記、発表担当を決めた後に、自己紹介を行い、対話会を進めた。
事前の関心事質などのなかから、下記2件について討議することとした。
  1. テーマ1.地震が起きた時の住民の行動
  2. テーマ2.学校での教育
質問への回答として、静岡県WEBで原子力防災計画等を簡単にシニアが紹介し、それに対して当該テーマを提起した学生が口火を切る形で討議が進められた。学生側発言者指名は学生ファシリテータに一任した。
書記がまとめた討議内容について、学生全員で再度質疑を行い、追加事項を加え、現状認識と課題をまとめた。
学生報告会では、発表者から2つのテーマについて総括的に発表を行なった。
当グループの事前調査テーマは原子力防災であったが、対話の中で具体的な地震時の行動と知識向上のための教育に絞り、解決するための課題について対話を進めることができた。

3.講評、閉会のあいさつ

参加者は初めから最後まで2つの教室に分かれて対話会を行っため、全体での講評、閉会のあいさつは行えませんでしたが、対話テーマ毎のグループ間の相互発表、意見交換などを行うことでより理解が深められたものと思う。

4.学生アンケート結果の概要

(1)参加学生について

(2)対話会について

(3)意識調査について

詳細は別添の「事後アンケート結果」を参照して下さい。

5.別添資料リスト