学生とシニアの対話
in鹿児島大学2024年度 概要報告書

本年度の鹿児島大学での対話会は、昨年度同様、大学院学術研究院理工学域工学系機械工学プログラムの佐藤紘一教授の大学院担当科目「高エネルギー材料工学特論」の4コマを基調講演(1)(2)と対話会に運用して頂き、工学部4年生12名、院生(理工学研究科工学専攻機械工学プログラム)16名、計28名の学生諸君の参加を得て開催に至った。基調講演および対話会は対面にて実施した。対話会への導入として、基調講演(1)では原子力発電を正しく理解してほしい基本事項、講演(2)では我が国のエネルギー安全保障と原子力の役割について講義:客観的な知識・情報を提供し、機械系学生のエネルギー全般に対する興味を喚起することとした。
対話会への参加シニアは5名で、5グループに分かれ、シニアと学生グループで設定したグループ対話テーマについて、学生のシニアへの事前質問は、ネット検索なので情報調査・検討した上で、深堀した質問内容を期待することとした。従って、3件以内/Gに絞り込むこととした。結果、どのグループも活発かつ充実した議論が展開された。
1.対話会の概要
- 1)大学院理工学研究科工学専攻機械工学プログラム所属の学部生(B4)12名、博士前期(修士)課程(M1)14名、(M2)2名、計28名と対話した。
- コロナ禍終焉であったが感染予防対策を十分に施し、基調講演(1)(2)および対話会は学生とシニアとの通常の対面形式にて実施した。
- 対話会への導入としての基調講演(1)(2)は2コマ(90分+90分)、講演(1)では原子力発電についての基礎知識と技術的諸問題とその対応について(90分)、講演(2)では我が国のエネルギー安全保障と原子力の役割について(90分)講義した。
- 大学側:佐藤紘一教授との意見交換を事前に行い、偏りのない内容に留意することを申し合わせた。大学院カリキュラム・シラバスを調査の上、基調講演:2コマ1日、対話会:2コマ1日の時限枠を提供してもらった。
- 講演資料は事前に参加シニアと大学側(佐藤教授)へE-mail添付にて配布し、佐藤教授から参加学生へ配布してもらった。
- 参加学生は28名であったので、5グループに分けて対話会を実施することとした。各グループの対話テーマは、予めシニアが提案する9題目と学生グループの(自主的)提案題目からメインテーマとサブテーマを選び、設定することとした。グループ間のテーマ重複を避けるよう調整することとした。
- 学生グループの対話テーマ(メイン&サブテーマ)に対して、担当するシニアを決定した。本年度は、対話グループに対して1名のシニアで対応することとした。
- 学生対話グループは基本的に研究室単位となった。
- 事前質問はグループで3件以内とし、「我々は・・・について調査し検討した結果、・・・については・・・と考えるが、シニアはどう考えるか?あるいは、現状はどうなのか?将来的にはどのようになって行くのであろうか?見込はあるのか?あるいは、詳しいところを知りたい!」など、深堀した内容であることとした。
- 回答は1問について1枚以内とし、他情報のコピペは極力避け、自分の言葉で書くこととした。また、学生は回答書に十分目を通していることを前提として対話を進めていくこと、回答の内容を「どう思うか?どう考えるか?」など、関連事項の逆質問などによって対話の進展・展開を図り、対話時間を有効に使うことに留意することを申し合わせておいた。
- 対話会は佐藤教授の開会の挨拶後に5グループに分かれて実施した(110分間)。その後30分間を学生各グループの「まとめとプレゼンの準備」にあて、後に各グループの発表(質疑応答・意見交換を含め)(4分/G)を行った。最後に講評(SNW鈴木、阿部)、閉会の辞(針山)で締め括った。
- 2)場 所
- 〒890-0065 鹿児島市郡元一丁目21-40 鹿児島大学工学部共通棟202番講義室(講演・対話会主会場)
- 3)日 時
- 7月11日(木)1限(8:50~10:20)基調講演(1)、2限(10:30~12:00)基調講演(2)
- 8月 1日(木) 1~2限(8:50~12:00)対話会
- 4)参加者
- 佐藤紘一教授 鹿児島大学大学院・学術研究院理工学域工学系・機械工学プログラム
- 学部生(B4)12名:工学部先進工学科・機械工学プログラム
- 院生(M1:14名、M2:2名)16名:大学院理工学研究科博士前期(修士)課程工学専攻・機械工学プログラム
- シニア 5名:古藤健司、山崎智英、針山日出夫、鈴木成光、阿部勝憲
- 5)基調講演:7月11日(木) 1~2限(8:50~12:00)
- 講演(1):古藤健司(8:50~10:20)(90分)
「原子力発電について ~固有安全性、核燃料サイクル、高レベル廃棄物処理処分~」 - 講演(2):針山日出夫(10:30~12:00)(90分)
「エネルギー安全保障と原子力の役割~脱炭素・エネルギー危機の中で日本の選択は~」 - 講演概要:
- 6)講 評:
(鈴木成光) - (阿部勝憲)
対話会への導入としての基調講演(1)(2)の内容は、講演(1)では原子力発電を正しく理解してもらうための基礎知識と技術的諸問題その対応について、講演(2)では世界そして我が国のエネルギー安全保障と原子力の役割について、特に、エネルギー危機の中で日本の選択は?その対策と見通しについて、時系列の情報・データを示して論じた。基調講演を通じて、地球環境エネルギー全般に対する興味と問題意識の喚起を促すと共に、エネルギー政策に占める「原子力」の重要性が浮かび上がるよう考慮した。
「対話会後の発表をお聞きして、CN達成のためには原子力を主要な電源として位置づけることの重要性を理解して戴いたようです。これを実現するためには、原子力の安全性や地層処分などのような課題について、広く国民の理解を得る必要がありますが、本日の対話会で学生の皆さんには理解を深めて戴いたと思います。既存原発の再稼働を着実に進めるとともに、より安全性や機能を強化した次世代軽水炉に加えて、水素を同時に製造することが出来る高温ガス炉や、ウラン資源を有効活用し、廃棄物量を削減できる高速増殖炉、さらには核融合炉などの次世代原子炉の開発は、将来に向けた夢のある大きなテーマになると考えるので、皆さんのような若い人達に是非とも積極的に取り組んで欲しい。」
「本日は暑いなか集まって、「世界のそして我が国のエネルギー安全保障を考える」をメインテーマに対話しました。各グループ報告から、エネルギーや原子力についてさまざまな課題について具体的に話し合われたことが分かり、有意義な対話会であったと思います。自分のグループでは、材料関連の研究テーマに取り組んでいることを背景に、現在の原子力プラントや将来の原子炉の機器材料の選択理由や中性子照射損傷などの材料課題を取り上げ話し合いました。皆さんの研究している具体的な材料試験やミクロのメカニズム内容がプラントの性能や健全性に関連していることを忘れないでください。さらには他分野への応用の可能性もあると思います。発展を願っています。」
2.対話会
1)グループ1(報告者:山崎智英)
- (1)参加者(学生5名、シニア1名)
- 学生:工学部先進工学科・機械工学プログラム(B4)5名
- シニア:山崎智英
- (2)対話のテーマ:
- 川内1号機「40年超」入り!何が懸念されるか?照射材料の耐用は?
- CNの切り札は原子力? 新太陽パネル、新型風力、バイオ、大規模蓄電?
- (3)対話内容:
- 川内原子力発電所は、運転期間が40年を超えているが安全に運転できるのか。
- 原子力発電所の技術継承について
自己紹介の後、学生の事前質問の趣旨等を確認しながら対話を行った。
学生との対話内容の要約は以下の通り:
国により厳しい審査を受け、合格した発電所が再稼働できる仕組みとなっている。中性子の脆性破壊は、「原子炉圧力容器に対する供用期間中の破壊靭性の確認方法」(JEAC4206)により60年間の運転中においては、破壊は起こらないことが確認されている。
福島第一原子力発電所事故以降、原子力産業に従事するメーカー、原子力工学分野を志望する大学生、研究機関の人数が減っている。国により、次世代原子炉の建設を念頭とした、技術・人材・サプライチェーンの維持に向けた支援が行われるようです。原子力発電所設置者である電力は、財務状況が良好とはいえない状況のため、今すぐ原子力発電所を建設することは難しい状況です。
学生の発表では、「CNのためには安全が確保されている原子力を中心に再エネの活用が必要」と締めくくられた。
2)グループ2(報告者:針山日出夫)
- (1)参加者(学生5名、シニア1名)
- 学生:工学部先進工学科・機械工学プログラム(B4)3名、理工学研究科工学専攻・機械工学プログラム(M1)2名
- シニア:針山日出夫
- (2)対話のテーマ:
- 世界のそして我国のエネルギー資源:自然エネルギーから原子力エネルギーまで
- 我国のエネルギー自給率の推移と将来戦略:昭和から令和しょして将来に向けて
- (3)対話の内容:
- エネルギー問題への関心の低さと自給率の低さ
-エネルギーと平和は誰かが与えてくれると言った安易な国民性
-世界有数の経済大国でありながらエネルギー自給率に関心を示さない幼稚さ
-国民の単純すぎる思考回路 - エネルギー供給の安定性確保の為の用件
-エネルギー資源調達先の多様性確保
-エネルギー資源のサプライチェーンの強化と価格安定策(含む、原子力などのバーゲニング
パワーの確保)
-エネルギーベストミックスと供給構造の強靱化
-資源の無い国家としての「脱炭素と安定供給」の道筋 - 原子力発電の安全性とリスク管理
-原発の安全性の定義
-事故リスクと管理手法の在り方
-国民のリスクリテラシー - 水素社会の実現に向けての課題
-2050CNの先の脱炭素社会のイメージ
-事故リスクと管理手法の在り方
-クリーン水素の価格と社会実装の可能性
参加者から自己紹介(出身地、研究課題、将来進路、趣味、対話会での関心事項など)のあと事前質問の着眼点を中心に対話を進めた。
対話での主要な論点、意見交換など:
3)グループ3(報告者:阿部勝憲)
- (1)参加者(学生6名、シニア1名)
- 学生:工学部先進工学科・機械工学プログラム(B4)1名、理工学研究科工学専攻・機械工学プログラム(M1)5名
- シニア:阿部勝憲
- (2)対話のテーマ:
- 高温ガス炉や核融合材料考:実用化に向けた課題:Breakthroughは何か?
- CNの切り札は原子力!:次世代原子力発電:新型軽水炉、高温ガス炉、高速増殖炉の実用化や核融合開発の展望など
- (3)対話の内容:
- 疲労予測やクリープ試験を扱っているので質問したということであった。
- 高温ガス炉も核融合炉も実用レベルでは大量のエネルギー変換と放射性物質を扱う大型プラントになるので、軽水炉と同等の仕様規格が要求される。疲労など材料試験の原理と方法は共通である。
- スモールパンチ試験でクリープ試験を行うが疲労試験はできないか。
- 2・1/4Cr-1Mo鋼で機械試験や熱分析を行っているので質問したということであった。
- 構造材料は総合特性で選ばれ特に圧力容器鋼のような大型部材では、製造性(溶解、鍛造、熱処理、加工)や溶接の実績が重要で非原子力分野での耐熱機器での製造や使用経験も重視される。
- Cr-Moフェライト鋼については高速炉の材料としても研究され、中性子照射損傷が少ない鋼種が見出され、さらに核融合炉の低放射化材料として8Cr-2W鋼の開発に発展した。
- 核融合エネルギーの実現には段階的研究開発が必要で、発電を行うには中性子によるエネルギー変換とトリチウム増殖を担うブランケットが鍵となり、その点からはトカマク型の開発が進んでいる。
- ベンチャー企業の活動もあるが、ブランケットのような高負荷・放射化機器は着実な開発が必要。それ以外の事柄では以下についてやり取り:
- 革新軽水炉の意義、および準国産エネルギー源としての原子力について資料に基づいて説明。
- PR館の見学は、燃料集合体模型や圧力容器模型などにより原子力発電の仕組み理解に役立つ。
- 材料の研究は、目的の用途に加えて、他の応用ができないかを考えておくことが大切
司会は学生リーダが務め、はじめに自己紹介を行った。シニアから原子力を選んだ理由と時代について話し、出身の青森県には原子力発電、原子燃料サイクル、核融合研究など多くの拠点施設があることを紹介した。参加者の出身県は鹿児島県2,福岡県2,長崎県1,大分県1であり、研究テーマのキーワードを教えてもらうと、材料の機械的性質や照射欠陥に関する実験やシミュレーションを行っており、自分の現役時代と重なるものがあり興味深く、実験方法やモデル材料と実機材料の違いなどについてもやり取りした。皆の関心が原子力の材料ということで、3つの事前質問に沿って対話を進めた。
Q1:高温ガス炉と核融合の疲労評価の方法はどのようにしているのか?
Q2:高温ガス炉の原子炉圧力容器が2・1/4Cr-1Mo鋼でできているが、改良9Cr-1Mo鋼の方が引張強度・クリープ強度が高いのになぜ使わないのか。また、他のCr-1Mo鋼では良くないのか。
Q3:核融合炉でプラズマの閉じ込め方式を考えた際に、トカマク型・ヘリカル型・レーザー方式の中で、商用的にどの方式の実現性が高いか。
対話の感想として、原子力プラント機器材料の種類や試験について各自の研究テーマとも関連して話し合い熱心な内容であったと思います。ただし自分が興味を持つあまり話しすぎて、カーボンニュートラルやエネルギー自給率、原子力の役割など大きなテーマに言及できなかったのは反省点です。
4)グループ4(報告者:古藤健司)
- (1)参加者(学生6名、シニア1名)
- 学生:理工学研究科工学専攻・機械工学プログラム(M1)4名、(M2)2名
- シニア:古藤健司
- (2)対話のテーマ:
- CNの本領:EV、水素自動車などの二次エネルギー革命は起こりえるか?
- 世界のそして我国のエネルギー資源:自然エネルギーから原子力エネルギーまで。
- (3)対話の内容:
- 二次エネルギー革命が起こるためには、エネルギーを安全・安心・安価・クリーンに生成する必要があると考えるが、その実現には多額のコストがかかるため、世界全体で足並みを揃えるのは難しく、現状では二次エネルギーへのシフトに取り組む余裕のある一部の国しか本腰を入れないのではないかと考える。この現状を改善するために、二次エネルギーへのエネルギーシフトの重要性を世界中にどのように広めていけば良いと考えるか?
- 二次エネルギー革命が起こるためには、二次エネルギーをクリーンに生成・利用する中で、その安全性を周知し、多くの人々に受け入れてもらえるような努力をしなければならないと考える。現在も様々な取り組みを行っているとは思うが、依然として二次エネルギーに対する理解を広く得られているとは言い難いと考えるが、今後どういった取り組みが必要であると考えるか?
- CNにおけるEV車、水素自動車の問題点について考えた結果、どちらも運用時に多くの電力を必要とし、日本では火力発電が約7割占めるという現状であるため、結局はCNが進んだとは言えず、火力発電の方法をクリーンなものに代用するにも日本は燃料自給率が低いため多くの時間が必要になると考えた。また、安定した発電が可能な原子力に一時的に頼るにしても、放射性廃棄物や地震対策など問題が依然多いように考える。そこで指導員の方は日本がどのように発電方法のシフトを行う必要があると考えるか?
参加シニアの自己紹介の後、参加学生の自己紹介等(修論テーマ・出身地・趣味・内定進路)を行った後、まず事前質問を中心として対話を行った。主たる事前質問:
これらについて、シニアの回答の補足説明を行った。そして学生とのディスカッションの中で、「EUや日本は二次エネルギー利用へ転換:CNへの国策努力は不可欠ではあるが、大国:中国やアメリカのCNへの取組みの現状と将来が世界のCNの状況を律していることを痛感させられる。つまり、地球温暖化阻止のための国際的なカーボンニュートラル化はアメリカ・BRICS諸国の動向に依存している。中国のモータリゼーション:EV化が火力発電の電力に寄っているのでは意味をなさない。」などの意見に帰着した。
5)グループ5(報告者:鈴木成光)
- (1)参加者(学生6名、シニア1名)
- 学生:工学部先進工学科・機械工学プログラム(B4)3名、理工学研究科工学専攻・機械工学プログラム(M1)3名
- シニア:鈴木成光
- (2)対話のテーマ:
- CNの切り札は「原子力」!
次世代原子力発電:新型軽水炉、高温ガス炉、高速増殖炉の実用化や核融合開発の展望など。 - 高レベル放射性廃棄物処理処分:
地層処分の安全で安心できる科学的根拠は? - (3)対話の内容:
離島の電源として小型炉は切り札になるか?という事前質問を皮切りに、隣接地との連携のない離島の電源構成の在り方から議論を進めた。太陽光発電や風力発電を大型蓄電システムと組み合わせるアイデアも出たが、エネルギー密度や設備利用率が低いため膨大な設置エリアが必要となるので、適用可能なエリアが限定される離島では太陽光発電や風力発電は主要電源として位置づけることは難しいとの認識に至った。
国内の既存軽水炉では負荷追従運転をしていないことを背景に、小型炉を主要電源にした場合、電力需要の変動に対して対応出来るのかという質問が出た。高温ガス炉や高速増殖炉のような小型炉では、核分裂で得た熱で発電すると共に、熱利用することも目標として開発が進められているので、負荷変動への対応は出来るだろうと理解をしてもらった。一方で、既存の軽水炉による負荷追従運転のニーズに応えるため、制御棒の動作に伴う局所的な出力変動に対応出来る高性能燃料の開発をシニア(鈴木)が行った経験などを説明し、その他炉心管理技術の開発などの成果により、既存の軽水炉でも負荷追従運転に対応出来、原子力比率が大きいフランスでは実際に負荷追従運転が行われている事を紹介し認識を改めてもらった。
ただし、多様な需要変動に小型炉の負荷追従機能が完全に対応できない場合や、小型炉の定期検査による停止時への対応に補完する電源が必要な場合には、バイオマス発電も候補と考えられるが、水素を燃料とする火力発電も話題となった。水素を他所から輸送して来るやり方もあるが、高温ガス炉は1000℃近い熱を供給する事が出来るという特長を利用して、IS法による水素製造技術が開発されている事を紹介したところ、学生達は初めて知ったようで、高温ガス炉の魅力を強く感じたみたいである。JAEAの大洗にあるHTTRで高温ガス炉の開発が長年進められて来ており、今年には100%出力の状態で冷却系統を停止し、制御棒の挿入をしないでも安全に原子炉が冷温停止することを確認出来たことも紹介した。
また、外部からの飛来物に対する防御や、事故時の放射性物質の飛散の防止の観点からメリットがあると考える地下原発についても議論となり、小型炉が設置に適しているだろうとの認識となった。
離島の電源として小型炉が切り札になることは理解したが、実現するためにはどのような課題があるかという議論に進んだ。既存軽水炉は発電コスト低減を目的に出力規模を拡大して来た経緯があり、出力の小さい小型炉は初期投資額が小さいものの発電単価は高めになることが課題となる。モジュール化を進めて機器の製造・輸送、建設、保守管理などのコスト低減を図ることが期待できるが、多くの小型炉を建設して運用するという実績を積み上げて行かないと、離島での導入に対する理解を得ることは難しいだろうという意見となった。そのためにも、新規制基準に基づき安全性が高まった既存の軽水炉の再稼働を進め、最初から安全性を高めた新型軽水炉へのリプレースを進めるというプロセスの中で、原発に対する国民の理解を高めて行くことが必須であり、それと並行して開発が進む種々の特徴を持った小型炉の導入へのニーズも出て来るのではないか、という認識を共有した。
CNを達成するために原子力発電を主要な電源に位置付けるための国民理解を得るためには何が必要かという議論となり、先ずは何と言っても安全性であり、もう一つのテーマが高レベル廃棄物の地層処分だろうという意見が出た。福島第一事故の教訓を踏まえて、耐震基準を厳しくするなど、事故を起こさない取り組みを強化するとともに、想定外の事象が発生して事故に至った場合でも放射性物質の大規模な放出に至らないようにするためのアクシデントマネジメントなどの新規制基準の導入により、原発の安全性が大幅に強化されたことを国民全般に分かりやすく説明する必要があり、日本政府が原発の活用を推進するという方針を掲げる際には、そのような説明を積極的に、頻繁に実施するべきとの認識を共有した。また、地層処分については、ガラス固化、キャニスタ、オーバーパック、ベントナイト、地層などの機能を考えれば、十分に安全性は確保出来ることを理解出来るはずであり、候補地選定における地元への説明だけでなく、広く国民一般に分かりやすく説明すれば理解が得られるはずだ、ということで合意した。
地球温暖化の問題によりCNを達成しなければならないという国民の認識が高まっており、その為に原子力推進への理解も得られるフェーズになって来ると考えられるため、若い世代の皆さんにとって、原子力発電の推進、次世代原子炉の開発は将来に向けた夢のある大きなテーマになるので、「是非とも積極的に取り組んで欲しい」と期待を投げ掛けた。
3.学生アンケートの集計結果(山崎智英)
1)まとめと感想(古藤健司)
対話会当日に対話会に参加した学生は学部生(B4)12名、院生(M1)11名、(M2)2名:計28名であった。アンケートはWEBからの入力提出およびメール添付送信とした。提出者は25名で回答率は89%強であった。総括的な評価が伺える「アンケート(1):講演の内容」では〝とても満足”が80%で〝ある程度満足”が20%であり、「アンケート(2):対話の内容」も同じく〝とても満足”が80%で〝ある程度満足”が20%であるので、本対話会に参加した学生諸君には100%満足して貰えたものと思われる。
原子力発電の必要性については、‶必要性を認識している”は100%であり、3項目:再稼働を進めるべき:64%(16名)、新増設・リプレースを進めるべき:16%(4名)、2030年目標(原発20~22%)達成すべき:20%(5名)で、昨年度より原子力発電への期待度が若干ではあるが増えており、電源構成の中での原子力発電の重要性は十分理解されていると思われ、かつ、現実的な思考の方向性が伺える。