学生とシニアの対話in静岡大学2023年度前期M1報告書
日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)世話役 田辺博三
報告書作成 2023年7月18日
《静岡大学静岡キャンパスと富士山》
学生間の対話を中心に実施
静岡大学対話会(前期M1)は、「放射線利用分析特論」を受講する理学専攻の修士1年生5名を対象に実施。大矢先生の、学生は自分の意見を積極発言し学生間で討論するように、シニアはそれをサポートしてほしいという意向に従い、学生が日頃の関心事をベースに対話テーマを提案し、提案理由や問題意識等を説明し、その後、学生間で意見交換を行うという形式で実施した。シニアは、学生の発言を促すとともに、質問を行ったり、必要と思われる情報を提供することにより、ファシリテータとして対話を促進した。
学生は、提案したテーマに関して自分の提案理由の説明、相互の意見交換を行うことにより、自分の意見を明確にするとともに、問題の理解をより深める等、本形式により一定の成果をあげることができた。
1.講演と対話会の概要
(1)日時
- 基調講演 :なし
- 対話会 :令和5年7月10日(月) 12:45~16:00
(2)場所
- 静岡大学理学部A棟301号室(12:45~14:15)、205号室(14:15~16:00)
(3)参加者
- 大学側世話役の先生
学術院理学領域 大矢恭久准教授
- 参加学生
「放射線利用分析特論」を受講する修士1年生5名
- 参加シニア:4名
早瀬佑一、大野 崇、湯佐泰久、田辺博三
2.対話会の詳細
(1)開会あいさつ
- 大矢先生より学生が主体となって対話テーマを提案しシニアも交えて意見交換を行うようあいさつがあった。
(2)グループ対話の概要
- グループ対話は、グループ1は2名の学生、グループ2は3名の学生に分かれ、各グループに2名のシニアが加わって行った。
- 大矢先生より、事前に、学生に対して、対話テーマを各自考えておくようにご指導があったことなどにより、対話テーマの提案、選定から対話まで、スムーズに進めることが出来た。
- 以下、各グループ対話の概要である
- 1)グループ1
テーマ
- 学生が提案、選定した以下の3点について議論した。
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日本国内における原子力発電の在り方
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核融合の将来と認識
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高レベル放射性廃棄物処分場の立地
- 参加者
- 学生:修士学生2名(研究テーマは核融合材料、物理化学)
- シニア:早瀬佑一(ファシリテータ)、湯佐泰久
- 対話内容
- 学生が提案、選定した3点について議論した内容の要点は次の通りである。
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「日本国内における原子力発電の在り方」
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原子力発電は必要で、今後も100年程度は継続するのではないか。
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既存の原発の多くは残りの寿命が約10年で、新設の場合は60年程度となる。増設するとしても、新たなサイトが見つからないのではないか。既存のサイトでは既存の原発の解体の時間も必要となる。
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代替として再生可能エネルギーがあるが、大量の電力をまかなうのは困難である。
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核融合が実用化されるには数十年から百年、ないしはそれ以上かかる。
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やはり、日本では一定数の原発が必要である。(海外では開発途上国などで原発が増加している。)
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学生から潜水艦・空母・砕氷船などの動力としての原子力利用について質問があった。実用化技術はすでにあるが、軍事利用は国民理解を得られないので、現実的には不可能、とシニアが答えた。
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「核融合の将来と認識」
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トカマク型や、ビーム利用が開発の主流と学生が答えた。
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今世紀には実用化できないのではないか。
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核分裂による原発より核融合は、安全性が高く、また、放射性廃棄物の発生量も少ない。
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「高レベル放射性廃棄物処分場の立地」
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処分場の立地についても議論した。NIMBYの反対も多い、進んでいない。
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一方、六ケ所を見学したが、地域住民は反対だけでなく、(交付金もあり、処分事業による地域振興・活性化に有効との)ポジティブ意見も少なくない。
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処分の安全性や放射線などについては、正しい知識の普及が必要で、教育が必要である。
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一方、国として積極的に関与し、場合によっては(成田空港建設のように)政策的に進めてはどうか。
- シニアの感想として、修士学生(グループ1、2とも)は、エネルギー・環境問題に一定の知識と自分の考えを持っている。2グループ合同の討論・意見交換は活発であった。
- 2)グループ2
テーマ
- 学生から以下のテーマの提案があった。
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原子力を続けるか、やめるか、またどう認めてもらうか(やめるべきと思わないが一方ではこわいというところもある、世界のエネルギー危機の観点から必要性を認識されるべきである)
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汚染物質の処理をどうするか(汚染土壌の処理)
- 参加者
- 学生:修士学生3名 (研究テーマは核融合材料2名、Cs137汚染土壌の除染1名)
- シニア:大野崇、田辺博三(ファシリテータ)
- 対話内容
- 学生同士の議論の場としたいという大矢先生の意向に従い、シニアはファシリテータを務めて学生同士の議論の活性化に努めるとともに適宜情報の提供を行った。
- 議論の結果、学生は以下のように纏め発表した。
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「原子力を続けるか、やめるか、またどう認めてもらうか」
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結論(3人の意見):続ける。
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理由:エネルギー問題の解決のため。
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問題点:国民に認められない→知識不足。しかし、知識がついても思想で反対されることも。
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解決策:情に訴える(科学的に安全だと説明するだけでなく、相手の立場に立って説明し信頼を得るの意。成功例あり:浜岡における個別訪問による対話)。
初等教育から進める→前から話はあるのに、教育に組み込まれていない。
メディアで取り上げる。
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「汚染物質、放射性廃棄物の処理処分をどうするか」
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問題点:地層処分 → 場所の確保、地域の理解。 処理水の放出 → 風評被害がある。
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解決策:補償、消費者の理解をメディアやSNS等で得る。
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結論:最終的に1のテーマに繋がってくる。
- 終わって感じたことは、本対話会を学生の教育の場として活用し、学生の参加、テーマの選定、議論内容、発表まで学生の自主性に委ねるという大矢先生の意向に対し学生(M1)がこれに応えていたことであった(先生は時々顔出し程度)。対話会の傾向として、従来の受け身型対話から、積極参加型対話へが増えてきている。
3.講評、閉会のあいさつ
- 今回は少人数での対話であり、対話の時間も十分にとれた。また、グループ毎の対話だけでなく、グループの対話成果の発表においても、学生、シニア交えて活発な意見交換が出来た。特に、学生の発表において、原子力発電と放射性廃棄物の処分の2つを区別することなく取り組む必要があるとの結論は、シニアから良い指摘であるとの講評があった。
4.学生アンケート結果の概要
(1)参加学生について
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「放射線利用分析特論」を受講する修士1年生5名が対話会に参加。
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参加学生5名のうち5名が回答。回収率は100%。
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全員の学生が理系。2名が原子力系専攻、3名が原子力系専攻以外。
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進路は8割が進学、2割が就職を希望。
(2)対話会について
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今回は基調講演は行わなかったが、今後ある場合の希望テーマとして、原子力発電所のこれから、原子力を広めるためにやっている行動、その効果、課題、解決策、米原子力空母の日本の港の使用について、アルカリ金属イオンによる放射性同位体の交換反応、が挙げられた。
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対話会の満足度は「とても満足」、「ある程度満足」が合わせて100%。ポシティブな意見は新しい知見が得られたが最も大きく、次いで将来の参考になったが挙げられた。また、最後の本企画を通した感想にもポジティブな意見が述べられてる。一方、ネガティブな意見は特になかった。少人数対話でかつ対話時間が十分取れたことが背景にあると思われる。
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対話会の必要性は「非常にある」、「ややある」が合わせて100%。ネガティブな意見は特になかった。
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前回(22年度前期M1対話会)とほぼ同じ結果であった。
(3)意識調査について
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放射線・放射能については、「一定のレベルまでは恐れる必要はない」と「有用であることを知っている」が100%であった。
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原子力発電については、「必要性を認識しており再稼働を進めるべき」が80%、「2030年目標を達成すべき」が20%であった。
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再エネ発電については、「環境にやさしく拡大すべき」が最も大きく60%、次いで「天候に左右されるので利用抑制すべき」が40%であった。
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カーボンニュートラルとエネルギーについては、「地球温暖化や脱炭素社会の実現の関心」は全ての学生が「大いにある」、あるいは「少しある」と回答した。「興味や関心があるのはどの項目でしょうか?(複数回答可)」については幅広く関心を示した。「日本の2050年脱炭素化社会の実現可能性について」は、「実現するとは思えない」が最も大きく60%、「相当いいところまで到達する」が20%、「分からない」が20%であった。「脱炭素に向けた電源の在り方」については、「原子力発電、再エネ発電、化石燃料発電をバランスよく組み合わせることが望ましい」が最も大きく80%、次いで「化石燃料発電を最小とし原子力発電と再エネ発電の組み合わせが望ましい」が20%であった。
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高レベル廃棄物の最終処分については、「関心が少しある」が80%と最も大きく、次いで「関心や興味が大いにある」が20%であった。「近くに処分場の計画が起きたらどうするか」については全員が「反対しないと思う」であった。「地層処分について興味や関心がある項目(複数回答可)」については「処分地の選定」が最も大きく80%、次いで「技術」と「制度」が各々40%であった。
詳細は別添の「事後アンケート結果」を参照して下さい。
5.別添資料リスト