学生とシニアの対話
in 福島工業高等専門学校2024 (第10回) 報告書

- 基調講演の無い対話会であるが、事前配布の資料のもと、満足いく対話会
今回より、90分の対話会であるために基調講演を無くし、対話会に直ぐ取りかかることになった。そのために、事前に各班のテーマに対して、シニアより説明資料を冬休み前に用意し、休み中に学生に勉強してもらうことで対応した。
対話会では、最初に各班ごとにテーマについての概略の説明を行った。学生は予め勉強しておりスムーズに意見交換ができた。アンケートでは、ほぼ全員が満足していたとの回答であった。ただ、一名の学生には、内容に難しいところがあったようである。
1. 対話会の概要
福島高専との対話会は今回で10回目となる。2022年度まではコロナ禍にあってTEAMSによるリモート対話を余儀なくされたが、前回及び今回は対面方式での対話会を開催し学生諸君の元気な姿に接することができた。
基調講演を無くしたテーマに対する概略の説明によるグループ対話であるが、事前配布の資料を学生が学習していたことが功を奏し、対話会をスムーズに進めることができた。学生諸君の対話会に対する熱意と高い関心に、実施した効果があったと感じた。
(1) 日時
- 2025年1月9日(木) 10:30〜12:15
(2) 場所
- 福島工業高等専門学校 機械システム工学科棟2階の多目的演習室
(3) 参加者:
- 教員: 鈴木茂知教授、赤尾尚洋教授、山口直也助教
- 学生:12名 (機械システム工学科4年生)
- シニア:6名
SNW東北: 岸 昭正、工藤 昭雄 SNW本部: 幸 浩子、西郷 正雄、 三谷 信次、富永 研司
(4) 開会の挨拶 (鈴木教授)
今日は原子力の専門家のSNWシニアの方々が福島高専を訪問してくれた。シニアの方々は原子力の実務を通して専門家なので、学生諸君が今までの学習で疑問と思っていることや、対話テーマに対する意見を積極的にぶつけて欲しい。積極的な対話会となることを期待する。
2.グループ対話会
(1)1班 (報告者:幸 浩子)
対話テーマ: 革新炉について
参加者:
- 学生 4名 (いずれも機械システム専攻4年生)
- シニア 幸浩子、西郷正雄
対話概要:
- 70分の対話会ではあったが、1班においてはどの学生もリラックスしてそれぞれの意見や質問、興味を持った点などを模造紙に書き込んだ。 学生たちはすでに資料を読んでそれぞれに「革新炉」に対する理解があったと考えられ、自己紹介のなかでも、関心を持っている革新炉についてコメントしていた。
- 学生を主体に議論を進める手法の「みゆカフェ」(注1)を取り入れ、テーマの中で最も興味のあるものを模造紙の中央に書いてもらう段階で、積極的に挙手しシニアに問いかけた姿勢には、シニアもやる気が出た。
- 今回の対話会は、目論見通り、シニアよりも学生が盛んに考えていたと思う。通常の対話会ではシニアが話す時間が長く学生は沈黙が続く。しかし、今回「みゆカフェ」という新しい手法を用いたことで、たとえ学生が声に出していなくても、頭の中では考えが忙しくめぐらされており、ポスターが一周するごとに、新しい意見であったり、質問であったり、課題であったりが学生から積極的に提案や提示された。問題点やあり方について言及する学生もいた。また、更に詳しい情報を得ようとする姿も見られた。
- 夫々の学生は自分の選んだテーマのみならず、班の他のメンバーが選んだテーマについても考えることができたため、自分の選んだテーマと比較することもできたようである。課題がはっきりしている核分裂による革新軽水炉や小型炉に対して、未来の革新炉である核融合炉については、情報が開示されないことも課題/今後の挑戦となったようだ。
- 個々の学生が最も関心が高いと挙げたテーマは、①高速炉 ②大型炉(革新軽水炉) ③高温ガス炉 ④核融合炉 であった。
- 1班は、総じて静かであったが(3班の中で、シニアが一番静かだったと自負している)、脳細胞はいずれの学生も忙しく賑やかであったと考えている。次回このような機会があれば、また「みゆカフェ」を実施していきたい。
- なお、福島高専の鈴木教授からは「学生たちを掌の上で転がしているようだ」という素晴らしいお誉めの言葉を頂きました。
- (注1): 「みゆカフェ」手法
シニアからテーマについて用意した説明資料に基づき、各学生が最も関心の高い事柄を各自に提供した模造紙の中央に書き、それに線でつないで、自らの疑問点、質問点、感じたことなど書き込む。次に、その模造紙を隣に回し、隣の学生が、先に書かれている中央の関心の高い事柄や記載されている疑問点などを見て、同様に疑問点、質問点、感じたことなど書き込む。それを順次繰り返し、模造紙には最終的に全員 の感じたことなど、関連する事象が書き込まれて意見交換をする。
気づいた点や思ったことを書き込むときに、周りの学生の記載事項より新たに派生する考えも発生し、意見交換の際に、より幅広く意見を述べることができる。また、模造紙に書き込むことにより頭の整理もできる。
(2)2班 (報告者:三谷信次)
対話テーマ: 通常炉の廃炉について
参加者:
- 学生 4名 (いずれも機械システム専攻4年生)
- シニア 岸 昭正、三谷信次
対話概要:
- 基調講演が無いために、各班に決められたテーマについて説明しながら対話するスタイルになった。シニアがファシリテータを務め、最初に学生にも自己紹介をしてもらった。学生は4人とも福島県内の出身で、熱心に学習しようとしている様子が感じられた。
- 予め事前勉強資料「通常炉の廃炉について」と題するスライド11頁を送ってあったので、当日学生諸君はそれを事前学習していて、シニア側も自らのPCと幸い2班近くの会議テーブルにプロジェクター一式が用意されていたのでそれを利用して概要説明することが出来た。
- 前半三谷が講義をし、後半各人から質問を受ける形で開始した。
- 学生達に「一般廃炉のことをこれまで習ったことがあるか」と問うてもほとんどが「聞いたことがあるが習ってない」と返答。そこで、事前勉強資料を使って逐次質問をしながら講義を進めた。三谷の「対話」のやり方は、多くの人がやっている「一通り講義をした後、質疑応答に移り、相手から質問を聴き回答する」と云う通常のやり方ではなく、相手の顔を見ながら講義をして行き、ポイントや要の所に差し掛かると問いかけを行い相手の反応を確かめながらそれに答えてその後の講義を進める方式で、ほかの説明者より多少時間を食うため前半少し長くなったが実のある講義になったと理解している。
- 後半4人の学生から一人ずつ質問を受け、その内容から事前勉強の成果が出ていることが確認出来た。
- ただ、シニアから問いかけないと質問や意見が出てこないのは何時ものことだが、今回もシニアの話が長すぎたのは反省点として残る。
- 質問の中で特に注目点となったのは、
1)放射性廃棄物でない廃棄物は全体の93%であること
2)それが全体で50万トン程度になること
3)諸外国と比較して廃炉工事期間が長いこと(例:米国長くて10年かそれ以内、日本それ以上) 4)それには環境汚染に対する住民への配慮が必要なこと
(3)3班 (報告者:工藤昭雄)
対話テーマ: 高レベル放射性廃棄物処理・処分について
参加者:
- 学生 4名 (いずれも機械システム専攻4年生)
- シニア 富永研司、工藤昭雄
対話概要:
- 最初にファシリテータの富永より、事前配布した資料に基づき概要説明を行った。学生はある程度、事前学習していたようで、対話はスムーズに立ち上がった。学生から出された主要な質問に対し、シニアより次のように回答した。
- 学生より現在進めている地層処分がうまく行かなかった場合、地層処分の方法を見直すのか?との質問があった。 シニアからは、十分な検討とデータをもとに決めた方針で、見直しは考えられない。但し、高レベル放射性廃棄物の核種の短寿命化技術の研究も進められており、実用化されたら利用出来るよう掘り起こし可能な設備となるだろうと回答した。
- 学生から複数回、宇宙処分はできないか?との質問があり、シニアからは、ロケット発射に伴う事故の影響を考える採用は難しいと回答した。
- 学生から原子力施設の想定外の事故にどう対応すべきかとの質問あり。
- シニアからは、設備が許容され安全性を有するかどうかは、リスク=(対象事故)*(事故発生確率)が一定の数字以下であれば科学技術的には良いとは言えると思う。但し、住民の安心は心の問題で科学では解決つかないので簡単には納得してもらえないと思う。
- 最終処分場から地表に放射性物質が一定時間後に到達するかどうかを評価するため影響するパラメータ(地下水移動速度等)の桁をあげて行うのは想定外の事故評価になるかもしれない。
- シニアの方から、高レベル放射性廃棄物の最終処分場がなかなか決まらないのはなぜか?について学生の意見を求めた。 学生の意見は候補地の議員が批判を恐れ、態度を明確にしないからとの辛口の意見もあったが、シニアのほうから、このような施設はNIMBYだから、時間をかけて互いの信頼を醸成する努力をするよりないんだろうねとの意見を添えた。
- シニアから、現在の主要電源には長所と短所があり全てを満足する電源はないが、その中でも我が国にとって望ましい電源はなにか?と学生の意見を求めた。
- 学生からは(原子力と自然エネルギーの組み合わせ)が良いという現実的な案がでる一方、水力を増やす、天然ガスを増やす等の意見も出た。 後者の意見については、シニアからは提案の良い点を認めつつ、気づいていない問題点についてコメントをつけた。
- 学生代表の発表の概要は下記の通りであり、まずまずの対話成果と感じた。
① 我が国が利用しているエネルギー(基幹電源)について対話した。いずれの基幹電源にも長所と短所があり、一つの電源で全てを満足するものはないことが判った。また、原子力の必要性と重要性はかわらない事に納得した。
② 高レベル放射性廃棄物の処理方法について多様な研究・検討がなされているが、地層処分は最も現実的であることが理解出来た。
3. 講評 (三谷信次)
- 今回は3グループに分かれて学生とシニアの対話会を実施したが、各グループで次に述べるように特徴のある対話会であった。また、学生諸君はしっかり学んだものを意見や質問としてぶつけてくれ、良い対話会であった。
- 1班は、「みゆカフェ」という新しい手法を採用した。この手法は、資料作成者と説明受ける人の相互にメリットがある。
- 2班は、福島第二発電所の廃炉が念頭にあったのだろうか通常発電所の廃炉について議論した。学生たちは、解体廃棄物のほとんどが非放射性廃棄物であり、放射性廃棄物として扱う必要のないクリアランス金属等が5%、低レベル廃棄物が2%程度と少ないことに驚いていた。
- 3班は、エネルギーの重要性を確認した後、主要電源の特徴について学び、いずれの発電方式も一長一短があることがわかった。原子力発電を利用する場合、発生する高レベル放射能の処理・処分について多様な処理方法が紹介され、地層埋設処理方法を中心に進んでいることを学んだ。
4. 閉会挨拶 (赤尾教授)
- 今回の対話会に関しの実施に対して、SNWへの謝辞と学生諸君への今後の期待が述べられた。
5. 学生アンケート結果の概要 (岸 昭正)
- (1)参加学生について
- 参加学生全員(12名)が回答。回収率は100% 。
- 全員の学生が機械システム工学科の4年生。
- 進路は58%が就職、42%が進学の予定。
- (2)対話会について
- 講義(各班での最初の説明) の満足度は「とても満足」、「ある程度満足」を合わせて87.5% 。
- 不満の理由は、内容が難しかったが2/3、質問時間不足が1/3。
- 今回の講演以外で聴きたいテーマは、廃炉ロボットについて、今までの原発事故詳細、現在の原子力発電の課題など
- 対話会の満足度は「とても満足」が3/4 、「ある程度満足」が1/4合わせて100%また、新しい知見が得られたとして満足しているという声があった。
- 対話会の必要性は「非常にある」、「ややある」を合わせて100%であった。 しかも非常にあるが83.3%をしめた。また、友達や後輩への対話会への参加を進めるかどうかについては、83.3%が「勧めたい」と回答し「どちらともいえない」が16.7%あった。
- (3)意識調査について
- 放射線、放射能につては、「一定のレベルまでは恐れる必要はない」が100%であり、医療関係など利用されていることを学んでいるようだ。
- 原子力発電については、「必要性を認識しており再稼働を進めるべき」が25%、「新設、リプレースを進めるべき」が41.7%あり。「2030年目標を達成すべき」は33.3%であった。原子力を学習している成果だろう。
- 再エネ発電については、「環境にやさしく拡大すべき」が83.3%、「自然環境破壊につながるので利用を抑制すべき」と「分からない」がそれぞれ8.3%となった。
- カーボンニュートラルとエネルギーについては、「地球温暖化や脱炭素社会の実現に関心」は「大いにある」と「少しある」を合わせて100%の回答であった。「興味や関心があるのはどの項目でしょうか?」については幅広く関心を示したが「温暖化の影響と対策」が比較的多かった。「日本の2050年脱炭素化社会の実現可能性」については、「実現するとは思えない」が41.7%、「相当いいところまで到達する」が33.3%と見解が割れている。「脱炭素に向けた電源の在り方」については、「化石燃料発電を最小とし原子力発電と再エネ発電の組み合わせが望ましい」が41.7%、「原子力発電、再エネ発電、化石燃料発電をほぼ均等に組み合わせることが望ましい」が25%となった。
- 高レベル廃棄物の最終処分については、「関心がある」と「少しある」を合わせて91.7%の回答であった。「近くに処分場の計画が起きたらどうするか」については50%が「反対しない」、25%が「反対する」、25%が「わからない」であった。「地層処分について興味や関心がある項目」については技術が58.3%、「制度」が33.3%、処分地の選定が50%であった。
- アンケート結果詳細については別添資料を参照。
6. 別添資料リスト
- アンケート集計結果