学生とシニアの対話
in 琉球大学2024(第1回)報告書
日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)
世話役: 野村茂雄
琉球大学教育学部全景(琉球大HP) figcaption >
- 概要
- 昨年6月、金氏会長、坪谷会長および野村が、琉球大学教育学部・濱田教授の研究室を訪問し、清水名誉教授同席のもと、今年度のSNW対話会の実施をお願いした。今年度の「環境科学概論」でエネルギー関連90分1コマを割り当てて頂くことで、対話会が実現した。
対話会は、統一テーマ「君はどう考える? 世界のエネルギー情勢と日本の選択」とし、SNW側で準備したパワーポイントを利用し、濱田教授が事前講義を教育学部1~4年の受講生48名に実施。学生各位はこれをベースに独学で調査し、課題、疑問点、個々の見解をまとめ1週間後のSNW対話に臨んだ。
- シニア6名はエネルギーの専門家として紹介され、それぞれA~F班に配置され、各7~9名の学生との対話に臨んだ。既に学生側で相当踏みこんだ事前調査がなされていた。班単位での司会、まとめ、発表、撮影などの役割が、学生間でスムーズに決められ、シニアは各自からの積極的な質問に対する見解を述べるだけでよく、一方的に喋るようなことはなかった。大変充実した対話会であり、この学生達が教壇に立って「理性と見識で日本社会を牽引してくれる将来の若者」を育ててくれる大きな期待が持てた。
- 濱田教授は、90分という短い対話時間で最大限の効果を挙げるための工夫として、取り纏めの発表は各班内で行い、これを動画撮影し 他の班員が指定された班の動画にアクセスし、コメントを記入する全員参加型の取り組みとした。他校の対話会で行う全員が聞きその場でコメントするやり方は、時間が取られ、意見も限られるので、このやり方は学校側に負荷がかかるものの、他の対話会で是非検討されたい。
1.対話会の概要
(1)日時
- 2024年10月17日(木)9:30〜12:10
(2)場所
- 琉球大学千原キャンパス 教育学部 302演習室
(3)参加者
- 琉球大学
濱田栄作教授、清水洋一名誉教授
- 参加学生
教育学部48名
- 参加シニア6名
針山日出夫、大西祥作、古藤健司、岡本弘信、大塔容弘、野村茂雄(世話役)
(4)基調テーマ
- 「君はどう考える? 世界のエネルギー情勢と日本の選択」
- 参考資料(添付1)を基調にして、濱田教授が前時(10月10日)にレク。班分けを行い、中長期の世界情勢を踏まえ、わが国、沖縄のエネルギー確保、電源の最適化をどのように考えるか? に関連する班ごとのテーマ設定、次週に向けた自学を実施。これにより,学生は知識を補強し,疑問点、主張などをまとめ、対話に臨んだ。
(5)対話会
- 濱田教授により、学生7~9名とSNW1名の割合で6班編成。
- 学生主体のディベートを重視し、シニアからの発言は最小限に努めた。
- 対話会の最後(約15分)に、各班のまとめ(学生代表を事前指名)を行い、まとめの検討状況を学生が動画で撮影。濱田先生指定の特設Webで共有し、学生は他の発表に対してコメントを入力した。
- SNW側からGoogleフォームで提示した事後アンケートに協力。参加学生はスマホ、PCからQRコードにアクセスし回答した。
2.対話会の詳細
A班 「日本で必要な発電方法」 担当:針山日出夫
火力+原子力+再エネの一つに頼ることのないベストミックスがよい。
原子力も重要で、新規制基準に基づく安全対策についてアドバイス。学生側から、発電用の実態について、十分な理解促進が必要。火力に頼ることも必要との認識。
再エネは必要だが、安定供給が難しい。洋上風力発電に注目したい。
B班 「沖縄の電源ベストミックス」 担当:古藤健司
沖縄の電力事情は本土から独立した電力体系であるので、「沖縄の電源ミックス考」に絞ることとした。
対話会に向けた学生の調査等の準備状況:分担で各種発電方式:風力・太陽光・潮力・温度差発電などについて調査し簡潔にまとめていた。
沖縄の現在の電源構成の2/3を占める石炭火力発電を廃止し、5%である再生可能エネルギー電源を1/2~2/3に増加させてCNを進める。1/3を占めるLNG火力+内燃機関発電は維持する。
最新式小型炉原子力発電の可能性:1/6程度も考慮する。米軍は基地への電力源として船舶式小型原子力発電の可能性の検討を始めたとか(2022年から)。
自然エネルギー電源導入に対する蓄電システムの開発・実用化:大規模蓄電池の導入、水素製造・燃料電池、台地地形(断崖)を利用した揚水発電(福島原発処理水貯蔵タンクの再利用などのアイディア)を検討。
C班 「原子力発電の現状とこれから」 担当:大塔容弘
福島第一原発の事故を踏まえた原発の安全性について、非常時の安全対策(独立・複数の発電機設置,ポンプ車配置、耐震強化、防護壁の設置など)についてアドバイス。これを踏まえ重要性を再認識。
高レベル放射性廃棄物地層処分について、多重バリアを説明。
原発安全について、よく原発のことを知らずに報道等の知識を基に原発は危険だと思ってしまう国民が多いのではないか。不安に思っている国民は、一度原発を視察して現物とそこで働く人たちに接して、社会に安定した電気を送っている原発を自分の頭で知る必要がある。全員の視察は難しいので、子供に伝えこと(教育)で、原発に対する国民意識を変えることができるとの貴重な意見。
D班 「日本はどんなエネルギーがあるか」 担当:岡本弘信
日本のエネルギー消費量:6兆KWh、各家庭で100W電球50個を常時点灯相当。
変換効率:水力80%、火力40%、太陽光15~20%他。
自家発電はどうか? 一日8時間、自転車を漕ぎ続けても限界があり、太陽光発電はこれの1000倍。
再エネ:国産地熱(日本3位、開発リスクあるが有効)、太陽光(有望だが、初期費用大、不安定、廃棄物問題)、国産バイオマス(安定、高コスト、低効率)などの認識。
原子力:ウラン安定供給、事故時被害、廃棄物問題、核融合へ期待。
各自の発表を聞きながら、エネルギー源開発や利用の面白みや苦労する点について付け加えたので、いくらかでも次の段階の学習に役立ってほしい。沖縄では、九州では、北海道では、、、あの国ではと、話が広がるのを期待。
E班 「エネルギーの多様性」 担当:野村茂雄
沖縄のエネルギーについて、とくに再エネを自ら詳細に検討。
離島での風力:台風対策重要。低コストのマグナス式、小型、可動式を多く設置すべき。
太陽光:有望、小型パネルで各家庭の電力を賄う。蓄電池やEVとの連動させ利用拡大。初期費用大だが補助金活用できる。
バイオマス:高コスト、工業規模が小さい、将来へ期待。
大型原子力は、島の大きさ(立地)や廃棄物の問題があり、沖縄での導入は厳しい。小型SMRの可能性。
再エネの割合を増やしたいが、一つの依存することなく、ベストミックをめざすべきと総括。
F班 「理想のエネルギーとは?」 担当:大西祥作
分担を決めて再エネや原子力等各種電源の特徴やメリット&デメリット、さらには課題について調査。
原子力:安定なウラン資源確保ができ、リサイクル利用も可 → クリーンな安定電源、事故リスク、廃棄物問題、初期投資大、受入れ場所の問題がある。
再エネ:洋上風力、洋上太陽光は、大規模発電が可能で、開発が進んでいる。地熱は、地域に偏りがあり、回収効率低い、高コストなど課題あり。
3.講評
1)日常的にはエネルギー問題に関心が薄いであろう教育学部の学生(1年生~4年生)に対して、大筋で問題点を考えさせる今回のテーマ設定は、的を得た計画であった。入念に準備され、限られた時間内で一定の緊張感と融和的雰囲気の中でキビキビと進行した大変印象的な素晴らしい対話会であった。開催に尽力頂いた濱田先生、並びに「琉球大学への道」を拓いて頂いた坪谷・金氏両氏に感謝申し上げる。
2)対話の際には、学生達は事前の予備的学習でコンパクトな事前配布資料を消化したうえで、シニアとの対話に向けて自分の疑問/主張を整理すべく下調べをした事が伝わって来た。濱田先生の日頃のご指導と課題に真摯に向き合う学生達の姿勢が清々しく感じとれた。
3)琉球大学の学生達は、本土の学生と比べると物怖じせずにオープンに堂々と発言し、自分を表現することに躊躇しない特性を有している。学生達からは将来に向けた輪郭のはっきりした希望も聞けた。この学生達が教壇に立って「理性と見識で日本社会を牽引してくれる将来の若者」を育ててくれることを期待したい。
以上 針山氏
4)対話グループBは小学教育専修課程3年生の男女ほぼ同数の名前で呼び合うクラスメイトなのでコミュニケーションは頗る良好であった。従って、役割分担や分担調査もしっかりと統制が取れており、全員が闊達に発言し、議事・作業の進行はスムーズであった。
5)小学教育専修課程の学生らしく、調査等の発表・まとめは端的で分かり易かった。
以上 古藤氏
6)全員が真面目で真剣にシニアの話を聞き、自分なりの分析・評価を踏まえ、思いを語っていた。対話会は初めての経験であったようだが、短い時間であったが、良い機会であった。
以上 大塔
7)対話会の意見交換をすすめていくうちに、各自が用意したA4の所定用紙(知りたいこと、自分で調べたこと、対話会で分かったことの記入欄付き)は、ぎっしり細かい字で埋まり始めていた。濱田先生から単位取得のために対話会が終わってから提出するようにとの指示があり、合点した。
8)今回のような取り組みは別のテーマでもやっているとのことで、対話会のまとめや動画撮影に達するまでには、なんとかなるとの自信が伺えた。
以上 岡本
9)再エネに限定し、沖縄周辺の離島の様子、台風対策、さらにはバイオマスなど、事前の調査・分析が深くなされており、多くの点で同意することができた。さらにEVの活用、原子力へのコメントなどもあり、短時間のうちに現状把握、課題設定、提言をまとめ上げる能力が高く、指導的教員としてこれからの日本を牽引する若者を育て上げる場での活躍を期待したい。
以上 野村
10)どの学生も調査をしっかりしており、真面目さと調査情報・分析能力の高さに感心した。また、対話におけるアクティビティも各人それぞれ高く、積極的に発言し、発表資料を作成してくれたため、短時間の対話会ではあったもののうまくまとめることが出来た。これは将来教員を目指す学生だからかどうか不明であるが、いろいろな議論を進める上で頼もしい限りである。
11)対話会のまとめとして具体的なことが提示できなかったが、「考える対象&内容」を俯瞰的に大きく見ることも出来ることが会話の端橋で感じられた。これからの日本をリードしていく人材に育っていくことを期待したい。
以上 大西
4.学生アンケート結果の概要 (大西祥作)
(1)参加学生について
- 教育学部:1年14名、2年5名、3年26名、4年4名の計49名(欠席者1名含む)からの回答で、回収率100%。
- 進路については、就職組が9割、進学組が1割程度であるが、47名の学生が教職関連を希望。民間IT関連で2名。
(2)対話会について
- 全ての学生が、とても満足、ある程度満足であり、不満ゼロの回答。
- 事前に対話したいことが、十分できた65%、ある程度出来た35%であった。
- しかし対話時間不足81%、対話内容が難しかった13%の意見が出た。
- 希望内容を対話出来なかったとかシニアの話が長かったはゼロで、学生主体のデベートが成立した。
- 得られたことは何かについては(複数回答可)、新しい知見が得られた100%、教育指導の参考になった44%、自分の将来の参考になった23%、マスコミ情報との違いがあった19%であり、対話会での情報提供が役立った。とくに新しい知見は得られなかったとする学生が1名いた。
- 学生とシニアの対話の必要性について、非常にあるが85%、ややあるが15%、あまりない、全くないはゼロで、極めて肯定的な意見。今後、友達や後輩に対話会への参加を勧めたいかの問いに、そう思うが92%、どちらともいえないが8%であった。
(3)意識調査
- ① 放射線・エネルギー・環境について
- 放射線・放射能の危険性について、一定レベルまで恐れる必要はない69%、レベルに関係なく怖い31%。放射線・放射能の生活における有用性については、知っている96%で、ほぼ認知されていた。
- 原子力発電や再エネについては、必要性を認識し再稼働や将来に向け新増設リプレースを進めるべきと2030年20~22%を達成すべで92%を占めた。しかし危険であり削減・撤退やわからないもあった。
- 再エネ発電については、環境にやさしく利用拡大が大半。しかし天候に左右されたり自然破壊につながるので抑制すべきとする意見が19%あった。
- ② カーボンニュートラルとエネルギーについて
- 1名を除き、地球温暖化や脱炭素社会の実現について関心や興味があり、項目別では、エネルギー資源の確保や温暖化の影響と対策、原子力発電や再生可能エネルギーの役割を挙げている。
- 日本の2050年脱炭素化社会の実現可能性については、実現するとは思えない19名、分からない19名、相当いいところまで到達する11名と別れた。
- 脱炭素に向けた電源の在り方については、再エネ主体、原子力と再エネに組合せ、原子力・再エネ・化石燃料の均等組合せの3択について、ほぼ同数の回答。わからないは5名。
- ③ 高レベル放射性廃棄物の最終処分について
- 地層処分について関心や興味があるが77%と高い。
- あなたの住む地域や周辺地域で地層処分場の計画が起きたらどうしますかについては、分からない20名、反対17名、反対しない12名と別れた。
- 興味や関心がある項目として、技術29名、制度15名、処分地の選定15名であった。
5.全体の感想・意見(27 件の回答あり、重複部分はまとめた。)
- 先生方の話が難しかったけど有益な情報が多くてすごく勉強になりました。次はもっと話すこととか聞くことを考えて話したいです。
- 一般的な知識に加え独自の見解が面白く、また、新しい知見を得られて良かったです。
- 自分の考えたことがない知見を得ることができて、楽しく活動できた。
- 専門家の方と活発にディスカッションができて、楽しかったです。
- 貴重な体験、ありがとうございました。
- 普段エネルギーについて考えないので、このような機会で考えることができて、いい経験になった。
- 再生可能エネルギーについて視点が広がり、深く考えることができて良かった。
- 日本のエネルギー事情について、詳しい話を聞くことができて良かったです。太陽光パネルが海外から主に輸入されているという話は知らなかったので、とても勉強になりました。もっとエネルギー事情や環境問題について、学びたいと思いました。
- エネルギーについて知らないことが多く調べる、話を聞くことで、自分達が使っているものについて考えなければいけないと感じるようになりました。
- 講師の方に様々なことを詳しく聞くことができて、新たな知識を多く得られた時間になった。私たちがわからない用語も説明してもらえたので、質問もしやすく、話合いが盛り上がった。
- 自分が思っていたより対話で学べるものがあった。こうゆう機会をもっと増やして欲しい!
- 有識者の意見が聞けてとてもすばらしい機会になり、いろんな人の意見が聞けてよかった。
- 原子力にマイナスのイメージしかなかったが、リスクが起こる確率が減っていることがわかり、それを理解して住民が再利用に協力すべきだなと思った。
- シニアと話せて良かったです。
- 技術面だけでなく、経済や社会といった人の問題もたくさんあることが分かった。
- 全く知らないのに、原発には反対だった。しかし、少しでも知識を得ることで、反対どうこうの前に原発は安全なのかを考えることが出来た。また、専門的なお話を聞くことができ、とても勉強になった。
- すごく貴重な機会をありがとうございました!大変勉強になりました!またこのようなディベート等をしたいです。
- 個人や学生だけでは、わからない点や観点を持つことができて楽しかったです。
- 自分で調べてみて浮かんだ疑問などを、専門家の方に直接ぶつけることができる、貴重な経験ができました。
- 参考になるお話や知らなかったお話を聞けて、とても面白かったです!
- 対話の日に欠席したので、答えられるところを回答しました。事前学習をすることで理解を深めた上で対話できるので、対話を楽しめそうだなと思いました。
- とても勉強になりました。
6.別添資料リスト
(報告書作成:2024年11月1日)