日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

学生とシニアの対話 in 東北大学2023報告書

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)
世話役:阿部 勝憲
報告書取り纏め:本田 一明
東北大学大学院工学研究科 量子エネルギー工学科専攻 校舎前景

大学院生が幹事役を務め、活気ある充実した対話会となった

東北大学との対話会は、今回で17回目となる。昨年度の対話会に参加した経験のある大学院生が幹事役を務め、参加者募集、シニアへの事前質問、プログラム案作成など責任もって対応してくれた。 参加者は10人で、3班に分かれて各班2つのテーマで対話した。事前質問に対する回答資料と講演資料を一週間前に大学側に届けたのは有効であった。 対面で比較的少人数での対話で率直な意見交換ができ、「原子力の内容だけではなく就職などシニアならではの人生経験をもとにした意見を聞くことができ今後の参考になった」などの感想もあり、双方ともに満足、有益な対話会となった。

1.講演と対話会の概要

 

(1)日時

2023 年 12月7 日(木) 13:00 ~ 17.40

(2)場所

東北大学青葉山キャンパス 量子本館 1F量子セミナー室(1)

(3)参加者

教員:東北大学 工学研究科 量子エネルギー工学専攻 
遊佐訓孝教授 、大石鉄太郎准教授
学生:10 名
量子エネルギー工学専攻 (博士3年1名、博士1年1名、
修士2年3名、修士1年5名)
シニア: 3グループ、7 名
針山日出夫、湯佐泰久、大野崇(以上原子力学会シニアネットワーク連絡会)、
阿部勝憲、中谷力雄、本田一明(以上SNW東北) 佐藤信俊(オブザーバー、SNW東北)

(4)開会の挨拶(遊佐副専攻長 )

以下の趣旨のご挨拶があった。

コロナウイルスが5類に移行して社会がコロナ前に戻り、講義も対面方式に戻った。 この間はオンライン講義中心であったが人と人との関係、直に人と接する機会がなく、学生は特殊な3年間を送らざるを得なかった。
Webでの講義は、他にYouTubeでも種々の教材が視聴でき素晴らしいものもあるが一方通行であり、他方、対話は双方向でアクションに対して反応が返ってくるのが特徴。 対話は貴重である。
シニアとの対話はオンライン講義やYouTubeとは違う、人と人との関係に大切なコミュニケーションをとる良い機会である。 経験豊富なシニアの皆さんと積極的な対話をお願いしたい。進路を決める貴重な機会ともなるでしょう。本日は宜しくお願いします。

(5)基調講演

講演者名:針山 日出夫
講演題目:「エネルギー安定供給と脱炭素の道筋~エネルギー危機と原子力の役割~」 
講演概要: これだけは知っておきたい、今、世界はエネルギー環境で揺れているとのプロローグから始まり、①日本のエネルギーの実情と脱炭素政策で目指すものとは、②世界主要国の最新のエネルギー政策・脱炭素社会に向けた政策と諸課題、③日本の教訓と今後の進路選択の論点、の3項目の話題構成。 最新の情報を基に世界のエネルギー状況を俯瞰しつつ国内の政策と課題を提示したストーリー仕立ての相手に訴えかける話しぶりで、国民一人一人が考えるべき命題として挙げた4項目など、日本のエネルギー安全保障及び原子力の果たす役割について考えて貰う内容。 対話会のベース情報となるとともに話者の熱意が伝わり参加者への力強いメッセージ、及び進路選択の参考にもなったものと思料される。

2.対話会の詳細

(1)グループ1(報告者:本田 一明)

1)参加者
学生:4名(量子エネルギー工学専攻:修士1年1名、修士2年2名、博士2年1名)
シニア:大野 崇、本田一明、佐藤信俊(オブザーバー 一部参加)
2) 主な対話内容
第1回テーマ:「処理水放出」
司会役は学生が担当し、参加者全員の自己紹介からはじめた。 第1回テーマに関する学生からの事前質問に対し回答資料を送っており、それらの内容を参考としつつ、対話に入った。
主なやりとりを以下に示す。
  1. ①処理水をテーマとして選んだ理由は、ホットなテーマで関心があるものの情報をなかなかアップデートできてない、反対の国民感情に強行して放出を進めたことに問題を感じている、政府は説明不足ではないか安全と安心のギャップを埋めるにはどうしたら良いか、など。
  2. ②処理水放出についての問題はFactを知り、自分で考えることに尽きる。新聞、テレビなどのマスメディアは不安を煽り、風評被害を起こしかねない報道をするが、今はSNS、X(ツイッター)なども含めWebで一次情報にアクセスできる。 このためか若い人たちには原子力に対する理解が進んでいる。
  3. ③科学的安全性について未だ国民への説明が不十分ではないかとの疑問については、説明側との信頼関係が大事であり、信頼している人には中身が理解できなくても分かってくれるもの。 時間はかかるが信頼を積み重ねてゆくことが大切。
  4. ④中国は科学的な事実とは関係なく、政治的取引の手段として(国内の政治への不満のはけ口としても)日本を批判しているのであり、その意図が達成されない限り止めることはないのではないか。日本は国際社会に安全性も含めた科学的事実、手続きの正当性を訴え、主張してゆくことが大切。
    など、話題は尽きなかった。
第2回テーマ:「原子力の将来について」
学生が本テーマで感じていることを中心に対話を進めた。 主なやりとりを以下に示す。
  1. ①第6次エネルギー基本計画に示される2030年原子力20~22%の発電比率を達成するためには、現在運転中のプラント10基に加えて審査完了の7基の全てが再稼働することで何とか達成可能だが、この比率を維持してゆくにはその後当然のことながら新増設が必要。GX実現に向けた基本方針でも原子力の活用が謳われ遅まきながら原子力回帰は喜ばしい。
  2. ②新増設には大きな投資が必要となる(海外では新設プラントの費用は1兆円とも言われている)が、電力自由化の下でこの固定費回収の予見性が大事。長期脱炭素電源オークションなどの仕組みの他、予見性を高める仕組みが必要か。 また、稼働率を高めるための規制行政の在り方も考える必要があるのでは。
  3. ③原子力は来るべき水素社会でも重要となる。高温ガス炉での水素製造など脱炭素化に重要な役割を果たす。 原子力のポテンシャルは大きい。
参加された学生さん方はPCやスマホでエネルギーに関する豊富な情報を得ており、話題豊富な中で充実した対話が出来た。 
   

(2)グループ2報告(報告者 中谷 力雄)

1)参加者
学生:3名(量子エネルギー工学専攻:修士1年 2名、修士2年1名)
シニア:湯佐泰久、中谷力雄
2) 主な対話内容
第1回テーマ:「バックエンド」
司会役は学生が担当し、参加者全員の自己紹介からはじめた。
第1回テーマに関する学生からの事前質問に対し回答資料を送っており、それらの内容を参考としつつ、対話に入った。
主なやりとりを以下に示す。
  1. ①地層処分を進める上で最も難しい課題はなにか?
    →地元住民に正しい理解を得て、判断して頂くことが必要である。説明会等では、理解しようとしない人や入口の議論で止まる人も見かける。反対ありきで参加する人とは別だが、丁寧な説明で正しい理解を得ることが大切である。
  2. ②長崎県対馬市は地層処分地選定における文献調査を受け入れなかったが、なぜか?
    →地元商工会の誘致意向を受け、文献調査受入れの議論が進められ、市議会では賛成であったが、市長から「合意形成が不十分、風評被害のおそれがあるので」として受入れられなかった。様々な意見がる中で、市長の判断は重いと思うが、初期段階の文献調査でNOの判断は残念である。

シニア側から補足説明をしつつ、バックエンドの諸課題についても共通認識が持てた。

第2回テーマ:「原子力の将来」
学生が本テーマで感じていることを中心に対話を進めた。
主なやりとりを以下に示す。
  1. ①福島第1原子力発電所の事故以降、原子力発電に対する国民の見方はどうか?
    →事故直後の反対一色の状態から(12年経つことや最近の原子力に対する国の動きもあり)次第に原子力発電を安全に利用することへの受容姿勢が出てきていると思う。原子力に対して正しい理解をして頂くよう、進めていくことが大切。
  2. ②今後、原子力発電はメインの電源にならないのか?
    →再生可能エネルギー、火力発電、原子力発電、それぞれを適切に組み合わせ、資源の乏しい我国で、脱炭素の要求も満たしつつ、安定して廉価な電気を作ることが必要と考える。そのためには原子力発電の活用が重要。
対話を通して、学生側からは「量子エネルギーを専攻する者として、社会的課題の解決に貢献できることがあると感じた」との感想が出され、シニア側からは、原子力の将来に対して関心を持ち続け、進路選択において原子力分野も含めて検討し、原子力の発展に大きく寄与してほしい旨、伝えた。

(3)グループ3(報告者:阿部 勝憲)

1)参加者
学生:3名(量子エネルギー工学専攻:修士1年 2名、博士3年1名)
シニア:針山日出夫、阿部勝憲、佐藤信俊(オブザーバー、一部参加)
2) 主な対話内容
予め決まっていた学生司会により参加者全員の自己紹介のあと対話を進めた。参加グループは各自の研究分野や事前質問と関係なく編成されており、自由に議論しようということであった。対話第1回としてグループテーマに特化した対話を行ったあと、対話第2回として共通テーマについて対話・意見交換をし、主なトピックスは以下の通り:
第1回テーマ:「次世代革新炉開発(小型モジュール炉、核融合炉など)」
  1. ―次世代炉(トリウム炉)による高レベル放射性廃棄物の減容と核変換(半減期改変)の可能性について
  2. ―革新炉開発に於ける開発研究要員リソースの確保の在り方
  3. ―小型炉の新たな規制や立地の問題
  4. ―核融合炉による高レベル放射性廃棄物無害化処理の可能性
  5. ―核融合炉開発の最近のベンチャー活動と投資、米におけるユニコーンの話題 
  6. ―最終処分地の未確定、六カ所再処理施設未稼働の状況がもたらす社会                                                                                                  的影響(原子力の歯車が噛み合っていないことによる不信感・不安感の助長)
第2回テーマ:「原子力の将来」
  1. ―原子力は脱炭素・安定供給のための決定的に重要な電源の再確認
  2. ―原子力の定着を阻害する諸要因について議論の深堀
  3. ◎リスクリテラシー 
  4. ◎メデイアリテラシー
  5. ◎安全をリスクで定量的に考える社会的訓練
  6. ◎国民一人一人の情報環境形成への工夫
  7. ◎年齢による原子力に対する社会的受容性の違い
  8. ◎風評被害の発生要因と撲滅対策
  9. ◎地元住民と行政/事業者の信頼構築の在り方
対話を通して、原子力をめぐる課題と将来の見通しについて、学生諸君は自分の研究テーマとの関係あるいは進路選択も含めて率直に議論をし、有意義な機会であった。

3.講評(大野 崇)

東北大とは今回で17回目の対話会となり、何度かお邪魔しておりますが、さすが帝国大学の雄で、優秀かつ礼儀正しい姿勢の良さを毎回感じました。
今日の、針山氏の基調講演は世界/日本のエネルギーの全体を俯瞰した話で今のエネルギー問題を理解するのに役立ったのではないでしょうか。その後、グループに分かれ皆が関心を持っている、処理水放出、バックエンド、次世代革新炉、原子力の将来について話し合いが行われましたがこうした機会は普段なかなかないのではないかと思います。
グループ1では、処理水放出に関しては日頃の信頼関係醸成の必要性が、規制等による原子力の滞りについては民意尊重か行政主導かについて話し合われました。 グループ2では、バックエンド問題は技術的より社会的問題であること、原子力の将来にはバックエンド問題が避けて通れないこと等について話し合いが行われました。 グループ3では、次世代革新炉は原子力の受容性議論、再エネとの共存論等からも意義がある。原子力将来は1か0の議論でなく自分の考えとして多面的に考えることが必要である等の議論が行われました。
さすがにポイントをついた議論が行われましたが、学生の日頃のニュース源はスマホで、エネルギーの課題も耳学問として認識しているものの自分の問題として調べ知識を深める機会は少ないとのこと。是非、自分で調べて考える癖をつけてほしい。
なお、私が属したグループ1では原子力会社就職希望が3名、水素会社希望が1名で、原子力回帰の流れを反映したものとなっており頼もしい気がしました。
  

4.閉会挨拶(湯佐 泰久)

閉会の時間となりました。針山さまには詳しい基調講演をして頂きありがとうございました。SNWのメンバーにとっても勉強になり、一部は利用させて頂きます。
その後の長時間での対話、皆さまお疲れさまでした。SNWのメンバーは経験と知識の量は多いので、ついつい話過ぎる点があったかもしれません。
お許しください。少しでも参考になればうれしいとの思いからです。
これで終わります。長い間お疲れさまでした。 

5.学生アンケートの集計結果(中谷力雄)

アンケート回答者は10名(対話会参加者も10名)で、回収率は100%)でした。
講演の内容については、「とても満足」(90%)、「ある程度満足」(10%)であり、全ての学生に満足頂けた。
対話の内容についても同様に、全ての学生が「とても満足」(60%)、「ある程度満足」(40%)で全ての学生に満足頂けた。
電源については、半数以上(70%)が原子力発電の必要性を認識し再稼働を進めるべき、また、再エネ発電についても多くの方(60%)が環境にやさしい電源であり利用拡大を進めるべきと回答。
地球温暖化や脱炭素社会の実現についてほとんどの方が少なからず関心や興味を有しており(「大いにある」50%、「少しある40%」)、この脱炭素に向けた電源のあり方には、「原子力発電と再エネの組み合わせが望ましい」(60%)、「原子力発電、再エネ発電、化石燃料発電をバランスよく組み合わせることが望ましい」(40%)の回答であった。
全体を通しての感想では、「シニアと対話する機会がほとんどないため良い経験となった。また原子力の内容だけではなく就職などシニアならではの人生経験をもとにした意見を聞くことができ今後の参考になった」、「非常に興味深い話が聞けて良い経験になった」、「基調講演から対話まで、業界や制度について様々な知識を持つシニアの話を聞く貴重な機会だった」など、好評であった。

アンケート詳細については別添資料を参照下さい。

6.別添資料リスト

講演資料:「エネルギー安定供給と脱炭素への道筋~ エネルギー危機と原子力の役割~」
アンケート集計結果
(報告書作成:本田一明 2023年 12月12日)