日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

学生とシニアの対話
in 長崎大学2023報告書

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW) 古藤健司/金氏 顯
長崎大学 文教キャンパス
大学院工学環境・エネルギー・資源特論講座の一環として院生とシニアの対話を実施

 本年度は、大学は通常の対面授業に戻っており、コロナ感染予防対策を施した上で、基調講演および対話会を対面にて開催した。参加学生は大学院工学研究科総合工学専攻博士前期(修士)課程の9名の院生であり、特別講義「環境・エネルギー・資源特論」の一環として3コマを担当させて頂いた。昨年と同様に対話会への導入として、基調講演(1)では原子力発電の基本事項(1/2コマ)、講演(2)では我国のエネルギー安全保障と原子力の役割(1/2コマ)について講義し、学生のエネルギー全般に対する興味を喚起することとした。基調講演において得られた知識・情報は、一般的な原子力・エネルギー問題への疑問には大方答えられているかと思われたが、学生諸君からは更に機微な質問もあり深堀したディスカッションをすることができた。学生諸君の意欲的な取り組みが感じられ、シニアとの有意義な議論の場として対話会は成功裏に終了した。

1.対話会の概要

1)大学院工学研究科総合工学専攻博士前期(修士)課程の9名:機械系(M2)6名、海洋未来系(M2)1名、電気電子系(M1)1名、化学物質系(M1)1名と対話した(講演聴講者は10名であったが、対話会を1名病欠)。
昨年に引き続き長崎大学大学院工学研究科総合工学専攻博士前期(修士)課程の特別講義「環境・エネルギー・資源特論」(1単位8コマ)の一環として3コマを担当し、基調講演とSNW対話会を実施した。
コロナ禍中の状況ではあったが感染予防対策を十分に施し、基調講演(1)および対話会は学生とシニアとの通常の対面形式にて実施した。基調講演(2)は講師の都合でWEBリモートにて行った。
対話会への導入としての基調講演は1コマ(90分)で、講演(1)(2)各40分を目途に講演(1)では原子力発電についての基礎知識と技術的諸問題とその対応について、講演(2)では我が国のエネルギー安全保障と原子力の役割:エネルギー危機の原因、対策と見通しについて論じた。
科目担当責任者の村上裕人教授と事前に意見交換を行い、科目シラバスを尊重し偏りのない内容に留意することを申し合わせた。
今回の対話会の参加予定学生は10名なので、2グループに分けてグループ対話を行った。事前質問についてはあまり大きな縛りを設けないこととした。ただし、限られた時間内での対話会であり、また、大学院生らしい深堀した議論を期待するので、各グループで3~4問に絞ることを提案した。
Aグループでは、①HLWの社会的リスク全般について、②新津波基準について、③脱炭素・水素社会への課題と展望について、Bグループでは、①我が国の原子力発電炉の輸出が振るわない事情、②再生エネルギーの諸問題、③原子力の安全安心と諸問題、④次世代原子力技術について、質問が出された。
参加シニアは4名で各グループ2名のシニアで担当した。各グループの事前質問に対して、シニアは分担あるいは重複して回答することとした。回答は1問につきA4で1ページ以内とし、他情報のコピペは極力避け、簡潔に自分の言葉で書くことを心がけることとした。
学生は回答書に十分目を通していることを前提として対話を進めていくこと、回答の内容を「どう思うか?どう考えるか?」など、関連事項の逆質問などによって対話の進展・展開を図り、対話時間を有効に使うことに留意することを申し合わせておいた。
対話会は村上教授の開会の挨拶後に2グループに分かれて実施した(110分間)。その後30分間を学生各グループの「まとめとプレゼンの準備」にあて、後に各グループの発表(質疑応答・意見交換を含め)(10分/G)を行った。
最後に講評(針山・船橋)で締め括った。
2)場 所
〒852-8521長崎市文京区1-14 長崎大学工学部1号館2F5番講義室
3)日 時
8月18日(金):3限(12:50~14:20)基調講演(1)を対面、基調講演(2)をWEBリモートにて実施。
9月19日(火):4~5限(14:30~17:40)対話会を対面にて実施。
4)参加者
村上裕人教授 (長崎大学大学院工学研究科物質科学部門/ 同 大学院総合生産科学域基礎教育センター)
院生 9名(総合工学専攻博士前期(修士)課程)
   2年生:7名(機械系 6名、海洋未来系 1名)
   1年生:2名(化学物質系 1名、電気電子系 1名)
シニア 4名:古藤健司、針山日出夫、山崎智英、船橋俊博
5)基調講演:8月18日(金) 3限(12:50~14:20)
講演(1):古藤健司(12:50~13:30)40分 <対面> 
「原子力発電について ~固有安全性、核燃料サイクル、高レベル廃棄物処理処分~」
講演(2):金氏 顯(13:30~14:10)40分 <WEBリモート>
「我が国のエネルギー安全保障と原子力の役割 ~エネルギー危機の原因、対策と見通し~」
講演概要:対話への導入としての基調講演(1)(2)の内容は、講演(1)では原子力発電について正しく理解してもらうための基礎知識と技術的諸問題その対応について、講演(2)では我が国のエネルギー安全保障と原子力の役割について、特に、エネルギー危機の原因、その対策と見通しについて、時系列の情報・データを示して論じた。基調講演を通じて、地球環境エネルギー全般に対する興味と問題意識の喚起を促すと共に、エネルギー政策に占める「原子力」の重要性が浮かび上がるよう考慮した。
対話テーマの打ち合わせ(14:10~14:20)10分
6)開会の挨拶(村上裕人教授)

本日は「環境・エネルギー・資源特論」のプログラムとして、ディスカッション型講義:SNWシニアとの対話会が開催されるが、学生にとっては「環境・エネルギー・資源に関して深く考える絶好の機会」であることが述べられ、そして、この企画を提供・実施する日本原子力学会・シニアネットワーク連絡会の参加シニアに対して謝辞が述べられた。「これからのエネルギー問題に関しては色々な観点があり色んな報道に接することもあろうが、工学を学ぶ院生諸君には科学に基づく客観的な理解を基礎とすることが大切。今日は是非、不明な点は遠慮なく、SNWシニアにぶつけてみよう。」そして、「グループディスカッションの貴重な機会であるから、分からないことは聞き返す、見解が異なれば恐れず反論をしてみる、妥協による安易な同意はしない」など、「対話と洞察を通じて、大学院生として積極的に自分を磨いてほしい」とのメッセージが述べられた。

7)講 評(針山日出夫)

「本日はご苦労様でした。大変活気のある質問力に溢れプレゼンスキルの高い濃密な対話会でした。お陰で、年齢差を超越した世代を超えた対話が機能したもの考えます。今日はエネルギーに関わる技術面・社会面など多様な観点から距離感を全く感じない本音トークが成立したことで、久し振りに高揚感と充実の余韻を感じております。

今日の対話会では「エネルギーは我が国の生命線。地球環境は我々のかけがえのない財産。」を共有しました。エネルギーも地球環境も皆さんの生涯の命題です。このことを肝に銘じて日本が理性と見識で導かれる様にその使命を担っていってくださるよう期待しております。」

  (船橋俊博)

「本日の対話会の質問内容から、院生諸君の興味の範囲が広く多くの視点で物事を見ておられることが分かり、かつ積極的な発言があり大変頼もしく思いました。本日の対話で確認したことを基に、8月18日の基調講演に再度目を通して頂きたいと思います。そのことで、皆さんの質問に対する回答の理解が一層深まることと思います。

今回のシニアの回答、直接明快な回答になっていないものもあったと思いますが、世の中には、工学的断面だけでは明確な答えが得られないものが多くあります。自分はこう考えるが何故答えが出ないのか、という問いが自己研鑽の始まりと思います。基調講演の付録の46頁にもあるように、常に前向きに物事を考え解決する姿勢を忘れず、新しいことにチャレンジして頂きたいと思います。」

8)閉 会(古藤健司)

「環境・エネルギー・資源特論の分担授業としてSNW対話会を本年度も開催することができました。対話会開催に当たりましては、事前に村上先生との意見交換・打合せをさせて頂き、その効果もあって、以前にも増して円滑かつ闊達な討論が行われたと思っています。今回も長崎大院生らしい絞り込んだ事前質問に対して、シニア諸兄の回答・ディスカッションにも熱意が感じられました。2時間程度ではありましたが、学生諸君にとりましては貴重な経験となったのではないかと思います。我々シニアにとりましても有意義でありました。地球環境・エネルギー・資源の問題を解決しなければ人類の繁栄の継続はなく、従って「持続可能なエネルギーシステムの構築」は必須です。その主役はあなた方の世代であることを認識して頂きたい。期待しています。」


2.対話会

1)グループA(報告者:針山日出夫)

(1)参加者(学生 5名、シニア 2名)
院生:総合工学専攻 2年生 機械系 4名(リーダー)
            1年生 電気電子系 1名 
シニア:古藤健司、早野睦彦 
(2)対話のテーマ:環境・エネルギー全般
(3)対話の進め方

参加メンバーの自己紹介(出身地、専攻、将来進路、趣味)のあと、事前質問とシニア回答を下敷きにして、自由な質問ありきで闊達な意見交換を実施した。

(4)対話でカバーした主なトピックスと論点の要約
HLWの社会的リスク全般について

①地質学的リスクは現在の科学的最新知見に基づいたものなのか?

②長期リスク評価は、評価に必要な技術的バックグラウンドが充分との前提か?

③新知見が得られた場合のHLW管理方針の柔軟性・多様性は確保できるのか?

新津波基準の適格性について

①新基準と旧基準の根本的違いは何か?東電福島事故教訓反映点は何か?

②巨大津波リスクを見落としていた根本要因は何か?

③国全体としてのナレッジマネジメントは適格と言えるのか?

脱炭素・水素社会への課題と展望について

①国がGX実行計画などで提示している水素社会の概念は国民の共感を呼ぶか?

②水素社会へのアプローチは国益・新産業興隆で説得力があるか?

③国産グリーン水素は国際的競争力を獲得できるか?

④脱炭素社会の構築はコストパフォーマンス抜きでやる価値があるのか?

⑤日本はグリーン「水素・メタノール」のサプライチェーンの構築はできるか?

⑥再エネの系統慣性特性とバックアップ電源の在り方は?

⑦2050CNは実現するか?

⑧欧米の水素社会へのアプローチから日本が学ぶべき点は何か?

2)グループB(報告者:船橋俊博)

(1)参加者(学生 4名、シニア 2名)
院生:総合工学専攻 2年生 機械系 2名、海洋未来系 1名 
            1年生 化学物質系 1名(リーダー)
シニア:山崎智英、船橋俊博 
(2)対話のテーマ:環境・エネルギー全般
(3)対話の進め方

参加メンバーの自己紹介のあと、事前質問20問についてシニア回答を確認した。この中で追加質問のあるものについて対話を実施した。

(4)対話でカバーした主なトピックスと論点の要約
原子力発電所の輸出が振るわないが、軍事攻撃を想定した対応によるコストアップか?

①軍事攻撃対応はその国の防衛上の問題。発電所の安全基準の想定外。

②IF事故後の安全基準折り込みの為のコストアップと事故以前の様に政府・産業界が人材を振り向けられていない。その間隙を中ロ韓が突いている。

再生エネルギーの問題

①安定供給、需給バランス、土地の外国による買い占め防止などの問題がある。

原子力の安全安心と諸問題

①安全と安心は異なる。

②安心の為には安全実績を積むことが重要、電力毎に立地地域で丁寧にコミュニケーションをとっている。

③電力自由競争で電力の体力が減少して安全が疎かにならないのか?自由競争は制度的に問題ではないのか?

次世代技術について

①FBR開発の頓挫は問題。

②十分な投入資金がないと研究は進まない。

③国に旗ふってもらうしかないのではないか?


3.学生アンケートの集計結果(山崎智英)

1)まとめと感想 (古藤健司)

基調講演(1)(2)を聴講した学生は10名、対話会に参加した学生は9名であった(1名病欠)。従って、対話会終了後のアンケートに答えた学生は9名である。総括的な評価が伺えるアンケート1.の「講演の内容」では“とても満足”8名(89%)+“ある程度満足”1名(11%)であり、アンケート2.の「対話の内容」では“とても満足”7名(78%)+“ある程度満足”2名(22%)であり、本対話会に参加した学生諸君には100%満足して貰えたと受け取れる。アンケート4.の「学生とシニアの対話」の必要性については、“非常にある”5名(56%)+“ややある”4名(44%)であり、アンケート5.の「友達や後輩に対話会への参加を勧めたい」かについては8名(89%)が“勧めたい”と答えており、総じてSNW対話会開催の意義を認めていると考えてよい。

2)アンケート結果の詳細
対話会のアンケート結果の詳細資料を添付する。

4.別添資料リスト