日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

SNW対話in全国複数大学 2023年度報告書

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)世話役 田辺博三
《全国複数大学対話会参加大学》
全国複数大学の学生と対話を実施
全国複数大学対話会は、原子力発電環境整備機構(NUMO)の<選択型学習支援事業>を受託した日本原子力学会学生連絡会が活動の一環として実施する勉強会にSNWが協力し、対話会として実施した。
本年度はSNWに加えてNUMOからも講師を派遣して頂き、地層処分の取組など広範囲にわたって講演した。
学生連絡会の公募によって6大学から参加した原子力を専攻する学生等6名を対象に実施。対話では、司会、対話テーマの選定、ファシリテータ(FT)、対話成果とりまとめと発表を学生が実施する学生主体の形式で行い、シニアは求めに応じて、あるいは必要と判断される場合に、情報提供やコメントを行った。
ファシリテータは、問題点などを整理しながら要領よく進行し、参加学生も活発に意見を出し合うことが出来た。また、シニアも求めに応じて積極的に参加し、意見交換の充実に貢献することが出来た。
最終処分に関し、近年初等中等教育で導入されている「合科教育」を活用する提案が学生から出たことは注目される。

1.講演と対話会の概要

(1)日時

基調講演-1:令和5年10月14日(土) 13:10~13:40
基調講演-2:令和5年10月14日(土) 13:40~14:10
質疑応答 :令和5年10月14日(土) 14:10~14:20
対話会 :令和5年10月14日(土) 14:20~16:30

(2)場所

オンライン方式

(3)参加者

参加学生:6名
東京大学大学院(D3)、静岡大学大学院(M1)、名古屋大学大学院(M1)、九州大学大学院(M2)、早稲田大学(B4)、東京都市大学(B4)
参加シニア:6名
坪谷隆夫(基調講演-2)、出光一哉、武田精悦、古藤健司、湯佐泰久、田辺博三
基調講演-1講師:原子力発電環境整備機構 江崎久美子氏

(4)基調講演-1

テーマ
高レベル放射性廃棄物の地層処分について
講師
原子力発電環境整備機構 江崎久美子氏
講演概要
原子力発電環境整備機構(NUMO)の紹介、日本における原子力発電量の推移と原子力発電所の現状、放射性廃棄物の種類と処分方法からはじまり、高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)の特性、高レベル放射性廃棄物の処分方法(地層処分)の選択、地層処分のコンセプト、安全性、処分地選定の進め方、日本における最終処分に関する取組のこれまでの経緯の説明。さらに現在行われている文献調査の進捗状況や現地におけるNUMOの活動の紹介。最後に諸外国における地層処分事業の進捗や日本を含む各国の地域との共生に向けた取組みの紹介など、包括的に講演頂いた。

(5)基調講演-2

テーマ
放射性廃棄物の地層処分の現状と今後の見通しについて
講師
坪谷隆夫
講演概要
本年度の全国複数大学対話会は、昨年度と同様に地層処分に関わる勉強会である。その趣旨に沿うよう基調講演は、DVD「今から始めなきゃ!核のゴミ処分 マジ討論~20代の私たちが考えたこと~」(NUMO制作)https://www.numo.or.jp/project/report2016/tv.htmlに基づき、世界で最も進んでいるフィンランドの国民がどう考えているのか、インタビューした学生がどのように受け取ったのかを紹介し、グループ対話における意見交換を盛り上げることを試みた。

2.対話会の詳細

(1)開会あいさつ

学生連絡会代表(九州大学M2)より、地層処分関連施設視察(例年視察している原子力機構幌延深地層研究センターが地下工事中のため視察出来ず、本年度は高レベル放射性廃棄物の発生源でもある六ケ所再処理施設などを視察)の事前勉強として行う、等のあいさつがあった。

(2)グループ対話の概要

グループ対話は、グループ1は学生3名とシニア3名、グループ2は学生3名とシニア3名及びオブザーバ1名(NUMO)に分かれて行った。
以下、各グループ対話の概要である。
1)グループ1
テーマ
テーマ1 地層処分に関する技術(新技術含む)と、その応用や現場での適用に関する議論
テーマ2 自分の市町村が候補地に立候補した場合、自分ならどう対応するか
参加者
学生:3名:東京大学(D3、FT)、名古屋大学(M1、とりまとめ)、静岡大学(M1、発表)
シニア:3名:古藤健司、湯佐泰久、田辺博三
対話内容
ファシリテータのもと、自己紹介の後、テーマごとに対話を進めた。学生同士で主体的に議論を進め、専門的なことなどについては、適時、シニアが情報提供した。テーマ毎の主な結論を以下に示す。
テーマ1
  1. ・土木系の技術は既存の土木・鉱山開発関係の技術で対応できる。(シニアより「地層処分に関する地下の調査技術については東濃地科学センターや幌延深地層研究センターにて開発や実地試験を数十年来実施中であることを紹介。」
  2. ・新技術の例として、回収可能性、機械の改良、安全技術、評価技術があげられる。 ・これらの新技術の応用、現場での適用について以下が考えられる。
  3. ・回収可能性については、処分の過程において将来の選択肢の増加、ただし、国ごとに対応が異なる。
  4. ・他分野への応用として、建築土木、医学(放射線防護)、化学(化学廃棄物処分)、防災が考えられる。
  5. ・他分野の技術を地層処分に応用出来るものとして、土木技術、機械技術が考えられる。
テーマ2
  1. ・必要な情報として、安全性だけでなく、危険性(最も大きなリスク、安全性喪失後の事象)の情報がある。また、懸念点の明確化のため、原発との違い、地下水への影響について情報が必要である。
  2. ・バックグラウンドの違いにより対応の違いがあるのではないか。基礎知識のない人は賛成反対の根拠が乏しく、まず情報収集の必要性がある。一方、専門知識を有する人は、アクティブな情報発信の可能性、批判的な人々との対話、地元民だけでなく国民全体への発信が考えられる。
  3. ・情報発信としては、周辺地域での講演・講義、SNSやインフルエンサーの活用などのメディア以外での発信が考えられる。
全体として、ファシリテータの学生の適切な進行により、有意義な対話が出来た。
2)グループ2
テーマ
地層処分に関する情報発信をどう工夫すれば市民の理解を得やすくなるか
参加者
学生:3名:九州大学(M2、FT)、早稲田大学(B4、とりまとめ)、東京都市大学(B4、発表)
シニア:3名:坪谷隆夫、出光一哉、武田精悦
オブザーバ:江崎久美子氏(NUMO)
対話内容
ファシリテータのもと、特に学生・シニア区別することなく全員で対話会を進めた。主な結論を以下に示す。
    〇現状・問題点
    地層処分の情報発信が難しいこと
    1. ―国家プロジェクトであるため内容の決定に時間がかかる
    2. ―地層処分、原子力発電は賛否両論があり、発信すべき内容については慎重を要する (一般企業のようにはいかない) 
    3. ―新聞掲載の場合は各社の意向などに左右される
    SNSは重要な手段の1つだが、公開するだけでは不十分。流れただけで自分事として考えてくれるかどうかは別問題
    原子力に対する都市・地元地域間でのリテラシーの差
    〇情報発信の工夫
    学校教育の改革。合科教育(理科、社会、地域経済、地質、考古学など)のさらなる推進
    対面での情報発信の拡大
    マスメディアで頻繁に取り上げられることが重要。国内外で注目度が高いロボコンを参考に提言等のコンテストを国内外から募集(現在すでに行っている廃炉用ロボのようなものを地層処分でも実施)
関連する主な意見
  1. ―SNSではゲームやクイズ方式にするなど楽しくするのも一案
  2. ―地層処分に限らず技術に伴う不確実性は社会の重要問題の1つ
  3. ―地層処分の目的は国民、人類の幸せのため
  4. ―危険の受け取り方は立場や知識によって異なる(例えば、ガラス固化体は危険だと思うかどうかは人によって異なる)
  5. ―最後は信頼、納得に関わる

3.閉会の挨拶

SNW対話会世話役より、講師の方々、参加学生の方々、参加シニアの方々に謝辞を述べた。

4.学生アンケート結果の概要

(1)参加学生について

6大学より学部学生2名、修士3名、博士1名の計6名の学生が対話会に参加。
参加学生6名のうち5名が回答。回収率は83%。
全員の学生が理系。3名が原子力系専攻、2名が原子力系専攻以外。
進路は3名が進学、2名が就職を希望。

(2)対話会について

今回は2つの基調講演を行った。講演の満足度は「とても満足」、「ある程度満足」が合わせて100%。事前に聞きたいと思っていたことは「十分」、「ある程度」聞けたが合わせて100%、今後の希望テーマとして、エネルギー基本計画、国内標準・安全基準に関する内容、が挙げられた。
対話会の満足度は「とても満足」、「ある程度満足」が合わせて100%。ポシティブな意見は新しい知見が得られたが最も大きく、次いで自分の将来の参考になったが挙げられた。一方、ネガティブな意見は特になかった。
対話会の必要性は「非常にある」、「ややある」が合わせて100%。ネガティブな意見は特になかった。

(3)意識調査について

放射線・放射能については、「一定のレベルまでは恐れる必要はない」が80%、レベルに関係なく怖いが20%であった。また「有用であることを知っている」が100%であった。
原子力発電については、「必要性を認識しており再稼働を進めるべき」が60%、「新増設、リプレースを進めるべき」、「2030年目標を達成すべき」が各々20%であった。
再エネ発電については、「天候に左右されるので利用抑制すべき」が最も大きく60%、次いで「環境にやさしく拡大すべき」が40%であった。
カーボンニュートラルとエネルギーについては、「地球温暖化や脱炭素社会の実現の関心」は全ての学生が「大いにある」、あるいは「少しある」と回答した。「興味や関心があるのはどの項目でしょうか?(複数回答可)」については幅広く関心を示した。「日本の2050年脱炭素化社会の実現可能性について」は、「実現するとは思えない」が最も大きく60%、「相当いいところまで到達する」が20%、「分からない」が20%であった。「脱炭素に向けた電源の在り方」については、「原子力発電、再エネ発電、化石燃料発電をバランスよく組み合わせることが望ましい」、「化石燃料発電を最小とし原子力発電と再エネ発電の組み合わせが望ましい」が各々50%であった。
高レベル廃棄物の最終処分については、「関心や興味が大いにある」が最も大きく80%、「関心が少しある」が20%であった。「近くに処分場の計画が起きたらどうするか」については「反対しないと思う」が最も大きく60%、「反対すると思う」、「分からない」が各々20%であった。「地層処分について興味や関心がある項目(複数回答可)」については「処分地の選定」が最も大きく80%、次いで「制度」が60%、「技術」が40%であった。

詳細は別添の「事後アンケート結果」を参照して下さい。

5.別添資料リスト

なお、基調講演資料は原子力発電環境整備機構(NUMO)の公開資料に基づいており、 対話会報告書への
 再掲はしませんでした。


(報告書作成:2023年10月25日)