学生とシニアの対話
in 福井工業大学2024年度(第19回)報告書

- 今回で19回目となる対話会が福井工大・福井キャンパスで開催
- グループ対話主体の対話会として、授業の一環として2コマを振り当てる設定。参加者は教員・学生・シニア・オブザーバー総勢50名。世代を超えた対話は機能し学生からグループ討論結果の闊達な発表があった。来年度も開催することを確認した。
1.講演と対話会の概要
(1)日時
- 基調講演、対話会:令和6(2024)年 12月7日(土) 13時~17時半 (対面開催)
(2)場所
- 福井工業大学 福井キャンパス 2号館602, 6号館101~105
(3)参加者
- 大学側世話役の先生
野村准教授・松浦教授(原子力技術応用工学科教員) - 参加学生
25名 (原子力技術応用工学科、2年生8名、3年生16名、4年生1名) - 参加シニア:5グループ、11名
針山日出夫、大西祥作、鈴木成光、三谷信次、川合将義、佐藤俊文、石隈和雄、
西郷正雄、田中治邦、湯佐泰久、松永健一 - オブザーバ
岩永氏(元福井工大教授)、来馬氏(元福井工大教授)
(4)基調講演
- 演題
- 「電力安定供給と脱炭素の道筋~原子力の役割を中心に」
- 講師
- 針山日出夫
- 講演概要
- 世界主要国では「電力安定供給」と「脱炭素社会」の実現を目指して、脱炭素電源を如何に早く・安く・確実に社会に実装するかに焦点が当たっている。しかし、脱炭素政策はその国の経済事情などにより目標設定や実施政策は大きな温度差があり、世界レベルでは足並みが揃わず不透明感が充満している。日本は2020年に2050CNを政府方針として定め、その道筋として2021年に第6次エネルギー基本計画を策定したが、計画の目標達成(2030年:原子力~22%、再エネ~38%、自給率30%)は容易でない状況。日本はエネルギー危機と世界の分断・対立の実情を見極めて機敏な政策発動が問われおり国民一人一人の意識改革も同時に問われている。最近の世界主要国のエネルギー・環境政策を俯瞰しつつ、日本の課題・選択の論点を概説した。(講演時間は約30分)
2.対話会の詳細
(1)開会あいさつ
原子力学会シニアネットワーク連絡会の活動概要を世話役が説明し、各参加シニアが短時間(30秒程度)の自己紹介を行った。
(2)グループ対話の概要
- 対話テーマは講義の代替としての位置づけとなるので、昨年度と同様のテーマで実施。趣旨は次のとおり。
- テーマ① 次世代革新炉について: 現行の大型軽水炉や改良型軽水炉をはじめ、開発中の高温ガス炉、高速炉、小型軽水炉などの特徴および日本が力点を置くべき新型炉に対する考え方
- テーマ② 核燃料サイクルの必要性と課題: 全体像と必要性並びにサイクル実現に向けての課題全般
- テーマ③ 廃止措置について: 事故炉廃止措置、健全炉廃止措置について廃棄物、クリアランス制度、必要な技術課題など
- テーマ④ 放射線の活用と防護について: 被ばく事故事例や防護対策並びに放射線利用の実態、放射線教育の在り方など
- テーマ⑤ 脱炭素と原子力の役割について: 脱炭素政策の展望と原子力の役割並びに脱炭素の課題など
- 対話の冒頭に対話テーマに関連する情報の認識を深めるため、SNW講師による講義(ミニレクチャー)を行った。その後、論点整理20分、討論80分、学生まとめ20分程度で対話を進めた。
- 発表テーマを学生間で議論する時間がやや少なかったが、学生は講義資料を活用したりしてグループ発表を要領よく行った。発表後、シニアと学生から対話テーマ毎に複数の質問やコメントがあった。
- 以下、各グループ対話の概要を示す。
- 1)グループ1
- テーマ
- 次世代革新炉について
- 参加者
- 2年生 4名
シニア:西郷正雄(ファシリテータ)、石隈和雄(記録) - 対話内容
- ミニレクチャー用PPT「革新的軽水炉とは」と、その評価ポートフォリオを説明した後、エネ庁資料「次世代革新炉の現状と今後について」(令和6年10月22日版)をもとにして、学生から、関心のある事項、質問・意見交換したい事項を書いてもらい、対話テーマ出した。また、対話後のグループ発表のため、学生から記録係と発表リーダーを選出した。学生の知りたいこと、関心事項は次のとおり。
- ①授業でカナダのマイクロ炉について学んだ。小型の原子炉(発電炉)を導入した時、小規模のへき地自治体で管理できるのか。
- ②ウラン燃料の再利用が重要と学んだ。新型炉や高速炉での再利用(リサイクル?)について知りたい。
- ③もんじゅは廃炉になるが、高速炉技術をどのように技術伝承していくのか。
- ④オンタリオ工科大学(カナダ)の先生の話を聞いた。地方自治体で小型SMRの運転管理ができるのか。
- 上記の様々な観点と、授業で学んだテーマや課題について、学生質問に応える形で意見交換した。主な内容は次のとおり。
- ①マイクロ炉とカナダのSMRについて
-
- 学生から、安全でシンプルな原子炉ができれば、小さな自治体でもエネルギー需要を賄えるのではないか。カナダで設置許可申請が出たと聞いた。
- 安全管理や運転管理に専門的人材が多く必要なら、地域全体で協力して対応すれば経済的にも成り立つのではないか。
② ウラン資源と燃料サイクルについて -
- MA燃焼による高レベル廃棄物の低減、また長半減期核種の核変換により管理寿命が10万年から300年程に短縮できることなどを意見交換した。
- 福島第一の廃棄物を処理する上で湿式再処理に課題があるなら、乾式再処理ではどうかとの意見があった。
③ もんじゅの後継について -
- シニアから、もんじゅの経験をふまえて国の高速炉開発の中核組織が整備されたことや、国の開発ロードマップを紹介した。
- 日本のエネルギー資源の自給率向上には高速炉が必要との意見があった。
④ その他 -
- シニアから高温ガス炉の特徴と高温多目的利用を説明し、学生は炉の物理的安全停止に至る固有安全性に加え、高温を利用した水素製造などの多目的利用に、学生は関心を寄せた。
- グループ発表
- 学生は、次のように対話をまとめた。
- ①小型革新炉を導入する場合、自治体が連携して運転管理を行えば、経済合理的な原子力発電所運営が可能ではないか。また、電力会社から運転管理のできる人材を派遣してもらう案もあるのではないか。
- ②HTGRの安全性と多目的利用について学んだ。100%出力からのLOHF実験が成功した(2024.3.27)ことを知った。
- ③高速炉のMA燃焼による廃棄物負荷の低減について学んだ。高速炉による増殖ができれば、資源再利用が可能となり、日本のエネルギー自立に貢献できる。日本に必要な革新炉は高速炉である。
- まとめ
- 13件の事前質問中7件は対話テーマと離れたものであったが、テーマとの関連性に留意して回答を用意した。
- 就職関連の用事のある学生が多く、参加者はM1・1名、学部2名の計3名と参加者は少なかったが、シニア2名を加え少数、和気藹々の中で忌憚ない対話が出来た。学生は準備周到で、発表予定のM1学生は終始真剣に質問をした。
- テーマに沿った質問には、電源喪失による炉心冷却不能は如何に改善されたのかという真っ当なものから、新規制基準に沿うために既設炉を廃止して原発を新設しないのかという現実離れした質問まで種々あった。まだ社会に出る前の若者らしさかも知れない。また、原子力発電の発展(ママ)にあたって最も足りないものは何かとの質問について議論したが、学生から「世の中の人が理解すること、そのためにはエネルギー省を作る必要がある」との発言があり、その鋭敏な感性に感銘を受けた。
- 2)グループ2
- テーマ
- 核燃料サイクルの必要性と課題
- 参加者
- 学生: 3年生6名、4年生1名
シニア:田中治邦(ファシリテータ)、大西祥作(記録) - 対話内容
- 参加学生内で役割分担を決めた後、参加シニア(田中)よりテーマに沿って事前配布しておいたミニレクチャー資料を簡潔に説明した。
- ミニレクチャー内容に関する学生たちの質問に対して、まずはシニアが答え、それに対し学生たちが意見交換・議論する形でグループ討議を進めた。
- その結果、以下のような議論をすることが出来た。
- ① 核燃料サイクルを進めるにあたっては、差し当たり中間貯蔵が必要であるが中間貯蔵の敷地選定には色々課題がある。
- ②そもそも核燃料サイクルが必要かどうかについての議論となり、コスト(国民負担)、エネルギー自給率、地政学的リスク対応(中国、北朝鮮、紛争や戦争等)、経済力等の観点から意見交換があり、結果として核燃料サイクルの実現は必要であるとの結論となった。(お金を掛けるなら再エネに投資した方がいいのでは等の意見があり)
- ③脱炭素の目標としての2050年CNを見直し、長期的に国民の負担を減らし先延ばしすべきである。但し世界の中の日本の立ち位置(脱炭素に消極的だと製品が輸出できない等国際社会から非難される等)を考慮した現実味のある政策が必要である。
- まとめ
- グループ討議は活発とまでは言えないが、世界の中の日本の立ち位置や技術論以外の課題が多々あることを認識した上での質問や意見交換が出来ており意味ある対話会となった。
- 3)グループ3
- テーマ
- 廃止措置について
- 参加者
- 学生: 3年生4名
シニア: 三谷信次(ファシリテータ)、鈴木成光(記録) - 対話内容
- ①シニアから健全炉と事故炉の廃止措置について説明の結果、先ずは健全炉と事故炉廃止措置の基本的な違いについて議論。健全炉の場合は、除去する機器・配管や建屋などは図面通りであり、汚染の状態や放射化の程度なども事前に評価出来るので、廃止措置の計画を適切にすることが出来るが、事故炉の場合は、損傷や崩壊、放射性物質の飛散などがあるため、何がどれ程の放射能があるのか想定出来ないので、調査、分析などを踏まえてステップバイステップで廃止措置計画を検討して行く必要があることを理解してもらった。
- ②廃止措置を進めるにおいて、廃止措置主任技術者の資格というものがあり、この資格は原子炉主任技術者資格、核燃料取扱主任技術者資格や放射線取扱主任技術者資格を足したような網羅的なものであることを知ってもらった。
- ③放射能レベルが非常に低いクリアランスレベルの金属やコンクリートなどの再利用について興味を持ってもらった。海外では再利用がある程度進んでいるのに、日本ではなかなか社会的に認知がされない状況について、放射能に対する日本人の不安感が強いことや、大騒ぎするメディアが要因ではないかとの議論をした。
- ④対話後の学生発表会において、福島第一もチェルノブイリのように石棺にしてしまった方が良いのではないか、という対話会では議論にならなかった質問が出たが、周辺地域の住民や帰還したい人々にとっては、石棺の中とは言え、リスクあるものが残っているというのは望ましくないのではないか、と臨機応変に回答されたのは素晴らしかった。
- 4)グループ4
- テーマ
- 放射線の活用と防護について
- 参加者
- 学生: 3年生6名
シニア:川合将義(ファシリテータ)、湯佐泰久(記録) - 対話内容
- PPTで「放射線の活用と防護」を説明した。学生はうなずくなどよく理解していた。
- 被曝を避ける具体策は?との質問があり、シニアから実経験も踏まえて、防護3原則などを説明した。
- 放射線の産業利用で、照射時間などの具体的な方法は?との質問があったが、多くは企業秘密となっていると説明した。(その他の細かな質問は省略する。)
- 上記テーマで学生が理解し、グループ発表とした内容の主な点は次のとおりである。
- 放射線は医学、工業・農業などに広く利用され、その市場規模5.6兆円以上である。特に、電子線照射はその発生やエネルギーを制御しやすいという長所がある。
- 東電福島第一原発事故ではALARAの原則から外れた対策で多くの人が避難し、除染事業で多くの費用がかかった。
- 放射線防護を考える場合、①行為の正当化、②防護の最適化、③線量限度の適用の三原則がある。特に、外部被曝の低減には①距離、②遮蔽、③時間の三原則がある。
- 5)グループ5
- テーマ
- 脱炭素と原子力の役割について
- 参加者
- 学生:2年生 4名
シニア:松永健一(ファシリテータ)、佐藤俊文(記録) - 対話内容
- ミニレクチャ-用PPT「脱炭素と原子力の役割について」を説明し、学生の意見や質問を確認し、グループ対話会を開始した。学生質問や意見、議論を次に示す。
- データセンターや半導体工場などの増設によって今後の電力需要が増加していく見込みである。データセンターなどは需要地の近くに建設する必然性は特にはないため、豊富な電力供給が可能な地域が立地要件になるかもしれない。
- データセンターなどは24時間稼働し、平均した電力供給が必要なベースロードとなる。
- 半導体工場についても建設による電力需要の増加が見込まれている。
- 学部2年である自分たちは色々と学びはじめた段階であるため、詳しいところは良くわからない(ピンとこない)。
- 自分たちもChatGPTなどの生成AIを使い始めている。データセンターや半導体工場などの増設によって今後の電力需要が増加していくことは理解できた。特に電力需要に対しては、原子力などによる供給力のベースアップが必要なことは理解できた。
- NHKの「データセンターも脱炭素へ」とあるが、データセンターの省エネ化による消費電力の増加抑制は可能なのか。北海道などに建設することで、低い外部気温を利用して室温管理を行い、省エネ化を図っている事例である。
- 九州エリアの出力制御の事例があるが、出力制御とはどういうことなのか。需要を超えた分の電力はどうなるのか。
- 太陽光発電による昼間電力の平準化は可能なのか。どういう方法があるのか。
- ドイツの例などで、電気料金が高くなると国家の競争力が弱くなるのは理解できた。
- トランプはどうして脱炭素の政策から脱却しようとしているのか。
3.講評( 川合 將義)
皆様、お疲れ様でした。各班の報告を聞いて感心したことは、短時間で対話内容を綺麗に纏められたこと、中にはインターネットで関連情報を調べて、PCに取り込まれたことも認められました。シニアからの「日本のAI化が遅れているのに、欧米同様にAI化で電気需要が増すと思いますか?」とか「東京電力福島第一原発事故の現在啜られている廃炉方式よりもチェルノブイリ原発事故の石棺方式の方が良いという意見もあるが、君たちはどう思うか?」など思いがけない質問に対しても、自分で考えて何とか答えられました。社会に出れば同様なことに出会うことでしょう。答えは自分で考えることが大切です。学生時代にこうした経験をすることは貴重に思います。今後とも積極的に取り組まれることを期待しています。
シニアとしても、皆様に最新の情報を提供したく、世界情勢を考慮してミニレクチャーの資料を見返して提供しています。例えば、私ことですが、放射線の利用について過去の資料に基づいて知っていたつもりでしたが、「ラジアルタイヤの製造は放射線を用いて」と覚えているだけで、電子線であることを知ったのは、11月26, 27日に東大で開催された第19回放射線プロセスセミナーでした。そこで得た情報を基にミニレクチャーのテキスト修正版とそのレジュメを作り、12月2日にレジュメを補足資料として送り、今回の対話会で説明できました。
学生の皆さんは、今回の対話会で得た情報を聞き流すことなく、復習して家族や身の周りの人たちにもお伝え頂きたく願います。また、日本のDX化やAI利用は遅れていると聞いています。若い皆さんが、それらに積極的に取り組んでリードしてくれることを期待しています。願わくば、今後の対話会に原子力におけるAIの活用がテーマとして挙がれば幸いです。皆さんのご健闘を祈ります。
4.閉会の挨拶
- 簡単な閉会の挨拶とアンケートに関する説明があり終了した。
5.学生アンケート結果の概要
(1)参加学生について
- 参加学生25名全員が回答。回収率は100%。
- 全員の学生が原子力系。2年生から4年生が参加したが、主体は3年生。
- 進路は88%が就職、12%が進学の予定。
(2)対話会について
- 基調講演の満足度は「とても満足」、「ある程度満足」を合わせて100%であったが、不満の項目で時間不足等の不満あり。基調講演以外で聞きたいものとして「就活について」、「一般市民に対する説明の仕方」、「核融合」、「バックエンド廃止措置」が挙げられた。
- 対話会の満足度は「とても満足」、「ある程度満足」を合わせて92%。「やや不満」、が8%あり。今回の講演や対話会で「新しい知見が得られた」が91%、「マスコミ情報と講演や対話の情報に違いがあった」及び「自分の将来の参考となった」がそれぞれ25,37%となった。
- 対話会の必要性は「非常にある」、「ややある」を合わせて100%であった。また、友達や後輩への対話会への参加を進めるかどうかについては、18名(75%)が「進めたい」と回答し「どちらともいえない」が25%であった。なお、「薦めたいとは思わない」は0%であった。
(3)意識調査について
- 放射線、放射能については、「一定のレベルまでは恐れる必要はない」が96%であった。一方「怖い」が4%あり。
- 原子力発電については、「必要性を認識しており再稼働を進めるべき」が46%、「新設、リプレースを進めるべき」が42%あり。「2030年目標を達成すべき」は12%であった。
- 再エネ発電については、「環境にやさしく拡大すべき」が54%、「天候に左右されるや自然環境破壊につながるので利用を抑制すべき」がそれぞれ37%、8%となった。
- カーボンニュートラルとエネルギーについては、「地球温暖化や脱炭素社会の実現に関心」は「大いにある」と「少しある」を合わせて91%の回答であった。尚、2名(8%)が「ない」との回答があった。
「興味や関心があるのはどの項目でしょうか?」については幅広く関心を示したが62%の学生が「エネルギー資源の確保」に関心があると回答した。また{主要国の動向」、「脱炭素化の手段、方法論、道筋」が比較的多かった。(各約37%)
「日本の2050年脱炭素化社会の実現可能性については、「実現するとは思えない」が33%であったが「相当いいところまで到達する」も29%の回答あり。また「わからない」は37%あり見解が3つに分かれた。
「脱炭素に向けた電源の在り方」については、「原子力発電、再エネ発電、化石燃料発電をバランスよく組合せることが望ましい」及び「化石燃料発電を最小とし原子力発電と再エネ発電の組み合わせが望ましい」がそれぞれ33%、46%となった。 - 高レベル廃棄物の最終処分については、「関心がある」と「少しある」を合わせて100%の回答であった。「近くに処分場の計画が起きたらどうするか」については71%が「反対しない」、8%が「反対する」、21%が「わからない」であった。「地層処分について興味や関心がある項目」については技術が75%、「制度」、「処分地の選定」ともに41%であった。
- 詳細は「2024年度 福井工大対話会(第19回) 事後アンケート結果(詳細版)」を参照してください。