日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

学生とシニアの対話
in東京都市大学2023年度 報告書

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW) 世話役 早野睦彦
東京都市大学 世田谷キャンパス 図書館
学生が企画した原子力の今後についての学生とシニアとの対話会
今回の対話会は、すべて学生側(閃源会の有志)の企画・運営によるものであり、都市大の先生方もオブザーバの立場で参加された。基調講演は「カーボンニュートラルと原子力の役割」をテーマにエネルギーの本質、エネルギー利用の歴史、そして環境問題、経済問題に絡んだこれからの原子力やエネルギーの展望について話をした。事前に学生とシニアで基調講演に関連した質疑応答を行っていたが、講演途中にも質疑応答を挟み講演時間は2時間以上に及んだ。対話は原子力やエネルギー問題の枠を超えて政治的、国家論的視点にまで及ぶ広範な議論となった。関心は多岐に亘ったが、集約すると日本の原子力導入と社会の受け入れの変遷、最近の国際情勢を鑑みた原子力のエネルギー安全保障の重要性にまで及んだ。
このような質問があったことは、従来の対話会ではあまり経験しないことである。学部1年生ではあるが、エネルギー戦略研究会等への参加など広く学校を離れて活動する学生諸君の積極性から生まれたものと思われる。今回の対話会は時間的に余裕があって学生の疑問やコメントに十分応えられたものと思っている。このような対話会を企画したのが学部の1年生たちであり、その積極的姿勢には大いに期待して称賛を送りたい。

1. 講演と対話会の概要

(1)日時

基調講演:令和5年12月9日(土)  12:00~14:20(対面)
対話会:令和5年12月9日(土)  14:30~16:30(対面)

(2)場所

東京都市大学 世田谷キャンパス 図書館地下1階 メディア学習室

(3)参加者

大学側の先生(オブザーバ)
原子力安全工学科 羽倉尚人准教授 佐藤勇教授(原子力研究所所長)
参加学生:6名
都市大 5名 原子力安全工学科(学部2年生1名、1年生4名)
東海大 1名 原子力学科(学部4年生1名)
参加シニア:4名
坪谷隆夫、石井正則、松永一郎、早野睦彦

(4)開会の挨拶と自己紹介

世話役の学部1年生が閃源会を代表して開会挨拶を行った後、学生、先生、シニアが各自自己紹介を行った。羽倉先生からは本日の会場である図書館地下1階はSNWの初めての対話会(当時、武蔵工業大学)と同じ会場であるとの説明があった。(当時、羽倉先生は学会の学生連絡会メンバーとして学生側で参加されていた。)

(5)基調講演

テーマ
カーボンニュートラルと原子力発電の役割
講師
早野睦彦
講演概要
エネルギーの本質、エネルギー利用の歴史、そして環境問題、経済問題に絡んでこれからの原子力やエネルギーの展望について以下の流れで話をした。
  1. 1.人類とエネルギーのかかわり
  2. 2.エネルギーについて
  3. 3.脱炭素社会への動きとエネルギー需給情勢
  4. 4.我が国の原子力の現状
  5. 5.政府の新たな原子力の取り組み
  6. 6.次世代革新炉の展望
  7. 7.まとめ
事前にメールにより基調講演に関連した質疑応答を学生とシニアが実施し共有していたが、講演途中でも質疑応答を挟んだ。主な質問は次のような内容である。
1.エネルギー源の一つの要件として「集中していること」の理由は何か?
⇒分散していると経済性が伴わないからである。
2.なぜ、態々水素を作って利用しようとするのか?
⇒電気は貯めることができないのが欠点であり、水素はこの欠点を補うからである。
3.人口が頭打ちの日本において原子力技術の将来性はあるのか?
⇒人口が減っても電気需要は伸びる。再エネでは賄いきれないので原子力は不可欠である。
4.原子力利用での国の政策の重要性はどこにあるのか?(民間に委ねない理由)
⇒原子力事業は巨大資本を必要とし、国が予見性を示さないと民間としてはリスクが大きくなかなか取り掛かれない。資本主義、民主主義社会では国が丸抱えして進めることは難しい。国はあくまで呼び水的役割になる。
5.我が国及び多くの国々でCNの目標が2050年に設定された理由
⇒基本的にIPCCの評価に基づくCOPの場による国際的合意である。但し、2050年を目標としたのは前傾姿勢の欧州先進国等であり、国益を考えた中国などは先進途上国の立場を主張してCNモラトリアムを決め込んでいる。
6.日本の原子力輸出が未だにできていないのはなぜか?
⇒原子力輸入国は電力事業まで含めたフルターンキーを要求しするので輸出国は国を掛けて取組む必要がある。しかし日本は福島事故を受けて国掛かりで取り組む環境にない。一方、社会主義国のロシアや原子力輸出を国策とする韓国などは原子力輸出に取り組んでいる。

(6)対話会概要

それぞれのグループで学生3名、シニア2名として2つのグループに分かれて対話した。両グループともテーマは「2050年カーボンニュートラル実現のために原子力はどうあるべきか」である。
対話は原子力やエネルギーの国際紛争における位置づけにまで及ぶ広範な議論となった。関心は多岐に亘ったが、集約すると日本の原子力導入と社会の受け入れの変遷、国際的観点からの技術覇権争い、軍事研究と核抑止力に関することなどである。
このような広範にわたる質問があったことは、従来の対話会ではあまり経験しないことである。これは学生諸君への先生方の指導の賜と思える。また学部1年生ではあるが、エネルギー戦略研究会等への参加など広く学校を離れて活動する学生諸君の積極性から生まれたものとも思われる。

2. 対話会詳細

(1) グループ1

テーマ
2050年カーボンニュートラル実現のために原子力はどうあるべきか
参加者
学生:3名
シニア:2名 坪谷隆夫、石井正則
対話内容
学生がファシリテータを務め、まず学生とシニア双方の自己紹介から対話をスタートした。
学生からの事前質問では、バックエンドを進める政府の積極的関与とは具体的になにか、日本で実用化される可能性のある革新炉はどれか、安全面から高温ガス炉が良いのではないか、の3件であった。
これらに対するシニアの事前回答を踏まえ、学生からの更なる質問や意見、懸念が提起され、シニアからの回答と学生とシニアの意見交換が行われた。
学生から提起された質問や意見は次のようなテーマに区分される。
テーマ1 福島事故以降原子力業界が空洞化、再開するに当たって若手技術者を指導できる経験者がいるのかが懸念される。
⇒人材面、製造設備面で課題があるが、サプライチェーンの維持に関しては政府も支援、撤退した企業もあるが主要企業は空白を作らないよう留意している。人材枯渇前に新増設着手が望まれる。因みに35年ぶりに建設した米国ボーグル3、4(AP1000、111万kW、2012年着手3号は2013年運転開始)やフランスのフラマンビル(EPR、163万kW、2007年着工、未完)は計画通りに建設が進まず建設期間10年をはるかに超えている。これに対し中露韓国は5-7年程度。建設期間の合理化は日本が先導したもので、現時点ではまだ適応可能である。
テーマ2 原子力に対する理解が進まず、原子力産業界で活動するのに抵抗感がある。
⇒マスコミの批判的報道はなくならないかもしれないが、若い世代の抵抗感は少なくなっている。海外でも原子力活用は温暖化対策上からも進める方向だ。現在開催中のCOP28では2050年に原子力発電容量の3倍増の合意がなされた。
テーマ3 リスクはゼロにはできない。事故や自然災害など身の回りにも危険はあり、ある程度は容認すべき。
⇒判断基準としてリスク評価が必要。福島事故以降、従来の死亡確率に加え放射性物質の放出を福島事故の1/100、百万年に1回以下の基準が追加された。

(2)グループ2

テーマ
2050年カーボンニュートラル実現のために原子力はどうあるべきか
参加者
学生:3名
シニア:2名 松永一郎、早野睦彦
対話内容
学生の関心は基調講演に端を発し国家安全保障に関係するような領域まで及んだ。
関心は多岐に亘ったが、集約すると日本の原子力導入と社会の受け入れの変遷、国際的視点からの技術覇権争い、国家安全保障に関することなどである。
このような質問があったことは、従来の対話会ではあまり経験しないことであり、エネルギー戦略研究会等への参加など広く学校を離れて活動する学生諸君の積極性から生まれたものと思われる。
テーマ1 再生可能エネルギーの限界について
⇒太陽光の設備容量は国土の広い中国、米国が世界ランキング1位、2位になっているが、平地面積あたりの太陽光設備容量では日本は世界一であり、既に我が国では飽和状態に近づいている。従ってペロブスカイト型電池で建物の曲面迄利用してさらに増やそうとしている。しかし、近年中国の太陽光パネルのシェアが約70%を占めエネルギー安全保障上問題である。原子力はその点問題は少ないが濃縮ウランもロシアに支配されている。そのような意味でも再処理、濃縮技術の進展が急がれる。
テーマ2 原発の新増設が必要であるのになかなか進まないことについて
⇒米国から軽水炉を導入し、それを自国の技術まで昇華された歴史を説明した。一方、原子力事故で原子力サイト獲得がどんどん難しくなって限られたサイトしかなく、原発の新増設が難しい現実もある。なによりも原子力の国民理解が最重要であることを説明した。
テーマ3 我国の多岐に亘る原子力技術(発電、再処理、濃縮)について
⇒これらの技術をすべて有する非核兵器国は日本しかない。平和の希求を国是とする我が国にとって、これらの技術を有することが、エネルギー安定供給とともにある意味国家安全保障上の基盤になっているともいえる。これから次世代を担う若者は国際的な広い視点に立って考えることが大切で、資源小国の我国で頼れるのは技術でありそれを担う人材である。そのような意味で人材教育は国力を高める上で必須である。

最後に行われたグループ1、2合同の発表会では、学生全員が分担して対話内容を発表した。

3.閉会挨拶

世話役の学部1年生が閉会挨拶を行った後、シニアがそれぞれ所感を述べた。最後に羽倉先生より学生の発意により開催された今回の対話会は学生の自主性、積極性を示すものでありそのこと自体でも価値のある対話会であったとの感想が述べられた。

4.学生アンケート

実施せず。

5. 別添資料リスト

(報告書作成:早野睦彦 2023年12月20日)