日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

学生とシニアの対話
in 宮城教育大学 2024(第7回)報告書

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)
             世話役:工藤 昭雄
報告書取り纏め:本田 一明
宮城教育大学正門(2024年6月11日撮影)

教職を目指す学生と世論調査結果などについて意見交換

大学側世話役である福田先生の講義時間(「自然科学と現代的課題」)を利用し、対話会を2日に分けて(1日目は基調講演、2日目は対話)実施した。 参加頂いた学生さんは3人と少なかったが、皆さん福田先生の講義を受けて原子力と放射線に関してよく勉強しており、知識もあって原子力に肯定的な意見を持っている。
学生から最近の原子力に関する世論調査結果に関連した議論テーマが提示され、これらを中心に対話を行った。時折先生も対話に入ってアットホームな雰囲気の中でざっくばらんな双方向の意見交換ができた。 対話の最後に感想を伺ったところ、「対話会により普段考えていることに対してより深く考えることができ、大変良い機会になった」、「エネルギー源を考える時には多くの視点から考えないと、偏った考えになるので、幅広く偏らない知識を持つことが大切であることを知った」など、将来の教師としてエネルギーに関して理解を深める機会となったようであり、参加者とシニア双方とも満足のゆく充実した対話会であった。


1. 講演と対話の概要

教職を目指す学生3名が参加。対話会は大学側世話役である福田先生の講義時間(「自然科学と現代的課題」)を利用し、6 月 11日(基調講演)及び6月25日(対話)の 2日に分けて実施した。 1日目(6/11)は「地政学、為替等リスクに強いエネルギー政策のあり方について」を演題として基調講演による話題提供を行った。 2日目(6/25) の対話会までの2週間の間に基調講演に関する質問を受け、回答を対話会前に返して臨んだ。

(1)日時

6月11日(火)16:15~18:00 : 講演(講師:本田一明)(対面)
6月25日(火)16:15~18:10: 対話(対面)

(2)場所

6月11日(火):宮城教育大学青葉山キャンパス(2号館、224室)
6月25日(火):同上

(3)参加者

宮城教育大学 理科教育講座 福田義之教授
学生: 6月11日(火) 2名(2年生1名、4年生1名)
      6月25日(火) 3名(2年生1名、4年生2名)
参加シニア:3名
シニアネットワーク連絡会:西郷正雄(6月25日対話会)
シニアネットワーク東北:工藤昭雄(世話役)、涌沢光春、本田一明

(4)開会の挨拶(6月11日)

福田先生から対話会開催の趣旨説明、続いて工藤世話役から参加シニアの紹介及び本日のスケジュールの紹介があった。

(5)基調講演(6月11日)

講演者:本田一明(SNW東北)
講演題目:「地政学、為替等リスクに強いエネルギー政策のあり方について」
講演概要:「日本のエネルギーについて地政学的観点を踏まえて考えてみよう」との趣旨で、世界のエネルギー資源と日本、及びウクライナ危機で再認識されたエネルギー安全保障の重要性から、日本の抱えるエネルギーの課題とそれらの対応策としてのエネルギー基本計画を取り上げて解説する内容。 また、5月から検討が開始された「第7次エネルギー基本計画」について、加えて参考として原子力に関する最近の世論調査結果を紹介。 エネルギー政策は我々の将来に大きな影響を与えるので、その議論は非常に重要。私たち一人ひとりが関心を持ち、積極的に議論に参加することが求められる。エネルギーを知ることは、国際社会を知ることでもあり、私たちの周りのエネルギーの問題について、自分事として考えてみよう、と結んだ。
  

2.対話(6月25日)の詳細

(1)テーマ:

事前質問時に学生から提示された中から、以下の話題とした。

テーマ1:火力発電等で生じる CO2 によるリスクと、原子力発電で生じる核のゴミ等の問題を比較してどちらの発電方法をより推奨するのか。
テーマ2:「最近の原子力に関する世論調査結果に関連した話題。
  1. ①原子力発電について「徐々に廃止すべき」または「その他,わからない,あてはまらない」と回答した人たちの回答の根拠として考えられるのはどのようなことか。」(興味がない,難しい問題である,など…)
  2. ②こうした状況を踏まえ,教育の道を志す我々にとってできることはどのようなことであるだろうか(小・中・高と段階を通して現場でできそうな授業,取り組みなどについて

(2)参加者

学生:3名。(教育学部2年生1名、4年生2名)
シニア:西郷正雄、工藤昭雄(世話役)、涌沢光春、本田一明

(3)主な対話内容

参加学生、シニア各自の自己紹介後、学生の進行で対話を進めた。 4年生の2名の方は昨年SNW東北で行った「原燃サイクル施設見学会」に参加しており、エネルギー及び原子力に関心があり、知識も有している。

  1. 1)テーマ1:「火力発電等で生じる CO2 によるリスクと、原子力発電で生じる核のゴミ等の問題を比較してどちらの発電方法をより推奨するのか。」について
  2. シニア各自の意見・見解を述べつつ学生と意見交換した。 趣旨は以下のとおり。
    (シニア)核のゴミ等の問題については、現在、将来を含めて安全に処分できる設計は完了しており、必要とされる処分場はゴルフ場一つ程度で狭い空間に閉じ込められる。一方CO2は世界中の大気に拡散され、これを回収することは、放射性廃棄物を閉じ込めるより難しい。CO2の気候変動への影響は強調されすぎている感もあり、植物の光合成に重要な役割を果たしているCO2を単なるゴミ扱いして比較するのは適当でないのではないか。火力、原子力そして再エネも含めて、何れの一つの発電方法を選択するということではなく、三者を活用したエネルギー供給の最適解を求めてゆくことが大切。etc.
    (学生)CO2は悪者のイメージだが確かに植物の光合成になくてはならないもの。一つの目線ではなく、多面的に見ることが大切なことを学んだ。
    (学生)日本の現実問題として電源は火力依存であり、化石燃料の海外依存度を下げてゆかなくてはならない。代替手段として再エネ、原子力があるが再エネには限界があり原子力を活用せざるを得ないと考える。エネルーミックスが大切と認識している。
    (学生)CO2を排出する火力発電は環境に良くなく、削減する方向としてその減少分を原子力と再エネで賄う。原子力は再エネと比較して安定で大量の電力を生産できる。再エネは果たして環境に良いかも疑問。 安定電源としては将来核融合に期待したい。
    また、原子力が準国産エネルギーと位置付けられる所以について種々意見交換した。

  3. 2)テーマ2:「最近の原子力に関する世論調査結果に関連した話題について
    1. ①原子力発電について「徐々に廃止すべき」または「その他,わからない,あてはまらない」と回答した人たちの回答の根拠として考えられるのはどのようなことか。」(興味がない,難しい問題である,など…)
    2. ②こうした状況を踏まえ,教育の道を志す我々にとってできることはどのようなことであるだろうか(小・中・高と段階を通して現場でできそうな授業,取り組みなどについて
    意見交換の 趣旨は以下のとおり。
    (シニア) 高レベル放射性廃棄物の処分の問題、地震の多い我が国には、原発は不向きとの考え、安全性(リスク)に関しての理解度の問題、経済性の重要性に関しての認識度、などが考えられます。 原子力の社会的受容性、及び放射性廃棄物の最終処分は原子力を利用して行く上で重要な課題でありこれらについての皆さんの意見を伺いたい。
    (学生)原子力発電を減らすべきとの回答が多いことに対しては、私は逆に増やしても良いと考える。メディアは浅い知識で原子力に悪いイメージを与える論調でニュースを流しているのではないだろうか。
    (学生)メディアは教育に大きな影響を与える。学校ではエネルギーや発電について学んでおらず、特に東日本大震災でのマスメディアを通じたネガティブなイメージが大きい。自らが学ぶ気がないと事実は分からない。興味を持ってエネルギー問題に接している人は少なく、普段は自分事として捉えられない。キチンとした理解を持って情報発信できるようになりたい。
    (福田先生)放射線については中学校3年の後半で学ぶことになっているが、受験勉強でスキップされ自ら学ばないと何も知らないままとなってしまう。このようなことがここ30年~40年続いている。教育の現場で放射線について話せるようにすることが大切。 自分の授業では霧箱を使って教えているが放射線について考え、気づきがあるようであり嬉しく思う。
    続いて、学校教育における理科での放射線に関する指導内容について意見交換。 教職大学院でも「はかる君」を用いて実習を行っており、理科だけでなく社会的な理解の観点からSTEAM(科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、芸術・リベラルアーツ(Arts)、数学(Mathematics))教育の中で学んでいる。
    (シニア)福井南高等学校の生徒たちの原子力に関する意識調査では、原子力立地地域から離れるほど原子発電に対してマイナスのイメージの回答が多い傾向が見えたとしており、これは原子力発電所の立地地域の人々は、原子力発電についての知識があり、その利点とリスクを理解している可能性が高い。それに対して、立地地域から離れた場所に住んでいる人々は、原子力発電についての情報が不足しているか、または一部のメディアからのネガティブな報道に影響を受けている可能性があるのではないか。このような調査結果は、原子力教育と情報提供の重要性を示していると考える。今やインターネットの普及により、情報は容易に入手できるようになったことから、皆さんにはマスメディアの報道のみではなく、一次情報を基に自ら考えて頂きたい。
 

3.講評

 
特に行わなかった。

4.閉会の挨拶

学生さん方から、「対話会により自分の勉強だけでは知りえないことを多く学び、普段考えていることに対してより深く考えることができて、大変良い機会になった」、「熱心な討論を有難うございました。エネルギー源を考える時には多くの視点から考えないと、偏った考えになるので、幅広く偏らない知識を持つことが大切であることを知った。これから先生としてエネルギーについて子供たちに教える良い素材となりました」、「理科のみではなく、社会、政治経済的な見方をしてゆく切っ掛けとなりました」等の感想を頂いた。

続いて福田先生から「このような機会は年1回あっても良い。来年度は対話会の開催時期の変更を検討してみたい」との閉会の挨拶があった。


5.学生アンケート結果の集計

「講演」は「とても満足」(1名)、「ある程度満足」(1名)で満足頂けた。また、「対話」は 「とても満足」(2名)、「ある程度満足」(1名)で三人ともに満足して頂けた。 一方で対話テーマを事前質問から選択して限定したことからか必ずしも全員が十分に満足した訳ではないようで、「対話時間不足」(1名)が挙げられている。 対話テーマの内容が深いためか、また、学生の旺盛な知識欲のお陰か対話時間が足りないと感じたようである。 学生さんに話してもらう機会を多く持ち、双方向の対話とした積もりだが十分満足して頂けるまで実行することはなかなか難しい。
電源については、原子力発電の必要性を認識し、再エネ発電のデメリットも理解しているものの再エネに期待を寄せている感がある。基調講演では再エネの限界について説明する必要性を感じた。
全体を通しての感想では、「日々ニュースで見て考えているような事柄を聞くことで、より深く考えることが出来たので、大変良い機会になった。」、「深く考える良い経験になりました。貴重な機会を有難うございました。」と好評であった。
今回の対話会を契機に更にエネルギーについて考えて頂ける感想を頂いたことは幸いである。

6.別添資料リスト

講演資料:「地政学、為替等リスクに強いエネルギー政策のあり方について」
アンケート集計結果
 
(報告書作成2024年7月3日)