日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

学生とシニアの対話in長岡技術科学大学2023報告書

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)世話役 本田一明
長岡技術科学大学全景
高レベル放射性廃棄物の処理・処分方法について学生自らが考える対話

参加学生は世話役である鈴木先生の講座(核燃料サイクル)の授業を受けている修士1年生で、放射性廃棄物に関する知識があり、問題意識もある。 シニア側も廃棄物の専門家が参加してこれに応えた。 海外からの留学生も多数参加したことから基調講演のプレゼン資料は英語で作成し、講演も英語で行って頂いた。また、5班に分かれて行った対話も各班に留学生が入り英語を交えて熱のこもった対話となった。
基調講演は放射性廃棄物の分類と処分方法から始まり高レベル放射性廃棄物の処分を主とて解説し、可逆性・回収可能性に言及して分離・変換技術を紹介するほか、最近の文献調査の状況など幅広い内容。 また、対話テーマは、先生から「使用済み燃料の処理処分について直接処分、再処理後ガラス固化して地層処分、再処理+分離変換して地層処分、その他の方法について廃棄物管理・経済性、市民の受容性等の観点からどのようにしたら良いか提案してください」との内容で、 学生が事実を踏まえて、自分で考えていただくことができれば、との先生の意向による。 留学生は日本語あるいは英語の何れも必ずしも得意ではない方もいらしたようであったが真剣に参加してくれた。
英語を交えての対話(説明・解説)で時間がとられ、必ずしもテーマ課題を掘り下げた対話ということではなかったかも知れないが、参加学生とシニアともに双方向の対話を心掛け、充実した対話会であった。

1.講演と対話会の概要

 

(1)日時

2023年12月/15日(金)8:50~12:00

(2)場所

長岡技術科学大学・原子力安全・システム安全棟3階301号室

(3)参加者

教員:鈴木達也教授(量子原子力系(兼)ラジオアイソトープセンター長)
学生:23名(予定29名。 6名欠席)(内留学生10名(中国9名、マレーシア1名)。
SNWシニア:10名
石川博久、坪谷隆夫、野村茂雄、湯佐泰久、三谷信次、大塔容弘(以上SNW連絡会)、
工藤昭雄、馬場礎、高橋實、本田一明(世話役)(以上SNW東北)

(4)開会の挨拶:(坪谷隆夫)

皆さんの先輩たちと2010年に長岡技術科学大学で初めて対話会を開催致しました。その後、2022年に鈴木先生のご指導の下に対話会を開催しましたが、昨年同様に原子力発電、核燃料サイクル、放射性廃棄物処分など原子力分野に長年携わって参りました10名の原子力シニアが参加して皆さまとの対話を楽しみたいと思います。
本日は、短い時間ですが、石川さんの基調講演に続きグループ対話の時間を持ちます。シニアの方々は何れも原子力産業界で経験豊かな方ですので、本日の主テーマである高レベル放射性廃棄物の地層処分だけでなく原子力全般のことなどを話題にして一緒に学ぶ機会にしたいと思います。

(5)基調講演

講演者名:石川博久
講演題目:「高レベル放射性廃棄物の処分はどうすべきか、どうするのがよいか」
“How should we dispose of high-level radioactive waste (HLW)?”
講演概要:先ず放射性廃棄物に関する背景情報として、放射性廃棄物管理の原則、廃棄物の分類と廃棄方法から始まり、日本における廃棄物処分施設の類型、地層処分の歴史的背景などについて説明。次に、高レベル放射性廃棄物の処分として、各種処分方法及び処分場閉鎖後の制度的管理、可逆性・回収可能性、分離・変換技術の導入と処分への効果について解説。続いて、これまでの日本の処分場選定の歴史、北海道2自治体の文献調査の動きと対話会活動について、あわせて、最近の対馬における文献調査の背景、最終処分の実現に向けた原子力各国の状況に言及。
最後に、日頃、学生の皆さんが関心を持つ課題について、まず関連情報を収集すること、読んで内容を理解すること、出来れば同僚と意見交換すること、そして自身の意見を述べられるようになり真の知識となることを期待したい、と結んだ。

2.対話会の詳細

(1)第1班(報告者:馬場 礎)

1)参加者
学生: 学生5名(修士1年5名。 うち、中国からの留学生2名)
シニア:石川博久、馬場礎
2)主な対話内容
M1の学生で、電子情報工学分野1名、物質生物工学分野1名、量子・原子力統合工学分野3名。そのうち中国からの留学生2名、北海道出身2名、新潟県出身1名。
当初班分けした5名が全員参加。
ファシリテータ1名、まとめ担当1名、発表者1名を学生から選出。
シニアから議論のための分類について提案。
Waste management, Economic performance, Public acceptance
について、それぞれdirect disposal, vitrified waste, vitrified waste with P&Tについて点数付け。当初◎と○で評価したが各項目で大きな差がないため、10点満点で点数付け。
各点数を合計した結果、direct disposal
さらに実用化の観点で議論。
現時点での評価ではVitrified waste、 将来性も加味した評価ではvitrified waste with P&T
中国からの留学生は日本語を解さないため当初コミュニケーションが難しかったが、翻訳アプリなどを使って意思疎通を図り、ある程度コミュニケーションができた。
シニアからは適宜必要な情報を提供。シニアから評価点に対してコメントなどは行わず学生の自主性に任せた。

(2)第2班(報告者:高橋 實)

1)参加者
学生:5名 大学院工学研究科1年(日本2名、中国2名、マレーシア1名/男性4名、女性1名
シニア:坪谷隆夫、高橋 實
2)主な対話内容
最初に学生が、一人ずつ簡潔に自己紹介、その後質問点を述べた。学生側の質問事項はおおよそ以下の通り、
  1.  ・地震や火山の多い日本で地層処分は可能か
  2.  ・ガラス固化の選択理由、
  3. ・隔離のバリアは超長期にわたるので、破れることがあるのではないか
  4.  ・水の浸透は大丈夫か
  5.  ・直接処分の場合も地下深層処分か
以上に対し、シニア(坪谷)から、講演資料、自身の準備資料等を参考にしつつ、多くの専門家の研究成果、最近の知見、自身の中国での研究者との議論等も踏まえ、現在の考え方を説明した。その後、議論は、可逆性、回収可能性、核分離、核変換、経済性、高速炉サイクルへと広範囲に及んだ。
ガラス固化によるHLW減容の効果、その経済性等から、地層処分と地球温暖化の関係等まで質問が出た。また、万一地層処分により外部に影響が生じた場合の補償の考え方について、まだこれからの課題ではあるが、いろいろと議論を交わした。また、フランスやカナダでは、HLWを埋設した処分施設の地上に人間がすむ事が出来る前提であるとの紹介もあった。
鈴木先生から与えられた課題である「使用済燃料の処理処分につき、廃棄物管理・経済性・市民の受性から提案」までは、議論は進めなかったが、多岐にわたる視点から議論し、まとまりが付かなかった点もあるが、学生諸君もそれなりに、現在進めているガラス固化地層処分について、理解を進めたのではないかと思う。中国出身の2名は、必ずしも日本語の理解が十分でないようで、議論は英語を基本として進めた。内1名とはコミュニケーションが十分でないとも思われるところもあったが、なんとか皆さんHLW処分の考え方の基本や問題点を理解し、今後自分で考えていく素地ができたかと思う。

(3)第3班(報告者:大塔容弘)

1)参加者:学生4名(修士1年4名。うち、中国からの留学生2名)
シニア:三谷信次(ファシリテーター)、大塔容弘
2)主な対話内容
鈴木教授から事前に指示があった「使用済燃料に対して検討されている幾つかの処分法に関し、廃棄物管理・経済性・市民の受容性等の観点から適格性が高いと考え る処分法をその理由を添えて議論し、提案して欲しい。」に応えるため、石川会員の基調講演で示された情報と鈴木教授が経産省の委員会で使用した資料をベースに対話を開始した。
まず、使用済燃料の組成とその組成成分が有する潜在的有害度の経時変化を示し、地球上にあるウラン鉱石の有害度に達するまでに20万年程度を有することを理解した。そして、この使用済燃料の潜在的有害度の主体はプルトニウムであり、その次 にマイナーアクチノイド(MA)が占め、残りの核分裂生成物(FP)は1000年も経過すれば殆ど無視できることも理解した。
一方、有害度とは別に資源の有効利用の観点から注目すると、既に広く知られているようにプルトニウムは高速炉やプルサーマル炉の燃料に利用される。また、新しい知識としてMAを高速炉燃料に混入することで核分裂性物質として利用できることも理解した。また、FPの中にも白金族としての利用、熱源としての利用できる成分がある。基調講演のシート21に示されている。
シート21に示される将来技術である分離変換技術(P&T)を開発することによって、潜在的有害度の低減、将来世代の被ばく線量の低減、高レベル放射性廃棄物の低減地層処分場の面積の低減、希少金属である白金族の回収等が可能となる。
これらについて、根気よく丁寧に説明を行えば時間が掛かると考えるが一般市民も受け入れてくれるのではないか。また、これらの技術は実用化に程遠いと思われるので、現状では経済性を議論できる段階ではないと思われる。

(4) 第4班(報告者:本田一明)

1)参加者
学生5名(全員修士1年。うち中国からの留学生1名)
シニア:湯佐泰久、本田一明
2)主な対話内容
対話テーマは、(各班共通で先生から提示された)「使用済み燃料の処理処分について直接処分、再処理後ガラス固化して地層処分、再処理+分離変換して地層処分などの方法について、廃棄物管理・経済性、市民の受容性等の観点からどのようにしたら良いか提案してください」との内容。
先ずは自己紹介から始め、シニアがファシリテートして対話を進めた。 参加者の対話テーマに関する知識が必ずしも同じではなかったことから、3種類の処分方法の概要、特徴について説明・対話し、理解度を揃えた。
フィンランド、スウェーデンの直接処分を採用した理由、アメリカのユッカマウンテン処分候補地の(坑道)状況、六ケ所再処理工場の試運転状況(2013年頃)などをシニアが説明した。
学生5人の考える提案は、「直接処分」は誰もおらず、「再処理後ガラス固化して地層処分」が3名、「再処理+分離変換して地層処分」が2名となった。
「再処理後ガラス固化して地層処分」を推す理由として、次の議論があった。まず、技術的成立性の面からは「直接処分」と本方法が有利である。 経済性の面からは直接処分が有利だが、原子燃料全体からみたコスト差はさほどではない。U・Puを回収して燃料として再利用できるという資源論の観点、さらに、処分地の容積が1/4程度に少なくなる処分地立地の優位性からも本方法が良い。なお、分離変換には技術的課題が多くあるのではないか、とのことであった。
「再処理+分離変換」を推す理由は、技術的課題があるものの、MAを分離することにより人間界との隔離期間を300年程度まで短くできること、貴金属などの有用資源も取り出せること、また、比較的量の多いCsやSrを群分離して熱源とすることができるなどの点が魅力的である。この方法は将来には実現可能と思われ、期待が持てる、とのことであった。
また、市民の受容性については、3つの何れの方法も同じである。海外は政府への信頼度が高く、国民も論理的。安心・ゼロリスクを求める日本とは安全に関する考えが異なる。 日本でも、市民の理解を得るには義務教育で原子力・放射線について教えることが必要ではないか。 また、全国に処分場を準備して身近に感じて貰うと良いなどの意見もあった。
双方向の対話に心がけたものの、各処理・処分方法についての特徴(利点、課題)、海外の状況などの説明に時間がとられ、対話を通じて学生さん方が自ら考えるには時間が足りなかった感がある。

(5)第5班(報告者:野村茂雄)

1)参加者
学生4名(うち、中国からの留学生2名)
シニア:工藤昭雄、野村茂雄
2)主な対話内容
5班は、学生4名のうち、2名が中国南華大学卒の留学生であり、英語でのやり取りを入れた。テーマは、「高レベル廃棄物処分の望ましいオプション」について、各自が選択し、その理由を、メリット、デメリット、技術の実現性、社会的授与性、経済性などの観点から述べることとされた。
使用済燃料の直接処分を2名が選択した。簡単で余計なプロセスが不要な方法であり望ましいとの単純な考え。北欧フィンランドやスウェーデンが採用していることも根拠にした。将来アクセス可能になると、Pu鉱山として狙われるリスクがあることや処分場面積が大きくなること、我国の使用済燃料の量は東欧の国と桁が違うことなどコメントした。
我国やフランスが選択している再処理リサイクル・ガラス固化体での地層処分が、将来性が高く合理的として選択した学生、新抽出剤による分離変換と合わせた処分オプションを選択した学生もいた。実用化までの時間軸、PUREX再処理の抽出剤TBPは極めて優れ、これを上回る抽出剤の開発実用化はハードルが高いなどコメントした。
皆さん、高レベル廃棄物の放射能レベルが天然ウランレベルに減衰するのに、1万年から10万年かかるとする参考データを見て、悲観的な思いにかられた。地層処分の「閉じ込め」、生活環境からの「隔離」のコンセプトが充分理解できていないようだった。基調講演で触れられたが、相当丁寧な説明でないと分からないようだ。
最後の学生代表の発表は、時間軸を意識して、処分場と分離変換機能を備える高速炉のコロケーションの将来構想を紹介し、鈴木教授から高評価を得たことを特記する。

3.講評(湯佐泰久)

シニアを代表して閉会の挨拶をいたします。約3時間の間、熱心に対話していただきました。石川さん、英語での網羅的な基調講演ありがとうございました。若者の皆さんもイロイロな疑問を出していただき、SNWの皆さんとの対話も有意義だったと思います。シニアの皆さんは今まで、さまざまな対話の経験を経て考えを深めてきました。若い皆さんも今後も様々な立場、意見のかたとの対話の機会を持ってください。本日はありがとうございました。
  
 

4.学生アンケート結果の概要(本田一明)

(1) 参加学生について
参加学生23名のうち、13名(うち留学生2名)から回答を頂いた。 回収率 57%)。
原子力系専攻が8名。原子力系専攻以外が5名。 進路は約2割が進学。8割が就職。
(2)対話会について
基調講演は、「とても満足」(53.8%)、「ある程度満足」(46.2%)であり、回答者全員に満足頂けた。
対話の満足度は「とても満足」(61.5%)、「ある程度満足」(30.8%)、「大いに不満」(7.7%)であった。肯定的な意見は、新しい知見が得られた、自分の将来の参考となったことが挙げられた。一方、不満の理由は、対話時間不足、シニアの話が長かった、班員が積極性に欠けた、ことが挙げられ、今後の改善に生かしたい。
「学生とシニアの対話」の必要性については、「非常にある」(61.5%)、「ややある」(38.5%)と全員から評価頂いた。 
「対話会への参加を勧めるか」については、「勧めたいと思う」(76.9%)、「どちらともいえない」(23.1%)であった。 薦めたいとは思わない理由は、班員の構成、スキル次第ではあるが、基本英語となる可能性があり、参加者の技能次第でつまらないものに成り得る。仕切り方、話の流れ次第では時間が厳しいとの意見が寄せられ、今後の改善の参考としたい。
(2) 意識調査について
原子力発電については、全員が必要性を認識しており、「危険だから早期に削減、撤退すべき」回答はなかった。
2050年カーボンニュートラル(脱炭素)について、関心や興味が「大いにある」(46.2%)、「少しはある」(46.2%)とほとんどの方が関心を示した。感心項目としては「原子力発電や再生可能エネルギーの役割」が最も多く、「温暖化メカニズム」「エネルギー資源の確保」「脱炭素化の技術開発、イノベーション」がこれに続いた。
高レベル廃棄物の最終処分については、「関心や興味が大いにある」、「少しある」が合わせて84.7%、「あまりない」が15.4%であった。「近くに処分場の計画が起きたらどうするか」については「反対しないと思う」が46.2%、「反対すると思う」が15.49%、「分からない」が38.5%であり、ほぼ半数の方が肯定的であった。「地層処分について興味や関心がある項目」については「技術」が最も大きく84.6%、次いで「処分地の選定」が46.2%、「制度」が38.5%であった。
対話会全体について、「経験豊富なシニアの方々の知識を直接聞けたこと、質問や意見を直接話せたことは非常に貴重で、自分の将来の進路設計などに活かせる素晴らしい機会だった。」との感想を頂いた。

アンケート詳細については別添資料を参照

5.別添資料リスト

基調講演 「高レベル放射性廃棄物の処分はどうすべきか、どうするのがよいか」
“How should we dispose of high-level radioactive waste (HLW)?”
アンケート結果詳細
(報告書作成:本田一明 2023年12月25日)