学生とシニアの対話
in 長岡技術科学大学2024(第16回)報告書

- 高レベル放射性廃棄物の処理・処分方法について学生自らが考える対話
参加学生は鈴木先生の講座(核燃料サイクル)の授業を受けている修士1年生。放射性廃棄物に関する知識があり、問題意識もある。 シニア側も廃棄物の専門家が参加して応えた。対話テーマは、高レベル放射性廃棄物の処分方法について学生が考えて提案するという内容。 事実を踏まえて学生が自分で考えることができれば、との先生の意向による。留学生が多数参加していることから班によっては英語を交えての対話となった。
学生の皆さん積極的であり、少人数もあってか和気あいあいと双方向の対話を行うことができた。
1.講演と対話会の概要
今年度は講座の履修生が少ないようであり10名の参加となった。 基調講演は、留学生も多い同大学の方針に沿って英語で行った。 対話テーマについての学生の議論を積極的に進めさせることを意図し、地層処分の技術的及び社会的な事項を俯瞰的に紹介し、この中で高レベル放射性廃棄物を減らす仕組みとして分離変換について日本、フランスの研究事例を交えて説明。併せて社会受容性の観点から最近の文献調査の動向を紹介した。 また、対話テーマは、先生から与えられた「使用済み燃料の処理処分について直接処分、再処理後ガラス固化して地層処分、再処理+分離変換して地層処分、その他の方法について廃棄物管理・経済性、市民の受容性等の観点からどのようにしたら良いか提案してください」との内容。 学生が、事実を踏まえて自分で考えることができれば、との先生の意向による。留学生が多数参加していることから班によっては英語を交えての対話となった。
(1)日時
- 2024年12月/17日(火)8:50~12:00
(2)場所
- 長岡技術科学大学・原子力安全・システム安全棟3階301号室
(3)参加者
- 教員:鈴木達也教授(量子原子力系(兼)ラジオアイソトープセンター長)
- 学生:10名(予定14名。 4名欠席)(内留学生4名)。
- SNWシニア:9名
SNW連絡会 4名:田辺博三、大塔容弘、野村茂雄、石川博久
SNW東北 5名:工藤昭雄、馬場礎、高橋實、本田一明(世話役)
津幡 俊(オブザーバー)
(4)開会の挨拶:(鈴木先生)
- 開会に当たり、以下の趣旨のご挨拶があった。
- 本日は1限目に講演、2限目にグループディスカッションを行います。 後ろにいる方々は、長年原子力発電、核燃料サイクル、放射性廃棄物処分など原子力関係の仕事に携わってきた原子力学会シニアネットワークの人達で、ディスカッションのサポートをしてくれます。
- なんでも聞けば教えてくれるので、遠慮なく対話し高レベル放射性廃棄物の処分方法について考えて下さい。
(5)基調講演
- 講演者名:田辺博三
- 講演題目:"How should we dispose of high-level radioactive waste (HLW)?"
- I want everyone to be able to think and express their own opinions on geological disposal -- 講演概要: 世話役の鈴木先生と相談し、テーマは「高レベル放射性廃棄物の処分はどうすべきか、どうするのがよいか」~地層処分に関して、皆さん自身で考えて意見を言えるようになっていただきたい~とした。
まず、地層処分では、多くの課題が検討されていることを説明し、主要な課題である安全性と、安全性以外の課題に分けて紹介。- 1. 主要な技術課題では、地層処分の主たる技術的課題は地質調査、処分場設計・建設・操業・閉鎖、操業中安全性、閉鎖後長期安全性であること、NUMOの「包括的技術報告書」で詳細に検討しまとめられていることを紹介するにとどめた。また、参考情報として、陸地処分における放射性廃棄物の分類と処分方法(IAEA)、陸地処分の安全戦略は閉じ込めと隔離、などについて説明し
- 2.その他の課題では、直接処分、軽水炉サイクル(再処理)、高速炉サイクル(再処理+分離・変換)の各燃料サイクルオプションと特徴について国の資料に基づき説明した。その他の課題として、サイト選定、多重安全機能、処分場閉鎖後の制度的管理、可逆性・回収可能性、規制制度、不確実性、廃棄物最小化の原則、処分資金確保、諸外国の状況などについて参考文献とともに簡潔に紹介した。
- 最後に、日頃、学生の皆さんが関心を持った課題について、まず関連情報を収集すること、読んで内容を理解すること、出来れば同僚と意見交換すること、そして自身の意見を述べられるようになり真の知識となることを期待します、と結んだ。
- 講演後の質疑応答では、中国の留学生より、サイト選定プロセスに関して中国と日本の違いについてコメントがあり意見交換した。
- 講演概要: 世話役の鈴木先生と相談し、テーマは「高レベル放射性廃棄物の処分はどうすべきか、どうするのがよいか」~地層処分に関して、皆さん自身で考えて意見を言えるようになっていただきたい~とした。
2.対話会の詳細
(1)A班(報告者:馬場 礎)
- 1)参加者
- 学生: 学生3名(修士1年3名)
- シニア:田辺博三、馬場礎、津幡俊(オブザーバー)
- 2)主な対話内容
- 対話テーマは、(各班共通で先生から提示された)「使用済み燃料の処理処分について直接処分、再処理後ガラス固化して地層処分、再処理+分離変換して地層処分などの方法について、廃棄物管理・経済性、市民の受容性等の観点からどのようにしたら良いか提案してください」との内容。 シニアの助言を得ながら学生が議論し、最善案を提案すること、に関して議論を行った。
- 対話に当たり、学生の中からファシリテーター、対話内容筆記係、対話結果発表者を選んだ。
- 学生紹介:参加学生3名の内、1名は東海村の出身で小さい頃から原子力が身近にあったこと、また、もう1名は瑞浪市の出身で超深地層研究所が有り、また、親戚に原子力関係の仕事に携わる人もおり、その影響もあって、原子力を専攻したとの自己紹介があった。
- 学生の主な意見
- -有毒性の低下が大事。リスクとコストの議論が必要
- -300mの根拠と線量評価の妥当性はどうか
- -エネルギー資源の乏しい我が国においては、ウラン、プルトニウムの有効利用が大事
- -瑞浪市の経験では、受容性は立地地域と周辺地域で異なり、後者の意見は厳しい
- シニアからの情報提供
- -300mの根拠、地層処分の安全性評価の妥当性など専門的な解説
- -第7次エネルギー基本計画、エネルギー安全保障などの政策についての情報提供
- 対話の結論として以下の発表が行われた
- -対話の前後で、3名とも、最善方策として高速炉サイクル+分離・変換を選択した。
- -理由として、管理年数、経済性、エネルギーセキュリティをあげた。
- -市民の受容性を改善するためには、当初の計画を変更しないこと、周辺の自治体への説明も行うことが考えられる。
(2)B班(報告者:高橋 實)
- 1)参加者
- 学生:2名 大学院工学研究科1年(日本1名、中国1名)
- シニア:大塔容弘、高橋 實
- 2)主な対話内容
- 簡単な自己紹介、その後シニアが準備した補足資料に基づき、再処理の概要、長寿命核種等につき説明した。
- 学生から最終処分選定プロセスを3段階に設定したのは何故かとの質問、シニアから最初の文献調査は広く浅く、その後進展に従って、簡単な地質調査、詳細調査と進んで行く。その間に民意を各段階で反映していくプロセスを説明した。
- 高速炉再処理サイクルのコストを質問されたが、まだ、技術そのものが開発途上であり、はっきりしない旨回答、二人の学生は軽水炉再処理路線が現実的かとの意見のようだったが、一人(中国)は、今後の技術開発次第だが高速炉路線にも興味を示していた。
- また、一人(中国)からは、福島第一からのトリチウム希釈水の放出に疑問が出された。彼の親は(実家は上海近辺)反対しているとのこと。シニアからは安全上問題なくIAEAも承認していること、中国や韓国のPWRやCANDUからは福島第一からの放出以上のトリチウムが放出されていること等述べ、本人は納得したと思う。ただ、彼の親は日本に対する不信感を持っており、それが反対の根底にあると言うことのようだ。
- 日本語と英語が入り交じり、かなりあやふやな点もあったが、それぞれ意思疎通に努力し、長岡技術大の良い点が出ているかなと思った。
(3)C班(報告者:石川博久)
- 1)参加者
- 学生3名(修士1年3名。うち、中国からの留学生2名)
シニア: 工藤昭雄 石川博久 - 2)主な対話内容
- 参加者3名中2名が中国からの留学生のため基本的に議論は英語で進めた。
- ファシリテーターおよび発表者を選定後、まずkeynote speechへの質問から始めた。
- 地層処分後の評価でなぜ地下水シナリオを採用しているか?中国では地下水の量は非常に小さいと考えられているとの質問があり、日本を含め多くの国では地下水による核種の移行が主要な核種移行のルートで砂漠のような環境以外は地下水が存在しこの考え方が主である旨説明した。また、廃棄物が今後多く発生すると地層処分場に必要な敷地が足りなくならないかの質問があり、処分場の面積はそれほど大きくなく十分に設置できることを説明した。
- 次に中国の状況について情報交換し、中国では直接処分か再処理+ガラス固化についてはまだ決まっていないとのことであった。
- 海外の状況や主に欧州各国の地層処分に関する状況を話し合い現状認識を行った。
- 対話の議論としてまず直接処分、再処理後にガラス固化して処分、再処理+分離変換後に処分の3つのオプションから議論前の知識で何を選ぶかを提示してもらい、再処理後にガラス固化して処分を選択する意見が多かった。
- その結果を踏まえ廃棄物管理、経済性、市民の受容性の観点についてさらに議論を進めた。
- 議論の中で、地層処分後に新しい技術が開発されたらどうするか。いつの時点での処分を考えるのか。などが提起され、回収可能性に関する研究開発が進められおり将来の新しい技術を適用できる可能性があることを示した。
- 検討の前提として現時点で処分を行う場合と数十年後に処分する場合に分けて考え、現時点では直接処分または再処理後ガラス固化して処分が望ましいと考えられ、数十年後処分するのであれば再処理+分離変換後に処分が望ましい。ただし、再処理+分離変換の場合コストを考えて現状に比較してコストが十分に低減されることが条件ということで議論がまとめられた。
- 参加の学生は前もってkeynote speechは勉強しているようだが、かなり多くの内容であるため、その理解のための質疑に比較的時間をとられ、実質的な議論の時間は少し限定された。また、英語による議論のためなかなか細かい説明や議論まで難しく、十分に理解が進んだ状況には至らなかったが、地層処分の基本的な考え方や課題は理解できたのではないかと思われる。
(4)D班(報告者:野村茂雄)
- 1)参加者
- 学生2名(修士1年。うち中国からの留学生1名)
- シニア:野村茂雄、本田一明
- 2)主な対話内容
- 修士課程1年の学生2名との対話。1名は、今年9月に来日した中国人で、炉心安全関連が研究テーマ、博士課程進学を希望。もう1人は北海道出身で、核融合炉壁が研究テーマ、電気関係企業への就職を希望。中国人は、日本語を勉強中であり、英語での対話となった。
- 提示された地層処分の3つのオプションについて、概要は理解しており、専門的視点を含めて自ら深く考える機会となった。
- 若者には、分離変換のオプションが大変魅力的な選択肢のようであるが、まだラボスケールで実用化までには、経済性を含め未知の開発課題があること、従って現行の再処理リサイクルを是とし、将来的なオプションとしての分離変換のオプションを選択した。この判断を鈴木教授は評価した。経済性、社会的視点を含めた多面的な検討は、余り経験がなく、いい機会となったようだ。
3.講評(野村茂雄)
本日のSNWからの基調講演や対話会での議論は、専門的ですぐ理解ができない内容もあったと思います。しかし時間をかけて読み返せば、きっと理解できる内容と思います。
原子力利用が始まった1960年代から今日まで、世界には約40万トンの使用済燃料が出た。毎年約1万トンの割合で増加しており、このうち1/3は再処理されたが、残りの2/3は、保管され直接処分待ちが多い。本日議論した使用済燃料の処理処分の課題は、世界的なものであり、皆さんがこうしたテーマに今後関わる機会が出て来る事と思います。その時には、今日の内容を思い起こし、ファクトに基づく、技術的、科学的、さらには社会的視点から自分の意見を述べて下さい。本日は、ありがとうございました。
4.閉会挨拶(鈴木先生)
各班から使用済み燃料の処理処分について提案して頂き有難うございました。 議論してお分かりのとおり、各処分方法にはいろいろな見方、考え方があり、正解は一つではありません。 また、発表にあったとおり、現在の再処理後ガラス固化して地層処分する方法も将来の技術開発状況に応じて変更してゆく柔軟性も大事です。 併せて、社会的受容性が大切なことは言うまでもあません。 これからもいろいろな面から学んでください。
5.学生アンケート結果の概要
- (1)参加学生について
- 参加学生10名のうち、5名(うち留学生2名)から回答を頂いた。 回収率 50%)。
- 原子力系専攻が4名。原子力系専攻以外が1名。 また、進路は1名が進学。4名が就職希望。
- (2)対話会について
- 基調講演は、「とても満足」(80%)、「ある程度満足」(20%)であり、回答者全員に満足頂けた。
- 対話の満足度も「とても満足」(60%)、「ある程度満足」(40%)あった。肯定的な意見は、新しい知見が得られた、自分の将来の参考となったことが挙げられた。一方で、不満の感想もあり、理由として、講演については、「説明が分かり難かった」、「時間不足」が挙げられ、また、対話では「希望内容について対話出来なかった」ことが挙げられており、今後の改善に生かしたい。
- 「学生とシニアの対話」の必要性については、「非常にある」(80%)、「ややある」20%)と全員から評価頂いた。
- 「対話会への参加を勧めるか」については、「勧めたいと思う」が(100%)であった。
- (2)意識調査について
① 放射線・エネルギー・環境について - 放射線・放射能の危険性については「一定レベルまで恐れる必要はない」が100%、また放射線・放射能の生活における有用性についても「知っている」100%で、認知されていた。
- 原子力発電については全員が必要性を認識しており、「再稼働を進めるべき」(60%)、「将来に向け新増設リプレースを進めるべき」(40%)であった。
- また、再エネ発電については、「環境にやさしく利用拡大」(40%)、「天候に左右されたり、自然破壊につながるので抑制すべき」とする意見が60%であった。
- ② カーボンニュートラルとエネルギーについて
- 2050年カーボンニュートラル(脱炭素)について、関心や興味が「大いにある」(60%)、「少しはある」(20%)、「あまりない」(20%)で、関心項目としては「我が国の環境政策全般」、「原子力発電や再生可能エネルギーの役割」、「温暖化メカニズム」がこれに続いた。
- 日本の2050年脱炭素化社会の実現可能性については、「実現するとは思えない」(80%)、分からない(20%)であった。
- また、脱炭素に向けた電源の在り方については、「原子力発電、再エネ発電、化石燃料発電をほぼ均等」(60%)、「再エネ中心」(20%)、「原子力と再エネの組合せ」(20%)であった。
- ③高レベル放射性廃棄物の最終処分について
- 高レベル廃棄物の最終処分については、「関心や興味が大いにある」、「少しある」が40%ずつ、「あまりない」が20%であった。「近くに処分場の計画が起きたらどうするか」については「反対しないと思う」が40%、「反対すると思う」が20%、「分からない」が40%であり、分かれた。「地層処分について興味や関心がある項目」については「技術」が最も大きく、次いで「制度」、「処分地の選定」の順であった。
- 対話会全体について、「ディスカッションでなかなか聞けない話も聞くことができて勉強になりました。」との感想を頂いた。
- アンケート詳細については別添資料を参照。
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基調講演: "How should we dispose of high-level radioactive waste (HLW)?"
- I want everyone to be able to think and express their own opinions on geological disposal - - アンケート結果詳細