日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

学生とシニアの対話
in 松江工業高等専門学校2024年度(第3回) 報告書 

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)世話役 松永健一
報告書作成令和6年7月20日
《松江工業高等専門学校正門》
授業の一環として学生とシニアの3回目の対話会を対面で開催
対話会は松江高専の「発変電工学」授業の一環。基調講演と対話会を電気情報工学科5年33名の参加により開催。基調講演は、松江高専における講演画像を宇部高専でも利用することにより2校共同で実施した。対話会の前に「学生質問に対するシニア回答」を学生に送付した後に、当日に基調講演、対話会と学生発表を行った。対話テーマは「カーボンニュートラル(CN)とエネルギー危機へ向けての原子力の役割」「原子力発電の再稼働と電気料金」「CNへ向けての多様な対応、エネルギー基本計画の課題」と「再生可能エネルギーと電力の安定化などの課題への対策」である。

1.講演と対話会の概要

(1)日時

基調講演・対話会:令和6年6月26日(水) 10:00~16:20(授業10:30~)

(2)場所と対面方式

松江工業高等専門学校 対面

(3)参加者

高専側世話役の先生
箕田充志:電気情報工学科教授
参加学生
電気情報工学科5年、基調講演・対話会:4グループ、33名
参加シニア:4グループ、8名 針山日出夫、古藤健司、後藤 廣、山崎智英、鈴木成光、
野村茂雄、大西祥作、松永健一(世話役)
オブザーバ:1名 中島美智子:米子工業高専総合工学科教授

(4)基調講演

テーマ
世界のエネルギー情勢と日本の課題~脱炭素・エネルギー危機の中で日本の選択は?~
講師
針山日出夫
講演概要:
ロシアのウクライナ侵略により世界秩序基盤が破壊された結果、今や世界はロシア制裁、エネルギー争奪、政治体制/覇権による分断・対立が先鋭化している。
過去数年辺りから世界主要国・EUのエネルギー選択の論点は脱炭素社会の実現を目指して非化石電源、即ちゼロエミッション電源を如何に早く・安く・確実に社会に実装するかに焦点が当たっていた。一方で、脱炭素をめぐって多様な対立軸が顕在化してきたのも事実である。この様な状況下で、欧州発世界エネルギー危機が顕在化して欧米主要国は「脱炭素政策」と「エネルギーの自立政策(エネルギーの脱ロシア依存)」の両立に苦悩している。
今回の講演では、地球温暖化と脱炭素の取り組み、日本のエネルギーの実情と課題および世界主要国の最新エネルギー政策を概観したうえで、脱炭素に向けた主要国のエネルギー環境政策と現下のエネルギー危機の渦中でのエネルギーの自立化政策に焦点を当て、纏めとして日本の課題と針路選択の論点を概説する。

2.対話会の詳細

(1)学生質問とシニア回答の概要

学生からの質問に対するシニアの回答は、対話会の開催前に学生に送付された。

(2)グループ対話の概要

①Aグループ(報告者:古藤健司)
1)テーマ:CNとエネルギー危機へ向けての原子力の役割
2)参加者
学生7名(5年生)
シニア:針山日出夫、古藤健司
3)主な対話内容
参加シニアの自己紹介の後、参加学生の自己紹介等(出身地・趣味・内定進路)を行った後、まず事前質問を中心として対話を行った。主たる事前質問:
  1. 〇原子力発電の安全性向上にはどのような技術的進歩が必要か?現在の技術で安全性を確保できると考えて良いのか?
  2. 〇原子力の発電量は安定しているが、再生可能エネルギーと比較してコストや稼働率などの違いは?
  3. 〇原子力燃料は有限であり、それが尽きた時の代替となる発電方法は現在どのようなものが開発されているのか?
  4. 〇原子力は経済的、安定的に供給できるので、主力電源になるべきだと考えるが、どのようにして安全性を確保するのか?
これらについて、シニアの回答の補足説明を行った。そして学生とのディスカッションの中で、我が国の電力エネルギー自給率について、議論が盛り上がった。
我国の昭和初期:戦前戦後の発電量の主力は水力発電であったこと。戦後復興とエネルギー需要の急速な高まり:石炭から石油への転換、そしてイスラエル・アラブの確執:中東紛争勃発による「第一次オイルショック(1972年)」の経験から、オイル備蓄基地の建設、そして原子力開発に注力することとなった経緯などをシニアが説明した。そして「第二次オイルショック(1974年)」を契機に、資源エネルギー庁が設置されたこと、同年に経済協力開発機構(OECD)に国際エネルギー機関(IEA)が設立された経緯をレクチャーした。そして、我国のエネルギー資源の安全保障につて:石油やLNGの輸入ルートなど、地政学的な問題点にまで議論が及んだ。
学生によるグループ対話のまとめ発表においては、議論となった「我国のエネルギー自給率についての経緯と将来展望およびエネルギー安全保障の問題」を上手く整理し分かり易く発表できたようである。
②Bグループ(報告者:山崎智英)
1)テーマ:原子力発電の再稼働と電気料金
2)参加者
学生9名(5年生)
シニア:後藤 廣、山崎智英
3)主な対話内容
自己紹介の後、学生からの事前質問に対する回答を中心に意見交換を行った。
Bグループは原子力発電所の再稼働と電気料金の関係について多くの質問があったため、2023年6月に実施された電気料金値上げについて説明を行った。
学生との対話の内容要約は以下のとおり。
  1. (1)原子力発電所が再稼働した場合、電気料金がどうなるか。
    →電気料金の仕組み、2023年6月の電気料金値上げについて中国電力の電気料金を例に説明。(島根原子力発電所2号機は再稼働することで電気料金に織り込み済み。)
  2. (2)原子力発電所の燃料である、電源別発電コストのうち燃料費のコストはどれくらいなのか。
    →他の電源方式と比較して説明。
  3. (3)原子力発電所敷地内の活断層はどこまで許容されるのか。
    →発電所敷地に活断層があった場合は、原子力発電所を運転できなくなることを説明。
  4. (4)原子力発電所は海岸から離れた内陸部に建設できないのか。
    →内陸に設置する場合は冷却塔が必要となり、海水冷却に比べてコスト高になることを説明。
③Cグループ(報告者:鈴木成光)
1)テーマ: CNに向けた多様な対応、エネルギー基本計画の課題
2)参加者
学生6名(5年生)
シニア:松永健一、鈴木成光
3)主な対話内容
全体概要:
学生から事前に提示された質問に対する回答を説明のうえ、学生からの発言や質問を求めたが、初めは積極的な発言が無かったため、全員を順番に指名しながら対話を進めた結果、後半には自主的な発言が出るようになり、色々な事項について議論をすることが出来た。また、対話会の後の学生からの発表会では、Cグループの全員がそれぞれ説明する形を取ったことは、他のグループにはなく、とても嬉しく聴くことが出来た。
主な対話内容:
  1. (1)CNを達成するためには、どのような課題があるのか?という質問に対して、二酸化炭素の主な発生源として①発電部門、②産業部門、③運輸部門が全体の約8割を占めるが、その中でも最大の発生源である発電部門での脱炭素化における太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの拡大について議論。
  2. (2)太陽光発電と風力発電の課題について種々質問あり、自然環境による不安定性、バックアップ電源や蓄電池の必要性、最小電力需要を上回った場合の出力制御発生の実態、エネルギー密度が非常に低いことによる日本国内の地理的な制限、送配電コストも含めて経済的な支援の必要性、大量に発生する太陽光パネルの廃棄物の処分の問題などを議論した結果、CN実現に向けて再エネを主力電源にするのは難しいのではないかとの認識に至る。エネルギー基本計画の策定においては、原子力発電や水素火力発電を主力電源とし、再エネ発電の割合をどの程度まで拡大するのか、十分に検討しなければならない必要性を共有。
  3. (3)半導体製造工場の建設で話題になっている熊本のTSMCと北海道のラピダスの事業性について、電気料金の観点から議論。原子力、火力、再エネがほぼ3分の1でバランスが取れて電気料金が安い九州に対して、原子力の導入が止まっているために火力が3分の2,再エネが3分の1の構成で電気料金が高い北海道という立地を考えると、ラピダスの見通しは厳しいのではないかと認識。
  4. (4)EVは走行時に二酸化炭素を出さないので環境に優しく、CN実現において重要なテーマであるが、バッテリーなどの車両製造時や動力源であるエネルギー製造時、および廃棄時などに発生するライフサイクルでの二酸化炭素の量は、製造方法やEVを走行する国の電源の脱炭素化の程度により、EVよりもバッテリー容量の小さいPHEVやHVの方が二酸化炭素の発生量が少ない場合もあることを認識。今後期待される全固体電池の導入時期などを踏まえて、EVの購入を検討すべきだろうと認識を改める。
  5. (5)データセンターによる大量の電気需要が見込まれるため、エネルギー基本計画の策定においては、将来の電力需要を適切に設定しないといけないことを理解。
④Dグループ(報告者:大西祥作)
1)テーマ:再生可能エネルギーと電力の安定化などの課題への対策
2)参加者
学生11名(5年生10名、4年生1名)
シニア:野村茂雄、大西祥作
3)主な対話内容
シニアの自己紹介後、参加学生の氏名や卒業研究内容について説明してもらい少しアイスブレークを実施した。
学生からの事前質問に対するシニアの解答を基に学生の意見や感想を起点に議論をしたが、他グループの学生の質問だったりQ&Aが初見だったりしたためか議論は少し盛り上がりに欠けた。また、総体的には少し勉強不足や社会情勢への関心不足が感じられたが半数弱の学生にはエネルギー問題を理解しようとする積極性が感じられた。尚、対話会を通じて参加者全員に日本のエネルギーを取り巻く問題を自分事として捉えてもらう切っ掛けになったと思われる。
個別の対話例
  1. (1)再エネのコスト低減策及び安定化策
    自分の家の電気代について各自持ち帰り確認することとした。 (自分で電気代を払っていないので学生は知らないという現実があった)
    電力会社によって電気代に「ばらつき」があり九州電力が安い理由について議論した。
    (学生より再エネの出力調整にはもったいない、電力ネットワークの強化の意見が出た)
  2. (2)エネルギーミックス(第6次エネルギー基本計画)
    2030年の電源構成の実現は無理である、特に風力の2022年比3倍強(5%)は出来ないのではないかとの意見が出た。また総電力量についても省エネ前提であり疑問ありとの意見もあった。
  3. (3)学生発表(各グループ5分程度で対話会での議論について発表)
    再エネのコスト、安定化、導入策について発表があり、導入策について地域の特性に応じた発電割合を検討する必要があるとの意見が目新しかった。

3.学生アンケート結果の概要

(1)参加学生について

参加学生全員(33名)が回答。回収率は100%。
全員の学生が原子力系専攻以外。電気情報工学科5年生が32名、4年生が1名参加。
進路は2/3が就職、1/3が進学の予定。

(2)対話会について

基調講演の満足度は「とても満足」、「ある程度満足」を合わせて100%。基調講演以外で聞きたいものとして「新たなエネルギー源について」、「原子力による事故を防ぐ具体的な対策」等が挙げられた。(5名から回答あり)
対話会の満足度は「とても満足」、「ある程度満足」を合わせて96%。今回の講演や対話会で「新しい知見が得られた」が96%、「マスコミ情報と講演や対話の情報に違いがあった」及び「自分の将来の参考となった」がそれぞれ9%、21%となった。尚、否定的な意見も1名(3%)あり。
対話会の必要性は「非常にある」、「ややある」を合わせて96%であった。また、友達や後輩へ対話会への参加を進めるかどうかについては、26名(76%)が「進めたい」と回答し「どちらともいえない」、「薦めたいとは思わない」が18%、3%あった。対話会の満足度や必要性の割合と少し齟齬がある。

(3)意識調査について

放射線、放射能については、「一定のレベルまでは恐れる必要はない」が85%であった。一方「怖い」が15%あり。
原子力発電については、「必要性を認識しており再稼働を進めるべき」が82%、「新設、リプレースを進めるべき」が12%あり、「2030年目標を達成すべき」は6%であった。
再エネ発電については、「環境にやさしく拡大すべき」が76%、「天候に左右されるや自然環境破壊につながるので利用を抑制すべき」がそれぞれ9%、12%となった。
カーボンニュートラルとエネルギーについては、「地球温暖化や脱炭素社会の実現に関心」は「大いにある」と「少しある」を合わせて96%の回答であった。尚、1名(3%)が、あまり関心がないとの回答であった。
「興味や関心があるのはどの項目でしょうか?」については幅広く関心を示したが「温暖化の影響と対策」や「脱炭素化実現のためのコスト」が比較的多かった。
「日本の2050年脱炭素化社会の実現可能性」については、「実現するとは思えない」が63%、「わからない」が24%となった。
「脱炭素に向けた電源の在り方」については、「化石燃料発電を最小とし原子力発電と再エネ発電の組み合わせが望ましい」が51%、「原子力発電、再エネ発電、化石燃料発電をほぼ均等に組み合わせることが望ましい」が27%となった。
高レベル廃棄物の最終処分については、「関心がある」と「少しある」を合わせて63%の回答であった。「近くに処分場の計画が起きたらどうするか」については45%が「反対しない」、33%が「反対する」、21%が「わからない」であった。「地層処分について興味や関心がある項目」については技術が67%、「制度」が24%、処分地の選定が15%であった。

4.別添資料リスト

  1. ●基調講演 テーマ:「世界のエネルギー情勢と日本の課題~脱炭素・エネルギー危機の中で日本の選択は?~」、講師:針山日出夫
  2. ●学生アンケート結果詳細
(報告書作成:2024年7月20日)