日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

学生とシニアの対話in宮城教育大学 2023報告書

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)
             世話役:工藤 昭雄
報告書取り纏め:本田 一明
宮城教育大学正門(2023年6月20日撮影)
教職を目指す学生との対話を実施

宮城教育大学とは今回で6回目の対話会。 大学側世話役である福田先生の講義時間(「自然科学の広がり」)を利用し、対話会を2日に分けて(1日目は基調講演、2日目は対話)実施した。 本年度は基調講演および対話会ともに対面で行うことが出来た(昨年の基調講演はWeb)ことから、参加者とシニア双方とも相手をより身近に感じた、充実した対話会であった。
今年度から教育課程が変更となり、旧課程の3年生2名のみが参加という過渡期の中での対話会であった。 来年度は多数の参加を期待したい。
二人の質問テーマに対し、反応を見ながら話題を広げた双方向の対話ができ、人数が少ないがゆえに充実した対話会であった。ただし、対話テーマに対する話題が豊富で内容も深いためか、また、学生の旺盛な知識欲のお陰か対話時間が足りないと感じたようである。 事前質問をみても学生側もかなり勉強しており、また、対話を通じて原子力の有用性を認識したとの感想を頂いたことから有意義な対話会であったと感ずる。

1. 講演と対話会の概要

教職を目指す学生2名が参加。対話会は大学側世話役である福田先生の講義時間(「自然科学の広がり」)を利用し6 月 13日(基調講演)及び6月20 日(対話)の 2日に分けて実施した。 1日目は「最近のエネルギー問題についてーエネルギー安全保障、CN推進の視点からー」を基調講演のテーマとして話題提供を行い、2日目は対話素材として学生さんからの基調講演に関する質問の回答を対話会前に返して対話に臨んだ。

(1)日時
6月13日(火)16:15~18:00 : 講演(講師:本田一明)(対面)
6月20日(火)16:15~18:00: 対話会(面談)
(2)場所
6月13日(火):宮城教育大学青葉山キャンパス(2号館、224室)
6月20日(火):同上
(3)参加者
世話役の先生:宮城教育大学 理科教育講座  福田義之教授
参加学生: 教職志望の 3年生 2名
参加シニア:3名
シニアネットワーク連絡会:大野 崇(6月20日対話会)
シニアネットワーク東北:工藤昭雄(世話役)、本田一明
(4)開会の挨拶(6月13日)
福田先生
今年度から教育課程が変更となり、例年私の講義「自然科学の広がり」)を受講していた2年生が主免許や副免許の授業を優先したためか、全く受講してない中で、今回は旧課程の3年生2名の諸君が参加してくれました。 シニアの方はエネルギー問題に詳しいので、この機会に最近の状況等について学んでください。
工藤世話役
皆さんこんにちは。シニアネット東北の工藤と言います。 これより今年度の対話会を開催します。 今日は学生さんとシニアがともに2名ずつとなりましたが、シニアは皆さんのお爺さんの世代でやさしいですから、緊張せず、中身のある対話会にいたしましょう。
(5)基調講演
講演者:本田一明
講演題目:「最近のエネルギー問題についてーエネルギー安全保障、CN推進の視点からー」
講演概要:
エネルギーに関する最近のニュースから、ウクライナ危機に関連してエネルギー安全保障、また、環境問題に関連してカーボンニュートラルを取り上げ、身の周りのエネルギーの問題について自分事として考えて頂くべく話題提供が行われた。
エネルギー安全保障では、最近の電気料金高騰を題材に、エネルギー問題を考える上で大切なS+3E、第6次エネルギー基本計画に示された2030年度のエネルギー需給構成(エネルギーミックス)と再生可能エネルギー、原子力発電についての説明。
再エネ、原子力、火力、何れも電源としての利点・課題があり、一つのエネルギー源で必要な要件を同時に満たすものはなく、このため、再エネ、原子力、火力(CO2を排出しない)をバランスよく組み合わせた電源構成(エネルギー構成)とすることが必要であること。
カーボンニュートラルは世界の潮流であり、どのようにしてCO2を減らすのかについて、IEA(国際エネルギー機関)のシナリオを紹介。
本年2月、GX実現に向けた基本方針で、原子力は「エネルギー安全保障に寄与し脱炭素効果の高い電源」とされ、最大限活用することを基本方針に明記されて福島第一事故以降12年を経て漸く原子力回帰の動きが出てきたこと。
原子力発電に関する世論調査では、最近若者を中心に原子力肯定の意見が増加の傾向があること。 原子力の社会的受容には原子力関係者への信頼が大切なこと。

2.対話会の詳細

(1)参加者
学生:2名。教育学部3年生(数学教育専攻1名、初等教育専攻1名)
シニア:大野崇、工藤昭雄(世話役)、本田一明
(2)主な対話内容
テーマ:前週の基調講演の内容などに関し、学生さんから頂いた事前質問を中心に行った。
参加者各自の自己紹介後、工藤世話役の進行で対話を進めた。
学生さんからの事前質問を要約すると以下の通り。
  1. ① 福島第一原子力発電所と事故を起こさなかった施設の違いは?
  2. ② 核融合発電の発電効率、事故のリスクについては?
  3. ③ 2050 年カーボンニュートラルを表明した各国の実現性については? また、脱炭素それぞれの手段によって計算上どれだけの量の二酸化炭素が削減できるのか、 また効率がいいのか比較検討したい。
  4. ④ 資源の高騰で電気代が高くなっているが原子力を使うしかないのか?
  5. ⑤ 原子力を稼働させるデメリットは?
  6. ⑥ ノルドストリームの現状は(稼働しているのか)?
  7. ⑦ 最近は化石燃料価格が落ち着きを見せている原因は何か?
  8. ⑧ 原子力発電を稼働させると日本のエネルギー自給率はどこまで上がるか?
  9. ⑨ 石炭をLNGに変えればCO2削減が図れるが、なぜ石炭を使い続けるのか?
    etc.
上記の問題提起について学生とシニア間で以下のような対話が行われた。
  1. ① 福島第一と事故を起こさなかった他発電所について、津波対策の面から敷地高さ(敷地造成時の考え方含む)、安全設計上の違い(非常用電源の配置、建屋の水密性)などについて紹介。 また、シビアアクシデント対策としてB5bが伝えられていれば、事故が軽減した可能性、他。
  2. ② 核融合について、発電効率についてはプラズマを直接電気に変え高効率となる「直接発電」の可能性を秘めていること。 事故リスクについて核融合は反応を維持することが難しいのが特徴で、このためトラブルがあった場合には反応を起こすのに必要な状態が維持できず、自然に反応が止まることについて紹介。
  3. ③ カーボンニュートラルを実現するための取り組みは、国によって異なり、その実現度合いはかなりチャレンジングであること(EUのEV戦略。水素社会の実現の可能性他)。また、それぞれのCO2削減手段によってどれだけの量の二酸化炭素が削減できるかについて関心を持っていることから、発電方式の変更によるCO2排出削減効果試算(石炭から原子力へ、石炭からコンバインドサイクル発電へ等)、関連のIEAレポートを紹介。
  4. ④ 各電源ともメリット、デメリットがあり、一種類の電源で必要な要素をすべて満たすものはないことから、いろいろな種類の電源をミックスすることで種々のリスクに対応できる電源構成を目指すことが大切。原子力はエネルギー安全保障、脱炭素に有力な電源であるこ。
  5. ⑤ 原子力のデメリットとして、少ないながらも重大事故のリスクがあること、高レベル放射性廃棄物の処分場所が決まっていないことを挙げ、処分候補地について意見交換。
  6. ⑥ ノルドストリームは2つとも停止していること。ロシアによる供給停止制裁とロシアへの過度の依存によりエネルギー安全保障の問題であること。
  7. ⑦ エネルギー価格は高値安定。価格は需要と供給で決まるので、現在は需要と供給の関係が落ち着いた状態であるが不足要因が起こると再び値上がりする。原子力はウランの発電費用に占める比率が小さく、また、一度原子炉に入れれば長く使用できることから、準国産エネルギーで安価安定。
  8. ⑧ エネルギー自給率を2030年には30%程度にすることを目標にしており、2030年度における一次エネルギーとしての再エネは電源構成の36〜38%程度、原子力は、20~22%程度を見込んでいる。この原子力比率は、現在稼働中の原子力発電所10基に加えて設置変更許可済みの7基、審査中の10基を加えれば何とか達成可能な比率ではあるものの、その後のエネルギー確保のため新増設が必要。
  9. ⑨ CO2削減に関し、一部の地域や国でまだ石炭が使用され続けている理由について経済的理由、エネルギーセキュリティの向上やリスクの分散化エネルギーミックスのエネルギー源多様性面から紹介
以上の他、高レベル廃棄物処分場の話題もあったが時間的制約のため十分な対話ができなかったことが残念。

3.講評

特に行わなかった。

4.閉会の挨拶 (工藤世話役)

皆さん、本日の対話会、如何だったでしょうか。お役にたちましたでしょうか? 皆さん頷いておられるので、一応安心しました。 これで閉会と致します。

5.学生アンケート結果の集計(本田一明)

「講演」は「とても満足」(2名)頂けたものの、一方で講演時間が長引き質問時間がほとんど取れなかったことから、「質問不足」の感があったようだ。また、「対話」は「とても満足」(1名)、「ある程度満足」(1名)で二人ともに満足して頂けた。「対話」においても「対話時間不足」(2名)が挙げられており、対話テーマに対する話題が豊富で内容も深いためか、また、学生の旺盛な知識欲のお陰か対話時間が足りないと感じたようである。シニアが我慢し、学生さんに話させることが肝要だが、分かっていながら実行することはなかなか難しい。
電源については、原子力発電の必要性を認識し、再エネ発電のデメリットも理解して 原子力、再エネ、火力をバランスよく組み合わせたエネルギーミックスが望ましいとの回答。
全体を通しての感想では、「環境問題について整理し直すことで、自分なりの意見や考え方が形成されたため、有意義な時間になったと感じた。」、「知らない情報を多く得ることができ、ためになりました。」と好評であった。
今回の対話会を契機に更にエネルギーについて考えて頂ける感想を頂いたことは幸いである。

6.別添資料リスト

講演資料:「最近のエネルギー問題についてーエネルギー安全保障、CN推進の視点からー」
事後アンケート結果
   
(報告書作成2023年6月27日)