日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

学生とシニアの対話
in 岐阜工業高等専門学校2024年度(第1回)報告書 

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)
野村茂雄
岐阜工業高等専門学校(出典HP)

高専機構高田先生の紹介で、岐阜高専柴田准教授にお会いし、対話会開催ニーズの有無を相談した。柴田先生は、原子力教育の高専全体での取りまとめメンバーであり、自ら原子力教育を実施され、国内外の電力会社や大学などでの研修の運営などにも参加されている。岐阜高専では、既に、電気情報工学科学生が主体になり、1)地層処分、2)廃炉ロボコン、3)クリアランス物の再利用(今年は学内に街灯設置)、4)小中学生向けの教材作成などに取り組んでいる。この一環として、原子力全般の理解が必要との認識であった。そこで放射線・放射性物質および原子力全般の講演を実施することになった。

1.講演の概要

(1)日時

基調講演―1:令和6年6月19日(水) 15:00~16:30
基調講演―2:令和6年7月10日(水) 15:00~16:30
対 話 会  :なし

(2)場所

リモートオンライン方式(使用するシステムは岐阜高専採用TEAMS

(3)参加者

高専側世話役の先生
柴田欣秀 電気情報工学科准教授、 大橋 拓馬 同技術職員
参加学生
電気情報工学科3年20名、4年2名、5年1名および環境都市工学科2年1名、合計24名
参加シニア
基調講演1:野村茂雄、基調講演2:野村茂雄、大野崇、田辺博三

(4)基調講演1

テーマ
「放射線・放射線の基礎」
講師
野村 茂雄
講演概要

放射線の発生機構、放射能との違い、性質、単位、物理的半減期、測定装置、被ばくや人体影響、被曝防護、遮蔽、利用など基礎的な事項を解説。

  1. 質問1:原子力工業会への展望、大量の若手が算入した場合に人材教育、知識不足などの不安があるがどうするのか?
  2. 回答1:現場配属時に導入教育や従士者教育など、かなりの量の教育・訓練を行う企業がほとんどであり、保安規定などで規定されている。シニアレベルの大量再雇用で技術的知見を伝授するフランスの取り組みも、経営層には参考になるでしょう。原子力分野の仕事は、確実に20~30年はあり、我が国のエネルギー安全保障を支えるとの意欲で、若手の皆さんの参入を期待したい。
  3. 質問2:放射線の影響で、半導体などの材料が駄目になると聞いたことがあるが、どうか?
  4. 回答2:20年位前から、宇宙空間での使用に耐える半導体の開発が大手企業で行われてきた。適当な遮蔽や耐放射線材料基盤の選択・開発がポイントであろう。
  5. 質問3:使用済燃料プールで、泳ぐことが出来るか?
  6. 回答3:放射線遮蔽と崩壊熱除去のために、頂部からの深さ10m程度のプールの中に使用済燃料を沈めており、ここに飛び込んで泳ぐとするのは、重大な保安規定違反であり、管理者は厳しく罰せられるであろう。上部から除きこむことくらいにしておいた方がいい。
  7. 質問4:天然の原子炉がアフリカにあることを知ったが、どんなものか?
  8. 回答4:次回紹介したいが、雨水等でU235が集積し、臨界になり発熱。反応が終息した後を見つけた。私の知人も現地ガボンを訪問し感動した。
  9. 質問5:福島地域で黒いフレコンバックが多数あるが、あれは何か?
  10. 回答5:事故で放出された主としてセシウムで汚染した表面土や落ち葉などを集め(除染)、フレコンバックに詰めただけのもの。福島第一原発の脇に、集積保管されている。半減期30年のセシウムが大部分で、線量は減衰している。
  11. 質問6:ラドン温泉の効用はあるのか?
  12. 回答6:鳥取県三朝町のラドン温泉、岡山大学三朝医療センターなどは有名。効用があるとする「はつかねずみ」の試験結果や闘病者の例もある。ホルミシスをどうみるのか、細胞が活性化するのかは、個人の判断に委ねるのでしょう。

(5)基調講演2

テーマ
「原子力の概論」
講師
野村 茂雄
講演概要

以下の3分野について、基礎的な事項を中心に紹介。東電福島第一(1F)事故については、楢葉のロボコンに参加するので触れた。東日本大震災や福島事故について、良く知らない世代である。

I. エネルギー確保:化石燃料価格の変動、電力需要予測、S+3E、コストなど

II. 原子力発電:核分裂の仕組み、臨界、オクロ天然原子炉、軽水炉、再稼働、革新炉

III. 再処理リサイクル、廃棄物処分、廃止措置、1F事故と廃止措置、ロボットなど

  1. 質問1:乾式キャスクの構造はどんなか?
  2. 回答1:SNW田辺さんのサポートで、むつ中間貯蔵施設のキャスクの概要を図で説明。別途、概要説明図を、柴田先生宛にメールで配信。柴田先生から東海村原電施設を見学に行く機会があり、これに参加すれば現地で見られるとのアドバイス。
  3. 質問2:核融合の発電方式で、従来型と異なる方法があるか?
  4. 回答2:熱電素子を利用して、熱から電気への変換することが出来る。しかし基礎段階。放射線影響や長期の耐久性など実証することが必要。これが実用化出来たら、世の中が変わる。
  5. 質問3:再処理での製品形態はどんなか?
  6. 回答3:U3O8ウラン酸化物と、UとPuの1:1混合酸化物(MOX)が出てくる。ともに次の燃料製造工程に搬出し、燃料として利用しやすい性状にすることが大事。
  7. 質問4:革新炉で最も有望な炉はどれか?
  8. 回答4:次世代軽水炉で、技術も成熟し今すぐ建設できる。高速炉やガス炉は実用化までの課題があり、先になる。MHIでは、次世代大型軽水炉としての設計も完了し、建設可能な状態にある。
  9. 質問5:再処理ウラン、MOX製品は、劣化するのか?
  10. 回答5:MOX中のPuの同位体Pu241は、Amに崩壊する。このAmは、ガンマ線を出し、作業人の被ばく管理が大切になる。仏では、再処理後3~4年でリサイクル(軽水炉でのMOX装荷)ができるよう再処理を実施している。プルトニウムは、生ものとの認識が大切。

2.講評

「野村」いい質問が多く出て、レベルの高さを感じた。この中から、20~30年先に我が国のエネルギー・原子力分野の中心として働く人材が多く出てくることを期待したい。なお大野幹事の方から、今後、高専での教鞭の経験がある大西さんに交代するが、具体的な対話会の計画を相談したい旨要請し了解された。

「柴田先生」高専で原子力教えるシラバスはないが、関連する活動を行っている。学生の中には原子力分野へ就職する人もおり、こうした取り組みを来年以降も期待したい。

3.学生アンケート結果の概要

(1)参加学生について

  • 岐阜工業高等専門学校(岐阜高専)で電気情報工学科柴田欣秀准教授のもとで原子力教育(本年度から、リテラシ教育として教育コンテンツを作成することを開始 )の授業外活動を希望する本科課程学生約20名。
  • 24名が回答。総数が不明のため回収率は未定。
  • 学生は電気情報工学科3年生20名、4年生2名、5年生1名および環境都市工学科2年生1名。
  • 進路は約55%が就職、約45%が進学を希望。
  • (2)対話会(今回は基調講演のみ)について

  • 基調講演の満足度は「とても満足」、「ある程度満足」が合わせてほぼ100%であり、1名が「やや不満」。
  • 事前に聞きたいと思っていたことは「十分聞くことができた」と「ある程度聞くことができた」が合わせて100%であった。
  • また、最後の本企画を通した感想にもポジティブな意見が述べられている。一方、ネガティブな意見として、「説明が分かり難かった」、「内容が難しかった」と回答した学生が数名おり、今後の講演の内容、説明に改善の余地があることがわかる。
  • 基調講演で得られたことについては、「新しい知見が得られた」が最も大きく、次いで「マスコミ情報と講演や対話の情報に違いがあった」、「自分の将来の参考となった」、「教育指導の参考となった」であった。
  • 今回の基調講演内容以外の希望テーマとしては、AI、小中学生に向けての原子力発電、廃炉作業等に使用されるロボットに要求される技術や実際に導入されているロボットの解説、核融合について、が挙げられた。
  • 今回のような講演の必要性について、「非常にある」と「ややある」を合わせるとほぼ100%であったが、1名が「あまりない」と回答した。
  • 講演への参加を他人に勧誘するかについて、「薦めたいと思う」が約65%、次いで「どちらともいえない」が約26%、「薦めたいとは思わない」が約9%であった。薦めたいとは思わない理由は、興味ある人ない人が分かれるから、より相互参加形式だと議論が活発になるかと思います、であった。今回は対話を行わなかったことも影響していると思われる。
  • (3)意識調査について

  • 放射線・放射能については、全員が「恐れる必要はない」、「有用であることを知っている」と回答した。
  • 原子力発電については、「再稼働を進めるべき」が最も大きく50%であり、次いで「新増設、リプレースを進めるベき」、「2030年目標を達成すべき」であり、1名が「撤退すべき」と回答した。
  • 再エネ発電については、「環境にやさしく拡大すべき」と「天候に影響を受けるので利用抑制すべき」が約39%で拮抗しており、次いで、「環境破壊につながるの利用抑制すべき」が約9%であり、13%は分からないと回答した。
  • カーボンニュートラルとエネルギーについては、「地球温暖化や脱炭素社会の実現の関心」は殆どの学生が「大いにある」、「少しある」と回答した。
  • 「興味や関心があるのはどの項目でしょうか?(複数回答可)」については幅広い関心を示した。
  • 「日本の2050年脱炭素化社会の実現可能性について」は、「実現するとは思えない」が最も大きく約70%、「相当いいところまで到達する」が約13%、「分からない」が約17%であった。
  • 「脱炭素に向けた電源の在り方」については、「化石燃料発電を最小とし原子力発電と再エネ発電の組み合わせが望ましい」が最も大きく約63%であり、次いで「原子力発電と化石燃料発電を最小とし、再エネ中心が望ましい」が約21%、「原子力発電、再エネ発電、化石燃料発電をほぼ均等に組み合わせることが望ましい」が約13%、「分からない」が1名であった。
  • 高レベル廃棄物の最終処分については、「関心や興味が大いにある」、「少しある」が合わせて約67%、「あまりない」、「ない」が合わせて33%であった。
  • 「近くに処分場の計画が起きたらどうするか」については「反対しないと思う」が約46%、「反対すると思う」が約21%、「分からない」が約33%であった。
  • 「地層処分について興味や関心がある項目」については「技術」が最も大きく約73%、「制度」が約41%、次いで「処分地の選定」が約23%となった。
  • 詳細は別添の「事後アンケート結果」を参照ください

    4.別添資料リスト

    (報告書作成:2024年7月18日)