学生とシニアの対話
in 八戸工業大学(第18回) 2024報告書

- エネルギー問題と地元青森県の役割、地域振興について有意義な対話を実施
対話会当日はこれまでと同じく、大学入学共通テストの前日であったことから、会場は学外の「デーリー東北ホール」で行った。はじめに佐藤先生からエネルギー問題と青森県の役割について先輩の専門家と直接話し合う貴重な機会と挨拶があった。基調講演で、第7次エネルギー基本計画案を踏まえ原子力発電および原子燃料サイクルの重要性が増したこと等最新の状況を聞いてからの対話であり、それぞれのグループ対話ではテーマに関する質疑に加えて、基調講演や青森県における原子力の役割やエネルギー問題に関する心配など率直なやり取りが行われた。アンケートでは、原子力やエネルギーについて理解が深まったとの意見や青森県の新しい魅力と可能性を見つけることができたなどの意見もあり、有意義な機会になったと思う。
1.講演と対話会の概要
(1)日時
- 2025年 1月 17 日(金) 12.30 ~16.10
(2)場所
- デーリー東北ホール
(3)世話役
- 大学側 佐藤学教授(サポート齊藤主査、沼田事務補助、石山教授、黒滝主事)
- シニア側 阿部(サポート高橋)
(4)参加者
- 学生: 22名(電気電子工学コース、機械工学コース・機械工学科の3年及び4年)
- シニア: 7名 星野知彦、(原子力学会シニアネットワーク連絡会)、阿部勝憲、高橋實、中谷力雄、
梅田健夫、井上茂、古川榮一(以上SNW東北) - シニア: 7名 星野知彦、(原子力学会シニアネットワーク連絡会)、阿部勝憲、高橋實、中谷力雄、
(5)開会の挨拶(佐藤学教授)
- 以下の趣旨のご挨拶があった。
- シニアとの対話は、2005年以降継続的に行っています。大学の原子力研修として、1年で原子力エネルギー、2年で放射線利用、3年で原子力体感研修として県内施設の視察を行っており、本日午前に学生が学生を対象とした報告会を実施しております。なお、今年度から青森県の原子力大学生モニター事業を活用しての県外施設の視察を行っており、これも報告されております。研修としては、聞く・現場を見る・話すまでの段階を踏んできましたが、本日は最後の話し合う機会となります。今日は、(現役世代に対して)から、「次の世代」を担う皆さんが「前の世代」の専門家(シニア)と自由に話し合って頂きたい。
(6)基調講演
- 講演者名:高橋 實
- 講演題目:「エネルギー危機における原子力の役割と地域振興」
- 講演概要:産業革命以降急速に人類のエネルギー需要が増加、そのため地球温暖化が世界的問題となっている。エネルギー供給は、安全性、供給安定性、経済性、環境への適合性(S+3E)の観点から取り組む必要がある。日本を含む世界の主要先進国は2050年には、エネルギー供給のためにはCO2を発生させないことを目標としており、日本は、昨年末に第7次エネルギー基本計画(案)を発表、2040年時点でのエネルギー供給内容も発表した。電力供給については、再生可能エネルギーと原子力を最重点とし、再生可能エネルギーが5割程度、原子力が2割程度としている。再生可能エネルギーの不安定性、原子力発電所の地元合意を含む長いリードタイム等考慮すると非常に難しく非現実的ともいえるが、とにかく原子力の重要性は今後ますます増加する。原子燃料サイクルの重要性も増加しており、遅々としてはいるが県内施設の状況は一歩一歩前進している。青森県は日本の原子力の要を担う県として一層の発展が期待される。皆さんもこのような自覚を持って原子力を考えて欲しい。
2.対話会の詳細
(1)グループ1(報告者:中谷 力雄)
- 1) 参加者
- 学生:5名 (機械工学コース3年 5名)
- シニア 高橋 實、中谷 力雄
- 2) グループ1のテーマ
- 「エネルギー問題 (ウクライナ危機含む) 」
- 3)主な対話内容
- 対話に入る前にシニア及び学生の自己紹介(出身、進路等)をし、グループ1のテーマ「エネルギー問題(ウクライナ危機含む)」を中心にして対話を進めた。
- 主な対話は、以下の内容でした。
- ① 日本のエネルギー自給率(13.3%)が低いことに関連し、どのような改善対策が考えられるかを議論した。その中で、「地熱発電所の活用があるのではないか」、「太陽光発電や風力発電を増やすことも考えられるが、雪国の青森県では稼働率が問題と思う。また太陽光パネルはほとんど中国製であることも問題」、「(自給率の構成要素であり、準国産エネルギーの)原子力発電の利用を拡大していけば良いのではないか」、「バイオマス発電も考えられるのでは」等々の意見が出されたが、最終的には再エネと原子力発電のバランス取れた活用が重要であることが共有された。
- ② 電気料金が高いことに関連し、その背景や料金を下げることへの対策等について議論した。その中で、「料金高騰の背景に、ウクライナ侵攻による天然ガス高騰等がある」、「原子力発電の再稼働が進んでいる西側電力の料金が東側電力より安くなっている」、「東北地域も女川2号機の再稼働がなされ、電気料金の低減(大幅でないが)が期待される」、「今後DXやAIの進展で電力量の増加が予想されるが、求められる電気の基本は「安定で廉価」であること」等々の意見が出され共有された。
- ③ 2050年CNの実現が可能かどうか議論したが、様々な技術革新が図られ、コスト的に許容できるシステムができないと実現は難しいこと、個人レベルできるCO2削減対策は、省エネ程度であること等々を議論し、CN実現の難しさが共有された。
- 最後に、シニア側から学生諸君への期待として、こらから遭遇するいろいろな課題に創意工夫をもって乗り越えて欲しい、2050年頃に我が国を牽引する世代になるが、エネルギー問題を正しく把握し、その問題解決を他人事にするのでなく自分事と捉える姿勢を持って欲しいと伝え、対話を終えた。
(2)グループ2(報告者:星野 知彦)
- 1) 参加者
- 学生:6名 (電気電子通信工学コース3年 6名)
- シニア 梅田 健夫、星野 知彦
- 2) グループ2のテーマ
- 「原子力発電 (再稼働と運転延長含む)」
- 3)主な対話内容
- シニアが司会となり参加者それぞれ自己紹介の後、書記、発表者を決定した。はじめに司会より「本日の対話会はシニアが学生の質問に答えるというよりも学生同士の対話を重視したい」との趣旨説明があった。学生がそれぞれ関心のあることを紹介し、それについて意見を交わすという形で対話を進めた。
- テーマは「原子力発電」であったが、基調講演の内容も影響したためか日本のエネルギー事情に関連した発言が多かった。対話のうち報告すべき内容は以下の通りである。
-
① 日本と諸外国のカーボンニュートラル(CN)達成に対する取り組みに関すること
・中国は最大のCO2排出国であるにもかかわらずCN達成に対する取り組みが甘い。自国だけでなく、海面上昇で大きな被害を受ける海洋島嶼諸国のことも考えるべき。
・トランプ政権はAmerica Firstと予想される。もっと発展途上国に援助すべき。
・日本も米中のようにCNに関して自国の利益を優先した主張を行うべき。
→ そうは思わない。日本は自国の利益よりも世界との友好、協調性を重視して世界で決められた通りに行うべきと考える。自分勝手では紛争を起こしかねない。 - ② 原子力発電所の再稼働、運転延長に関すること
- ・安全性が担保されていれば再稼働、運転延長は構わないが、運転期間40年は計算して定められたもので、それを60年、80年に延長というのは無理がある。
- ① では、日本のCN達成の取り組み姿勢に関して、日本の利益を優先すべきかどうか相反する意見が出た。対話で他と異なる意見を発言できるのは、発言者の勇気もさることながら、対話の雰囲気がよかったことによると感じた。さらに時間があればより深い議論に発展しうるように感じた。②では、原子力発電所の運転期間40年の根拠を誤解されているような発言に対してはシニアより説明を行った。
- シニアからの一方通行ではなく、学生から多くの意見を引き出すことができた。
(3)グループ3(報告者:井上 茂)
- 1)参加者
- 学生5名 (機械工学コース3年:5名)
- シニア: 井上 茂
- 2)グループ3のテーマ: 燃料サイクル(地層処分問題含む)
- 3)主な対話内容
- まず自己紹介として、氏名、出身地、専攻、サークルを話してもらった。全員が青森県内出身者で、うち八戸市とその周辺が3名、下北、津軽の出身が各1名だった。各人から講演内容をもとに疑問や意見を出してもらい、シニアより説明を行った後、それぞれの意見を聞きながら話を進めた。全員が思うことを話してくれたと思う。主な話題は以下のとおり。
- ① 青森では、原子力施設が下北側に多く、津軽半島にないのはどうしてか。(シニアより、候補地はあったが誘致のメリットが合致した自治体に決まった。六ケ所はコンビナート構想の挫折が背景にある旨を説明。学生より「農業が主体の津軽からみると工場のある南部の方が発展しているようにみえる」という意見が出された。)
- ② 次期大統領トランプがパリ協定から抜けるのは何故か。日本はどう対応したらよいか。(学生より、「アメリカは自国発展を優先しており、日本もトランプと対等な国作りをすべき」「2050年CNは無理で日本は考えながらやるべき」という意見が出された。)
- ③ ドイツの技術が流出しているが日本でも作る技術が失われていくのではないか。(学生より、「エネルギーコストを抑えないとダメージが深まる」「中国のように人材や技術力の確保に国が関わる必要がある」などの意見が出された。)
- ④ 原子力産業による青森県民の雇用をどう維持するか。(シニアより、発注には地元アドバンテージがある旨を説明した。学生より、「大学や高校での原子力教育で原子力関連企業に就職する者は増えている」「工業高校から原子力関連企業に就職する者は多く、県内に人材を定着させる効果は出ている」「都会の方が給料が高く街にも魅力がある」などの意見が出された。)
- ⑤ 最終処分場選定の中で14年もかける精密調査の内容は。(シニアより、岩盤、地下水調査などを厳密に行い地点を選定することや、精密調査に限らず原子力は他の産業に比べ長い時間軸を要することを説明した。)
- ⑥ 最終処分場選定の各段階で反対意見が多い場合はどうなるのか。(シニアより、地域の意見が尊重される。安全性と地域への大きなメリットを理解し受け入れてもらうことが重要であると説明した。)
- ⑦ 大間発電所は何時工事が始まるのか。(地盤地質の審査が長引いていることや、フルMOX炉の重要性を説明した。)
- 全員が青森県出身であり、原子力産業が地域に根付いていることを当たり前のものとして受け止めている世代のようにみえる。背景に教育面など原子力を偏りなく伝える環境があると思う。都会に出たいと考える学生もいたが、地元志向の強い学生も多いと思われ頼もしさを感じた。いろいろな原子力施設を見る、調べる、話すという八工大の取り組みは、この土地ならでのものであり、学生の郷土への思いや就職観に大きな影響を与えていると思われ、今後のさらなる発展に期待したい。
(4)グループ4(報告者:阿部 勝憲)
- 1)参加者
- 学生6名 (機械工学コース:3年3名、機械工学科4年1名、 電気電子通信工学コース:3年2名)
- シニア: 阿部 勝憲、古川 榮一
- 2)グループ4のテーマ
- 地域振興(青森県の役割含む)
- 3)主な対話内容
- シニアが司会役となり自己紹介から始めた。学生メンバーは青森県が5名(八戸市3名、七戸町1名、つがる市1名)、岩手県が1名(花巻市)。
- 4年生は進路が原子力関係で、3年生はこれから就活ということで報告と記録役を互選した。質問メモに、基調講演、グループテーマ、その他について、話し合いたいことを書いてもらい、話題を分けて以下の内容でやり取りした。
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①基調講演に関する質問を各々から出してもらい議論した。
・2040年目標がなぜ非現実的なのか。 ・福島の事故に関して海岸なのにどうして津波対策が不十分だったのか。 ・廃炉コストと新規建設コストの比較は。 ・アメリカが温暖化対策から撤去したら費用負担は。 ・最終処分はいつどのように決まるのか。 ・プルサーマルとはなにか。 - ③ 地域振興テーマについて以下の話題についてやり取りした。 ・原子力が青森県の地域振興に役立っているかとのシニアの問いに全員が肯定。例として津軽地方でも周りで原燃関係の仕事している、電源三法の資金は県内の広い範囲で使われているなど。 ・燃料サイクル等の建設工事で働く人数の地元割合は大きいのに発注額の地元割合が小さいという疑問。県内の建設なので地元企業と人数多いが部品の発注できる企業が少ない。地元企業のがんばりや工場誘致が必要で、人材流出の歯止めにもなる。設置者責任と製造者責任の課題もある。 ・原子力事業者が下北の海岸に多いが内陸にも置ければ立地が広がるのでは。大量の冷却水が必要で欧米のように適した河川がない。空冷方式の開発は。 ・原子力の仕事で三沢のホテル需要あり六ケ所にも計画あるようだ。ホテルや道路が整備されれば観光資源も活かせるのでもっとアピールを。 ・青森県の人口減対策として移住を増やす必要があるが、移住支援に原子力関連の資金を使えないか。それには原子力の安全性と役立つことをもっと伝えるべき。下北は世界レベルのサイトなのに、親世代は後ろめたさを感じているようで若者世代は大事なプラントあるメリットを広めたい。
- 以上のように、青森を盛り立てようという議論では身近な体験をもとに活発な意見交換となり、双方向の有意義な対話会となった。各グループからの報告では、研修体験やそれぞれのテーマに関連して原子力の役割を再認識しているように感じ、また最後のシニアの講評や挨拶を真剣に聞いているのが印象的であった。
3.講評(星野 知彦)
冒頭佐藤先生から、八戸工大では1年から3年にかけての机上教育、施設見学に加え、今年は自分が行った研修で体験したことを情報共有する観点から「対話」を行うことにし、本日の午前中それが行われたというお話がありました。私は非常に良い取り組みだと思いました。
それぞれが体験したことを共有すること自体有益ですが、自分の体験したことを自分の言葉で他の人に伝える訓練にもなります。私は他の大学でも対話会に参加しましたが、学生さんの発言が少なく発言を促すことに力を注がなければならないこともありました。しかし、本日の対話会では皆さん活発な対話がなされていました。
私が参加したグループでは、ある人の意見と全く相反する意見もでました。他の人の意見に同調してしまう傾向がある中、素晴らしいことだと思います。
もう少し対話の時間があれば、このような議論をさらに深掘りできたのかもしれません。皆さんにおかれては、本日この時間だけではなく、ぜひ機会を作って対話を継続していただきたいと思います。本日はご苦労様でした。
4.閉会挨拶(梅田 健夫)
以下の趣旨の挨拶があった。
本日は我々シニアとの対話に皆さんの貴重な時間を割いていただき有難うございました。
今日の対話が、これからの日本のエネルギーはどうあるべきかと云うことについて、S+3Eの観点から自分なりの意見をしっかり持つきっかけになればと願っております。もっと端的に言うと、世の中の動向とかマスコミが喧伝する「原子力は危険だ」とか「再エネで日本のエネルギーをすべて賄える」と云うような感覚的な話に惑わされることなく、しっかり考え自分なりの意見を持つきっかけになることを期待しております。
5.学生アンケートの集計結果(中谷 力雄)
- 回答数は21件(参加学生22名につき回答率95%)
- 基調講演は、最近の話題と開催が八戸工業大学であることを意識した「エネルギー危機における原子力の役割と地域振興」についてであり、「とても満足」(76%)、「ある程度満足」(24%)と、参加者全員に満足して頂けた。
- また、対話についても、「とても満足」(81%)、「ある程度満足」(19%)で、全員に十分満足頂けたが、対話時間不足の意見もあった。
- 対話会全体の感想・意見としては、「青森県の新しい魅力と可能性を見つけることができた」、「シニアの方々と貴重な意見交換ができて非常に有意義な時間であった」、「インターネットや文献では分からない現場の声を聞くことができ良かった」など好評であった。 また、「シニアの方との対話でこれからの原子力関連のことについて考え、理解を深めることができた」、「貴重な機会にシニアの方々と様々なお話ができて良かった」とのシニアとの対話に価値を認識する感想もあり、今後も対話会の継続が期待される。
- アンケート詳細については別添資料を参照。
6.別添資料リスト
- 講演資料: 「エネルギー危機における原子力の役割と地域振興」
- アンケート集計結果