日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

学生とシニアの対話
in 佐賀大学2024(第7回)報告書

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)世話役 山崎智英
佐賀大学 本庄キャンパス
資源エネルギー概論の授業の一環として学生とシニアの対話を実施
機械エネルギー工学コース3,4年生対象選択科目「資源エネルギー概論」の授業(基調講演1コマ、対話会2コマ)で実施した。対話の導入として、「電気自動車(EV)は環境に優しいか?~カーボンニュートラルの移行戦略を検証する~」について基調講演を行った。
学生より、「課題解決のための技術革新に向け、我々世代が尽力していかなければならないという自覚が高まったと」との発表があり、この対話が学生に役立ったのではないかと感じた。

1.講演と対話会の概要

(1)日時

基調講演:2024年11月8日(金)13:00~14:30
対話会:2024年12月13日(金)13:00~16:20

(2)場所

佐賀大学本庄キャンパス

(3)参加者

大学側世話役の先生:佐賀大学海洋エネルギー研究所 光武雄一教授
参加学生:
機械エネルギー工学コース「資源エネルギー概論」受講 基調講演:19名、対話会:20名
参加シニア:3グループ
松永健一、路次安憲、早坂房次、古藤健司、濵田寛、山崎智英

(4)基調講演

テーマ
「電気自動車(EV)は環境に優しいか?」~カーボンニュートラルの移行戦略を検証する~
講師
松永健一
講演概要
EVが環境に優しいかということを考えることによって、その後ろにあるエネルギー問題等を考えるきっかけを学生に投げかけた。

2.対話会の詳細

(1)開会挨拶

光武教授より、対話会の趣旨の説明と挨拶、シニアに対する謝辞があった。

(2)グループ対話の概要

1)グループA
テーマ
自動車の電動化の未来予想と地球温暖化防止に対する効果
参加者
学生:6名(3年生1名、4年生5名)
シニア:松永健一、古藤健司
対話内容
参加シニアの自己紹介の後、参加学生の自己紹介等を行った後、事前質問34件の内容を分類した表に基づき、質問が多かった「EVのバッテリー問題とFCEV」について議論をすることとした。
EVの廃バッテリーのリサイクル問題や固体電池の開発・実用化にて効率アップや経済性向上が見込まれること、そして資源・環境に優しいモータリゼーションの実現が期待できることなどへ話が進んだ。次に、水素自動車の未来展望について議論が進んだ。FCEVの問題:超高圧水素ボンベの事故時の災害規模は?燃料電池(FC)はPtなどの貴金属触媒を必要とするが資源・経済性は?水素の内燃機関の開発の利得は?などに話は進んだが、要は、EVと水素自動車の住み分けが明確になってくるであろうと帰着した。
中国は急速にEV化を進めているが、中国の総発電量の60%以上は石炭火力発電である。ということは、中国のEVの60%以上は石炭自動車ということにならないか?水素自動車にしても、燃料となる水素は、現在、石炭ガス・炭化水素(特にメタン)の重合反応の副産物として生産されているので、むしろ(天然ガス)メタン自動車の方が効率的ではないか?再生可能エネルギー発電などでの電力で水電気分解による水素でなければ!とどのつまり、地球温暖化ガスである二酸化炭素を排出しないモータリゼーションへの変革:「電気自動車や水素自動車の普及とは、再生エネルギー発電や原子力発電のシェア拡大に他ならない!」に帰着した。
2)グループB
テーマ
再生可能エネルギー導入による日本でのカーボンニュートラルの実現可能性
参加者
学生:7名(3年生5名、4年生2名)
シニア:山崎智英、濵田寛
対話内容
シニア、学生それぞれの自己紹介の後、事前質問に対する回答について更なる疑問やコメントをもとに意見交換した。
原子力発電所の理解を深めるためには、世代(対象者)毎の理解活動が必要。
EVやFCEVの普及を加速させるためには、デメリットを考え、デメリットを解決するため方策をとる必要がある。
再エネの主力電源化には、電力系統増強、揚水式水力、蓄電池などの対応が必要であるが、火力により需要と供給のバランスをとることも必要。
現在、第7次エネルギー基本計画が取りまとめられており、再エネの割合が4~5割で検討されている状況であることを学生に伝えた。
対話を通じ、カーボンニュートラル実現に向けては様々な技術的課題があることを再認識し、その課題に向には次世代を担う学生自らの今後の活躍にかかっていることを自覚した。
3)グループC
テーマ
原子力発電の再稼働と廃棄物処理問題
参加者
学生:7名(3年生5名、4年生2名)
シニア:路次安憲、早坂房次
対話内容
自己紹介の後、事前の質問に対するシニアからの回答、シニアからの逆質問、対話席上でのシニア/学生双方からの意見交換で出た問題点/指摘について対話を重ねた。
学生は熱力学を専攻するだけあって「エネルギー収支比」が根本原理であることを素直に受け入れてくれた。
対話会での態度は誠実・真剣で、他の人の意見に頷くなど議論に集中していた。過去に経験した他の国立大学の学生と顕著な差があった。
対話は大きく以下の二つのテーマを中心に行った。
  1. (1)原子力発電所の再稼働
  2. 再稼働の意義(必要性・メリット)、安全性、地元住民を含めた国民への説明・働きかけ 等
  1. (2)高レベル放射性廃棄物の最終処分
  2. 原子燃料サイクルの意義、高レベル放射性廃棄物処理の方法、安全性、国民理解の方策 等
学生には下記資料も配布・一部用いて対話した。
  20160126『世界省エネルギー等ビジネス推進協議会』早坂講演資料
  『2024年度 エネルギー白書 抜粋』
学生間の討論時には、シニアは席を意識的に外したため様子は不明だが、討論前に再稼働に反対だった2名の学生も賛成になっていた。
学生の結論は以下のとおり。
-エネルギー収支比が大事
-原子力発電は再稼働すべきか
  賛成派:安定したエネルギーとして期待できる
  反対派:自然災害の際のリスク
-福島の事故のように放射性物質が地域に飛来した際に、屋内に避難して窓を
 閉めるのは理にかなっている
-事故が起きた際の正しい知識をアナウンスすることが大事
-地層処分の安全性は高い

3.講評(松永健一)

皆さん、今日の対話会ご苦労様でした。我が国の将来に影響するエネルギー問題についてこの対話会で少しは勉強していただけたかと思います。 この対話会が皆さんのコミュニケーション能力を高める機会となれば幸いです。

4.学生アンケートの概要

(1)参加学生について

アンケート回答者は20名。
7名が進学、12名が進学の予定。

(2)対話会について

基調講演の満足度は、「とても満足」、「ある程度満足」を合わせて95%。「やや不満」が5%であった。
対話会の満足度は、「とても満足」、「ある程度満足」を合わせて100%であった。
対話会の必要性は、「非常にある」、「ややある」を合わせて100%であった。また、友達や後輩に対話会への参加を勧めるかについては、「勧めたい」が100%であった。

(3)意識調査について

放射線・放射能については、「一定のレベルまでは恐れる必要はない」が75%、「レベルに関係なく怖い」が25%であった。
原子力については、「再稼働を進めるべき」が60%、「新増設、リプレースを進めるべき」が15%、「2030年度目標(20~22%)を達成すべき」が25%であった。
再エネについては、「利用拡大を進めるべき」が40%、「利用は抑制的にすべき(天候に左右される)」が35%、「利用は抑制的にすべき(自然環境破壊につながる)」が10%、「分からない」が15%であった。
地層処分について関心や興味があるについては、「大いにある」、「少しある」が70%、「あまりない」が25%、「ない」が5%であった。
アンケート結果の詳細は、別添資料を参照ください。

5.別添資料リスト

(報告書作成:2024年12月)