日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

SNW対話
in宇部工業高等専門学校2023年度 報告書 

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)世話役 松永健一
報告書作成令和5年9月23日
《正門》
問題(課題)解決型学習方式の授業の一環として学生とシニアの対話を実施
対話会は宇部高専のPBL[Problem-based Learning、問題(課題)解決型学習]方式の授業(6月15日~7月20日)の一環。前年度から高専はPBL方式授業に方針転換。多くの課題から「環境問題・エネルギー問題について何ができるか考え、実行しよう」のテーマを選択した学生6名が参加(当初)。学生自らが問題を発見し、問題解決する過程の中で知識や経験を得ていくという授業の目的を考慮して、基礎情報を発信する基礎講演1回(エネルギー・環境、放射線)の授業と、従来の基調講演を事前に行った後に対話会を実施した。参加者には、事前の調査や検討に負担のかかる内容であったが、自ら選択した関心の高いテーマでもあり、自ら考えて実行する良い経験になったものと思われる。なお。高専のご協力により、今回初めて講演へのSNW会員の遠隔参加を行い、数名が参加した。

1.講演と対話会の概要

(1)日時

基礎講演:令和5年6月16日(金) 13:00~15:20 (対面)
基調講演:令和5年7月05日(水) 13:00~14:20 (遠隔)
対話会 :令和5年7月26日(水)13:00~15:20 (対面)

(2)場所

宇部工業高等専門学校(対面。但し、基調講演は遠隔、遠隔は宇部高専採用teams)

(3)参加者

大学側世話役の先生
江原史朗:制御情報工学科教授、伊藤直樹:制御情報工学科准教授
参加学生
基礎講演・基調講演:5名(機械工学科1名、制御情報工学科3名、物質工学科1名、学年内訳:2年1名、3年1名、4年3名)、対話会:4名
参加シニア:1グループ、3名
針山日出夫、大西祥作、松永健一

(4)基礎講演

テーマ
放射線とエネルギー・環境問題の基礎
講師
大西祥作
講演概要
地球規模の問題であるエネルギー・環境問題と放射線について基礎的な知識を提供することを目的として以下の内容について講義を対面で実施した。第1部「環境問題」、第2部「エネルギー」及び第3部「放射線」の基礎から成る。第1部の内容は「地球環境問題とは?」「地球温暖化は本当か?」「地球のエネルギー収支は?」「地球温暖化対策は?」「オゾンホールが広がる!」「酸性雨とPM2.5の被害」「希少生物を保護しよう!」「ゴミ問題を考える」など。第2部の内容は「身の回りのいろいろなエネルギー」「エネルギーの種類、発電の種類」「いろいろな発電の仕組み」。第3部の内容は「放射線の種類」「日常生活と放射線」「放射線の利用」「放射線の防護と人体への影響」。 なお、これからの多難な社会を生き抜いて行くためには、課題解決力のような従来教科書で勉強していても身につかないようなスキルとともに、課題解決のベースとなる知識も必要であり世の中の多種多様な情報の中から正しくかつ有用な情報を選び抜くスキルも身に着けてほしいことを強調した。また、対話につなげるために本講演を踏まえた学生認識調査を実施した。

(5)基調講演

テーマ
世界のエネルギー情勢と日本の課題~脱炭素・エネルギー危機の中で日本の選択は?~
講師
針山日出夫
講演概要
ロシアのウクライナ侵略により国際秩序が破壊された結果、今や世界は同時多発的なエネルギー危機・食糧危機に包まれている。ウクライナ侵攻は長期化の様相を呈しておりエネルギー資源確保の不確定性と経済混乱は一層混迷を深めそうで予断を許さない状況といえる。 過去数年辺りから世界主要国・EUのエネルギー選択の論点は脱炭素社会の実現を目指して非化石電源、即ちゼロエミッション電源を如何に早く・安く・確実に社会に実装するかに焦点が当たっていた。一方で、脱炭素をめぐって多様な対立軸が顕在化してきたのも事実である。この様な状況下で、欧州発世界エネルギー危機が顕在化して欧米主要国は「脱炭素政策」と「エネルギーの自立政策(エネルギーの脱ロシア依存)」の両立に苦悩している。 今回の講演では、日本のエネルギーの実情と課題および世界主要国の最新エネルギー政策を概観したうえで、脱炭素に向けた主要国のエネルギー環境政策と現下のエネルギー危機の渦中でのエネルギーの自立化政策に焦点を当てる。纏めとして日本の課題と針路選択の論点を概説する。 対話会で目指すものとして、「エネルギーを知ることは世界を知ること」「エネルギーを考える事は日本の将来を考えること」「日本の将来を考える事は、即ち、自分の人生の先を見つめること」「見つめる先に日本と自分自身の可能性を」があることを説明した。また、対話につなげるために本講演を踏まえた学生認識調査を実施した。

2.対話会の詳細

(1)開会の挨拶

江原史朗先生から、対話会の開催趣旨などの説明と挨拶があった。

(2)グループ対話の概要

令和2~3年度はコロナ禍のため遠隔にて開催したが、前年度から初めて対面にて開催。前年度から高専はPBL方式授業の一環とすることに方針転換。多くの課題テーマから「環境問題・エネルギー問題について何ができるか考え、実行しよう」を選択した学生が参加。。
自ら問題を発見し、問題解決する過程の中で知識や経験を得ていくというPBL方式の目的を考慮して、従来よりも「基礎を重視した/長めのプロセス」で対応。基礎講演1回(エネルギー・環境編、放射線編)により、学生自身に考えさせる情報を発信。
昨年度の基礎講演(2回)の内容は、参加シニア4名で遠隔協議を行って決定したものであったが、今回の基礎講演は、その2回の内容を纏めて1回で行った。また、基礎講演を1回、基調講演を1回行った各々の後に学生の考えたことや感想などを調査して、最後に対話会を行っている。
基礎講演(エネルギー・環境、放射線)時は学生の質問に、予見を与えないように注意しながら丁寧に説明。基調講演は、逆にシニアの主張を明確にして、学生自身が設定した課題・解決策との比較評価ができるよう段階的な進め方を行った。学生が、各々の講演後に理解できたこと、疑問に思ったことや感想などを調査して、この後約3~6週間の期間に学生自らの意見が、どのように変化したかを追ってみた。
その上で行ったグループ対話では、2回の講演後の疑問や新たな意見などについて討論を行った。学生の発表では、グループ対話内容の発表は行わず、参加者各自から対話会で得られたことや感想などを発表した。
以下、グループ対話の概要である。
1)グループ
テーマ
環境問題・エネルギー問題について何ができるか考え、実行しよう
参加者
学生:4名(機械工学科、制御情報工学科、物質工学科)、先生2名
シニア:3名、針山日出夫、大西祥作、松永健一
対話内容
グループ対話は基礎講演と基調講演の内容を踏まえつつ、参加学生の関心事や疑問点を中心に以下のとおり意見交換と議論を行った。
  1. ➀ 基礎講演で理解したこと、主な疑問
  2. (理解)環境の基本。(疑問)エネルギー資源やCO2排出だけが問題ではない。(2年)
    (理解)メタン排出量の地球環境への影響が無視できないこと。放射性廃棄物の分類。(疑問)希少動物を保護する確かな方法(3年)。
    (理解)地球環境問題と放射線の基礎知識。(疑問)宇宙放射線量はオゾンホールの影響を受けるか。(4年)
    (理解)オゾン層の破壊と復元の過程。(4年)
    (理解)世界が直面する問題(放射線、オゾン層)。(疑問)原発のゴミ量と地層処分の受け入れ可能量。(4年)
  1. ➁ 基調講演で理解したこと、主な疑問
  2. (理解)エネルギー資源が各国の安全保障や外交関係に深く関わること、世界情勢を左右し、生活に直接関わること。(疑問)原発の再稼働の詳細要件(地震、津波など)。(2年)
    (理解)脱炭素社会への動きとエネルギー需給状況。日本の温暖化対策に成果が表れていることに興味。(疑問)日本のエネルギー自給率を上げる具体策。(3年)
    (理解)世界のエネルギー事情の詳細(ウクライナ侵攻の影響)。他人事ではないと実感。脱炭素の功罪・相反関係。(疑問)技術の革新で資源獲得は可能か(メタンハイドレートなど)。(4年)
    (理解)日本のエネルギー自給率、原発への評価の実態。(疑問)原発のウラン燃料の海外依存度や調達費用の高騰は心配ないか。(4年)
  1. ➂ 上記の講演に対する質疑を行った他、安全をどう考えるか、環境問題の解決の見通しをどう思うかなどについて意見交換を行った。
  1. ④ 発表と質疑応答
  2. 参加者が小人数であったためグループ対話内容の発表は行わず、参加学生の各自が講演(2回)や対話会で得られたことや感想などを発表した。

3.講評

グループ対話の際に、学生の質問や感想に対して、シニアが都度、質疑応答と講評を行った。

4.閉会の挨拶

伊藤直樹先生から、対話会全体への講評と閉会の挨拶があった。

5.学生アンケート結果の概要

報告書を参照ください

6.別添資料リスト

(報告書作成:2022年9月15日)